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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

逸話とかかなり曲解されて伝わっているかもね十二代目

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第十二章エピローグ

『このままの状態のライエルと話をしても始まらないね。悪いけど、強制的に隔離させて貰うよ』

 ライエルがそう言うと、俺はいつの間にか七代目の記憶の部屋にいた。一瞬にして移動させられたようだが、それだけ宝玉内でらいえるが強い権限を持っているのだろうか?

『ライエル!』

 七代目が部屋の中にある椅子に座っていたが、立ち上がって俺が急に出現したのを驚いた様子で見ていた。

「……そう言えば、七代目の記憶の部屋にはあまり立ち入っていませんでしたね。戦うときくらいでしょうか?」

 俺がそう言って七代目――祖父の部屋を懐かしい気持ちで見ていた。こんな感じだっただろうか?

 ほとんど戦うときに中庭や屋敷の訓練場だったので、俺は首を傾げる。ここで昔は七代目に遊んで貰っていた気がした。

『お前、こんな時まで……いや、らいえるサン状態か。しかし、言われてみるとそうだったな。わしは歴代当主の中で濃い方ではないからな』

 七代目が椅子に座ると、俺にも座るように言ってきた。小さな丸いテーブルを挟んで向かい合って座るとそこにはカップが出現した。

 七代目が言う。

『腹はふくれんが、こういうのは気持ちの問題だからな。飲むといい』

「頂きます。香りもしますね」

 俺はこの懐かしい味を思い出していた。曖昧な記憶の中でも、このお茶を飲んだことを思い出していた。

『……お前とはこうしてゆっくり話す機会がなかったな。これからは増えるかも知れないが、それも寂しい話だ。歴代当主がいなくなったおかげだからな』

 初代、二代目、六代目……そして、四代目が俺にスキルを託して宝玉内から姿を消してしまった。自分たちの役割を終えたのだ。

 宝玉内での歴代当主たちの役割は、宝玉の所持者である俺にスキルを託すことである。使い方を教えるために、当時の記録を呼び起こされた存在……。

「別にお爺様を蔑ろにしている訳ではありませんよ? 尊敬しているのは事実です。それに、可愛がって貰った記憶も曖昧に残っています」

 七代目が寂しそうに笑うのだった。

『そうか。そうだな……だがな、ライエル。わしは、そこまで優秀だったのかな』

「どうしたんです? 弱気ですね」

 七代目は手を組んで窓の外を眺めていた。窓の外では二羽の鳥が飛び去っていく光景が見えた。

『……強くあろうとした。歴代当主に負けないようにと頑張った。だが、それらは歴代当主の功績という下地があったから成功したものだ。ライエル、わしが何故銃にこだわったか分かるか?』

「将来性があったからでは? 俺も金銭問題が片付けば、量産した方が勝つとは思いますよ。ただ、決定打に欠けるのも事実ですが」

 七代目も頷いていた。

『……こうして歴代当主たちを間近で感じ、そしてわしは思うのだよ。本当にわしが銃を選んだ理由は、比べられたくなかったからではないか、とな』

 俺はお茶を飲みながら笑う。

「なにを馬鹿な事を。七代目はボックス、それにワープととんでもないスキルを発現しましたよね? 自信を持つべきです。俺など、セレスに色々と搾り取られましたが、絶対に勝てると思っていますよ」

 七代目は普段と違う優しい笑みを俺に向けた。馬鹿にした様子でもない。

『お前にそこまで言われると自信も出てくる。さて、お前の記憶と名乗るライエルが出て来たが、お前はこれからどうする? 部屋から出るにも鍵をかけられたみたいだが?』

 記憶の扉は固く閉ざされているようだ。ならば、焦っても仕方がない。

「ノンビリさせて貰いますよ。ノウェムと話があるようですからね。ま、後で聞くことにします」

 そんな俺に、七代目が言うのだ。七代目は、ノウェムにそこまでこだわりがない。何しろ、フォクスズ家は家臣のような家だった。そこの娘――次女でしかないのだ。

『ライエル……お前は、ノウェムを信じすぎているのではないか?』

 俺は七代目の言葉を聞きながら、カップの中身を飲み干すのだった。





 ――そこは、らいえるの部屋だった。

 ノウェムは部屋に連れてこられると、周囲を見てすぐにここが過去のライエルの部屋とは違うと気が付いたようだ。宝玉内に再現されているが、微妙な違いがあったのだ。

 その違いを、ノウェムはらいえるという存在が原因だと結論づけたようだ。

「右側の本棚。上から三段目の本の順番が違いますね。ライエル様は、そこにはあまり触れていませんでした。本の配置が微妙に違っています。それに、もっと埃っぽい部屋でしたよ。部屋の掃除を使用人が怠っていましたから」

 らいえるは客人に椅子を出さないまま、自分はベッドに腰掛けている。

『……そんな事を言うから普通の人に距離を置かれる。今更、“壊れているノウェム”になにを言っても無駄だと思うけどね』

 らいえるはノウェムを正確に理解していた。そして、別に嫌っているわけでもない。ただ、ライエルの扱いに不満があるだけだ。

 フォクスズ家――女神であり、邪神となったノウェムの記憶を引き継ぐ一族の中で、もっとも鮮明でとんでもない情報量を受け継いだのがノウェムだ。

 らいえるも最初からその辺の事情は知らなかったが、宝玉内で記憶を持って目を覚まして知ることができた。

 らいえるは話をはじめた。

『記憶というのは性格に大きな影響を与える。幸せな記憶があれば本人次第で人にも幸せを感じて欲しいと思い、はてはもっと幸せを望むために人を踏みにじる。本人次第だが、影響が出るのは事実だ。それで質問なんだが……ノウェム、お前は自分が女神か、邪神のノウェムと思っているか? それとも、フォクスズ家の次女であるノウェムか? どっちだい?』

 記憶を受け継ぐ。言えば簡単だが、それをまるで体験してきた事のように思えば、その人物はどう思うか? 自己の確立に影響はないだろうか?

『セプテムさんはセプテムの自責の念から人に好かれるという能力を封じ、人のために尽くしてきた。尽くしすぎて失敗したけど、今ではその教訓が生きている。さて、それでノウェムはどうだろう?』

 ノウェムは答えない。ニコニコとしてはいるが、答えようとはしなかった。何かが大きく欠落し、余計なものがついているのがノウェムという少女だ。

 らいえるはそれを知っていた。そして、ノウェムがセレスの行動をわざと見逃したとも思っていた。

『答えない、か。それもいいよ』

 呆れるらいえるに、今度はノウェムが質問をするのだった。

「らいえる様はライエル様の記憶だとか。もしや、ライエル様に記憶をよみがえらせるおつもりですか? それでは、今のライエル様が……」

 ノウェムにとっては重要な事であるのは、らいえるは気が付いていた。そして、まともに記憶を返してしまえばノウェムは怒りで宝玉など打ち壊してしまうかも知れない。

 ノウェムにとって大事なのは今のライエルだ。

 過去のらいえるは重要度が低い。

『……悲しいけどね、ノウェムと同じ意見なんだ。僕はライエルに記憶を渡さない。ただ、煽って戦ってみる程度はするよ。色々と教えないといけない事がある。それと、大事な事を伝えないといけないからね。宝玉の意志は関係ないんだ』

 すると、ノウェムはとても嬉しそうにしていた。その表情に偽りはない。

 らいえるはその表情をするノウェムを、残念そうに見るしか出来なかった。

「素晴らしい判断です。記憶ではなく知識や技術を与えて消え去る。らいえる様らしい、素晴らしい決断ですね。このノウェムは嬉しく思いますよ」

 そして、ノウェムは酷く暗い笑みで言うのだ。

「……数万年、いえ、もっと前に人がその判断を出来ていればと思うと悲しいですが」

 らいえるは言う。

『お前のためじゃない。ライエルのためだ。記憶を奪われ、ライエルは体が大きいだけの子供だった。僕が出来たのはライエルに愛されていた記憶を残すこと……全てを失い、冷遇されても真っ直ぐ立てる可能性を残すためだった。そして、僕の失敗の尻拭いをして貰う弟のような存在だからね』

 ノウェムは笑顔でスカートの裾をたくし上げ、軽く会釈をした。

「そのお手伝いはこのノウェムがいたします。らいえる様は、どうぞご心配なさらずに」

 そしてらいえるは言うのだ。ノウェムに対して不満を持っている一番の理由を。

『……ノウェム、君の愛は恋人に向けるものじゃない。それは、母が子に向ける愛だ。ライエルが望んでいるものじゃない』

 母だからライエルを無条件で愛する。母だから他の女がいても我慢出来る。母だから、最後までライエルを見捨てない。

『君は正確に理解していた。周りはまったく気が付いていなかったけど……記憶を奪われ十歳でそれこそ幼い子供――三から五歳程度の精神年齢しか持たなかったライエルが、見た目よりも幼い子供である事に。それを狙ったとは思わないよ。でも、それで君は――』

 ノウェムは姿勢を正して首を傾げた。

「愛は愛ですよ、らいえる様」

 と――。





 ――ミランダは、地面に膝、そして手をついていた。

 右肩を左手で押さえ、見上げる先には自分とシャノンを足したような女性が銃をグリップの部分で折り曲げ、弾を込めている姿だった。

 一発しか撃てない銃を複数所持しており、いいようにあしらわれた。かかってこいと言われ、容易に倒せると思えば全く歯が立たなかったのだ。

 宝玉内の円卓の間。

 円卓が広がり、闘技場のようになったその部屋で、ミレイアを睨むミランダは悔しそうに立ち上がるのだった。

 左手を右肩から離す際に目の前にスキルで出来た複数のネット―― 大きな蜘蛛の巣 ――を出現させた。編み目は狭く、そして隙間は小さい。粘つき、銃弾などぶつかれば止まるはずだった。

 だが、ミレイアが放った弾丸は、その複数のネットの隙間を正確に通ってミランダの左太ももに命中した。

「くっ!」

 またしても膝をつくミランダを、シャノンは震えてみていた。そんなシャノンに、ミレイアが言うのだ。

『そこ、そんなに震えない。この空間なら痛いだけで済みます。それと理解出来たかしら、シャノン? 貴方の目はこれくらいできるのよ。その気になれば』

 歩き出したミレイアは、銃についたナイフでミランダの作り出した粘着性のある網目状の糸を容易に断ち切る。

 ミランダがその様子を驚いてみていた。実戦では、ランドドラゴンというドラゴンの中では比較的倒しやすいドラゴンを絡め取って動けなくしていた自慢のスキルで作り出した糸だ。

 それを容易に斬り裂かれる。

『……この程度でノウェムちゃんに勝てるつもりだったの? 甘すぎるわよ、ミランダ』

 そう言って肩をすくめるミレイアに、ミランダは後ろ腰の短剣を三本引き抜いた。一本はミレイアに投げつけ、飛びかかると二刀流で斬りかかったのである。

「接近戦なら!」

 ミレイアはニコリと笑い、銃で短剣を撃ち抜いた。ミランダが持っていた短剣を、だ。そして、体勢が崩れたミランダが床に足をつくと投げた短剣を掴んで同じように二刀流で接近戦を仕掛けてきた。

 筋力、瞬発力、それらもミランダ以上だ。成長を急激に重ねたミランダが、斬り刻まれ、膝や手、そして脇腹に肩と、何ヵ所も刻まれていく。

 なのに、ミランダの攻撃はかすりもしない。

『接近戦なら、勝てる? 駄目よ、ミランダ……私は貴方を個人的に応援するけど、正確に相手の力量くらい量りなさい』

 ミレイアに蹴り飛ばされ、ミランダが床を転がった。

 シャノンは姉が一方的にやられているので、ミレイアに向かって魔眼を使用して精神に触れようとして――。

「キャッ!」

 ――失敗した。

『相手の心に触れる、ね。シャノン、貴方はこれで悪戯したらしいわね? 悪戯する子にはお仕置きしないといけないわ』

 ミレイアがシャノンに一歩踏み込むと、すぐにその場から飛び退いた。

 怪我が治ったミランダが、ナイフを数本投げていたのだ。

 ミランダは、この理不尽な相手に勝つ方法を考える。スキルは容易に無効化される。だが、負けを認める気はない。

 そんなミランダの瞳を見て、ミレイアは微笑む。

『来なさい。少しは自分より強者と戦わないとね』

 ミランダは大きく踏み込んでフェイントを入れてミレイアに近付き、そして正確に銃で撃ち抜かれるのだった――。





「話は済んだのか?」

 お茶を飲んでいると、今度は急にらいえるの部屋に呼び出された。

 七代目と世間話をしていたのだが、やはりゼノアお婆さまの失敗談は面白いものが多い。俺も大笑いしてしまった。

 特に陛下に向かって……。そんな事を思っていると、らいえるはベッドの上で横を向きながら。

「どうした?」

『ふん、ノウェムが今の君がいいから、僕だと駄目だってさ。イライラするから、今日はここまで。記憶も絶対に返さないよ』

 子供のように拗ねたらいえるを見て、俺は勝ち誇りつつ。

「いいだろ! さて、それでは戻るとして……今度来るまでに記憶を返して欲しいんだが? 乗っ取りはなしでたのむ」

 らいえるは俺を見ながら鼻で笑う。

『そんな都合のいい話なんか聞かないね。絶対に渡さないよ。欲しいなら無理やり奪ってみるかい? 今の君なら……僕でも手こずるかも知れないね』

 俺は笑いながら。

「ならば勝てる条件を整えよう。未来の嫁を総動員してお前を囲ってボコボコだ! 慈悲として、全員に短いスカートを履いて貰ってもいいんだぞ」

 すると、らいえるはハッとした表情で考え込み。そして、俯いて腕を組んで……。

『……ガ、ガーターはありかな?』

「贅沢な奴だ。だが、ガーターか……ありだな」

『ありだよね! イヤッホォォォ!! その時を楽しみにしているよ』

「楽しみに待っておけ! じゃ、俺は説得もあるのでこれで失礼する」

『……ま、無理だと思うけどね』

 らいえるは楽しそうに笑いながら、俺を見送るのだった。
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