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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

骨肉の争いとかないといいね十一代目

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目立ちたいんだ!

 屋敷の応接間。

 呼び出したザインの大神官ガストーネさん。

 ロルフィスの宰相であるロンボルトさん。

 付き添いであるロルフィスの騎士であるアレットさんを前に、俺はアデーレさんと共に交渉を行なっていた。

 俺の斜め後ろにはモニカ。

 アデーレさんの斜め後ろにはマクシムさんが立っている。騎士であるアレットさんは、ロンボルトさんの斜め後ろに立っており、俺の提案を聞いて表情が崩れていた。

 そんな様子を見て、三代目がきっとニヤニヤしながら言っているのだろう。

『親しいから、って表情を見せたら駄目じゃない、アレットちゃん。こっちは両方に得をする提案をしているんじゃない』

 四代目は真剣な表情をしているはずだ。イライラしながら。

『なんでそこで悩む! ベイムに借りている借金を減らせるだろうが! お前らの財政状況をこちらが知らないと思うなよ!』

 五代目は呆れつつも。

『因みに兵力動員数も把握済みだ』

 ガストーネさんが、以前よりも少しやつれたように見えた。そして、俺の提案を確認する。

「りょ、両国――ザインとロルフィスに兵を五千出せと? いくらなんでもそれは――」

 俺は真剣な表情で。

「違います。両国で五千ずつ。一万を出して貰います。ちなみに、これは純粋な戦力が一万です。後方支援は含みません」

 両国に兵力を要求する理由は単純だ。そうしなければ勝てないからである。いや、目指すべき俺の勝利条件を満たせないと言うべきだった。

 ベイムは冒険者が集まる場所だ。

 兵力だけを考えれば、十万はすぐにでもかき集められる。だが、冒険者やベイム住人たちの志願兵の集まりだ。

 まとまりがない十万である。傭兵団もおり、練度の高い集団もいるにはいるが、それらをまとめるというのは難しい。

 ロンボルトさんは、表情を崩さずに。

「現状では不可能です。こちらは新しく手に入れた領地をまとめるだけでも苦労しているのです」

 それは知っている。俺が口を出さないと、アデーレさんが口を開いた。

「ですが、もしもベイムが防衛に失敗すれば、負けることはなくとも大量に魔物が流れ込んできます。その時、ザインやロルフィスに流れ込まないと言えますか? 同時に、ライエルさんは参加を決めました。ベイムから圧力が来るのは時間の問題では?」

 ガストーネさんが唸る。何しろ、両国はベイムに近い。そして、これまでも多くの借金をベイムにしていたのだ。

 前回の戦争でも、ザインもロルフィスもベイムに借りがある。ベイムも貸した事で恩を売り、搾り取るつもりだ。

 今回のようなことがあれば、協力を求めるのは当然であった。

「兵力を二千でいかがでしょう? そうすれば、防衛の一角は担えるだけの兵力が手に入ります」

 ロンボルトさんの提案に、七代目が鼻で笑った。

『足りんのだよ。それではまったく目立てないではないか!』

 俺は足を組み、膝の上に組んだ手を置いた。

「それだけでベイムが感謝すると? 莫大な借金――ここで減らさねば、両国だって厳しい財政状況は変わらないでしょう。それに、俺が防衛するのは最前線です」

 アレットさんが。

「最前……線。正気じゃない。それに、どうして我々が」

 当然だろう。命懸けの最前線を、どうしてザインやロルフィスが請け負うのか? ベイムのためにそこまでする必要はあるのか?

 アデーレさんは淡々と。

「今の代表者が悪いとは言いませんが、両国はこれまでかなりの借金をしてきました。膨らんだ借金は相当な額ですよね? これ、このまま増え続けますよ」

 返済が追いつかない。もしくは、返しきろうとすると戦争でまた借金――。

 金というのは、本当に魔物である。

 ベイムが周辺国に発言力を持ち、独立している理由でもあった。

 ガストーネさんが、俺を向いて言う。少し諦めた様子だった。

「勝算はいかほどで? それに、どれだけの条件をベイムから引き出すおつもりか? 冒険者ギルドも商人たちも甘くはありませんぞ」

 どうやら、ガストーネさんは俺に協力してくれそうだ。味方が減ったので、ロンボルトさんも苦々しい表情をしていた。

 三代目が笑いながら。

『そうだよね! 恩人が頼んでいるのに、ザインよりも少ない兵力とか恥ずかしいもんね! 領地を倍近くまで広げて貰ったのにさ!』

 俺は笑顔を作る。

 勝算など相手である魔物の規模が分からないので不確かだ。だが、不安要素があって危険ですなどと言ったら、二人は兵を出すとは言えない。

「勝ちますよ。勝って示しましょう。新生ザインとロルフィスの力を」

 内心では冷や汗ものだ。俺が大量の兵士に死ねというのだ。前のように、ロルフィスのサポートをするのとは訳が違う。

 規模も万単位である。

 ロンボルトさんは、肩を落としつつ。

「……借金が一割減った程度では、こちらは納得ができませんからな」

「当然です。搾り取れるだけ搾り取りましょう。それに……ベイムは力を持ちすぎたと思いませんか?」

 ニヤリと二人に笑みを向けると、俺はこれからの計画を話すのだった。

 アデーレさんがボソリと。

「ライエルさんが思っていたよりも酷い」





 ――ベイムギルド本部では、緊急で集められた幹部たちが客人と交渉していた。

 客人というのは、ザインの大神官とロルフィスの宰相である。

 タニヤは、東支部から呼び出された上司の護衛と補助を目的に、会議に参加していた。

(こんなに早く動くなんて。しかも、この二人……)

 ツルツルの頭部を光らせる二人の重鎮は、ベイムの危機に対して協力を申し出てきた。

 それはいい。ギルドやベイムの商人たちも、こういう時のために金を貸している面があった。

 だが、その協力の度合いが、ベイムの想定を超えていた。

 ロンボルトが、椅子から立ち上がって机に拳を叩き付けた。

「なんという事か! こちらは純粋な戦力を五千は用意するというのに、防衛では端に追いやられるとは! 心外である!」

 タニヤは、表情を崩さないように会議を見守っている。上司は困ったような表情をしていたが、やはり少し焦っているようだ。

「いえ、そのお気持ちはありがたいのですが、純粋な戦力と言いますと……総兵力は」

 ロンボルトは胸を張り。

「八千には届くでしょう。我がロルフィスの精鋭が、必ずやベイムを守って見せます!」

(ほとんど全兵力じゃない。そんな事をされても困るのよ。二千から三千を出して貰えれば、それだけで――)

 本来、二国には合計で五千の兵力を出して貰いたかった。そして、防衛が困難な場所に配置し、ベイムは戦力を集中したかったのだ。

 大神官であるガストーネも、ロンボルトに同意する。

「ザインも同じ気持ちです。しかも救国の英雄であるライエル殿まで参戦され、最前線を希望されるとか。聖騎士団の準備は進めております。こちらも九千は動くでしょうな」

 こちらも動かせる最大数を用意してきた。

 冒険者ギルドや、商人代表が笑っていた。

「それはありがたい」
「いや、両国は頼りになる」
「ですが、そこまでされては――」

 余計な事をするなと、会議に参加している幹部たちは考えているのだろう。何しろ、そこまでされて最前線を任せろと言うのだ。

 ベイムでは、最前線は守り切れないと予想していた。

 もしも甚大な被害が出れば、その分の保障をしなければいけないのは、ベイムである。勝手に助けて貰ったから、保障はしません。などと言えば、今後の信用問題に関わる。

 ガストーネは、低い声を出しながら。

「ベイムが陥落すれば、我らとで無事では済みますまい。この一戦、ザインは全力でいかせて頂く。だが、国内でこのような発表をすれば不満も出ます」

 すると、幹部の一人が。

「でしょうな。その半分でも出して頂き、やはり最前線はベイム側で――」

 ロンボルトがガストーネの説明を引き継ぎ、幹部の発言を遮った。

「ですが! 自ら最前線を希望して、負けたら保障しろなどとも言えませんな。うむ、ならばどうですかな? 恥ずかしながら我が国にはベイムに借金がある。それを帳消しにして頂ければ問題ありません」

 その言葉を聞いて、幹部数人がやはりと思ったのか目を細めた。タニヤの近くにいる上司も、ボソリと。

「まぁ、そう来るよね。でも、金額的には――」

 幹部の一人が。

「それはあまりにも……二国の協力は嬉しいですが、借金は莫大ではないですか? それだけの金額ですと……分かりました、二割でいかがです?」

 こちらも元から三割程度なら減らすつもりだった。時間がたてばまた元に戻ると計算しており、不満を和らげるつもりだった。

 そのための餌なのだが。

 ガストーネが目を見開く。

「なんと! 我々の協力にそれだけの価値しかないと! ザインもロルフィスも、この一戦にどれだけ意気込んでいるか理解して頂けない様子。ならば分かりました。もう二千を追加して――おっと、それでは物資が足りませんな」

 ロンボルトも頷きつつ。

「ガストーネ殿、物資はベイムが用意して頂けるとの事。心配はいりません。しかし、我々の評価が二割とは……分かりました。借金は一割残して頂いて結構です」

 その後も二人は譲らず、結果的に崩壊確実な最前線を担うとあってベイム側は借金の七割を帳消しにすると約束した。

 代わりに、戦死者に対する保障はできないと言って。

 二人の重鎮は、笑顔で言う。

「それでは、すぐに戻ってアウラ様に報告して参ります」

「ロルフィスで準備がありますので、これで」

 二人が去った後に、幹部の数名が。

「数万規模の被害が出ても、借金が減れば文句なし、か。強欲な神官と宰相ですな」

「戦死者や怪我人への見舞金。どうせベイムに泣きついてきます。問題ありません」

 そうして会議は、ついでにベイム防衛の事に話題が移っていく。

 タニヤは、二国の裏で誰が動いているのかを考えていた――。

(まさか、ライエル君が?)





「ヴァルキリーを魔物の軍勢が動き出すまでに何体用意出来る? できるだけ早く組み上げて欲しい」

 屋敷の倉庫に顔を出した俺は、ダミアンとラタータ爺さんが組み上げているゴーレムを見ながら、そう聞いた。

 人の骨格部分は完成しており、何やら機械的な部品が取り付けられている。

 胴体部分と両手両足は別に製作され、今はとても女性の姿には見えなかった。液体の入った円錐の水槽のようなものも用意され、見ているだけだと本当にいかがわしい実験をしているように見えた。

 ダミアンは手袋を外すと。

「いきなりだね。こいつには金がかかっているけど、簡略化して組み上げれば……金額もかかるから五体かな?」

 ラタータ爺さんは、道具を肩に乗せつつ。

「こいつと同じものなら三体だな。というか、いきなりどうしたよ?」

 屋敷の倉庫にこもって嬉々としてゴーレムを組み上げている二人は、ベイムの様子を理解していなかった。

 俺は二人に事情を説明した。ダミアンは、それを聞いてあまり興味がなかったが。

「実戦テストには持って来いだね。でも、そうなると相手は魔物の軍勢か……こいつを三体までなら用意した方がいいね」

 金貨一万枚もするゴーレムを、ダミアンは三体作ると言いだした。

 ラタータ爺さんも、頷きながら。

「確かにそっちがいいかもな」

 俺は二人がそう言うのならば、と。

「なら三体を組み上げてくれ。こちらはすぐにでも最前線に移動したい。いや、輸送も必要だから何度かベイムと砦を往復しておかないと」

 それを聞いたダミアンは、振り返って大きなポーターを見た。

「あれ使う? 僕たちは最後に運び込んで貰えたらいいし。使い方は同じだよ」

 大量に荷物を積載出来そうなポーターの改良型を見て、俺はすぐに頷く事にした。

「ありがたく使わせて貰うよ」

 ダミアンは、俺を見ながらアゴに手を当てて。

「忙しそうだね。今度はどこに行くんだい?」

 俺は次に向かう場所を笑顔で告げる。

「ヴェラのところだ」

 ラタータ爺さんも、それを聞いて。

「お嬢ちゃんのところか。まぁ、そうなるな」

 ――頷いていた。

(そうだ。ちょっと煽るついでに支援して貰ってこないと。というか、煽る必要があるのかな?)

 歴代当主の指示の元、俺は次の行動へと移ろうとしていた。





「あのヒモ野郎ぉぉぉ!!」

 フィデル・トレースは、自分の部屋で両の拳を机に振り下ろしていた――。

 思い出すだけでも忌々しいライエルが、トレース家を訪れるとヌケヌケと。

「ベイムを守るために最前線に向かいます。なので、支援して貰いに来ました……義父さん」

 ニヤニヤとしたライエルの表情を思い出し、フィデルは何度も拳を振り下ろしては整えた髪が乱れていく。

「どうせ最前線など持ちこたえられないと、支援してやると言ったら……ちくしょうぉぉぉ!!」

 フィデルとて商人だ。ベイムのために最前線行きを決意したライエルに、何も支援しないとは言えなかった。

 ここで消えてくれるなら、安い物だと支援も約束したのだ。すると、ヴェラが――。

「も、もうお金はあんまりないけど、船に積んでいた大砲と銃なら持っていきなさいよね。壊してもいいから絶対に戻ってくるのよ」

 などと俯きながら心配そうに言うのだ。

 悔しいが、そこまでは耐えきれた。しかし、ライエルは煽るようにヴェラにフィデルの目の前で抱きつき。

「だ、大丈夫だ。必ずお前のところに帰ってくるから」

 などと言って大事な娘と抱きついていた。部下たちがいなければ、鉛玉を撃ち込んでやったところだと心の中で憎悪を燃やす。

「しかもこっちにチラチラ視線を向けて煽りやがった、あの青二才がぁ!!」

 ところどころで煽ってくるライエルに、フィデルも我慢出来なかった。

「ギルドが参加しろと言ったら、渋るどころか嬉々として動き回りよって……可愛げの欠片もない。だが、これで終わりだ。流石に数十万の魔物の軍勢は防ぎ切れまい」

 ベイムとて砦は用意している。

 こういった時のために国境近くには砦を配置しているが、迷宮が暴走して何十万と魔物が溢れてくるのだ。防ぎきれるわけがない。

 最前線など突破されても仕方なく、第二、第三の防衛ラインで数を減らし、最終的にベイムの都市部が無事であれば、いくらでも立ち直れると商人であるフィデルたちは考えていた。

「ギルドも不甲斐ない。二国が協力的だからと借金をほとんど帳消しにしおって。まぁ、今回で使い潰せば、また数十年はベイムに頼り切るだろうから問題はない、か」

 冷静さを取り戻してくるが、未だに(ハラワタ)が煮えくりかえりそうなフィデルは、ライエルへの支援金の額を考えていた。

 どうせ死ぬからとここで少額しか渡さないわけにもいかない。

 他の防衛地点と違い、最前線行きは決まったようなものだ。

「ふっ、ネチネチとこちらを煽りおって……最後にいい夢くらい見せてやる」

 三十万枚から五十万枚を支援すれば、面目も立つと思ったフィデルは、そのように行動することにしたのだった。

「まぁ、これで悪い虫が一つ消えると思えば安い物だな。残り一匹だ!」

 商人ではなく、父として感情がむき出しになっているフィデルであった――。
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