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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

そろそろ駄目な奴が出て来てもおかしくないぞ十三代目

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動き出す者

 ――地面に大きなクレーターが作られ、そこに黄金の二つの先の別れた角を持つメイは、動かずに横たわっていた。

 口からは血を吐いており、目は虚ろだった。

 そんなクレーターを作った張本人であるマリーナは、鼻息荒くメイの場所まで跳んだ。着地をして、相手の息の根を止めようと毛深く爪の伸びた手を振り上げたところで――。

 ――後ろに跳んでメイと距離を取った。

 目を細め、うなり声を上げる。

「グルルルゥゥゥ」

 伸びた犬歯、そして獣が二足歩行をした獣人のような姿。スキルによる第二形態であるマリーナの勘は、野生そのものだった。

 メイが黄金の角を光らせながら、ゆっくりと立ち上がる。血を吐きだし、口元を拭うと服についた汚れを叩いて落としていた。

「勘が良いね、お姉さん。野生動物としてやっていけるよ。もっとも……」

 マリーナの頬には一筋の赤い線が入っていた。

 地面から飛び出ている麒麟の角。メイは右手から角を伸ばし、地面に突き刺してからマリーナが近付くのを待って攻撃を仕掛けたのだ。

「……僕にだって切り札くらいあるんだよ。フレドリクスに教えて貰ったんだ。奥の手は持っておくものだ、って」

 角をしまいこむメイは、その場で宙返りをすると麒麟の姿になる。

 小柄な少女から大きな体を持つ鱗を持つ馬の姿。金色のたてがみと、鋭い角が額から伸びていた。同時に、黄金の先の別れた後ろ向きに伸びた角も生えていた。

 地面にではなく、空中に足場を作って着地をすると周囲に紫電が今まで以上に走る。

「さぁ、始めようか!」

 空中を蹴り、そしてマリーナ目がけて突進するメイ。避けるのが間に合わないマリーナは、手甲を交差させてメイの攻撃を防ぐ事にした。

 だが、ぶつかると浮かび上がり、そのまま木にぶつかりいくつもの木々をなぎ倒してようやく止まると、マリーナはボロボロの体で巨木にめり込んでいた。

「頑丈だね。普通ならミンチだよ」

 メイはマリーナの頑丈さに呆れつつも、感心していた。人型ではない本来の姿では、これだけの力が出せるのだ。

 そして、マリーナは木にめり込んだ状態で空に向かって笑い出した。

「アハ、アハハハ!!」

 狂ってしまったのか? メイがそう思って見ていると、マリーナの体がまたしても変化し始めた。

「……三段階目かな? いいよ、付き合ってあげようじゃないか」

 メイがマリーナの様子を見ていた。上着のコートが弾け飛び、シャツがパンパンに膨らむほどに筋肉が盛り上がっていた。怪我をした部分。そして、折れてしまった骨すら急速に再生させていく。

 ブーツも吹き飛び、手甲や足甲のベルトも吹き飛んで地面に落ちると、見た目よりも重いのか地面にめり込んでいた。

「フッー!」

 体毛が伸びてまるで化け物のような姿になったかと思うと、その直後に炎に包まれマリーナは燃え上がった。炎の中から出て来たのは、先程の化け物ではない通常のマリーナよりも背の高い――バランスの良い獣人の姿だった。

 瞳からは知性が感じられ、更には肉体を魔力で強化していた。首に手を当てて、首を回すとゴキゴキと音が鳴る。

 ズボンとシャツだけの姿だ。

「随分と良い感じじゃないか」

 メイの言葉に、マリーナは笑っていた。

「だろ? 二段階目はどうしても通らないと行けない。そこまで行くと、大抵は相手が死んで終わるんだよ。だけど、勝てないとなってはじめて理性を取り戻すんだ。いいぞ、このスキルは――戦いを楽しめる。気付いたら終わっていた、ってことにならないからね!」

 飛びかかってきたマリーナは、一瞬でメイに近付く。だが、メイは体を低くすると角をマリーナに突き刺そうとした。

 だが、マリーナは笑っており、頼りになる手甲がないのに避けようとしない。

 突き刺さると思われた瞬間――。

「――ほら、がら空きだ」

 空中で身をねじり、そしてメイの横腹に鋭い爪でひっかき傷を作った。鱗を突き破り、肉をかすめて赤い血が流れる。

 器用に木々を飛び回り、マリーナはヒットアンドウェイの戦法でメイを削ることにしたようだ。それだけ決定打に欠けているのかと思えば。

「ちっ!」

 メイが空へと駆け出した。マリーナとすれ違うと、地面に足を叩き付け、そこにクレーターを作るマリーナの姿をメイは見たのだ。

 理性がない状態よりも力があるのか、土の抉られ方がおかしい。

 マリーナ一人のために、大きなクレーターが出来ていた。直系十メートルを超えているクレーターから、マリーナは空を見上げると跳び上がってメイへと接近した。

 空中で自在に体を動かし、メイを殴り、そして蹴り飛ばす。

 人間とは思えなかった。

 メイは吹き飛ばされると、空中で足場を作って体勢を立て直す。落下していくマリーナは、メイの姿を見て笑っていた。

「お嬢ちゃん……たいした事ないね。これなら、まだドラゴンの方が強かったよ」

 魔物の中でドラゴンという種族には意味があった。魔物中でも最強の一角に数えられ、ドラゴンを倒すと言うことは、子供が憧れる英雄の姿である。

 しかも、マリーナは一人――ソロの冒険者だ。一人でドラゴン退治など、本当に化け物と言える人間だった。

 メイは言う。

「……ドラゴンキラーか。でもさ、そういう人間と僕が戦ったことがないと思うの?」

 メイの体が光を発し始めた――。





 ――そこは傭兵団の後方部隊がいる場所だった。

 天幕が用意され、周囲では冒険者たちが運び込まれたヴァルキリーズの装備品を見て興奮していた。

 鍛冶士や他に仕事を持つ者は、壊れた武具の手入れで大忙しだった。

 天幕の一つには、装備を外されたヴァルキリーズが放り込まれている。傭兵団が回収したヴァルキリーズは、放り投げられて山になっていた。

 冒険者パーティーが回収したヴァルキリーズは、綺麗に並べられている。同じ冒険者でもこういった扱いの違いが出ていた。

 そんな天幕に、二人組の冒険者が入ってきた。

 二人はろくな装備持っていない。傭兵団で下働きをしている者たちで、周囲の目を盗んで天幕に来たようだ。

「おい、こいつらの部品を持って帰れば、高く売れるんだろうな?」
「さっき聞いたら、有名な鍛冶士が作ったんだってよ。だから、高く売れてもおかしくないだろ」

 あまり頭が良いとは言えない二人組。そんな二人組が、下着姿のようなヴァルキリーズが山積みされている光景を見ると、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「な、なぁ」
「あぁ、そうだよな。どうせ使ってもバレない。状態のいいのを取り出して、俺たちも楽しむくらいは」

 安いお金しか貰えない二人は、娼館に通うお金もない。そして腕や足以外は生身のような美しいヴァルキリーズは、そんな二人には我慢出来ない存在だった。仲間内でも相手にされず、女性冒険者からも馬鹿にされている二人は一体のヴァルキリーを引っ張り出した。

「こ、これとかいいんじゃないか?」
「なら俺はこっちを――」

 そう言って手を伸ばした男の腕を、急に動き出したヴァルキリーの腕が掴んだ。

「――え?」

 掴み、握りつぶす。一瞬のことで理解が及ばなかったのか、男は呆気にとられていた。山積みされたヴァルキリーズの瞳が開き、そして赤い瞳が光を発すると薄暗い天幕でワラワラと動き出した。

 首が有り得ない方向を向いている者。

 体に剣や槍が突き刺さって、ボロボロになっている者。

 腕や足は取り外し方が分からなかったのか、そのまま取り付けられていたヴァルキリーズは、ぎこちない動きで立ち上がると目の前の二人組に襲いかかった。

 数体で襲いかかられ、声を上げることなく二人組は命を落とす。

「……じ、時間……です」
「体の動き、が……やはり、体内のえきた……い」
「ダミア、ン……教授と、ラタータ親方……に、しゅう、り……」

 ギリギリと音を立て、そして不気味な動きをするヴァルキリーズは、予定されていた行動を行なうため、腕の内部に隠していた金属の筒を取り出した。

 そこから、火薬の詰まった筒状の道具を取り出す。

「……東支部、の……は、生存」
「一部の……は……逃がし、て」

 ガシャガシャ、ギギギ……天幕内で絡み合うように山積みにされていたヴァルキリーズは、一体、また一体と立ち上がると外へと出て行くのだった。

 夜。

 時間通りに、ヴァルキリーズたちは動き出したのだった。

 手に持った爆弾に火を付け、重要な物資の置いてある場所を爆発させ、冒険者たちを襲撃して傭兵団や冒険者の集まるその場所は、すぐに地獄となるのだった。

 武器で突き刺しても、魔法で焼いても動き続けるヴァルキリーズに恐怖して逃げ出す冒険者たちも出始めていた――。





 ――異変を感じた団長は、振り返った。

 変な音が聞こえてきたがしたのだ。

 近くにいた部下は、三つ目の砦を攻略するため、魔法使いたちが今までと同じパターンで魔法をなっている光景を見ながら言う。

「ありゃ、向こうさんも対策を立ててきましたね。流石にこの数日で慣れましたか」

 そう言って笑っている部下の言葉を聞いて、団長はアゴに手を当てた。

 数日。

 この数日、マリーナは麒麟と戦い続けていた。近付けば巻き込まれるために、遠くから監視をさせているので間違いない。

 麒麟も逃げ出さないことから、ライエルたち一行に関わりがあると見て間違いなかった。そして、一つ目の砦を落としてから、十分に準備を整えて二つ目の砦も攻略した。

 三つ目に取りかかる頃には、相手が傭兵団の戦術を見抜いたのか、対策を立ててきていた。

「……それにしても、よく耐えるな」

 魔法による障壁だけではなく、それぞれに対応した魔法を使用してくるのだ。水に対しては勢いを殺すような氷を出現させ、岩も氷を破壊するところで止まっていた。

 炎も効果がないのか、何度やっても防がれてしまう。

 そうした行動を繰り返し、時間だけが過ぎていた。団長は、相手の疲弊するのを待つつもりでいた。なにしろ、数ではこちらが多いのだ。

 耐えさせて疲れたところを、蹂躙すれば良いと考えていた。だが、先にリーダーの方が耐えきれなくなってきた。

「おかしくはないか? 確かにこれまでが順調すぎたが、ここに来て停滞しているぞ。普段からこんなものか?」

 傭兵のような仕事をしていない迷宮専門の彼らには、場の状況を重視するよりも情報や攻略法を重視する傾向にある。一見して無駄に見えても、必要な行動というのが効率的ではないと嫌がるのだ。

「だったら、お前さんたちは何か良いアイデアもあるのか?」

「攻め方が単調すぎる。もっと効果的な方法を試したらどうだ? 氷が出てくるなら……炎で焼けばいい」

 冒険者パーティーは、ヴァルキリーズを得たことで満足いく金額を得られると考えていた。だが、団長は違った。

 規模の大きな集団を維持するには、小さな黒字では足りないのだ。炎で全てを焼き尽くしては、大事な宝まで失ってしまうかも知れない。

「却下だ。こうやって相手が疲れるのを待つ」

 リーダーは肩をすくめていた。ソレを見て、団長はイライラしていた。戦場を知らない冒険者が、口を出すなと思ったのだ。

 イライラするほどに、ライエル一行の抵抗はこれまでにないものになっていた。

「くそっ、まるで堅牢な砦でも攻めているみたいだ。本当に数十人規模なのか?」

 そんな団長の言葉を聞いていた部下は、笑いながら。

「まぁ、どうやっても限界は来ますからね。そろそろ、疲れてくる頃じゃないですか?」

 そういった様子も見せないので、団長は嫌な気配がして仕方がないのだった。





 ――人の姿。

 それは腕や太もも辺りまで青い鱗に包まれた、大人の女性へと変貌したメイだった。

 長い金色の髪を揺らし、黄金の角を持つその姿は人と獣の融合した姿だった。

 皮肉にも、マリーナのスキルの到達点と一緒だったのである。

 互いに殴り合い、そして蹴り合って吹き飛ばし、吹き飛ばされ――。

 それはまるで人ではない者たちの戦いだった。

 狂喜するマリーナと違い、メイはどこまでも冷静だった。

「いいじゃないか、お嬢ちゃん! その姿、まるで私と一緒だよ!」

 パワー、スピード、それらのリミッターが外れた状態の両者がぶつかり合って周辺の森は無残な姿になっていた。

 ただ、メイは夜になって燃え上がる場所を見ると、溜息を吐いた。

「……さて、僕ももう終わろうかな」

 僕、と言いながらも普段の人の姿よりも妖艶な姿になったメイは、身長も大きくなっていた。普段の服装が可愛らしいから、セクシーという感じに見えた。

 マリーナを見ながら、メイは言う。

「楽しかったよ。でも、やっぱり足りないね、お姉さん……僕は、君のような人間とこれまで少なくとも四回は戦ってきた。これで五回目だよ」

 マリーナは地面を蹴り、メイは空中を蹴って互いに直進し合う。体を捻り、そして蹴りを放つマリーナ。

 空気まで斬り裂きそうな蹴りに、メイは人の体術を組み合わせて真っ直ぐに突撃した。

 ぶつかると周囲の空気が揺れ、そして地面にはマリーナが叩き付けられていたのだ。

 貫くつもりで放った肘での攻撃だが、マリーナは貫けなかった。

「……とっておきなんだけど、死ななかったのは褒めておこうか」

 ゆっくりと体が縮み、人の姿になるマリーナはメイを見て笑っていた。

「こ、殺せ」

 満足しているようだ。もう、思い残すことはないという、どこまでも自分勝手な戦士である。

 メイも周囲にキラキラした光を発しながら、ゆっくりと小さな人の姿になる。普段のメイに戻ると、メイは欠伸をしながら。

「ごめんね。お姉さんは東支部の人だから殺さないよ。殺すつもりで戦ったけど、やっぱりお姉さん強かったよ」

 笑顔のメイがそういうと、マリーナは訳が分からないという表情になりながら、目を閉じるのだった――。
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