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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

そろそろ駄目な奴が出て来てもおかしくないぞ十三代目

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船上のライエル一行

 ――ライエルたちがカルタフスへ向けて出発をすると、ノウェムたちは屋敷を完全に引き払って迷宮討伐を行なっている拠点へと向かうのだった。

 ポーターにはノウェムをはじめ、モニカにエヴァ、そしてクラーラとお客が乗り込んでいた。

 ミランダたちは拠点の方で準備を進めており、ヴァルキリーズも総動員で周辺の開発を進めている。

 ライエルがカルタフスに向かった段階で、ベイムの商人や冒険者ギルドが動き出すのは情報として知っていた。

 ノウェムは、ポーターの荷台に乗るラウノの相棒にして、種族がノームであるために小柄なイニスに笑顔を向けた。

「付き合わせて申し訳ありませんね、イニスさん」

 イニスは首を横に振ると、旅行用の荷物を抱くように抱えていた。普通の大きさである鞄は、イニスが持つととても大きく見えた。

「大丈夫です。ラウノさんもそうしろと言いましたし。それに……」

「それに?」

 ノウェムが首を傾げると、イニスは「なんでもないです」と言って曖昧な笑みでごまかしていた。その様子を見て、ノウェムはラウノやイニスがライエルに協力する事に、裏があるのではないかと警戒もしていた。

 しかし、イニスを危険な自分たちの拠点に人質のように預けるのも理解出来ず、何かしらのスキルで情報を流している気配もない。

 警戒しているノウェムだが、ラウノが集めてきた情報の正確さも考えて本気で協力しているとも思えた。

 だが、気を緩めることはなかった。

「向こうでは不自由もあると思いますけど、何かあれば言ってください。出来る範囲で対応させて貰いますので」

 ノウェムの言葉に、イニスは頷くのだった。

 ポーターに設置された窓から光が差し込むと、そこから外を見たノウェムはライエルの事を心配した。

(ライエル様は、今頃元気にやっているでしょうか?)

 傍で世話をする者がいないのも気にかかるが、今回はラルクという女性に対して効果の高いスキルを持つ冒険者が相手だ。魅了される可能性があるなら、ギルドの思惑があっても排除しておきたいとライエルが言ったのでノウェムは判断に従っている。

(誰か一人でも傍に置ければ良かったのですけどね)

 それが自分以外の誰かでも問題ない。最有力候補はモニカだが、モニカにはヴァルキリーズの統括という仕事もあった。

 次点でミランダやエヴァになるが、こちらも拠点での仕事が多いのでライエルの傍に送ることが出来ない。

 ヴァルキリーズでは世話に不安が残り、シャノン、メイ、アリアでは傍に置いても逆に迷惑になる。

 クラーラも仕事があるので残して起きたく、ライエルの判断はノウェムから見ても間違いではなかった。なかったのだが、不安であるのも事実だった。

(ダミアン教授のオートマトンがいるとしても、ライエル様に関しては優先順位が低いですからね。困るようなことはないと思うのですが……)

 エヴァが、ノウェムの心配そうな表情を見て。

「ライエルの事を気にしているの? 大丈夫よ。あれで意外としっかりしているし」

 慰めてくるエヴァに、ノウェムも。

「そうですね。ライエル様も最近では頼り甲斐が出て来ましたし、大丈夫でしょうね」

 そう言って微笑むのだった。二人で旅を開始した頃から比べれば、今のライエルは十分に成長している。

 ノウェムもそう信じることにするのだった――。





 ――ノウェムたちが動き出している頃。

 ベイムのギルド本部では普段使用されていない小さな会議室で、各支部の幹部数名がテーブルを囲んで話し合いをしていた。

 南支部の幹部が言う。

「動き出したようです。既にトレース家の船を使用してカルタフスへ向かいました。スイーパーが確認したので間違いないですな。報告漏れの迷宮でなにやら動きがあるようですが、仕掛けるタイミングは今かと」

 スイーパーとは、掃除屋だ。冒険者の掃除屋という特殊な元冒険者やギルドが育てた専門のスイーパーたちの事を言う。

 東支部の幹部の後ろに立つタニヤ――ターニャもスイーパーだ。幹部の後ろには、それぞれのギルドのスイーパーが立っていた。

 南支部の幹部は、今回のライエルパーティーへの襲撃に乗り気だった。北支部は海を専門としており、あまり興味がないようだ。人員を貸し出すため、逆に不機嫌そうにしていた。

「ここまでする必要が? 聞けば実力と言うよりも行動力がずば抜けた冒険者ではないですか? 我々まで巻き込んで」

 不満そうな北支部の幹部に、南支部の幹部は少し棘のある言い方をするのだった。

「……今回の襲撃が成功すれば、ガレリアとルソワースの港の使用権で潤う北支部の方々は関係ないと? 商人たちにそう言ってきてはいかがですかな?」

 北支部の幹部が黙り込む。トレース家のジーナと密約があり、ロランドを当主として認めるなら、二つの港の使用権を放棄するという話が出ていた。北支部もその話に関わっており、他人事ではないのだ。

 ただ、海での護衛や魔物退治を専門とする冒険者を抱えており、陸での問題に関して消極的になっている。

 西支部の幹部は、自分のところから人手を大量に回すことになっておりこちらも不機嫌だった。南支部の幹部を睨み付け。

「うちは一流の冒険者パーティーを二つも出すんだぞ。他にも中堅どころをいくつも、だ。なのに、南と東は少なくないかね? 南支部は傭兵団一つだけじゃないか」

 南支部では、戦争が極端に減るという情報が出回り、すでに傭兵団の多くがホームとするギルドを変更するために移動を開始したのだ。

 そのため、襲撃に参加させられる傭兵団の数が一つだけになってしまった。依頼などの処理もあるため、それ以上を引き抜けばギルドの信用問題にもなる。

「規模で言えば戦闘可能な人員を百名は抱えた傭兵団です。問題ではありません。数の上では我々が一番では?」

 西支部の幹部は、拳をテーブルに振り下ろした。

「ふざけるな! その辺の有象無象ではないんだ! 一流のパーティーの条件は地下六十階層を突破すること。これが出来るパーティーがどれだけいると思っている? 中堅にしても貴重なパーティーなんだぞ。数日で死ぬようなパーティーや、二流以下のパーティーとは価値が違うんだよ、価値が!」

 貴重な戦力を、傭兵などと一緒にするなと西支部の幹部が憤慨していた。東支部の幹部は、その意見を聞いてなだめに入る。

「まぁ、今回は本部の決定ですので。東支部の冒険者が本当に迷惑をかけて申し訳ない。この通りです」

 謝罪する東支部の幹部に、周りが毒気を抜かれると話し合いが再開となるのだった――。





 ――ターニャは、東支部のギルドに戻り、上司である幹部に質問していた。

 部屋には二人しかおらず、上司の飲むコーヒーの匂いが充満していた。

「……理解出来ません。ギルド本部はなにを考えているのでしょう? 四ヶ国連合の結成に尽力したライエルを暗殺すれば、ベイムにとっても不利益のはずです」

 ターニャの質問に、コーヒーを飲みながら上司は答えた。普段の様子と違いはなく、まるでターニャに諭すように言うのだった。

「私に決定を覆す権限はないよ。ギルドの上、その上の商人たちが考えた結果だからね。まぁ、四ヶ国連合の立役者が死ねば、連合の話も流れるかも知れない。ベイムを疑ったとしても、この周辺でベイムなしで生きていける国もないからね」

 それだけベイムという都市は巨大だったのだ。四ヶ国連合が結成され、戦争になっても負けないだけの自信があったのである。

 数だけではなく、装備の質なども四ヶ国連合の比ではない。それに、結成されたばかりの連合が力を持つまでにどれだけの年月が必要になるか? その間に脱退しない国が存在するか? 色々と四ヶ国連合にも不安要素があったのだ。

「ターニャ、情があるのは悪い事ではないが、君の仕事上では問題だ。受付嬢としての情なら、ある程度は持っても良いけどね」

 自分の仕事を思い出し、ターニャは気を引き締めた。上司がベイムの動きを口にする。

「ベイムはこの周辺で強大な力を持っていた。その気になれば、国すら滅ぼせるし、実際にした事もある。だからだろうね。四ヶ国連合やバンセイムもどうにかなると上が考えているようだ」

 ターニャは上司の意見を聞くことにした。

「ご自身の意見はどうなのですか?」

 すると、上司は笑いながら言うのだ。

「あの手の人間とは喧嘩をしないで、距離感を持って友好的に付き合うべきだと思うけどね。ただ、ベイムに来た頃からすれば驚異的な成長速度だ。警戒は必要かな? 私のミスだね。もっと当初から警戒するべきだった。他の冒険者とは決定的に何かが違うね。何か……目的を持って動いているようだ。もしかすれば、今のベイムの状況も、彼の手の平の上かも知れない」

 それを聞いて、ターニャは首を傾げるのだった。

「ならばもっと上手くやれたはずでは?」

 ライエルならばもっと上手くやれたと、受付嬢だったときに接したターニャは思うのだった。同時に、時折見えるチグハグした部分もあるため、若さから判断をミスしたのかも知れないと思っていた。

 もっと慎重に動いていれば、こんな事にはならなかった。そう思っていると、上司が天井を見上げつつ。

「ふむ……切り捨てたと思っていたが、実は切り捨てられたのかも知れないね」

 意味ありげにそう呟くのだった――。





 カルタフスへ向かう船上で、俺たちは月の光の下――ランタンの光も使用して話に夢中になっていた。

 普段接する機会が少ない一般冒険者であるエアハルトたちの体験談や、マクシムさんのバンセイムの騎士事情、更にはダミアンの胸に対する熱い思い……話の種は尽きることがなかったのだ。

 そして、今は俺の番となっていた。

「エヴァはさぁ、こうスタイルも素肌を見せるのも商売のためなんだよ。だから、真剣に体型の維持とかするの。そういう姿は凄いと思うけど、逆に裸を間違って覗いても平気なんだよね。下着を着ているから大丈夫、って感じで。クラーラもそういう恥じらいを気にしないから、無防備だから注意しても「それで?」みたいな反応なの。一緒に生活していると、ドキドキする事なんか少ないよ。逆にガードの堅いノウェムやミランダが時々湯上がりの姿で隙を見せる方がグッとくるね」

 それを聞いたエアハルトたちも、頷きつつ。

「そう言えば、前に一緒に行動した冒険者たちがそんな感じだったな。初日は上半身裸でウロウロしていて興奮したけど、慣れてくると上着は着た方が良いんじゃないか、って思うようになったな」

 俺は笑いながら。

「なら上着のタンクトップだけというのは止めなよ」

 エアハルトは言われるが首を横に振るのだった。エアハルトは、常にタンクトップ姿で、冬場は上着を羽織るだけだ。なのに、下半身には金属の防具を身につけている。今も、腰回りや膝やすね当ては金属のものをつけていた。

「嫌だ。俺はこれが一番落ち着くんだ!」

 ただ、周囲の仲間もエアハルトたちを見ながら、遠慮がちに。

「いや、この際だから言うけど……エアハルト、冬場とか上着を羽織るけど戦闘になると脱ぐじゃない」

「それがどうした?」

「見ていて寒いし、傷ついている姿を見てこっちまで痛くなるんだよね。あれ、止めて欲しいんだ。もっと上半身も防具で固めようよ。見ていて怖いよ」

「お、お前ら! いいか、これは俺がもっとも恰好いいと思うスタイルなんだ! 俺が有名になれば、いつか周りも俺のような恰好をするはずだ!」

 それを聞いていたマクシムさんが、先程の話を持ち出して。

「いや、普通に武具を用意する方がいい。というか、今のお前は上半身裸の女性冒険者と同じだぞ」

 エアハルトは、その意見に同意出来ないと言って立ち上がった。

「なんでだよ! 見ろ、タンクトップを着ているだろうが!」

 ダミアンは周囲にオートマトンを侍らせ、お茶をカップに注いで貰いながら言う。

「そんな布一枚、何もないのと変らないよ」

 そんな馬鹿話をしながら、俺たちは楽しく過ごしていた。

 宝玉内からは、三代目の声がする。

『まぁ、この年代の男の子はこんなものだよね。くだらないことでも楽しい時期だよ』

 五代目は少し間があってから。

『……そうだな』

 そう言っていた。だが、どうも納得していないというか、何か隠しているような感じだった。気になるが、今は聞けないので放置することにする。

 七代目は思い出したように。

『わしの時はこういった会話も難しかったですけどね』

 ミレイアさんは楽しそうにしていた。

『まぁ、今回は聞かなかったことにしましょうか。ライエルも楽しんでいますし。それにしても……ライエルは、もう少し気が付いた方がいいわね。ミランダたちが隙を見せるという意味を』

 何か意味ありげに言っていたが、俺はエアハルトたちとの会話を楽しむのだった。

 エアハルトが言う。

「そう言えば、あのシャノン、って可愛い子は?」

 俺はシャノンを思い出すと、首を横に振るのだった。

「ないな。グッとくる事なんてない。あいつ、外ではか弱そうなイメージだけど、屋敷だと凄くズボラでミランダに叩かれているし。それより、エアハルトの方だよ。噂で聞いたけど、新人担当の職員と仲よさそうだ、って」

 エアハルトは左手をヒラヒラさせながら、それはないとキッパリ言うのだ。

「あれは営業スマイルとか、そんなの。俺、もうギルド職員に夢は見ないから。今は馴染みの職員が欲しいけど、なんか俺だけあの子に回されるの。他の列に並んでいても、あちらが空いていますよ、って。……おかしいよな?」

「おかしいね」

 これは、マリアーヌさんの事を気にしているのだと思った。マリアーヌさんの気持ちを教えるべきか、それとも黙っておくべきか少し悩む。

 それにしても……周りは何故にエアハルトをリューエという職員に回すのだろうか? 未だに新人扱いを受ける冒険者でもないと思うんだが?

 マクシムさんも不思議そうに。

「そんな事があるのか? なにか他の職員に嫌われる事をしたんじゃないのか?」

 エアハルトは腕を組んで俯きつつ。

「……こっちに来たばかりの頃は、確かに色々と馬鹿をやったから、その可能性もあるな。くそっ、昔の自分を殴り飛ばしたい!」

 落ち込むエアハルトたち。色々と知らずに冒険者となり、いかに自分たちが世間知らずなのかを痛感したのだろう。

 ダミアンも眼鏡を指先で押し上げつつ。

「一人に押しつけているとなると、その子は嫌がらせを受けている可能性があるね。僕も学生時代にそんな事をされて、後でそれがいじめとか嫌がらせの類いだと教えられたよ」

 俺はそれを聞いて、あのリューエという職員がそんな事になっているのかと驚くのだった。

「……職員も大変だな。エアハルト、戻ったら優しくしてやりなよ」

 エアハルトもそう思ったらしい。

「分かった。お土産は少し高くてもいいものを買ってやる。そうか、あいつも苦労していたのか」

 俺たちはギルドの嫌な部分を見た事に後悔しつつ、違う話をするのだった。

 ミレイアさんが呆れたように。

『……こいつら、誰一人として理解してない』

 五代目が不思議そうに。

『え? なにが?』

 そう言うと、宝玉内が静かになるのだった。五代目は理解出来ないのか。

『な、なんだよ。なんでお前ら、俺をそんな目で見るんだよ!』

 困惑する五代目。俺も、宝玉内の反応に困惑するのだった。
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