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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

逸話とかかなり曲解されて伝わっているかもね十二代目

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NAISEI


「さぁ、そういう事でやってきました。ここが未だに手のついていない土地です。近くに川があるのに、まったく有効活用されていませんね」

 拍手をしながら集まった全員を見る俺は、一人だけ馬鹿みたいにテンションを上げていた。

 並んでいる面子は、レオルド君を始めクラーラと近くの村からかき集めた男手たちだ。

 こちらからは、クラーラ以外にもアリア、そしてマクシムさんやアデーレさんが参加していた。

 その他、ヴァルキリーズが無表情で俺に対して拍手をしてくれている。なんだろう……量産機たちの方が可愛く見えてきた。

 周囲には川が流れているが、地面は草が腰の辺りまで伸びている。周囲には森もあって、そこには魔物が沢山いるのがスキル―― マップとサーチ ――で判明していた。

 大型ポーターを持ち出し、必要と思われる資材もかき集めていた。そんな準備された現状の中で、レオルド君が手を上げた。

「ライエルさん」

「よし、まずは『さん』付けを止めようか。俺の事はライエルでいいから。とにかく、『さん』をつけないように」

 俺はレオルド君に重要な事を伝えた。レオルド君は、少し首を傾げたが頷いて俺に質問してくる。

「あの、急に呼び出して開拓しろと言われても、公王家も予算的にカツカツなのですが?」

 自分の家の内情を知っているレオルド君は、もう隠すことなく公王家の金銭事情を暴露して貰った。

(まぁ、調べているから銅貨一枚単位で把握しているけどね。確かに公王家には金がない。でも、そのままで困るんだよ)

 そう。このまま公王家が予算を用意出来るようになるには、秋が過ぎなければいけない。しかも、そこから戦費やら見舞金やらで大半がなくなってしまうのだ。

 俺は笑顔で。

「大丈夫。世の中、あるところには金はあるから。今回も借りてきました。あ、前借りしただけだよ。ちゃんといつか返すから」

 今回もヴェラに頼んでお金を借りてきた。フィデルさんの蔑むような視線が忘れられないが、ヴェラは「しょうがないわね」などと言って貸してくれた。

 俺が言うのもなんだが、ヴェラはきっと男に貢ぐタイプの女性だ。

 レオルド君が俺を見て、そしてクラーラに視線を向けた。

「結構凄い人なんですよね? 噂しか聞いたことがないですけど」

 クラーラは、眼鏡の位置を正しながら。

「……まぁ、これまでの経歴だけを見るなら完璧ですね。内情を知ると少しガッカリしますが、そこもライエルさんの魅力です」

 レオルド君が俺に憧れの視線を向けてくる。まるで、俺をおとぎ話の英雄でも見ているかのような視線で見てくるのだ。

(なんだろう……心が痛い。自分のためにガレリアを利用しようとしているから、滅茶苦茶心が痛い)

 宝玉内からも、三代目たちが。

『くっ、無垢な瞳が痛い!』
『そ、そんな目で見るんじゃない!』
『……昔はみんな綺麗な目をしていたんだよ』
『この心が痛む感覚……純粋な視線がこれ程までに痛いとは』
『駄目、流石の私もこの子には悪戯出来ません』

 俺は咳払いをして、説明に入る事にした。

「さて、今回はレオルド君が責任者としてこの土地の開拓を行なう。ここは魔物が多くて、雨が降れば小さな川も氾濫して水浸しになる。開拓するにもとても大変だ」

 集まった男手たちも、その意見に頷いていた。この周辺の次男や三男たちで、部屋住みと呼ばれる存在である。

「でも、なんでそんな土地を開拓するんだ?」

「普通に畑を広げて貰う方がありがたいんだけど」

「ここ、昔から何度か開拓をやろうとして失敗している、って村の婆さんが言っていたんですけど」

 あまり乗り気ではない男手たちに、俺は宣言する。

「だからこそ、だ! ここを開拓すれば、その評価はレオルド君――次期公王のものになる。小さな事からコツコツと! ここで実績を積んで、もっと大きな川の治水工事に取りかかろうじゃないか!」

 ただ、レオルド君は周囲を見て。

「あの、とても開拓するには規模の小さな集団なんですが?」

 俺もそれは思っていた。もっと男手が余っていると思っていたが、何度も戦い続けている国だけあって、男手が貴重だった。

 忙しい時期でもあり、集まったのは村の厄介者である家を継げない男たちが十数名だけである。

「ま、人手の方は少数精鋭と言うことで。魔法でパパッ、って開拓して、成果出してお姉さんに報告しようぜ」

 レオルド君は、少し悩みながらも頷くのだった。そして、宝玉からは四代目の少し含みのある笑い声が聞こえてきた。

『……ライエル、随分と調子が良いね。これは、少し実地で勉強しようか』





 開拓に乗りだし三日目が過ぎると。

「ギャァァァ、堤防が崩れたぁぁぁ!!」

 魔法で作った堤防にひびが入り、そこから水が漏れると壁が崩れてせき止めていた水が勢いよく噴出してきた。

 せき止めていたせいで、勢いがついて近くにいた俺は水浸しになる。

 すると、近くで指示を出していたアデーレさんも水浸しだ。クラーラは、衝撃で転んで川に浮いていた。

 プカプカと浮いて、流されていくので回収しにいくとマクシムさんが走ってくる。

「お嬢様! さぁ、早く体を拭いてください!」

 アデーレさんにタオルを渡すと、周囲の男共の視線からアデーレさんを守っている。俺が川の水の中からクラーラを回収するが、タオルは持ってきてくれなかった。

 というか、アデーレさんがワナワナと震えながら俺の方を見て。

「だから言ったじゃないですか! もう少し頑丈に作りましょう、って! もしくは、もっと川の流れ自体を変えるような作りにしましょう、って!」

 水に濡れて服が体に張り付いている状態のアデーレさんが、俺に文句を言ってきた。だが、水を吐き出したクラーラも黙ってはいない。

 水に濡れた眼鏡を拭きながら。

「予算がどうとか言いだして、資材を使うのを嫌がったのはアデーレさんですよ。私は、本に書いているとおりにもっと補強しようと言いましたから」

 ガレリア公王家から派遣された形のクラーラは、今回はレオルド君の補佐という扱いだ。その貯め込んだ知識を使用し、今回の治水に大いに役立って貰うつもりだった。

 だった……のだが、アデーレさんと衝突してしょうがない。

「本の知識をそのまま利用すれば、予算が足りないと説明しましたよね! だから、なんとかもっと他の方法で補強しようと言ったんじゃないですか! だいたい、もっと効率の良い方法だってあったはずです!」

 二人の意見が激しくぶつかり合うと、俺とマクシムさんは身振り手振りでお互いに二人をなだめる事にした。

 マクシムさんはアデーレさんに。

「お嬢様、壊れてしまったものは仕方ありません。次は改善して作業を進めなければ」

「うぅ、また無駄に出費が増えて……」

 俺の方はクラーラをなだめる。

「クラーラ、なんとか他に方法はないか? もっと違う知識とか」

「最善を選んだつもりです。それに、最初から資材を使っていれば余計な出費はかからなかったのに」

 アデーレさんもクラーラも、互いにブツブツと文句を言っていた。どちらも重要な問題なだけに、俺もなんと言っていいのか分からない。

 ただ、宝玉内からは笑い声が聞こえた。

 ミレイアさんだ。

『いいわ。いいわよ、ライエル。そのフォローとか、失敗してまったく進まない現状とか、すごく楽しいわ!』

 この人、かなり性格が悪い。六代目の前では猫をかぶっていたのは確実だろう。六代目が、優しい妹だと言っていたが、絶対に嘘だと思った。

(流石はミランダとシャノンのご先祖様だな)

 性格に問題のある二人のご先祖様だけはあるが、それは他の歴代当主たちも変らない。

 三代目も楽しそうだ。

『僕、絶対にあれが壊れると思ったんだよね』

 七代目も笑いながら同意する。

『わしもです。ライエル、こうした準備こそ丁寧にしなければいかんぞ』

 分かっていたら教えれば良いのに、歴代当主たちは見ているだけだった。

 そうしていると、森の方からレオルド君が走ってきた。

「だ、誰か! アリアさんがぁぁぁ!!」

 なにか起きたのかと顔を向けると、アリアが森の中から大きなクマの頭部を掴んで担ぐように森から出て来た。

 返り血を浴びているが、きっと魔物の返り血だろう。茶色の毛皮を持つブラウンベアーは、魔物としてもタフで気性が荒く面倒な魔物だ。

 それを槍で仕留めたアリアが、森から担いで来たらしい。

「五月蝿いわね。返り血ぐらいで騒がないでよ」

 レオルド君、実はかなり過保護に育てられていたのか、外でこうして何かをするのは初めてらしい。

(グレイシアさん、ブラコンだったのか)

 アリアがブラウンベアーを地面に放り投げると、ヴァルキリーズの一体が濡れたタオルをアリアに手渡すのだった。

 受け取ると、アリアはタオルで顔を拭いて首筋や手などを拭いていた。

「というか、魔物が多いのよ。多すぎるのよ! いつの間にかマクシムさんはいなくなるし、他のヴァルキリーズは作業中だし」

 森を切り開くために、ヴァルキリーズの多くは木を切り倒して枝をおとし、丸太を運んで切り株を引っこ抜いていた。

 アリアが地面に座り込んだレオルド君を見て、溜息を吐いていた。

「あんた、そんな調子だと戦場に出ると動けないわよ」

 レオルド君を心配して、アリアは声をかけていた。

 そんなアリアに俺は――。

「アリア、お前も最初は凄く酷かったじゃ――」

 途中でアリアの睨み付けてくる視線を受けて、俺は口を閉じた。

 ヴァルキリーズが、俺たちにもタオルを持ってくる。俺は先にクラーラにタオルを渡すと、周囲を見るのだった。

 下手にせき止めてしまい、周囲の地面はベチャベチャだった。先に草をなんとかしておけば良かったと思いつつ、溜息を吐く。

 空を見上げれば、太陽が燦々と照りつけてくるので頬を汗が流れる。

(……全然簡単に終わらない。魔法ですぐに終わると思ったのに)

 俺の考えは、どうやら甘かったようだ。





 夜。

 三日目が終わろうとしていたのに、その日も成果がまるでなかった。

 当初の計画では、治水を行なって堤防を築き川の流れを変更する予定だった。

 上手くいけば、村の基礎作りに入っていてもおかしくなかったのだ。

 失敗続きで計画は全く進んでおらず、そして宝玉内の歴代当主たちも助言を求めてもはぐらかすばかりだ。

 何かしら意味があって助言をしないのだろうが、俺も疲れてきた。

 ポーターの横にテントを張り、そこで木箱の椅子に座ってランタンの光の下で溜息を吐く。

 木箱を積み上げ、板を置いて机にした場所でアデーレさんの報告書に目を通した。

「失った資材は丸太が……くそ、時間が過ぎるだけで金がなくなっていく」

 人を動かすには金がいる。細かく言えば、食糧だ。そして、開拓には道具が必要だ。そして、道具は消耗する。壊れることもある。

 水に流され、道具のいくつかも見つからない状況だった。

「上手くいかないな」

 溜息を吐くと、俺のテントに声がした。レオルド君だ。

「あの、起きておられますか?」

「え? あ、あぁ」

 テントにレオルド君を招くと、俺は彼に木箱に座るように言った。座ったレオルド君は、俯いていた。

「すみません」

「え? なにが?」

 急に謝られて困惑していると、レオルド君はポツポツと話し始めるのだった。

「私は今まで屋敷にいて……こんなに治水や開拓が大変だとは思っていませんでした。知識では知っていたのですが、それでも自分が何もできないとは思わなくて」

 もっと色々と出来ると思っていたのか、不甲斐ない自分が悔しいようだ。昼にアリアについていき、森に入るがたいした事はできなかったと悔しそうにしていた。

「ライエルさ……殿は、冒険者として成功していると聞いています。私よりも二つか三つしか年齢は違わないのに。私は自分が情けなくて」

 きっと、昼間に失敗している俺を見ていればそんな感想は持たなかったはずだ。見られなくて良かったと思っていると、レオルド君は。

「私は口だけだったんでしょうか。内政をやればガレリア公王家のためになると思っていました。姉が戦争ばかりしているのに不満で、なのに自分は結局なにもできなくて……」

 落ち込んでいるレオルド君を見ていると、俺は声をかけることにした。

「……俺もね、未だに試行錯誤で手探りだよ」

「ライエル殿がですか? 信じられません」

 不思議そうにするレオルド君には、いったい俺がどのように見えているのだろうか? 俺は、苦笑いをしつつ飲み物を用意してそれをレオルド君に手渡した。

「失敗ばかりだ。迷惑もかけてきた。それに、現在進行形で周囲に迷惑をかけ続けている。ついでに言えば、ガレリアに協力するのも俺の利益のためだからね」

 レオルド君が苦笑いをした。

「姉さんから聞きました。まさか、ルソワースの魔女と手紙のやり取りをしているとは思いませんでしたよ。確かに、知られれば姉の命が危なかった。でも、私からすればそれも謎です。なぜ、ここまでしていただけるのですか?」

 ある意味では、俺はグレイシアさんを脅した脅迫者だ。だが、同時に、今まで手紙のやり取りをしていた冒険者が捕まるのを防いだ恩人でもある。

 両国が戦争をする中で、トップが裏で繋がっていたと知れば周囲は面白くないだろう。

 それを防いだ俺は、レオルド君からすれば不思議な存在のようだ。

 俺は頬をかきながら。

「まぁ、色々と目的がある。ザインとロルフィスとの連携を持って貰う。ついでに、ルソワースへの足がかりかな。ガレリアが立ち直ってザインとロルフィスの支援を受け、更にはベイムとも懇意になればルソワースはすぐに追い詰められる」

 それを聞いて、レオルド君は。

「……そうなると、姉が存在する理由がなくなります。下手をすれば暗殺ですよ」

 俺は笑顔で。

「まぁ、そうなれば俺が(仲間として)貰うだけだ。実際、あの戦闘力は欲しいからね」

 レオルド君は、少し驚いた表情をしながら。

「……そうですか? アリアさんも強かったですよ。姉さんとは違うタイプではありましたけど。姉さんはどうしても被害が大きくなる戦闘スタイルですから」

 アリアが単体、集団を相手に戦えるのに対して、グレイシアさんは究極の集団戦に特化した戦闘スタイルらしい。

 それならそれで、戦力として申し分ない。これからは、そういった戦力も欲しかった。

「俺も善人じゃないからね。色々と理由があって協力している。だから、レオルド君も俺を利用して実績を積むといいよ。ここが成功すれば……きっと、周りの見る目も変ってくる」

 成功するのだろうか? そんな考えが頭をよぎったが、すぐに俺は思考を切り替える。成功させなければ駄目なのだ。

 レオルド君は、それを聞いて笑顔で頷くのだった。

「分かりました」
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