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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

骨肉の争いとかないといいね十一代目

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 宝玉内。

 歴代当主たちと円卓を囲んでいると、俺は普段とは違う対応に唖然とした。

「え? いつもみたいな策はないんですか?」

 俺の言葉に五代目が呆れていた。そして、左手で額を押さえながら。

『馬鹿か。前にも言っているだろうが。戦いは数なんだよ。防衛戦だからある程度は優位だとしても、数万から数十万の大軍相手だぞ? そんな簡単に勝てるかよ』

 三代目も同意見なのか、いつものように笑いながら。

『こういう単純に数の差は覆せないよね。少しだけ時間的猶予があるから、出来る事をするだけだよ』

 四代目は眼鏡を外して。

『俺たちが思いつくような策を、今まで先人たちが思いつかないと思うか? 迷宮が暴走した時点で失敗なんだよ。こういう時は堅実が一番なの』

 なら、なんで俺に最前線行きを勧めたのか?

「それは勝てないという事ですか? なんで最前線を受け持つとか決めたんですか!」

 すると、七代目がニヤリと笑い。

『ベイムの目指す勝利と、ライエルが目指す勝利が違うからな。確かにベイムにすれば負けと言えなくもない。ま、わしらは勝つが』

 俺が首を傾げると、ミレイアさんが俺の後ろに立っており溜息を吐いた。

『ライエル、もっと大きな視野を持ちなさい。迷宮を暴走させた小国。ベイムは救援には行きませんよね? もしもこの暴走が終わっても、ベイムは小国を建て直すために協力するかしら? もしくは自分たちが治める?』

 ベイムは領地をあまり求めていない。

 何しろ少し変わっている統治方法を取っており、領地が広がっても維持ができない。いや、維持をしても見返りが少ないと思っているのだ。

 この迷宮が暴走した時も、隣国には注意を呼びかけた。だが、隣国が動いたときには時すでに遅く、迷宮は暴走を待つばかりの状態らしい。

 問題なのは、暴走する迷宮がベイムよりで、確実にベイムにも魔物が侵攻してくる事である。

 ギルドも魔物の多くはベイム側に来ると予想しており、実際魔物は人口の多い大都市を目指す傾向にあった。

 理解していない俺に、三代目が説明してくれる。

『さて、ベイムはその方針から土地にこだわらない。けど、そんな国ばかりじゃないよね? 隣国の更に隣はどこかな、ライエル?』

「バンセイムです。動きますか?」

 四代目は眼鏡を光らせながら。

『動くね。というか、国境には軍が集まっているはずだ。防衛目的だけど、それが終われば攻め込む可能性はあるね。立て直しとか色々と理由も用意出来るが、一番の問題はあれだよ……迷宮を暴走させた国なんか信用出来ないからね』

 人が住まない辺境で暴走したなら、まだ理解出来る。

 誰も訪れないような場所に迷宮が出来ても、対処など遅れて当然だ。だが、それをさせないために領主などが存在していた。

 歴代当主たちは今回の防衛戦――勝った先を見ていた。

 五代目が言う。

『バンセイムが隣国になる。すぐには動けないにしても、ベイムは対応することになるんだが……国境に貧相な砦一つで安心出来るか? 最悪、ベイムには時間稼ぎをして貰いたいからな。砦の全権も貰えたし、色々と動こうと思う』

 ベイムは究極的な話をすれば、都市が無事ならそれでいいのだ。周辺の街や村を失っても、食糧の自給率が大幅に下がったとしても、都市部が無事なら立て直せるのがベイムである。

 商人と冒険者の都は、その有り余る財で食糧を大量に買い込むことが出来るのだ。

 そのため、主力は城塞都市であるベイムで守りを固めていた。

 避難も進めており、ベイムには周辺から多くの人間が集まってきている。

 集まった男手は即席の兵士として利用するつもりだろう。

 四代目が。

『砦を増築しようか。今回の防衛のためだけじゃない。将来、バンセイムに睨みを利かせるために』

「そこまで考えていたんですか? 本当に戦争が好きですね」

 すると、三代目が呆れた顔をして。

『は? 嫌いだよ。前にも言ったよね?』

「え、でも……」

 七代目が俺に諭すように。

『いいか、ライエル。戦争など手段の一つだ。好きこのんでやるものではない』

「いや、でもやる気を見せていますよね?」

 五代目はキッパリと。

『やると決めたら徹底的にやるからな。いいか、戦争なんて出来ればしたくないし、しない方がいい。金はかかるし、育てた人材は失うし、物資はなくなるし……最悪だ。それでもやるとなれば、最大限の努力をするだけだ』

 ミレイアさんは口を挟まなかった。

 そして、四代目が俺を見ながら。

『ライエル、戦争も普段の仕事の延長線なのが領主だよ。避けられるなら避けるし、相手が無駄に攻め込まないように軍備も持つ。覚えておくんだね。魔物との戦いでも同じだよ。常に目的を忘れないことだ。必要だから戦う。それだけさ』

 真剣な表情の四人を見て、俺は黙って頷いた。

 すると、三代目が手を上げた。

『話は終わったかな? では本題に戻ろうか……次はギルドに人を出すように言いに行こうか! きっと出さないけど!』

 楽しそうな三代目に、ミレイアさんも口を挟んできた。

『まぁ、ならどうして声をかけに?』

『協力を求めたのに拒否したという事実が欲しいからだよ! 将来のために、今の内にこうした事実を積み重ねないとね!』

『将来権力を奪うためですね。素敵です!』

 二人して楽しそうに笑っているのを見て、四代目は一人でブツブツと。

『フィデルの野郎からもっと搾り取りたいな。あいつ、絶対にまだ余裕がある。というか、この程度でベイムが揺るがないのは悔しいね』

 五代目は円卓の上に見える砦周辺の立体的な地図を見て。

『期間も多少あって、人手もある。資金もあるなら、ここは大幅な増築ができるな。罠を用意するとして、どんな罠にするべきか……どれがいいかな?』

 ニヤニヤしながら、罠をどこに配置するのか考えていた。

 七代目は笑顔で。

『どうせ後方にも戦力はあるんです。少しは通していいでしょう。それと、回収した魔石や素材はお持ち帰りですな。ベイムは買い取るつもりでいるようですが、誰も売るとは言っていませんし』

 三代目が笑いながら。

『すでに砦には先発隊が入ったし、準備も進んでいる。ベイムはここがどうせもたないと思って好きにして良いとか言ったからね! 派手に行こうか!』

 俺は五人を見て思ったのだ。

(嘘だ。こいつら絶対に楽しんでる!)





 ――ベイムの国境に配置された【レダント砦】には、ベイムの兵士が引き継ぎを行なっていた。

 普段は少数の管理する兵士が砦に入っており、傭兵団がいくつか防衛のために雇われていた。国境でピリピリとしているのではなく、周囲の安全確保のために魔物退治をしている程度だった。

 隣国もベイムに借金があり、うかつに攻め込むことはしない。砦は、形式上配置されているような形だ。

 そんな飾りである砦から逃げるため、兵士長である男が砦に来た責任者に引き継ぎをしていたのだが。

 相手は【ノイ・バーデル】。

 ザインの聖騎士団団長で、九千を超える人員を砦に連れて来ていた。

「あ、あの」

「まだなにか?」

 ノイがそう言うと、兵士長は街道を通って新しい集団がくるのを見た。

 旗からすれば、ロルフィスの騎士団を先頭に兵士たちが続いていた。その数はザインと同等だ。

「いえ、ここを防衛すると聞いたのですが、本気ですか? ここは、その……飾りのようなものですし」

 自分たちが逃げ出すのに、他国の人間がここの防衛に回ってくると聞いて兵士長は馬鹿なことを、などと思っていた。

 しかし、実際には数万の軍勢が小さな砦に集まってきている。自分たちが逃げ出していいのか? そう思えてきてしまった。

「それが命令ですので。なに、出来るだけ後ろには通さないようにしますよ。しかし、小さいですね。以前にここを通った事はありますが、さてどうしたものか……ライエル殿の指示を待てと命令は受けましたが……」

 ノイは元々ベイムの冒険者だった。元は貴族で騎士の家系だ。それが落ちぶれてベイムまで流れ着いた。

 しかし、ライエルに騎士団長職を譲られ、今ではザインの騎士である。

 兵士長が困惑していると、大きな金属の箱が別の街道から砦を目指してきていた――。





 ――砦が配置されるだけはあり、その場所は防衛に適していた。

 平地に砦が置かれているのではなく、天然の要塞とまではいかないにしても砦を置くには適した場所であった。

 ダミアンのポーターを操作して到着したクラーラは、砦の情報を確認するとダミアンから借り受けたオートマトンの二号と三号に。

「それでは詳細なデータを取り、まとめましょうか。ライエルさんが来るとは思いますが、その前にできるだけ地形の把握もしないと……聞いていますか?」

 オートマトンの二号と三号は、普段よりもやる気のない表情でその場で肩を落としていた。

「私がご主人様のお側で仕事が出来ないとは」

「あのポンコツポヨポヨが残って、なぜ私が……スクラップになればいいのに」

 ライエルが後からメイに乗って砦に来ることが決まっているのだが、借り受けたオートマトンたちにやる気が見られなかった。

「あの、仕事をして貰わないと、ダミアン教授が来たときに困ると思うのですが?」

 ダミアンの名前をクラーラが出すと。

「ご主人様は細かい事に興味がありませんので」

「まぁ、言われた事はしますよ、言われた事は。でも、やる気が出ないのは仕方ないじゃないですか。だって、私たちメイドですから」

 クラーラは眼鏡の位置を指で直しながら。

(それ、絶対にメイド関係ない)

 そう思いながらも、砦を振り返った。

「ここを大規模な増築とか……ライエルさん、何を考えているんでしょうか」

 急いで砦を大きくしたとしても、数十万と言われている魔物の軍勢を前にしては無意味だ。特殊な加工を施せなければ、魔物の攻撃に砦が吹き飛ばされる。

 道具などはダミアンの大型ポーターに積み込んで持ってきたが、今から砦を建設して間に合っても見せかけだけのものになる。

 クラーラは、すぐに周囲の状況を確認し、大型ポーターをベイムに戻す予定だ。そこで荷物を受け取り、またここへと戻ってくる。

 そんなクラーラの護衛には、アリアが選ばれていた。

 ポーターから降りてくると、槍を担いで欠伸をしていた。

「ねぇ、こっちで指示を出すのは本当にアデーレとマクシムさんでいいの?」

 アリアがたずねてくると、クラーラは頷いた。

「ライエルさんの指示ですからね。アデーレさんはそういうのが得意なようですし、マクシムさんは護衛ですから」

 先に砦に到着したクラーラたち。

 そして、ポーターからマクシムに背負われて降りてきたアデーレ。途中で酔ってしまい、使いものにならない状態だった。

 マクシムが心配そうにアデーレに声をかけている。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

「ご、ごめん。無理です……」

 アリアは、そんなアデーレを見て不安そうに。

「大丈夫なのよね?」

 クラーラは少し悩んでから、頷くだけだった――。





 ギルド本部に人手が欲しいと頼みに行くと、やんわりと断られた。

 優秀な人材を派遣してくれと頼んだが、やはり都市部防衛に戦力を集中するようで断られてしまった。

 ノウェムとミランダを連れ、俺はギルド本部から出てラウノさんの事務所を目指していた。

 ミランダは、俺の行動が理解出来ないのか。

「随分アッサリ引き下がったわね。もっと交渉すると思ったんだけど? 相手も逆に驚いていたわよ」

 こちらが交渉すれば、失ってもいたくない人材を派遣したかも知れない。

 だが、それくらいなら最初から協力的ではない方が良かった。

「意味ならあったさ。協力して貰えなかった、って事実が出来た」

 それだけで、ミランダは理解したのか目を細めた。

「何をするつもりか知らないけど、ギルドと敵対するのはまだ早い気がするわよ」

 ノウェムは俺の行動に対して何も言わない。

 ただ――。

「ライエル様、エヴァさんの方はどうします? エルフから協力を得られるとしても、数で言えば数百に届くか届かないかですが?」

 エヴァの方には、同族に声をかけて協力を呼びかけて貰っていた。本当はノウェムに声をかけて貰いたかったのだが、曖昧な笑みで断られた。

 少し頼み込めば声をかけて貰えたかも知れないが、俺の判断で中断している。

「数百でも頼りになる。元は狩猟民族だ。都市部に移り住んだ連中は弓を捨てただろうけど、歌があるからな。情報操作、大事だと思わないか?」

 ミランダは肩をすくめ。

「今から勝利後の事を考えているの? 今もライエルには沢山の歌ができているじゃない」

 今の内からコネを作る必要があった。そして、もっと大きな名声も欲しい。

 そうした時、歌い手であるエルフを味方につけるのは重要な事だった。

 ノウェムは俺を見て。

「ライエル様のお好きなように」

 そう言うだけだ。

(ここで勝つ事が最終目的じゃない。そうだ。俺の目的は――)

 未だに対岸の火事と思い、そして目の前の魔物という恐怖を前にその後ろにいるセレスを見ていないベイム――。

 危機感を持って貰う必要性があった。

 そして、危機感を持つ前に、俺は一定の名声を得ておく必要も――。

 二人を連れて歩いていると、ミレイアさんの声がした。ミランダの様子を見て、思うところがあったようだ。

『才能はあるのよね。でも、やっぱり少し足りないわね。ライエル、いつかミランダを宝玉に招待してくれるかしら? あ、シャノンも一緒に、ね?』

 少しだけ嫌な予感がした。
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