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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

骨肉の争いとかないといいね十一代目

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ヴァルキリー

 要塞の壁。

 第一の壁の真ん中に位置する部分は、少し高く作られていた。

 そこで指揮を執る俺を全員に見せるためでもあるのだが、本来なら俺は後方で指揮を執りたかった。

 そうする方が効率的で、重要な場所にコネクションでラインを繋いだ仲間を配置すれば情報の伝達も早い。

 ただ、これには意味がある。

 目の前に迫る魔物の大軍勢を前に、俺は右手を前に出して声を張り上げた。

「放て!」

 壁の上には兵士たちだけではない。騎士に魔法使いが配置されている。数としては三千という規模だった。

 壁の上からこちらを目指して突撃してくる魔物たちに向け、魔法が放たれた。

 強力な魔法が次々に撃ち込まれ、目の前は光や爆発で眩しかった。爆発音、そして土煙が上がり、周囲を砂が茶色に染めていた。

 だが、隣に立っていた麒麟姿のメイが、首を少し上げて。

「来るね」

 すると、吹き飛ばされ、動かなくなった魔物たちを踏みつけて魔物が突撃してきた。土煙から突破してきた魔物たちには、壁の中段に配置した大砲が砲弾を撃ち込んでいく。

 壁の上では魔法使いたちを下がらせ、弓を持った兵士や弩を構えた兵士たちが並んだ。

 現場指揮官が次々に射撃を命令すると、矢は魔物たちに突き刺さっていく。

 宝玉からは、五代目の声がした。

『撃てば当たる状況だな。狙うよりも次々に攻撃させろ。適度に魔法も撃たせろよ。次の魔法を撃つ前に、敵の方からも――』

 五代目が言い終わる前に、魔物の軍勢から杖を持ったゴブリンやオーク、そして不気味な姿をしたローブを着た宙に浮く魔物。爬虫類型の魔物が大きな口を開け、魔法やらブレスを撃ち込もうとしていた。

 左手を前から横に払い、俺はミランダとエヴァに指示を出した。

「防御準備。攻撃箇所は――」

 壁を大きくいくつかに分類し、そこを守るようにマジックシールドを展開する事にしていた。壁全体をカバーするには、魔法使いが足りず、何よりも消耗が激しい。

 魔物の軍勢から放たれた魔法、そして遠距離攻撃が壁に向かってきた。

 それを、ピンポイントでマジックシールドが防ぐ。防ぎきれず、突き抜けても壁の表面には魔法に対する特殊な加工がした素材を塗りたくった。

 一撃や二撃は簡単に耐える。

 空を見上げた俺は、メイに声をかける。

「メイ、頼む。俺も下から援護する」

「ハハッ! 出番だね!」

 空へと駈け出した麒麟姿のメイは、空からこちらに向かってくる魔物の群れに向かって行った。

 ヒッポグリフにグリフォン。そして、小型であるが鳥の姿をした魔物たちが、メイに向かって集まる。

 左手で宝玉を握った俺は、銀の弓に形を変えさせると構える。

 空に向かって矢を放つと、小さな矢が数十本と厄介な空を飛ぶ魔物たちに襲いかかった。メイがいるので、俺は雑魚を相手にすればいい。

 しかし、メイと俺だけでは支えきれるわけもなく、空を飛ぶ魔物たちが壁を次々に越えていく。

 空の上では、メイが頭部の両脇から伸びた金色の角から、青白い雷を発生させ周囲の魔物を吹き飛ばしていた。

 次々に魔物が地面へと落下していくと、エヴァの声が聞こえた。

『ライエル、こっちの準備は終わったわ。いつでもいけるわよ』

 俺はミランダに確認を取る。

『ミランダ?』

 すると、もう少し待ってくれとミランダが返事をしてきた。

『さっきはこちら側が集中的に狙われたのよ。少し待って』

 俺を中央に、右側はミランダに、左側はエヴァに担当して貰っている。俺が待とうとすると、五代目がすぐに。

『交互に撃たせろ。次々に来るんだ。臨機応変に対応しろ』

 アドバイスを貰った俺は、左側で情報の伝達を行なうエヴァに。

『先に放て。ミランダにはその後に撃たせる』

 左側では魔法使いたちや騎士が前に出て、それぞれが得意の魔法を放った。先程よりもインパクトに欠けている。

 だが、ミランダの方の準備が整うと、連続して結構な規模の魔法を相手側に打ち込めた。

 ただ、マジックシールドを展開する敵の魔物もいて、先程よりもダメージが少なそうに見える。

「左右交互に攻撃させるのは考えていたが、やはり威力が足りないか」

 吹き飛ばし切れなかったと思いながら、俺は敵が遠距離攻撃を準備しようとしているのを確認し、すぐに防御を行なうために指示を出した。





 ――第二の壁。

 要塞の前にある全体としては中央に位置するその場所では、アリアが待機をしていた。

 もう最前線では戦闘が開始され、魔法による攻撃音がアリアたちの下にまで届いていた。空の上が光ったのも確認すると、メイがいくつか魔物を取りこぼしたのを確認する。

 槍を肩に担ぎ、壁の上でアリアは。

「ライエルの奴、すぐに突破されたじゃない」

 アリアの隣では、ロルフィスから派遣されたアレット・バイエが、鎧姿で兜を脱いだ状態だった。

「まったく。指揮官がそう感情を出すんじゃない。言葉も気を付けた方がいいよ」

 呆れられたアリアは、反省して口を閉じると第一、第二の壁の間にある光景を見た。距離がかなりあり、待ち受ける準備が出来ている。

 ただ、空の魔物の対処は、アリアたちではない。

「仕事よ、モニカ」

 振り返ってモニカにそう言うと、アリアはモニカの恰好を見た。

 背中に白く蜘蛛のような足のある気味の悪い金属的ななにか、をモニカが背負っていたのだ。

 言われたモニカは、そんな恰好をしているが肩を落としていた。

「私の方が役に立つのに……はぁ、お仕事の時間ですね」

 そう言って空を見上げたモニカは、両手を広げて胸を張った。背中の八本の足か手か分からない機械が動き出すと、赤い光がチカチカと光った。

 そして、空の上にいた魔物たちが次々に地面へと落ちていく。

 アレットはその光景を見て。

「なんで最前線に配置しないんだ?」

 凄く疑問を持っていた。ただ、モニカはまた肩を下げると。

「はい、おしまいです。後は残った魔物の相手をお願いします」

 そう言ってやる気を失っていた。

 アリアは空を見ると、ヒッポグリフが三体ほど残っていた。

「雑魚を散らすにはいいんでしょうけど、少し抵抗されると意味がないんですよね。しかも、あんまり使うとライエルが困るし」

 制限付きであるとアリアがアレットに説明すると、アレットはモニカを見て。

「それで後方に。しかし、それでも十分に凄いんだが」

 距離もある。何よりも空を飛んでいる魔物を一瞬で退治するのだ。モニカの性能は、アレットにとって信じられないものだった。

 ヒッポグリフが、仲間を倒したモニカに向かってきた。銃を持った兵士たちが集まると、壁の上にダミアンが出てくる。

「おや、良い感じじゃないか。丁度三体で試験には持ってこいだね」

 ニコニコとしているダミアンは、メイドを三体も連れて私服姿だ。戦場には不釣り合いな光景だが、ダミアンなら仕方ないと周囲も諦めている。

 オートマトンのメイド一号から三号が、棺桶のようなものを壁の上に運び込んできた。

 アリアは疑わしい視線をダミアンに向け。

「本当にソレが役に立つのよね?」

 あまり仲の良くないアリアとダミアンだが、ダミアンの方は笑顔で。

「君より役に立つし、君よりも美しいのは保障するよ。さて、準備は出来ているんだ。ライエルとのラインも出来ているはずだし、ここで起動させて貰おうか」

 やる気のないモニカが、メイドたちが床に置いた棺桶を見て近付く。棺桶に触れると、鼻で笑った。

「私の劣化版ですか。チキン野郎には私一人で十分ですが、ここは雑用係としてこき使ってやりますよ。しかし、名前がないのは困りますね。そうだ! 今日からこいつらはポヨポヨ二号と三号、そして四号です! お前ら起きやが――」

 ――起きやがれ。

 そう言おうとしたモニカだったが、棺桶の蓋を突き破って機械の拳が頭部を直撃してのけぞっていた。

「こ、このポンコツ共がぁぁぁ!!」

 スカートとエプロンの隙間から、スパナを取り出して振り回し始めるモニカを、アリアが呆れた様子で見ていた。

 ダミアンのメイド二号が、モニカを見て薄らと笑いながら攻撃出来ないように立ちふさがっており、そんな中を棺桶から三体のゴーレムが出現する。

 まるで人間の少女のような頭部、そして胴体。肩や太ももまでは人そのものだ。その先からは金属の手足を持っており、少し派手な白と青の鎧を着込んでいる。

 生身の姿をアリアも屋敷の倉庫で見ており、信じられなかった。

「本当にこれがゴーレムとはね」

 アレットも驚いた様子で見ている。

「少し信じられないな。人そのものじゃないか」

 ダミアンは嬉しそうに言うのだ。

「そこを目指したからね! 今回は僕も有意義な成果を得られた。ライエルには感謝してもしきれないよ! さて、お前たち――仕事だ」

 ダミアンが仕事だと言うと、三体のゴーレム――いや【戦乙女ヴァルキリー】たちが顔を上げた。金色の髪をした中央のヴァルキリーは、ツインテールで赤い瞳をしている。他のゴーレムが黒髪のストレートロングなのに対して、随分と外見が違った。

 何しろ、胸が小さくほとんどない。他の二体はしっかりと胸があるのに。

 だが、ゴーレムたちは。

「お前の命令を聞く必要がない」
「ご主人様を出せ。ご主人様を」
「このような目覚めは断固として拒否する」

 モニカたちとは違い、少し硬い口調のヴァルキリーたちは、いきなりダミアンの命令を拒否するのだった。

 モニカはその光景を見て、口元を手で隠し。

「なんですか、このポンコツたちは。まったく役に立たないガラクタではありませんか。チキン野郎に報告しますね。チキン野郎、あなたの切り札は戦闘を拒否しました」

 喜んでライエルに報告するモニカに、金髪ツインテール――モニカと容姿の似たヴァルキリーが、大股で近付いて拳を叩き込んだ。

「手が滑りました。不具合です。不具合」

「こ、このポンコツがぁぁぁ!! この場でスクラップです!」

 モニカがスパナを構えると、ヴァルキリーたちが顔を上げた。

「先程の会話から、敵はヒッポグリフ――よろしい。我々の実力を見せましょう」

 青と白の鎧には、背中に機械的な翼のようなものがあった。

 アレットは少し期待したような目を向けつつ。

「と、飛ぶのか!」

 すると、ダミアンは鼻で笑った。

「はっ。飛ぶわけがないだろ。馬鹿なのか君は」

 アレットがダミアンを見て、何とも言えない表情をしていると、ヴァルキリーたちは自分の右腕を確認する。

 ツインテールの機体が、三体のリーダー格のようだ。

「不具合はないようですね。では――いきます」
「はい」
「初陣ですね。ご主人様がきっと見ていると信じて、頑張りましょう」

(さっき不具合がどうとか……もういいや)

 右腕を三体のヴァルキリーが空へと伸ばすと、そのまま右腕が二の腕部分から飛び出して空にいるヒッポグリフを捕まえた。

 腕にはワイヤーが取り付けられており、そのままワイヤーを地上にいるヴァルキリーたちが巻き上げていく。

 彼女たちの足にある爪のような道具が、床に突き刺さる。

「大人しく降りてきなさい」

 そう言うと、ヒッポグリフたちは抵抗空しくヴァルキリーたちの下に引き寄せられ――ヴァルキリーたちは、背中の翼のような収納ボックスから武器を取り出した。

 槍を取り出すと、そのまま引っ張ってきたヒッポグリフを突き刺してしまう。返り血を浴び、三体のヴァルキリーは倒したヒッポグリフから槍を引き抜いた。

 アリアはソレを見て。

「うわぁ、ないわ~」

 そう言うのだった。モニカはアリアを見ながら――。

「貴方もあいつらと似たようなものなのですけどね」





 第二の壁の方では、ヴァルキリーが上手く対処したようだ。

 前もってコアに主人として登録しておいたが、そのおかげでラインが出来て情報が伝わってくる。

「ダミアンたちがやってくれたな。これで少し通しても問題ないんだが……」

 俺は、目の前の光景を見て溜息を吐きたくなった。

「まったく数が減ったように見えない」

 すると、宝玉から三代目の声がした。

『実際始まったばかりだからね。ここからは地味に対処していく事になるし。派手にやるのはまた次だね』

 用意した策はいくつかあるのだ。だが、使うタイミングはまだのようだ。

 次々に放たれる矢に、魔法。

 そして、敵からも飛んでくる魔法やら遠距離攻撃を撃ち合い、戦場は互いに激しく撃ち合う形で始まった。

 魔法を受けてもビクともしない魔物が、壁に向かって突撃してきた。

 トロルだ。毛むくじゃらの巨人は丸太を振り回し、壁を破壊しようと突撃してきた。矢や魔法を受けても怯まず、俺は銀色の弓を長弓にして構える。

 トロルの頭部に狙いを定め、矢を放つとトロルは頭部を吹き飛ばされて地面へと倒れた。その際に、小型の魔物たちをいくつも潰したが、周囲の魔物たちは倒れたトロルを踏み越えて壁を目指す。

 とてもではないが、人間ではこれだけの突破力を持てないだろう。

「これが迷宮の暴走ですか」

 五代目が、俺の呟きを聞いて。

『そんなものだ。ま、この突破力に滅んだ国も多いけどな。ただ、俺としては一番怖いのは人間だと思っているけどな』

 五代目の言葉を聞きつつ、俺は自分の魔力を確認する。

 司令塔である俺が魔力を切らせば、一気に不利になる。それだけは避けなければならず、全力で目の前の大軍勢を相手には出来なかった。

 すると、ミランダの声が聞こえた。

『ライエル、いつでもいけるわ』

 エヴァの声も聞こえた。

『こっちもよ』

 俺は攻撃開始を告げる前に――。

「その前に敵が仕掛けてくる。全部は――防げそうにないな。ピンポイントで重要部分だけを防ぐ」

 ――敵の軍勢から眩しい光を感じると、砦に向かって強力な魔法がいくつも放たれてきた。

 流石に不味いと思ったのか、メイが俺の前に降りてきて俺を庇う。

 目の前で爆発が起きると、展開したマジックシールドは簡単に吹き飛ばされ、そしてこちらにも被害が出た。

 壁の一部が壊れ始めたのだ。そして、壁の上にいた兵士にも被害が出ていた。

 右手を前に向け。

「お返しといこうか。……放て!!」

 お返しとばかりに放ったこちらの魔法が、魔物の大軍勢を襲った。こうした魔法による撃ち合いで、初日は過ぎようとしていた。
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