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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

そろそろ駄目な奴が出て来てもおかしくないぞ十三代目

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マリーナ対メイ

 ――森の中を進む一団は、数名のエルフが先行する形で目的地を目指していた。

 傭兵団。

 そして冒険者パーティーから、エルフたちが選び出されて偵察として先行していた。弓を持った男性らしいエルフたちは、互いの顔を見ながらうなずき合って先を進む。

 ミランダが用意したトラップを、後ろの本隊のために解除して先を進む。

 見えてきた砦のような迷宮攻略のための拠点。ベースに到着すると、一人が戻って安全なルートを本隊に知らせに行くのだった。

 弓を持って待機するエルフたちは、壁の上で警戒しているヴァルキリーズを確認した。

「まるで生きているようだな」
「姿形は、な。よく見れば不自然な動きをしている」
「惑わされるなよ、若いの」

 見た目が若く見えるエルフたちだが、どうやらそれなりの年齢に達しているエルフもいるようだ。

 そうして後方にいた本隊を連れ、仲間のエルフが戻ってきた。

「順調だ。一人が足を滑らせて骨折はしたけどな」

 それを聞いたエルフたちは、肩をすくめる。彼らからすれば、こんな森で足を滑らせるというのは有り得ないからだ。どうせ人間かドワーフ、ノームといった他種族だろうと考えていた。

 一人が言う。

「上出来だ。どこにでも移動だけで脱落する馬鹿はいる」

 傭兵団に所属しているエルフがそう言うと、冒険者パーティーのエルフは「そういうものか?」というふうに首を傾げていた。

 後ろから傭兵団団長と、冒険者パーティーのリーダーがやってきた。

「どうだ? おっと、これまた随分と警戒しているな」

 陽気な団長は、壁の高さを見て感心していた。

「見張りも用意しているな。魔物対策にしては物々しい。やつら、こちらが攻め込むことを想定しているのかも知れないぞ」

 リーダーが慎重な意見を言うと、団長も頷いた。頷いて、こういう時のための対策をすぐに用意するのだった。

「うちの魔法使いはこういう時に役に立つんだ。派手好きでね」

 リーダーは団長の意見に頷いた。すると、後方から数名の魔法使いが歩いてくると、団長と話をしてエルフや護衛を連れて砦を囲む配置へと移動した。

 しばらくすると、団長の近くにいたエルフが言う。

「団長、合図が来ました」

「ご苦労。さぁ、派手に行こうか!」

 直後、三箇所から魔法が放たれた。まるで洪水のような水が砦を襲い、土で出来た壁を押し流そうとしていた。壁には亀裂が入り、一部が崩壊すると次は大きな岩が複数飛んで行く。

 壁に激突して両者が崩れ、そして見張りは吹き飛ばされて侵入するには絶好の場所が出来上がった。

 そして、最後に沢山の炎が雨のように敵陣へと降り注いだ。燃え上がり、明かりなど必要ないほどに明るくなる。

 広範囲の魔法を得意とする魔法使いを前にして、リーダーが呟いた。

「うちでは使用する場所が限られる。逆に目立たないで威力のあるものが好ましいが……なる程、こういう使い方もある訳か」

 傭兵団の戦いを感心してみていた。狭い空間で戦う魔法使いは、専門職とはいっても身を守る術も必要だ。そして、広範囲よりも限られた範囲で威力のある魔法の方が好まれる。そして、精度がとても重要だった。

 そうでなければ、味方にまで当たってしまうことがあるからだ。

 団長が言う。

「さて、早速進軍するとしますか、っと」

 そう言いつつ、全体に止まるように手で指示をすると、炎の中から一人の少女が飛び出して来た。体の周りには紫電が走り、眼光も鋭い。炎をバックに、立って森の中にいる自分たちを見る少女。

 リーダーが言う。

「資料にあったな。彼女がメイだ。早くも出すとは、それだけ警戒したか?」

 団長は言う。

「マリーナ、獲物の登場だ。もしも死体が麒麟の姿なら、分け前を期待しているぜ」

 団長の後ろから現われたマリーナは、コート姿に手甲、足甲をした姿だった。腕まくりをしており、左手の平に右拳をぶつけ。

「好きにするんだね。私は生きているお嬢ちゃんにしか興味がないんだ」

 そう言って、マリーナが森の中から凄い勢いで飛び出すと、メイも地面を蹴ってマリーナに向かって拳を突き出した。

 二人がぶつかると、若干マリーナが押し負ける形だった。その様子を見ながら、団長が指示を出す。

「よし、二人くらいマリーナの戦いを見せておくか。負けそうになったら知らせるんだぞ。倒した時は死体の確保だ。リーダーさん、分け前は半々にしないかい?」

 リーダーは、メイが麒麟の可能性が高いという情報を当然知っており、少し考えて頷くことにするのだった。

「角は譲ろう。それ以外では妥協しないがね」

「詳しい事は後で決めるとするか。ほら、野郎共! 楽しい戦争の時間だ!」

 森から次々に冒険者たちが飛び出し、崩れた壁の部分から中へと入り込むのだった――。





 ――メイは、マリーナに押さえられていた。

 戦えば勝てるが、厄介な相手――それが、メイの中のマリーナに対する評価だった。しかし、その評価を改める必要があったようだ。

 マリーナを蹴ると、両腕を交差させてメイの蹴りを受け止めた。吹き飛ばせるくらいの威力はあったはずだが、交差していた腕を解くとマリーナの瞳を見てメイは理解する。

「ノウェムが言った通りだね。僕とは逆みたいだ。お姉さん、人でありながら獣に近付こうとしているよ」

 メイの正直な意見に、マリーナは体の筋肉が膨れあがって犬歯が鋭くなっていた。黒髪が逆立っているように、メイには見えているが、それよりも極端に変化したのは瞳だ。

 瞳が縦に細長くなっていた。

「馬鹿だね、お嬢ちゃん……人も一皮むけば獣だよ」

 マリーナのスキルである―― ビースト ――は、肉体強化と共に獣のような雰囲気を発するスキルだ。

 肉体強化だけではなく、体のしなやかさまで増している。そして、より好戦的になるのだった。

 地面を蹴ってメイの懐までマリーナが近付くと、メイは蹴りを放った。マリーナも蹴りを放ち、わざと勝負をする。

 すると、先程まで力負けをしていたマリーナだが、今ではメイと互角というところまで来ていた。

「わざとらしいよ!」

 メイは拳を突き出すと、マリーナがそれを手の平で受け止めた。

 ミシミシとメイの拳が音を立てており、マリーナはそのままメイを投げ飛ばす。投げ飛ばした方向は森の方角で、拠点から離れてしまった。

 木にぶつかるところでメイは空中で体勢を立て直し、木に両足で着地するような動きをした。

 衝撃で木が揺れるが、メイは顔を上げるとすぐそこにマリーナが来ているのを察知した。

 メイに目がけて蹴りを放ってきており、それを避けると木にぶつかって木が折れてしまった。

 枯木ではない木が、木片や葉をまき散らして倒れていく。

「……凄いね。それ、何段階目?」

 マリーナのスキルが何段階目であるのか聞いたメイだが、マリーナは律儀に答えるのだ。

「まだ最初だよ。お嬢ちゃんは麒麟なんだろ? 最後まで出させてくれると信じているよ」

 ニヤリと笑ったマリーナの表情を見て、メイは思うのだった。

(この手の規格外の人間は時々いるよね。本当に厄介だよ)

 メイが周囲に紫電を走らせ、魔法でマリーナを吹き飛ばそうとする。だが、マリーナはそんな事はお構いなしにメイに突撃してきた。

 紫電がマリーナのコートを焼き、皮膚を焦がす。なのに、マリーナは笑っていた。

 回し蹴り、それから後ろ回し蹴りを放ってきたマリーナに対し、メイは後ろに下がって右手から角を出した。

 格闘で勝負をするつもりはメイにはないので、すぐに斬り捨てようとする。

「ノウェムの指示には逆らう事になるけど、お姉さんは危険だからここで終わらせてあげる」

 その言葉に、マリーナは嬉しそうに笑い声を上げた。

「面白いよ、お嬢ちゃん! 終わらせてくれるなら……大歓迎だ!」

 メイが麒麟の鋭い刃のような角を横に振り抜くと、マリーナは手甲で受け止めるのだった。力もあった。切れ味だって当然ある。

 麒麟の角というメイの武器だが、マリーナの手甲に防がれていた。驚いて目を見開くと、マリーナにメイは殴られて吹き飛ぶ。

 木に背中を激突させ、そのまま地面に落ちた。

「迷宮でとんでもなく硬いが、クソ重い金属が手には入ってさ。私はこいつを愛用しているんだ。丈夫で壊れないからね。ただ、流石は麒麟だよ。傷が入った」

 使い込んでいるのに傷のない手甲に、メイがはじめて傷を入れたようだ。迷宮討伐を繰り返し、その中で自分の武具を用意していたマリーナ。

 腕だけはある冒険者、という訳でもなかった。

 メイは立ち上がると、首を横に振ってマリーナを見た。

(皮膚の火傷がもう治っている? それに、よく見ればコートの下に着込んでいる服は穴がない)

 メイの紫電を、普通の服が耐えられる訳がない。

 メイは認識を改めるのだった。そして、耳の後ろから金髪をかき分けて角が出現すると、後ろの方に伸びていった。

 メイの黄金の二つの角の出現に、マリーナはワクワクしている様子だ。

「いいよ。互いに切り札は出していこうじゃないか。あと、どれだけ隠し持っているのか楽しみでしかたがないよ!」

 そう言って、マリーナも足幅を広げ何かを耐えるようにうなり声を上げていく。まるで獣が威嚇するような声をメイは聞いていた。

 筋肉が膨れあがり、そして見えている部分――腕には体毛が出てきて本当に獣のようになっていた。

 獣人。一言で言えば、そんな姿だ。毛深くなったマリーナに、メイは率直に言う。

「毛深くなったね、お姉さん」

「グルルルゥ……コ、コロス……」

 メイの冗談を聞いて、真に受けている様子ではない。最早、思考能力を犠牲にして野生化しているようなものだった。

 マリーナが地面を駆けた。瞬間、メイも魔力を解放して肉体を強化する。互いに手を組んでのパワー勝負になると、小柄なメイが明らかに不利に見えた。実際、パワー負けをしている。

 しかし。

「確かに力は増しているけど、興奮して思考能力を低下させるのは良くないよ。まだ、さっきの方が脅威だったね!」

 頭突きをしてマリーナを怯ませると、メイはマリーナの腹に蹴りを放った。だが、まるで巨木を蹴ったかのようにマリーナは動かない。

 先程よりも重量が増していた。膨れあがっただけだと思っていた筋力は、密度まで増しているようだった。

 メイは驚愕する。マリーナの様子を見て、異質さに気が付いたのだ。

「肉体の能力だけで、僕と張り合うのか。驚く程に驚異的だよ、お姉さん」

 人は多かれ少なかれ、魔力で肉体を強化しているような世界だ。そんな世界で、肉体の力だけで、神獣と呼ばれる麒麟と互角に戦えているのは脅威だった。

 メイの足首を掴んだマリーナは、そのままメイを地面に叩き付けるのだった。メイがぶつかった場所は、抉れてクレーターが出来た。

 メイは口から血を吐いていた――。





 ――襲撃されていたベースでは、ヴァルキリーズが荷馬車に放り込まれていた。

 体には剣や槍が突き立てられ、冒険者たちが動かなくなったヴァルキリーズの装備を外して、肉体部分のある胴体を見て笑っていた。

「おい、随分と精巧に作られているぜ!」
「これ、そっち系の趣味の連中に売れるんじゃないか?」
「なら汚すなよ。汚すなら買い取れよ」

 ゲラゲラと笑っている傭兵団の冒険者たちは、二人組で乱暴にまた一体のヴァルキリーズを荷台に放り込んだ。

 傭兵団の団長は、ヴァルキリーズと戦った際に欠けた自慢の剣を見ていた。

「ちっ、肉の部分を突き刺したら、欠けやがった。骨でも簡単に斬り裂くのによ。厄介な連中だぜ」

 横たわる一体のヴァルキリーズを蹴飛ばすと、うつぶせだったヴァルキリーズの一体が仰向けになった。槍が突き立てられており、そこからは赤い液体が流れている。

 手足は金属で出来ているので、胴体部分を狙って倒したようだ。鎧を装着してはいたが、隙間があれば彼らには関係ない。

 冒険者パーティーの方は、回収したヴァルキリーズを丁寧に武装を外して荷馬車に分けて積み込んでいた。

 リーダーは、団長やその部下を見ながら。

「はぎ取った素材は大事に扱うものだ」

 すると、団長は笑い出した。

「悪いね! あとで後方支援の連中に綺麗にさせるさ。ま、これだけいるんなら、一体か二体を汚してもいいだろう。しかし、良い武具を着やがって」

 ヴァルキリーズの本体もそうだが、武具に関しても売ればどれだけの値段になるのかを考え、団長は笑いが止まらない様子だった。

 ライエルたちが大金をかけて作り出しているのを知っており、買い取りたいという商人がいたのも知っていた。

「今回は大儲けだな。だが、随分と慎重だな、連中」

 襲撃したベースは、規模が小さく奥にはまだベースが存在していた。そこで稼げば良いと団長は言う。

「稼げる場所が分散しただけなんだが……こりゃ、本当にあの坊主が戦争に関しては優秀だったみたいだな。戦力を分散して失いやがった」

 だが、リーダーは少しだけ反応が違った。

「まったくだ。だが、装備に関して消耗が激しい。予備を使いきった仲間もいる」

 団長も周囲を見ると、団員がヴァルキリーズの武器を手にとって使い心地を確認している姿を見た。

「武器を送って貰うか。こいつらを後方に送りつつ、武器を持ってきて貰えればこっちも助かるからな。問題は……マリーナの方が気に掛かる。大丈夫だろうな?」

 報告が来ないので不安もあったが、予想していたよりも抵抗は弱かった。そして、宝の山であるヴァルキリーズを回収した事で、団長もリーダーも気が付かなかったのだ。

 そこには、ライエルたちにとって重要と言えるものが、ヴァルキリーズ以外にないという事に。

 リーダーが言う。

「確認させるために人を送る。駄目そうなら急いだ方が良いな」

 団長も同意見のようだ。

「なら、俺の部下を送ろう。お前ら、遊んでないで次の狩り場に行くぞ!」

 傭兵団の部下たちや、臨時で参加した冒険者パーティーは浮かれている様子だった――。
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