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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

逸話とかかなり曲解されて伝わっているかもね十二代目

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第十二章プロローグ

 寝苦しい夜が続くようになった。

 海が近いベイムの蒸し暑さが嫌になる季節だ。

 そんな季節だが、今は薄暗い通路を俺たちは移動していた。俺の斜め後ろにはノウェムがいて、魔法で杖に明かりを灯していた。

 天井も床もゴツゴツした岩である。壁には苔があり湿っていた。迷宮の通路としてもかなり広い部類で、天井まで八メートルはある。幅は二十メートル。戦闘の祭には狭さで悩むことはないだろう。

 周囲には青というか紺というか、鎧姿のヴァルキリーが三体で俺とノウェムを護衛している。ただ、護衛をする意味はあまりなかった。

 ベイムから離れて二週間。

 現在、俺――ライエル・ウォルトは、出現した迷宮の討伐のために派遣されていた。

 魔物の大軍勢の襲撃が、すでに遠い昔のように感じられる。

「……クラーラ、そのまま待機してくれ。ミランダは地上に戻って貰う。アリアは先行して魔物の排除だ」

 歩きながら指示を出すのだが、俺と彼女たち――パーティーメンバーとの距離はかなり離れていた。

 スキル―― コネクション ――でやり取りをしながら、ヴァルキリーシリーズを率いたアリア、ミランダ、クラーラの三人に指示を出していた。

 俺は、ノウェムとは反対側を歩くヴァルキリーシリーズを横目で見た。

(ダミアンとラタータ爺さんが完成させた量産機……悪くないな)

 先行して完成させたヴァルキリーを簡略化したもので、容姿やスタイルに差はあっても、性能には差がなかった。バイザーのようなフェイスカバーをしており、どんな表情をしているのか分からないが、ヴァルキリーシリーズは基本的に無表情だ。

 背中にある翼のようなバインダーには、魔石を生成して液体にした燃料が取り付けられており、俺の魔力消費が随分と減って助かっている。

 黒髪は基本だが、それぞれが髪型に工夫を凝らしていた。ボブカット、ウェーブしたロング。三つ編み。量産機にも個性があるらしい。

 デコボコとした迷宮の通路を歩きながら、俺は頭の中に流れ込んでくる情報を整理していた。

 洞窟に出現した今回の迷宮は、地下三階までしかなかった。だが、面倒なのはその広大さである。

 ボスは最下層に一体だけのようで、魔物の出現にも偏りがあった。特に苦戦することはないのだが、ベイムには三つの迷宮討伐の依頼が舞い込んでいたのだ。回せる冒険者パーティーが少ない。

 アレットさんたちは別の迷宮に向かい、残り一つは南支部が傭兵団を派遣する事が決まっていた。

 東支部も、本来なら迷宮討伐を他のギルドに回したくない。回してしまえば、東支部の大事なアピール材料がなくなってしまうからだ。冒険者が集まらなくなる。

 少しヒンヤリとした洞窟内を歩いていると、引き上げるミランダたちと出会った。

「声はずっと聞けるけど、会えるとまた違った感じがするわね」

 周囲にヴァルキリーの量産型を四体配置し、荷物を持ったシャノンが膝を震わせながら汗をかいていた。

 ヴァルキリーの一体が、手にはランタンを持って周囲を照らしていた。

 帽子をかぶり、大きなリュックを背負っている。いつものスカート姿ではなく、厚手の服を着て手袋をしていた。

「そっちも順調だったみたいだね。シャノン、帰りは魔物がいないから楽だぞ」

 すると、シャノンは顔を上げるが、疲れているのか俺にいつものような罵声を浴びせてこなかった。

「……お風呂に入りたい」

 泣き言を言うシャノンに、ミランダが拳骨を落とした。

「シャノン、いい加減にしなさい。ほら、もう少しで地下一階だから。そこまで行けば休憩を挟んで外よ」

 ミランダに活を入れられたシャノンだが、トボトボと歩き出すだけだった。ミランダたちは、俺たちが来た道を戻っていく。俺は溜息を吐いた。

「シャノンは大丈夫そうだな」

 返事をしたのはノウェムだった。クスクスと笑っており、シャノンを見続けてきた事もあって、成長が嬉しいのだろう。

「前は体力がなくて大変でしたからね。少しずつならしていけば、体力もつきます。それにしても、今回の迷宮は広いですね」

 地下二階。

 先行させたアリアとミランダに魔物を排除して貰っていた。クラーラは地下一階で魔物の排除をして貰っている。

 ミランダと交代でエヴァやメイを投入する事になるだろう。

「二度目の迷宮討伐で、もう全体の指揮官だ。もっとも、派遣されたのは俺たちだけだが。まったく、何が小規模だ」

 迷宮としては地下三階。広いだけでボスは一体だ。

 魔物も偏りがあるだけで、強い魔物がいるわけではない。確かに、ギルドの分類上では小規模という扱いでもおかしくない。

 しかし、少し嫌味を感じる。

(迷宮討伐で稼ぐ魔石の量も決まっているのも問題だな。最短距離で進んでボスを倒して終わりにしたいのに)

 ギルド側。東支部ではなく、本部の方から魔石を一定量は確保するように指示が出ていた。

 アレットさんに聞いたが、今までにそうした指示はあまりないらしい。珍しい素材が手に入る場合は、なるべく確保してくれと頼まれたことがあるくらいらしい。

 三代目が、面白そうに俺に言う。

『いい感じで嫌われたね、ライエル。もう少しだ』

 ――分かっているが、ネチネチ嫌がらせを受けるのは辛い。

 広い迷宮内通路を歩く俺たちは、ヴァルキリーの量産型の試験運用も兼ねて迷宮討伐を行なっている。

 地上ではラタータ爺さんにダミアンが待機しており、アデーレさんやマクシムさんも参加していた。

 ただし、モニカは屋敷で留守番だった。

 ノウェムは俺に微笑みながら。

「それだけ出来ると思われているからです。出来ない事を言って、迷宮を暴走させるほどギルドも馬鹿ではないでしょうし」

「……本当にそう願いたいね」

 前回、フィデルさんにいいように振り回され、大砲を十二門も弁償したらしい。ギルドの幹部たちは、フィデルさんの後ろ盾を得るために受け入れたようだ。

 防衛戦での失敗を擁護して貰う代わりに、フィデルさんの要求を呑んだ。

(ま、生産された二門は、ヴェラから俺に流れた訳だけど)

 話をしていたが、途中で切り上げると俺は腰の得物を引き抜く。ノウェムは周囲を照らしており動けないので、下がって明かりを強くした。

 ヴァルキリーシリーズが背中のバインダーから武器を取り出した。それは銃である。

 ラタータ爺さんが用意したもので、改良されているようだ。

 ヴァルキリーたちが。

「敵を確認。排除します」
「同じく」
「必中です」

 銃が火を噴くと、暗い通路の先で魔物の反応が三つ消えた。それでも、生き残りが向かってくる。

 ヴァルキリーたちが素早く次の射撃に入ると、三体目だけは銃を下ろした。

 暗い通路の向こうにいた魔物たちは、姿を見せることなく倒れた。

 俺はカタナをしまうと、頭をかく。

「……確かに性能はいいんだが」

 ノウェムも苦笑いをする。俺の傍に来ると、俺の意見に同意していた。

「この迷宮の魔物一体よりも、弾丸の方が高価ですからね。……赤字です」

 性能はいいのだが、どうしてもコスト面で問題があった。今回は試験なので武器の一つである銃も使わせているが、金銭的にあまり使って欲しくない武器なのは確かだ。

 ヴァルキリーたちが、魔石や素材をはぎ取る道具を手に取る。

「はぎ取りの時間です」
「綺麗にはぎ取ります」
「解体は得意です。いずれは、先行生産された金食い虫と、ポンコツモニカもいつか解体してやります」

 三体目が怖い発言をするが、俺はスルーした。こいつらのコミュニケーションのようなものだというのは理解している。

「あまり時間もかけたくない。地下三階へ向かったら、補給物資をエヴァかメイに届けて貰うか。ノルマは達成出来たかな?」

 コネクションで確認を取ると、地上のヴァルキリーシリーズが返事をしてきた。アデーレさんのサポートをしているようだ。

『……アデーレが言うには、現状では六割を達成したそうです。ただ、銃弾の消費量を聞いて取り乱しています』

 ついでに、ヴァルキリーシリーズの聞いているアデーレさんの声がした。

『あぁぁぁ!! 出費が! なんで! なんで、こんな武器を使うんですか! 赤字が! 今回の迷宮討伐の利益がぁぁぁ!!』

 アデーレさんも大変なようだ。

「よし、銃は使用制限をかけよう。これ以上はアデーレさんが可哀想だ」

 すると、宝玉内から四代目の呆れた声がした。

『ライエル、自分の問題でもある、って理解しているのかな? ちゃんと利益をだしなよ。試験も大事だけど、お金の問題はそれと同じくらい大事だと思ってね』

 金儲けに厳しい四代目らしい助言だった。





 ――情報屋ラウノの事務所。

 そこでは、窓を閉め切りカーテンで部屋を暗くしていた。ただ、ほんのりと明るいのは、ラウノの助手であるイニスがスキル―― インフォメーション ――を使用しているからだ。

 イニスが手に入れた情報から、未来を予想するスキルである。

 ラウノはズボンのポケットに両手をいれて、イニスを見下ろしていた。

「どうだ、イニス?」

 イニスは目を閉じており、しばらくしてから口を開いた。イニスには、ラウノが可能な限り集めた大量の情報を読ませた。

 未来を予想して的中させるには、どうしても情報量が必要になってくる。情報があればある程に的中する、訳でもない。中には偽の情報もあるためだ。

 だが、情報量が多ければ、判断材料が増えて見えてくるものがある。

「……ベイムは魔物の大軍勢の被害から立ち直りつつあります」

 魔物の大軍勢が押し寄せると、金をばらまいて武具を大量に作り出した。だが、ライエルがレダント砦で魔物たちの大半を倒して、実際の被害は敵の規模からすれば微々たる物でしかなかったのだ。

 人的被害よりも、金銭、そして資源的な損失の方が酷かった。

「数ヶ月でよくここまで立ち直ったな。ま、それがベイムか」

 ラウノの軽口に、イニスは反応を示さない。だが、予想の続きを語り始めた。

「カルタフスで妙な動きがあります。大規模な騒動に発展するかも知れません。それと」

「それと?」

「ギルド本部、そして商人たちの間にライエルさんへの不満が高まりつつあります。主に関係者以外から圧力がかかっていると判断します」

 ラウノは苦笑いをした。

「そりゃあ、トレース家の当主を煽って、南支部の幹部まで煽れば嫌われるだろうよ。それが分かっていないとも思えないが」

「……トレース家は静観の構えです。他の商人やギルドが動いても興味を示していません。現トレース家の当主は、通常なら支援はしたはずです。わざと煽った可能性が高いと思われます」

 ラウノはそこが分からなかった。トレース家の娘をライエルがたらしこんだのは噂と本人の話から確認している。

 なのに、当主を怒らせている理由が分からない。

「必要な分の金は稼いだ、という事か?」

「……違うと判断します。途中で大きく方針の変更をした可能性があります」

 ラウノはライエルのする事を注意深く観察していた。それは、依頼人だから、ではない。

 ライエルがことごとくイニスの予想を外すからだ。

 魔物の大軍勢の時も、大きな被害を出しつつも勝利を収めるとイニスは判断した。

 だが、結果は大勝利と言っていいだろう。

「若いのにギルドや商人を手玉に取りやがって……長生き出来ないな。ベイムを追い出されてどこに行く? ザインかロルフィスで聖女か王女殿下の婿か?」

 ラウノの冗談にイニスは返事をした。

「ベイム追放を本人は望んでいるような行動が見られます。また、婿という可能性は低いと思われます」

 ラウノは、イニスがライエルの事に関してはあまり当てにならないと分かりつつも、その行動を調べずにはいられなかった。

「さて、次はどう動くのかな、俺の依頼人は」

 イニスが目を開けると、スキルの使いすぎなのか床に崩れ落ちそうになっていた。駆け寄って体を支えてやると、ラウノはイニスをソファーに寝かせてやるのだった――。





 ――冒険者ギルド本部。

 そこでは、前回のレダント要塞防衛から、隣国の状況の変化について話がされていた。

 隣国が滅んだのはいいのだが、その代りにバンセイムという大国が隣接することになった。

 逃げ出した隣国の王族たちは、バンセイムに亡命してはいたが領地回復を望んではいないようだ。いや、望める状況にないのだろう。

 迷宮の暴走を見逃し、他国に大きな被害を出していた。もしもバンセイムの支援を受けて国が再興されるとしたら、ベイムも黙ってはいない。ただ、バンセイムとの間に国も欲しいので、潰さない程度に絞りたいというのがベイムの意見でもあった。

 ただ、本人たちが思うような現状ではない。

「バンセイムの使者からはなんと?」

 各支部の幹部を集めた会議では、バンセイムの対応が話し合われていた。

「特に要求はない。隣国になったので国境の線引きを以前と同様に、そして関税について色々と話し合いの場を持ちたいと言いだしてきた」

 交渉が始まろうと指定が、ギルドではなく商人たちの領分だった。

 会議の様子を見守るタニヤは、上司である東支部幹部の護衛として会議に参加している。

「ギルドはこれまで通りの対応で?」

 幹部の誰かが発言すると、会議を仕切っていた議長が頷いた。

「もしかすれば、魔物の討伐に力を貸せと依頼が来るかもしれない。だが、バンセイムは大国だ。意地があるからこちらに頼まないかも知れんな」

 幹部たちが笑っていた。

 貴族の意地というのを彼らは甘く見ており、その内にでも泣きつくと考えているようだ。

 南支部の幹部が発現する。

「バンセイムと言えば、近年では内乱が多い。傭兵団の派遣をもっと積極的に行ないたいのだが?」

 それを聞いた議長は、頷いていた。

「傭兵団も最近ではザインとベイムが大人しいからな。稼ぎ場所が減ったのも事実。商人の方にはこちらから提案しておこう」

 南支部の幹部はそれを聞いて笑っていた。いや、少し安心した様子だった。

 タニヤの上司は言う。

「最近は稼げてないからね。この前も無理やり迷宮討伐の依頼を横取りしたが、随分と焦っているね」

 タニヤは上司に淡々と。

「危険ではありませんか? 傭兵団の気性を考えれば、内乱の酷い国に送り込めばどうなるか……」

 同じベイムの冒険者ギルドだが、その方針は違っている。そして、東支部は南支部の乱暴なやり方を好んではいなかった。

 東支部の冒険者たちが派遣されると、警戒される理由の多くが乱暴者の多い南支部の冒険者――傭兵団が原因である場合が多い。

 現在も、バンセイムで不満の溜まった傭兵たちを暴れ回らせる事を考えている様子だった。

「それが彼らの仕事だからね。ま、善人ばかりではないのは、うちも同じだけどね」

 そして、会議はある話題に移った。

 それはまたしても南支部の幹部の発言がきっかけだ。

「そう言えば、東支部にいる冒険者――ライエル・ウォルトは、バンセイムから流れてきた貴族でしたね」

 わざとらしい物言いに、タニヤの上司は笑顔で頷いた。

「それがなにか?」

「なに、ウォルト家の娘がバンセイム王家に嫁いだのは有名です。随分と派手に暴れているようですが、相手は大国の王妃。こちらも誠意を見せるべきではありませんか?」

 ライエルに対して不利な動きを取ろうとしている南支部の幹部に、タニヤの上司は。

「誠意と言われましても……確かに追い出されたそうですが、その後はバンセイムから干渉もありません。藪をつつくのは得策ではないのでは?」

 南支部の幹部は、しつこく食い下がる。

「だからこそ、です。後になって知られれば、こちらに不信感をもたれる」

 議長は二人の発言を聞いていた。そして判断を下す。

「……話し合いは始まってもいない。様子を見ながら行動しよう。それに、彼はギルドの役に立っている。利益を生み出す存在は大事にするのがギルドだ」

 つまり、ライエルとセレスを秤にかけ、ライエルの出す利益がセレスに劣るのであれば、いつでも切り捨てるという意味だった。

(……ライエル君、南支部の幹部になにを言ったのよ)

 内心で呆れるタニヤは、ライエルの心配をするのだった――。
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