挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

骨肉の争いとかないといいね十一代目

193/345

マクシム兄さん

 ただ、ひたすらに突き進む魔物の大軍勢を前に、俺は右手を高く掲げていた。

 目の前まで振り下ろし、声を上げる。

 要塞は第一、第二の壁とは違い、要塞の名に相応しい立派な造りをしていた。簡単には壊れないだろう。

 頑丈な要塞に入った騎士や兵士たちは、心なしか少し安心しているように見えた。

「第一から第三、一斉射!」

 四つに分けた部隊が、魔法を魔物の大軍勢に向かって放った。火が、風が、そして土が魔物に襲いかかると、それを防ごうと魔物もマジックシールドを展開するのだった。

 半透明の黄色い光が魔法を防ごうとするが、それらを打ち破って魔物に魔法が降り注いだ。

 最初とは逆である。

「油の用意は」

 そう言うと、答えたのは要塞内部で攻城兵器である投石機を改良した物を指揮する、クラーラだった。

『準備出来ています。いつでも行けます』

「派手にばらまけ」

 俺の声を聞き、要塞から次々に油の入った樽がいくつも飛んでいく。樽が俺たち要塞の上にいる者たちを飛び越え、次々に魔物たちに降り注ぐ。

 十分に樽が放たれると、俺は――。

「第四、火属性で攻撃」

 直後、火属性の魔法が放たれた。ほとんどが防がれるが、それでも一部に火がつきさえすれば問題ない。

 ばらまかれた樽は破壊され、周囲には油がまかれている。火がつき、そして燃え上がった。

 その様子を見ながら。

「ミランダ、エヴァ」

 二人に声をかけると、魔法を扱う魔法使いや騎士が下がり、エルフたちや銃を持った兵士たちが前に出た。

 要塞の上から次々に、ブラストアローや銃弾が放たれる。爆発音に銃声、それらが燃え上がる魔物の軍勢に次々に放たれた。

 そうして動かなくなった魔物たちを踏みつけ、次の魔物たちが前進してくる。

「……大砲用意」

 俺の声を聞き、大砲が次々に火を噴いた。

 その間に、投石機やら魔法の準備が進んでいく。





 ――要塞内部では、シャノンが手伝いをしていた。

 ノウェムの傍で雑用をするのだが、周囲には怪我人が大勢いた。

 “成長”を経験して下がった騎士や兵士たちもいたが、それでも怪我人がいない訳ではない。苦しみ、そして手足を失った者たちもいた。

「ちくしょう、なんで俺が……」
「目が……誰か、明かりをつけてくれ……」
「母さん……母さん……」

 この戦争でもう一つの戦場があるとすれば、きっとそれはここかも知れない。そう思いながら、シャノンはノウェムの後ろをついていっていた。

 運び込まれた怪我人の下へと駆けつけたノウェムは、すぐに魔法で治療を開始した。他にも治療魔法を使用する魔法使いはいたが、次々に運び込まれる怪我人の対処に追われている。

 中には――。

「駄目です。怪我をしているんですよ!」

 治療をしていた他の魔法使いが、怪我人を止めようとしていた。

「五月蝿い! 俺は仲間の仇を討つんだ! あの魔物共を一匹でも多く殺してやるんだよ!」

 体に包帯を巻かれた騎士が、自分の武具を手にとって外へ出て行こうとしていた。

 それを横目で見ていたシャノンに、治療をしながらノウェムが言う。

「シャノンちゃん、包帯を」

「え? あ、はい」

 包帯をノウェムに手渡すと、ノウェムは傷を消毒して包帯を巻いた。全てを魔法で治療すれば、ノウェムが倒れてしまうからだ。

 手早く治療すると、倒れていた兵士が。

「あ、ありがとう」

 そう言ってきた。

 ノウェムは微笑みながら。

「いえ。すぐによくなりますからね」

 そう言って立ち上がると、次に運び込まれた怪我人の下へと向かうのだった。

 お礼を言う者もいる。ノウェムがライエルの仲間だと聞いて、罵声を浴びせた騎士もいた。

 そんな場所で、ノウェムは次々に治療をおこなっていく。

 シャノンには、ノウェムはライエルが名声を得ていく中、その負の感情を受け止めているように見えた。

 他の仲間もそれぞれが役割を果たしていた。そんな中で、シャノンは思うのだ。

(私はいったいなにを……なにをしたいんだろう)

 と――。





 ――要塞内部の部屋では、アデーレが机の上で計算をしていた。

 食糧に資材、そして人員の配置とやるべき事は沢山ある。

 部屋にはダミアンもいて、メイドがダミアンの世話をしていた。ついでに、アデーレの世話もおこなっている。そう、あくまでも“ついで”だ。

 それでも助かっているので文句はないが、アデーレは――。

「矢が、弾が……湯水のごとく消えていきます。おかしいです。こんなのおかしい……お金が――金貨がガンガンなくなっていく」

 人員を動かすのもタダではない。それらを計算すると、とんでもない金額が動いていたのだ。

 アデーレの知っている戦争とは違う。違いすぎて、アデーレは涙目になっていた。

 そんなアデーレを見てダミアンは。

「いいじゃない。他人のお金だよ?」

 すると、アデーレは机を手で叩き、その反動で立ち上がった。

「そんな認識でどうするんですか! これからだってお金はいくらあっても足りないんですよ! ダミアンさんの研究費がその他人のお金なのを忘れていませんか!」

 ダミアンはカップでお茶を飲みながら。

「まぁまぁ、ライエルに頼んで新しいお嬢様でもたらしこんで貰おうよ。というか、最近気が付いたんだけど、ライエルはベイム中の金持ちの娘を口説き落とせば、ベイムすら自由に出来る、って」

 ダミアンの話を聞いて、アデーレは頬を引きつらせていた。

「できる訳がないでしょう。というか、できてもそれをやれば、ライエルさんはセレスと同じじゃないですか」

 ダミアンは不機嫌そうに。

「そうかな? ライエルは妙に律儀だから、責任は取ると思うよ。ほら、誰も不幸せになっていない」

 ケラケラ笑うダミアンを見て、アデーレは顔を手で覆った。

「……そのお嬢様の関係者たちが不幸になっていますけどね。実際、トレース家の当主さんもかなり怒っているみたいじゃないですか」

 溜息を吐き、アデーレは戦場の様子が気になった。

 アデーレの護衛であるマクシムも、戦場に出るのだ。そのため、怪我をしないことを祈っていた――。





 ――要塞の上では、登ってきた魔物の相手をマクシムがしていた。

 額当てをしたマクシムは、槍を持って要塞の上で次々に魔物を倒していく。

 次々に魔物を倒してはいるが、その倒した魔物が次々に重なりあって魔物たちも種類によっては登ってこられたのだ。

「退けぇぇぇ!!」

 槍を豪快に振り回してはいるが、味方には攻撃を当てていない。

 登ってきた魔物を突き刺し、そのまま壁の外へと放り投げた。

 マクシムと同じ役目を持つ騎士たちが、その戦いぶりを見て驚く。

「強い」

「誰だ? 名のある騎士か?」

 マクシムはその声を聞き、かつてバンセイムで友とライバルであったのを思いだした。

(他国では流石に俺の名もたいした事はない、か。世界は広いという事か……)

 セレスによって倒された友を想いながら、マクシムは槍を振るう。すると、空からヒッポグリフが急降下してきた。

 マクシムは左手を魔物に向け。

「【サンドアーム】」

 魔法を使用した。だが、それは通常の魔法ではなく、スキルにまで昇華された魔法である。

 砂が固まり出来た腕は、まるで武具を纏っている外見だった。巨大な腕が空を飛ぶヒッポグリフを掴むと、そのまま握りつぶす。

 槍も魔法も使いこなす元騎士――マクシム・ダンヘル――は、バンセイムでは指折りの騎士とまで言われた男だった。

「悪いがお嬢様のために負けられん。ここから先は、一匹も通さん!」

 次々と魔物が襲いかかる状況下で、ライエルたちはなんとか持ちこたえていた――。





 要塞の一番高く目立つところで、俺は指揮を執っていた。

 コネクションでラインが出来た仲間と通信を行い、全体の状況を見ながら指示を出していく。

 どこにどれだけの人員が必要なのか。

 どこの部隊を下がらせ、増援をどのタイミングで送り込むのか。

 それらの指示を出しているが、実際は中継役のような気がしてきた。次々に入ってくる情報を整理し、そして指示を出す。

 目立つ場所にいるためか、魔物たちも次々に襲いかかってくる。しかし、俺は手を出さない。何故なら――。

「邪魔です!」

 俺のところまで来た魔物を、モニカがハンマーで要塞の外へと打ち返していた。

 巨大なハンマーで打たれた魔物は、空中でバラバラになり酷い状態だ。

 そして、周囲にはヴァルキリーも待機していた。背中のバインダーからは銃を取り出し、近付く魔物を攻撃している。

 正確な射撃もそうだが、魔物が近付いても簡単に対処していた。

(問題なのは魔力だな。こいつら、ガンガン消費しやがる)

 魔力が増えてはいるが、それでもスキル、オートマトン四体、宝玉――それらの消費先がある俺にしてみれば、魔力の消費を抑えるのは重要な事だった。

(これ、何体も動かせば俺が動けなくなるな)

 短期であれば良いが、長期戦にはそう何体ものヴァルキリーを動かす事は不可能だと結論づけた。

 思案していると、モニカが俺に手を振ってくる。

「見ましたかチキン野郎! このモニカの勇士を! 戦闘も可能で家事万能! そこら辺の劣化品とは訳が違うんですよ!」

 嬉しそうに手を振るモニカに、ヴァルキリーの三体が無表情で銃口を向けていた。引き金をためらいなく引きそうだったので。

「お前ら真面目にしろ! モニカも煽るな!」

 ヴァルキリーの一号が、思いっきり舌打ちをした。

「ちっ、ご主人様に救われましたね。ポンコツ」

 すると、モニカが巨大なハンマーを持ち上げて。

「戦場では不慮の事故など日常茶飯事。ここでスクラップにして、今後の貴重なデータにしてあげますよ!」

 俺はクラーラに。

「……クラーラ、そっちの準備はどうだ?」

 すると、コネクションでラインが繋がっているので、クラーラにも俺の状況が筒抜けだった。

『……次の準備が出来ました。火薬でいいんですよね?』

 そうすると、アリアが割り込んでくる。アリアは、要塞内部で大砲を管理して貰っていた。

『こっちもいいわよ。けど、次でしばらくは撃てなくなるみたい。砲身を洗うとかどうとか言っているわ』

(砲身内部の掃除か? なら、しばらくはこまめに魔法を使うか)

 俺は全員に。

『聞いたな。次からは魔法を小規模にして連続で使用する』

 すると、ミランダから。

『こっちは少し厳しいわ。主要な騎士が下がったもの。アレットさんは出せない?』

 言われて、俺は難しい顔をした。

「……シャノン、様子を見てこい」

 急に話を振られたシャノンが、嫌そうに。

『げっ、私が?』

 すると、ノウェムがシャノンに。

『行ってください、シャノンちゃん。それと、少し休憩も挟んで良いですよ』

 言われて嫌そうにシャノンが、アレットさんの状態を確認に向かうのだった。





 ――シャノンは、要塞内部でも特殊な空間に来ていた。

 牢屋が用意されているが、そこには犯罪者がいるわけではない。

 成長後の微妙な連中を閉じ込めていた。

 シャノンが足を踏み入れると。

「俺がいかないとみんなが……頼む! ここから出してくれ!」
「ついに俺の右腕の封印を解くときが来た。もう、誰かが死ぬのは嫌なんだ……」
「……私はもう駄目かも知れない。アルバーノに八つ当たりをして……私は、なんて駄目な奴なんだ!」

 最後の奴は、牢屋で体育座りをして壁を見ているクレートだった。どうやら、普段からテンションが高い反動なのか、成長後には落ち込んでしまう様子だった。

 見ていられなかった。

 怪我人たちとは違う理由で、シャノンは彼らを見ていられなかった。

 そうして目的の牢屋へと向かうと、そこにはアレットが縛り上げられて転がされていた。

 ロルフィスの騎士たち。つまり、アレットの部下たちがそうしたのだ。隊長の酷い姿を見せるわけには――そう言って、グルグル巻きにして牢屋に放り込んだのだ。

 転がされたアレットは、シャノンに背中を向けている状態だった。

「ねぇ、大丈夫? もう出られそう?」

 そうたずねると、アレットが転がりながらシャノンに向き直った。

「大丈夫だ。ちゃんと婚姻届も持っている。戦場でのラブロマンスの備えもバッチリだ!」

 呆れるシャノンは。

「ねぇ、そんなものを日頃から持ち歩いているの?」

 アレットは凄く良い笑顔で。

「そうだ」

 そう言っていた。シャノンはこれは駄目かも知れないと思いながら。

「前は持ち歩いてはいない、って言わなかった?」

「ふっ、照れ隠しだ。常に肌身離さず、チャンスを逃さないように携帯している。予備もあるぞ」

 シャノンは、溜息を吐きながらライエルに。

『駄目みたい』

 そう告げると、牢屋の並んだ部屋から出て行こうとして。

「ま、待ってくれ! そう言えば、あの額当てをした筋肉の美しい騎士がいただろ! 彼の名前を教えてくれないか! あの槍さばきに惚れたんだ。私もさばいて欲しい!」

 シャノンは、振り返ってアレットに。

「マクシムのお兄さん? でも、お兄さんは好きな人がいるよ。凄く一途だし。言っておくけど、年齢的に厳しいと思うわ」

 すると、アレットが転がって壁を向いた。

「じゃあ、いいや」

 拗ねてしまった。すると、ミランダがコネクションでシャノンに声を送ってきた。

『なにしているの、シャノン! そこは希望を持たせておきなさいよ! 後でいくらでも利用出来るじゃない。それにしても、まだ駄目か……成長後のギャップが大きい人はこれだから』

 シャノンは思った――。

(我が姉ながら酷いわね。というか、マクシム兄さんは良い人だから、出来ればアデーレさんとくっついて欲しいのよね)
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ