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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

逸話とかかなり曲解されて伝わっているかもね十二代目

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ライエルとらいえる

 大規模な輸送団の護衛を引き受けることになった俺たち。

 ロルフィスを通ってガレリア、ルソワースの順番で荷を届けるらしい。ただ、両国は緊張状態だ。

 面倒だが、ガレリアに入ってからはロルフィスに戻り、そこからルソワースに入るという面倒な事をする必要があった。

 そういった計画を確認しつつ、ロルフィス側には輸送団が通行することを知らせる書状を俺の方からも出しておく事にしたのだ。

 そして書状を託す相手が――。

「……戻ってきたばかりなんだが?」

 屋敷の応接間では、アレットさんがソファーに座って疲れた表情をしていた。東支部の依頼で迷宮討伐に出向いていたのだが、昨日戻ってきたようだ。

 あまり大きな迷宮でもなく、討伐自体はすぐに済んだらしい。ただ、周辺の調査をすると、新しい村が開拓可能とあってその辺の細々とした依頼も引き受けていたようだ。

 俺は真剣な表情で。

「割と本気でお願いしています。ガレリア、ルソワースの両国に入れる機会ですし、ベイムの輸送団――まぁ、商人の護衛です。俺としても、二国の状況を見ておきたいんで」

 アレットさんは溜息を吐いた。

「同盟か連合だったか? 四ヶ国が協力すれば、確かにこの辺りは安定するだろうさ。他には小さな国があったとしても、条件次第でこちらに引き込める。だけどね、あの二国は駄目だと思うよ」

 アレットさんの印象では、二国はとても結束が固いようだ。

 ガレリアは周辺で一番力を持つ領主が代表を務めている国である。周囲の領主たちも、ルソワースに抵抗するためにガレリアに協力を惜しんでいないとか。

 対して、ルソワースは一国で領地を管理している。領主など存在せず、代官を派遣して領主が存在していないようだ。

 統制が取れているらしい。

「――あの二国はとにかく小競り合いが多い。それに、毎回二大戦乙女が出て来て一騎討ち状態だ。他が手を出せない圧倒的な強さだよ。見るまでは戦い方があると思ったが、私でも数秒で斬り伏せられるだろうね」

 アレットさんは弱くない。むしろ、強い部類の人間だ。そんなアレットさんが太刀打ち出来ないというと、確かに尋常ではない相手のようだ。

「スキルが強力だと?」

 アレットさんはお茶を飲み、カップをテーブルに置くと前のめりになった。

「いや、単純に強い。生まれながらにして強者がいるとすれば、彼女たちのような人間だと思う。普通にそうした人間はいる。ただ、直接戦闘も魔法も並外れている。ましてや、スキルが後衛系だ。つまり、魔法特化だね」

 一部の魔法を独自の魔法に昇華してしまうのが、後衛系スキルの特徴である。独自魔法になると対処が難しいので厄介だ。

 俺はアゴに手を当てつつ。

「対策は?」

「無理だ。この目で確認したんだが、あれは無理だね。知っているかい……人がさ、空を舞うんだ。魔法が放たれて人が空中に放り出される。土煙も高く上がっていたよ。まるで実力差を見せつけられている気分だった」

 アレットさんの落ち込み具合を見ると、俺も背中に冷たいものが流れた。

 宝玉からはのんきな四代目の声がした。

『怪物クラスかな? セレスとどっちが厄介だろうね』

 セレス並の怪物がゴロゴロして貰っても困る。ただ、俺はその二人に強い興味が出て来た。引き込めれば、強力な手札になる。

 潰しあって貰っては困る。なんとか協力を取り付けたかった。

「……なんとか接触してみますよ」

 アレットさんは、俺を見ながら。

「また増やすのか? うちの王女殿下も貰えばいいのに……」

 最後の方はボソボソと言っていたが、俺は聞こえないフリをするのだった。





 準備が進む中。

 俺は呼び出されて宝玉内へと足を運んでいた。

 何故か、全員が俺の記憶の部屋のドアの前に集まっている。

 ミレイアさんもいつもより困っている感じで、同時に七代目は頭を抱えていた。

 三代目も考え込み、五代目は俺の方を見て何やら疑った視線を向けている。そして、四代目は俺を見て。

『ライエル、今日は覚悟を決めた方がいい』

「急になんですか?」

 いつもとは違った雰囲気に戸惑うが、ミレイアさんが俺に近づいて来た。

『ライエル……女性のスカートをめくりたいと思った事はあるかしら?』

 ……そんな事を急に言われた俺は、なんと答えればいいのだろうか? 笑いながらありますよ~、などと言っても駄目そうな気がした。真剣に否定しても疑われそうだ。

「いや、何が言いたいのか分からないです」

 ミレイアさんは頬に手を当てて首を傾げた。俺を見て何か言いたそうにしているのだが、しばらくすると頬から手を離して何度か頷き。

『まぁ、会えば分かるわね。行きましょうか』

 言われた俺は、前回セプテムさんが消えてしまった事を思い出す。宝玉がまた違う人物を用意するという話だった。

「次に説明してくれる人が現われたんですか? 誰なんです?」

 俺がミレイアさん、そして歴代当主たちに視線を巡らすが、全員が微妙な表情をしていた。

「……今日の雰囲気、なにかおかしくありません?」

 すると、五代目が俺の記憶の部屋を指差した。

『入れば分かる』

 確かにそうだと思い、俺はドアノブに手をかけた。一瞬、もしかして次はセレスでも出てくるのかと思ったが、歴代当主たちの反応では違う気がした。

 深呼吸をしてから、俺はドアを開けるのだった。





 ――ノウェムは、ライエルの部屋を訪れていた。

 時間は夕方だ。夕食の準備が進められており、ライエルに食事の時間を告げに来たのだ。

 ライエルの仕事部屋は、かつてノウェムが屋敷の主人のなれの果て……魔物と融合した憐れな存在と戦った場所だ。

 屋敷の主人の仕事部屋か書斎か、立派な部屋である。そんな部屋に入ると、ライエルはソファーの上で横になっていた。

 ドアを何度かノックしても返事がなかった。気配はあるので部屋に入ると、ライエルが眠っていたのでノウェムは微笑むと何かかぶせようと思った。

 季節は夏だ。タオル程度でいいかも知れない。

 そう思って部屋を探すと、やはり用意のいいモニカがタオルケットを用意していた。ライエルにかけてやると、ノウェムは淡く光る宝玉を見た。

「また光って……」

 ノウェムは、ライエルがこうして宝玉に意識を飛ばしているのを知っていた。以前、迷宮討伐の途中で、宝玉内にパーティーメンバーを全員連れ込み、そこで戦わせた事を考えても間違いない。

 そして、ある程度は予想もしていた。今まで何度も予想はしていたが、確信したのはライエルが船上でトラシーと戦闘をした時だ。

 戦うライエルの後ろ姿に、ノウェムは初代バジル・ウォルトの面影を見たのだ。

「ライエル様、歴代当主様たちによろしくお伝えください」

 ノウェムは、そう言ってライエルの頬を撫でた――。





 記憶の部屋。

 俺の記憶の部屋は、初めてと言っていい程に役目を果たしていた。

 そこは五年間も軟禁された部屋だった。自室とそこから見える庭の一部が、俺に許された行動出来る範囲だった。

 やたら本があり、山積みになった本を手に取った人物を見る。少年は俺と同じ青い髪と青い瞳をしていた。

 ただ、記憶の中の俺ではない。少年はこちらに語りかけてくる。

『僕としては、巨乳が好きだったんだよね。やっぱり、母上の影響かな? 母上も大きな胸だったし。でもさ、最近は小さい胸もそれはそれで味わいがあるのではないかと思うようになったんだよね』

 魔法に関する書物に目を通しながら、俺の少年時代の姿をした『何か』が語りかけてくる。

「お前は誰だ」

 俺は右手で自分の胸辺りを押さえ、そして服を握りしめていた。変な汗が流れると、少年が振り返る。

 笑顔で俺に挨拶をしてくる。

『初めまして。久しぶりといった方がいいのかな? 僕は君で、君は僕だよ。簡単に言うと、僕は可愛い妹であるセレスに封じられた記憶であり、もう一つの人格さ。記憶というのは人格――性格に大きな影響を与える要素の一つだ。記憶は経験。つまり、ある種の経験を失ったから君が生まれ、それを知っている僕も生まれた訳だね。いや、記憶を引き継いでいる分、僕の方が君より本人に近いかもね』

 十歳前後の俺の姿で、少年は子供の声なのに大人びた口調で説明してきた。

「可愛いセレス? それに、人格?」

 俺は部屋の中にいるミレイアさんに視線を向けると、少年は笑い出した。ミレイアさんは、俺を見て「大丈夫」と言うだけだ。

『もう、そうやってすぐに女性に頼るからヒモ扱いなんだよ。まぁ、僕は美少年だから、助けて貰えるのも当然だけどね。でも、そのままだと愛想を尽かされちゃうよ』

 クスクスと笑う少年が本を置いて部屋の中を歩き、そして椅子を用意する。埃っぽい部屋の中は、使用人もあまり掃除をしたがらない場所だったからだ。

 今にして思えば、とんでもない生活をしていたと思う。

 ハンカチで座る部分の埃を拭き取ると、少年は俺たち――俺とミレイアさんに座るように勧めてきた。本人はベッドに腰掛ける。

 座った俺は、相手を真剣に見つめて口を開いた。

「お前の伝えたいことはなんだ? 宝玉は俺に何を教えるつもりだ?」

 少年は少し上を向いて、ベッドの上であぐらをかいた。

『別にないかな? 逆に質問とかあるかな? 答えられる事ならいくらでも答えるよ』

 質問と聞かれ、俺は気になったことを聞く。聞きたいことは沢山あるが、一番は今の言葉だった。

「可愛いセレスとはどういう意味だ? あいつは俺を憎んで――」

『うん、憎まれていたね。でも、僕はセレスの兄だ。だから、兄として接してきたよ。だって、セレスは可愛い僕の妹だからね。笑っていても、お礼を言われても、セレスは常に僕を恨んでいた。恨んで妬んで、心の奥に何かを抱えていた』

 それを聞いて、俺は愕然とする。

「……知っていたのか」

『うん! だって、僕は家族が大好きだからね。いつかはそんな感情から救ってあげたいと思っていたけど、結局出来なかったよ』

 俺は首を横に振り、そして封じられた記憶の自分がとても今の俺と同じとは思えなかった。目の前の自分は、まるで別人だ。

 成長しないまま十歳の姿で時が止まっていた。

(俺は、こんな感じだったのか?)

 不思議そうにしていると、目の前の少年は少し困った表情で視線を逸らしてきた。

『あ、勘違いしないでね。僕は僕であって、過去の僕じゃない。記憶を封じられ、そうして閉じ込められて君を見て来た。だから言うけど、君と僕はある意味で別だよ。だいたい、僕は君のようにヘタレじゃないし』

 俺は思った。

(なんだろう……こいつ嫌いだ)

 笑顔で「次はないの?」などと聞いてきたので、俺は気になったことを聞くのだった。

「セレスはなんで俺を憎んでいたんだ? それに、なんであんな事を」

 少年は少し悲しそうな顔をして俯くと、溜息を吐いた。

『甘かったね。僕のミスでもある。まぁ、セレスが巧妙だったというよりも、黄色の宝玉に封じられたアグリッサが隠していたんだよね。笑顔の裏で、宝玉を手に入れたセレスはいつ僕を追い落とすかと考えていたんじゃないかな? その辺はノウェムが詳しいと思うよ』

 ノウェムの名前を聞くが、もう驚くことはない。ノウェムが女神か邪神の記憶を引き継いでいるのは知っていた。

 だから、何か知っているし、隠しているのも知っている。

「ノウェムにはいずれ確認する。ちゃんと話をしようと思っているところだ。全てを知ってからでも――」

 すると、目の前の少年はゾクリとする笑顔を向けてきた。微笑んでいるのに、背筋に冷や汗が流れた。セレスと同じ気配だ。

 椅子から立ち上がると、いつの間にか武器を手にとって少年に向けた。

『全てを知ってから? まったく、甘いことを言う。すぐにでも聞き出すべきだった。そして、全てを知る事は出来ないかも知れないよ』

 ミレイアさんが立ち上がると俺の前に出た。

『らいえる君』

 目の前の少年を俺と同じ名前で呼ぶと、少年――らいえるは肩をすくめて独特の雰囲気を押さえた。

『もう、ミレイアさんは怒らせると怖いんだから。しかし、女性を惹き付ける能力は君の方が上みたいだ』

 嬉しくない事を言われ、俺は確認した。

「俺にもセプテムさん……セプテムの能力が受け継がれているのか?」

 ただ、らいえるは呆れつつ。

『は? 僕は美少年だからだよ。女神の力じゃない。僕が恰好いいから女性が寄ってくるんだよ。そこは間違えないでね。でないと、君のようなヘタレに女性は集まってこないから。というか、今の君は女神の知識も力も残っていない搾りかすだから』

「……俺、お前の事が嫌いだ」

 俺が本音をこぼすと、らいえるも笑顔で頷いた。

『僕も君が大嫌いだ。同じだね!』

 俺が睨み付けても、らいえるは怯まない。怯まないどころか、俺が聞きたかったことを説明し始める。

『僕も全てを知っている訳じゃない。知っているのは、僕と君の過去だけだ。言っては悪いけど、僕は君より優秀だよ。なにしろ、女神であるセプテムの記憶を少しだけ引き継いでいる。記憶と言っても知識かな? 魔力の操作、そして魔力というものを理解している』

「魔力? 魔力は魔力だろ」

 らいえるは首を横に振った。

『魔力は人間にとって毒だったんだよ。いや、生きているもの全てにとって毒だった。この辺の事はノウェムにでも聞けばいいよ。僕も詳しくない。でも、僕は魔力のことを知っていた。だから体の強化、そして魔法に詳しかった。知っているから上手く扱えた。しかも才能もあったからね』

 俺はミレイアさんに顔を向けて、らいえるを指差した。

「ミレイアさん、俺はこいつと違います。こんな生意気なガキじゃないはずです」

 ミレイアさんは苦笑いをしていた。

『う~ん、私もそう思うんだけど……』

 すると、らいえるは抗議してくる。俺の意見に反対するのではなく、同意しながら怒っているのだ。

『当たり前だろ! 僕は僕だ。生まれたときから【ライエル・ウォルト】だよ。でも、君は何もかも奪われた後に生まれた【ライエル・ウォルト】だ。一緒にしないでよね』

 俺は目を見開き。

「お前、それはつまり俺が……」

『そだよ。偽物だ。そして、もっとも本物に近いのは僕だ。だから、返して欲しいな、僕の体を』

 少年が俺の目の前まで一瞬で移動してきた。その動きはセレス以上だ。

 咄嗟に下がろうとすると、ミレイアさんが俺たちとの間に割って入った。ミレイアさんの瞳が金色に輝き、そして立ち姿は普通なのに威圧感があった。

 らいえるは両手を頭の後ろに持って行くと。

『ありゃりゃ、ミレイアさんまでそっちか。まったく、ノウェムを惚れさせただけはあるね。僕でも駄目だったのに』

 俺はミレイアさんの後ろから、らいえるに聞く。

「は? ノウェムは昔から俺に――」

『それも違う。というかノウェムを本当に信じているんだね。刷り込みかな? 言っておくけど、ノウェムは僕とセレスに一定の距離を取って付き合っていたよ。僕が声をかけても反応が薄かったね。チョロくないから、自分の中では【鉄壁のノウェム】って呼んでたくらいだから』

 ノウェムは、昔の俺に距離を取っていた? どうしてそんな事に? では、俺はノウェムがずっと優しかったと思ったのか? いや、そもそも……俺は偽物?

 考え込むと、ミレイアさんが俺を抱きしめる。

「え、あ……」

『落ち着きなさい。心を強く持たないと、本当に乗っ取られるわよ』

 らいえるはクスクスと笑っていた。笑い、そしてベッドに腰掛けた。

『おっと、もうすぐ時間だね。さて、聞きたいことはあるかな? あと一つくらい答えられるよ』

 俺は目の前の存在を見ながら、何か聞き出そうとした。だが、混乱して思い浮かばない。そして、目の前の存在が憎くなった。

 そして、目の前の存在がある自分と重なった。

「お前……俺が“成長”した時にまさか体を乗っ取って!」

 すると、らいえるは微妙な表情していた。俺の事をチラチラ見ながら。それでいて哀れんでいるような……嫌な感じだった。

『気持ちは分かるけど、僕は関係ないよ。いや、あるかも知れないけど、あれは紛れもなく君だから。流石に僕もらいえるサン状態はちょっと……ごめん、擁護出来ないや。本当にごめんね』

「い、いや、だって俺は違うし、というかお前が……」

『あのね。僕は記憶で、封印されているの。外の様子はなんとなく分かるけど、外に出られるとか無理だよ。宝玉内から干渉する事もできないんだよ。だから、認めたくないだろうけど……あれは君自身だ。まぁ、人のせいにしたいのは分かるけど……あ、僕が悪い、ってことにする? そう思うだけでも気が楽になるよ』

 本気で謝ってくる目の前の存在、らいえるを見て俺は思った。

「止めろよ、本気で謝るなよ。本気で慰めるなよ! というか、俺はお前が嫌いだ!」

 らいえるはベッドの上で、笑顔で首を傾げつつ。

『僕もさ』

 そう言うのだった。本当に嬉しそうにそう言っていた。
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