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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

骨肉の争いとかないといいね十一代目

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レダント要塞

 そこはかつて砦だった場所だ。

 だが、今では三重の壁と万の軍勢を抱えるための要塞となっていた。

 レダント砦改め、レダント要塞が形を整え始めていた。

 宝玉を握り、麒麟姿のメイに乗って俺は上空から要塞を見下ろしていた。スキルによる立体的な地図の把握を行ない、そして要塞を見ながら宝玉の中にいる歴代当主たちと会話をしていた。

 こういう時、事情を知っているメイがいるのはありがたい。

 五代目が要塞を確認しながら。

『魔法に対する防御は表面だけでいい。今回は時間がないから、一度きりの使用を前提で立てろ。最後の壁だけ念入りにすれば、他の二つは壊れても問題ない』

 表面に薄く魔力を反射する処理をした材料を塗りつける。これだけでだいぶ違うが、何十万の軍勢を相手にするには頼りない。

 本来なら、全てを魔力に強い素材で要塞の建造を行ないたかった。だが、時間がないので却下だ。

 罠の方も確認する。最初と二つ目の壁が突破されるのは想定しており、その壁の間には罠を設置する予定だった。

 三代目が出来上がりつつある要塞を見ながら。

『油に火薬に矢玉……足りないけど、そこは色々とやりようもある。問題なのは空だね』

 こうした魔物の大軍勢を相手にする際に、一番問題になるのが空を飛べる魔物だという。

 俺は未だ大軍勢との戦闘を経験してはいないが、魔物と人では大きな違いがあるようだ。

 それは魔物に撤退がないという事だ。

 人なら勝てないと思えば退くことが出来る。だが、魔物にはそんな考えなどなく、最後まで前に突き進むのである。

 そのために罠にははめることは出来る。だが、突破力はとんでもない。

 そんな突破力を持つ魔物の軍勢で厄介なのが、空を飛ぶ魔物たちだ。城壁の上を通り過ぎ、後方を攻撃出来てしまう。

 空高く舞い上がられれば、こちらでは手出しがしにくい相手であった。何より、強力なグリフォンでも壁の上に来ようものなら、ただの兵士たちでは相手にならない。

 俺は、要塞が待ち構えている魔物の軍勢が来る場所へと視線を向けた。

「チマチマと削ってもいいんですけどね。それでも向こうにはたいした被害は出てないようですが」

 一度目はシャノンの目も借りて偵察を行なった。

 二度目はメイと共に厄介な魔物を削るために動いた。

 三度目――魔物に光の矢を何百と放ったが、それらは魔法が得意な魔物に防がれてしまった。

 空を飛ぶ魔物だけでも数千はいるだろう。俺が倒せたのは、その内の百にも満たない魔物だけだ。

 このまま削り続けたかったが、俺にも別の仕事がある。

「僕としては、このまま突撃して潰しておきたいけどね。それより、わざわざ僕が登場する意味とかあるの? 人間はそういうのにこだわるよね」

 呆れたように首を振るメイに、コネクションで繋がったために五代目が声をかけた。

『我慢してくれ、メイ。なに、こういう時に士気というのは何よりも大事だ。魔物にはそんなものはないが、人間には戦う意志が必要だからな』

 それがなければ、容易に人間側は崩れてしまう。

 いくらこちらが勝つと言っても、それを信じて貰えなければ無意味だ。

「頑張るよ、僕!」

 五代目に言われてやる気を見せるメイを見て、俺は苦笑いをするのだった。

 俺は進路上の罠を確認した。

 準備出来るだけ準備したのだが、この程度では数をそこまで減らせないと歴代当主たちは言う。

 曰く、しないよりマシ、程度だとか。落とし穴など、大量の魔物がすぐに埋まって道が出来るのだとか。数十万に対して、罠で数千を屠っても誤差でしかない。

 加えて、今回の魔物の大軍勢――最悪なのはバランスが良いことだ。

 空に戦力を持ち、加えて魔法が得意な魔物たちも多い。連携はしないだろうが、集中して魔法が要塞を襲うのは目に見えていた。

 砦が配置されているだけあり、周囲には崖があって相手にも制限はあるのが救いと言えば救いだった。

 七代目が口を開いた。

『ま、要塞にこもる方が有利だ。相手は十倍以上だがな』

 兵力差だけを考えれば、確実に突破されてしまいそうだ。

「ま、出来る事はやりましたからね」

 四代目がウンウンと頷いているようだ。

『そう。この短期間で出来る事はほとんどやった。金を集めて戦力増強。砦は要塞にして将来はバンセイム対策。エルフを取り込んで、ライエルが圧倒的不利な状況に立ち向かった英雄として宣伝もしている。ま、戦力はもっと欲しかったけどね』

 ザイン、ロルフィス――そこから兵力を借りた。

 二国にしてみれば、きっと迷惑な話だろう。上層部は借金が減るので嬉しいだろうが、末端からすればとんでもない話だ。

 傭兵団や冒険者たちは、ベイムが自分たちの守りを固めるために都市部や後方の防衛戦のためにかき集めていた。

 国境近くの村々から、志願兵を募ったが一千にも届いていない。更にここから集めて、どれだけ集まるか……しかも、彼らは兵士としてあまり役に立たない。

 武器は持っているが、兵士としての訓練を受けていないのだ。

(ま、本当は戦って貰うのが目的じゃないんだけど)

 こういう時、ベイムは領民を兵士として集めない。だから、集まりも悪かった。

 三代目が言う。

『さて、ライエル。状況は絶望的だ。こんな状況で戦いを挑むのは間違っている! 誰もがそう思うだろうね』

「思うでしょうね。でも――」

『――それがいい!』

 三代目が、腹黒い笑みを浮かべているのを俺は何となく想像出来た。





 ――ベイム東側ギルド。

 受付のカウンターでは、マリアーヌが怒気を放っていた。

「駄目だと言っているでしょう! 君たちには強制参加もない。無駄に命を捨てる意味なんかないの!」

 相手をしているのは、エアハルトたちだ。いつもポワポワしたマリアーヌの怒気に、周囲の冒険者やエアハルトたちも困惑していた。

 受付の同僚たちも、マリアーヌを見て驚いていた。

「け、けど、マリアーヌさん。俺たちはもう装備だって……それに、参加すれば報酬だって貰えるし、都市部の外なら金額だって跳ね上がるし」

 いつも強気なエアハルトですら、マリアーヌの怒気の前に困惑してしどろもどろだった。

「装備を揃えたばかりで一人前になったつもり? 止めないさいよね。あのね、そんな考えだったら絶対に死ぬわよ! 君たちが今までやってきたのは雑用と、合間に外で魔物を相手にすること。数ヶ月でどれだけ強くなったの? 本当に理解していないようね」

 新人に対していつも優しい言葉をかけるのがマリアーヌの仕事だが、今回は本人も仕事を忘れていた。

 エアハルトたちは。

「な、なんだよ。俺たちだってやれるんだ! それに、マリアーヌさんだって才能があるって言っていたじゃないか!」

 マリアーヌは、俯くと下唇を噛んだ。そして、握り拳を作ると涙を流しそうになるが、耐えて精一杯の嫌な笑みを作る。

「そんなの誰にでも言っているわよ。別に君たちが特別じゃないの。君たちくらいの冒険者なんか沢山いるわよ。褒めておだてれば、それだけで嫌な仕事をしてくれるから愛想良くしていただけ」

 髪をかき上げ、マリアーヌは馬鹿にした笑みをエアハルトたちに向けた。

「い、今までそんなふうに思っていたのかよ! 俺たち、本当にマリアーヌさんに感謝して――」

「は? 自惚れないでよね。だからなに? さっさと自分の出来る仕事を選んで私の仕事の邪魔をしないでくれる?」

 マリアーヌが、そのままエアハルトたちに渡したのは、都市部防衛での力仕事の依頼だった。非戦闘員扱いの依頼だった。

 エアハルトたちは、俯いていた。エアハルトの仲間の中には、涙を流している者もいた。

 頼りになる優しいお姉さんであるマリアーヌの言葉に、酷くショックを受けている様子だ。

 エアハルトは、黙って書類にサインをするとカウンターに書類ごと手を叩き付けた。

「――信じていたのによ!」

 マリアーヌは太々しい態度で書類を処理すると、エアハルトたちに封筒を渡した。奪うように封筒を受け取ったエアハルトたちが、カウンターから離れて行った。

 その様子を見て、マリアーヌは安心して肩を落とした。

 すぐに、タニヤがマリアーヌの側に来て。

「マリアーヌ、呼び出しよ」

 やってしまったと思いながら、マリアーヌは薄らと笑みをつくって立ち上がり、そのまま上司のいる部屋へと向かった。

 タニヤが代わりに受付のカウンターに入ると、冒険者たちの相手をする――。





 ――上司の部屋。

 事情を報告したマリアーヌに、上司はさほど怒ってはいない様子だった。

「マリアーヌ、君はもっと賢いと思っていたんだけどね。冒険者パーティーの一つや二つ、望めば前線に送ってあげればいいんだよ。君が責任を感じる話ではない」

 マリアーヌは、俯いていた。

 上司に報告をすると、少しだけ笑っていた。

「そう、なんですけどね。それでも、見守ってくると情がわきます。あの子たちはまだ先があります。ここで死なせるのは――」

 上司もマリアーヌの心情を理解しているのか、溜息を吐いた。

「そんな君だから新人の担当にしている。だが、今日の一件はすぐに広まるよ。悪意を持って受け止められれば、君の仕事に支障が出てくる。今後は三階の担当に回って貰おう。新人担当はおしまいだ。……これまでよく頑張ったね」

 上司の言葉に、マリアーヌは涙を流しそうになった。嬉しくて、ではない。ただ、流れてしまいそうだったので口元を押さえた。

「……ありがとうございます。失礼します」

 言われてマリアーヌは返事をすると、そのまま上司の部屋を出るのだった――。





 ――仕事が一段落して、休憩室へと向かったタニヤはそこでリューエと出くわした。

「あ、お疲れ様です、タニヤさん!」

 明るく元気で、少し目上に対して態度が大きいが、決して逆らってはいけない相手にはリューエは大きな態度を取らない。

 そうして上手く職場で過ごしていた。

「お疲れ様。そっちはどう?」

 タニヤが椅子に座りながら聞くと、リューエは嬉しそうに笑顔になった。

「無事に都市部の外の重要施設に行って貰える冒険者の方たちが決まりました。報酬も良かったですし、私の頼みなら、って――」

 嬉しそうに話をするリューエを見て、タニヤは思い出した。まだ若く、以前の迷宮の暴走を知らない世代。

 それがリューエたちだ。

「――それで、よくして貰っている冒険者さんに頼んだら引き受けてくれたんです! なんか、戻ったら言いたいことがあるんですって!」

 リューエの様子からして、随分と仲の良い冒険者のようだ。それを聞いていた古株の職員たちが、リューエに同情的な視線を向けていた。

 タニヤは、相手がどんな冒険者かだいたいの予想がつく。優秀な冒険者に分類されるが、それはギルドから見て優秀という意味だ。

 とても強い冒険者かと聞かれれば、首を横に振るしかなかった。

 リューエは、マリアーヌの話をする。

「それにしても、先輩もついに限界だったんですかね? あの手の下心しかない冒険者とか、本当に視線がいやらしいですからね。ま、同情しますよ」

 タニヤも周囲の古株の職員も、リューエを見て思いだしたのはマリアーヌのことだった。

 マリアーヌも職員に成り立ての頃は、美人で若く人気があった。チヤホヤされてリューエのような態度を取っていた。

 タニヤは思った。

(あなたが第二のマリアーヌにならないことを祈るわよ、リューエ)

 ギルドも慌ただしく動く中で、一種の世代交代が起きようとしているのをタニヤは感じるのだった――。





 レダント要塞。

 その高い場所に立つ俺は、旗を掲げていた。ベイムのものもあるが、そこにはザイン、ロルフィス――そして、ウォルト家の旗も掲げられていた。

 青い宝玉を銀色の細工が支えているような旗は、独自に作った物だった。

 鍛冶屋に頼んで仕上げた青い鎧を着て、兜を右脇に抱えて振り返った。

 かき集めた人員は二万六千に届いた。予定よりも少なかったが、これは仕方がないと思っている。

 そして、朝日が昇ると地平の向こうに黒い影が見えた。魔物の軍勢だ。

「諸君! 君たちの多くはこう思っている。なぜ、俺たちがベイムのために命を賭けるのか? と――。どうして俺のような小僧の命令を聞くのか、と――」

 大声を張り上げ、左手を掲げると武装した軍団は静寂のままだった。

「この戦い。確かにベイムの得しかない。ベイムはこの要塞が突破されるのを前提に動いている。冒険者の派遣も断って都市部防衛に力を注ぎ、重要な場所に冒険者や傭兵たちを配置するだけだ!」

 まったく酷い話である。もちろん、ベイムにも色々と言いたい事はあるだろうが、ここにベイムの関係者はいないので問題ない。

 嘘も言ってない。

「確かに理不尽だ。祖国のために命を捧げる君たちが、他国のために戦っている。……だが、ベイムを見捨てていいのか! 自国に引きこもり、ベイムが苦しむのを眺めているのが正しいのか! 魔物によって理不尽に踏みにじられるのは、ベイムだけではない! そこに暮らす民たちだ! 俺はそれが許せない!」

 宝玉内から、四代目の声が聞こえてきた。

『うん、良い感じだ。セレスとは違います、っていうのをここで大々的に宣伝しないとね』

 そこをミレイアさんがおとしにきた。

『ま、違いはあっても微妙なんですけどね。嘘は言っていませんが、全部を語っているわけでもありませんし』

 この演説――別に兵士たちだけに向けたものではない。むしろ、これはかき集めたベイムの領民たちに向けたものだ。

 俺は頑張るけど、ベイムはここを見捨てたよ、というアピールである。

 演説を続ける中、俺はそれらしい剣を腰から抜いた。刀ではなく、見栄えのする両刃の剣だ。天に掲げて声を張り上げる。

「もしも天命が俺にあるのなら、女神はきっと答えてくれる! 俺は蹂躙される民たちのために、ここを守り切ると誓う!」

 すると、空からメイが麒麟の姿で駆けてきた。空を見上げた兵士たちが、麒麟の姿を見て声を上げている。

「お、おい! 麒麟だ!」
「嘘だろ。本当に天命でもあるのかよ――」
「これはもしかしたら、もしかするんじゃ――」
「勝てる。勝てるぞ!」
「あぁ、俺たちには麒麟がついている!」

(流石幸運の象徴だな)

 ここまでメイの存在を隠していたのだが、ここで使用する事にした。

 肯定的な意見が出てくるのだが、当然サクラだ。歴代当主たちは、こうした些細な仕込みも手を抜かない。

 メイが俺の横に降り立つと、兵士たちが声を上げて歓声を上げた。士気が上がっているのが分かる。熱気が俺まで届きそうだ。

「女神の加護は我らにあり! このレダント要塞を魔物たちの墓場にする! 皆、俺に続け!」

 大声を上げると、俺の名前を呼ぶ兵士たちの声が数万も重なって壮大な物になった。

(くそ、騙しているから気分が悪い)

 俺は士気高揚のため、演説をする自分に自己嫌悪するのだった。
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