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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

骨肉の争いとかないといいね十一代目

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かたな

 ――そこは小さな村だった。

 だが、ここ数年で大きくなりはじめていた。

 人口にして三百人程度が、今では四百人前後まで膨れあがっている。これと言って特産品がある訳でもない。そんな小さな村が、急に羽振りが良くなっていた。

 以前は村の若者たちが年頃になると、国の都市部やベイムへと旅立っていたが、ここ数年ではそうした事もない。

 むしろ、村を飛び出した若者たちが戻ってくる現象が起きていた。

 村には若者たちが武器を持ち、周囲の魔物を倒して魔石や素材を手に入れている。

 行商人たちが頻繁に立ち寄り、魔石などを買い取っていくのだ。

 今日も、行商人の一人が村を訪れていた。

「いやぁ、泊まれる場所まで用意して貰い、定期的にこれだけ魔石を得られると助かりますよ」

 昨日の夕方に村に到着した行商人は、一泊してから村で魔石や素材を買い取って持ち込んだ商品を売り払っていた。

 今回も利益が出ており、行商人も嬉しそうだった。

「それは良かった。また来てくれよ。今は若いのが魔物を狩りに行っているから、割とすぐに集まるからな」

 数年前よりも羽振りの良くなった村。そして、今や名士の一人とも言える男は、ベイムから戻ってきた壮年の元冒険者だった。

 噂も聞いたことのない男であったが、彼が故郷である村に戻ってくると村は豊かになった。

 きっと、若い連中に戦い方を教え、魔物でも倒しているのだろう。

 行商人はそう信じており、疑っていなかった。

「それは助かりますね。この辺の魔物を倒して下さるなら、旅も安全になりますので」

 元冒険者の男は、少し歯切れが悪かった。

「……そうだな。ま、気を付けて帰るんだな」

 行商人は、商売を終えて村を出る事にした。荷馬車に買い取った魔石や素材を丁寧に積み込むと、同じように村から街へと向かう集団と移動を開始する予定だった。

 村から街へと行くのは、若者たちだ。

 村から出て行くのではなく、どうやら食糧の買い出しに向かうらしい。

 行商人はソレを見て。

(最近は魔石や素材の物納で税を納めていると聞いたが、食糧を買い込むほどに傾倒しているのか? そんな事を領主が許すとも思えないんだが……)

 最近、村では多くの若者が武器を持ち、そして魔物を率先して倒している印象があった。

 行商人は。

(まさかとは思うが……いや、そんな事はないか。元冒険者であれば、迷宮の怖さくらい知っているだろうからな)

 村が迷宮でも隠しており、報告しないでいるのではないか? そして、利益を得ているのでは? などと考えた。

 しかし、そんな事をして滅んだ村や街は多く、元冒険者がいるのに村がそんな事をするとは思えなかった。

 それに、迷宮があるのならば、もっと魔石や素材が手に入るはず。そうした馬鹿な行動をするような村は、きっと大量に魔石や素材を売り払い怪しまれる。

 確かに一定量は稼いでいるが、それでも特別多いというわけでもない。

 ついでに言えば、こういった村がない訳でもなかった。どうしても魔物が多く戦わなければいけない村もある。魔物を倒して税を魔石や素材で支払う村も存在していた。

 国や領主によっても様々だが、そういった村は他よりも高い税を求められる。武器の所持、そして村で収穫した作物は税の対象にならないのだ。

 ただ、他の面で締め付けが厳しくなる。それに、戦でも起きれば人手を出すように求められる。

 そういった方向に村が傾いたのだろうと、行商人も思っていた――。





 ――行商人が村から出て行くと、元冒険者である【ブラーニ】は村の若い連中を呼び集めた。

 広場ではなく、村の隅のような場所である。そこでは雰囲気的に明るい話をしているようには見えない。

 実際、話しているのは危険なないようだった。

 ブラーニが、自分の下で働いている若い連中に言う。

「おい。村の周辺の魔物も相手にしているんだよな? あんまり洞窟にばっかり行くと、周辺の魔物数が減ってないとか言いだして怪しまれるからな」

 村で十代後半から二十代半ばの若者たちは、ブラーニに何度も頷いていた。ブラーニはベイムで冒険者をしており、彼らにとっては強者に見えているのだ。

「兄貴、ちゃんと決められたように村の周りで魔物退治をさせているよ。けど、迷宮に行けば村の周りで狩りをするよりも沢山倒せるぜ? なんでそうしないんだよ」

 すると、ブラーニは呆れたように言う。

「馬鹿野郎が。そうしたら怪しまれるだろうが。細く長く、を方針にゆっくり迷宮で稼ぐと教えたはずだぞ。バレそうになったら、迷宮を見つけた事にする。もしくは倒しておしまいだ。それまで、コツコツ貯め込むんだよ」

 ブラーニという男。元冒険者だが、パーティーでは荷物持ちであまり優秀な冒険者ではなかった。

 だが、悲しいことに彼は馬鹿ではなかった。小狡い男だったのだ。そして、同時に賢くもなかった。少し頭の回る、要領が少しだけいい男。それがブラーニだ。

 ただ、本人は自分を賢いと思っていた。

 ベイムでは誰にも相手にされない冒険者だったが、村に戻れば違う。村の周囲にいるような魔物は簡単に相手をできた。

 そして、外に出たことのない老人たちを騙すのも簡単だった。

 よくも悪くも、村を出て成功した若者たちには、故郷であるこの村は魅力的ではなかったのだ。

 だから、戻ってくる同郷の冒険者もいなかった。

 そのため、ブラーニの口車に乗る村人が多かったのだ。反対する村人たちもいたが、生活が豊かになると手のひらを返してきた。

(そうだ。こうやって村の名士にでもなれば、俺はずっとここで尊敬される存在になれる。もうすぐ嫁も手に入るんだ。俺を馬鹿にしたベイムの冒険者たちよりも良い暮らしをしてやるぜ)

 小狡く、強者に媚びへつらい生きてきたブラーニは、故郷で第二の人生を歩んでいた。

 それがとても愚かなこととは知らずに――。





「断る」

 ゴワゴワとした白い髪に髭、そして老いてなお逞しい体を持つドワーフの職人を前に、俺たちは困ったことになっていた。

 周囲では金属を叩く音が聞こえ、多くのドワーフたちが忙しそうに仕事をしていた。

 ヴェラに紹介された職人で、希少金属のほとんどを加工出来る人材だ。

 だが、仕事場を訪ねてみれば、ある程度の話をしただけで「断る」と言い切られた。

 一緒に仕事場を訪れたヴェラも困っていた。

「ラタータのお爺さん、私からもお願いしているんだけど?」

 すると、職人である【ラタータ】は、タバコを吸いながら。

「お嬢ちゃんのお願いだ。聞いてやりたいが駄目だ。フィデルの小僧がこっちに来てね。絶対に手を貸すなと言ってきた。小僧とも付き合いが長いんだ。それに、わしが世話になったのはお前さんの曾爺さんだぜ? 恩も十分返したと思っとる」

 頑固そうな爺さんは、垂れ目で俺の方を見た。そして、腰に下げているサーベルを見て首を横に振った。

「兄ちゃん、わしは小僧のようにお嬢ちゃんに相応しいとか相応しくないとか興味がない。だがな、それだけの腕を持っているなら武器もしっかり選ぶんだな」

 どうやら、俺がそれなりの実力を持っていると判断してくれたようだ。そして、腰に下げているサーベルが数打ち品だとすぐに見抜いていた。

 優秀な人なのだろう。

 だが、頑固だ。

「そこをなんとか頼めませんか? これまでに誰も扱った事のない金属ですよ。ベイムでも指折りの職人である貴方に依頼したいんですが」

 すると、老人である職人は笑いながら。

「この老いぼれに随分な評価だな。腕を評価されて嬉しいし、確かに魅力的な提案でもある。だが駄目だ」

 ヴェラは少し怒りながら。

「なんでよ! お父様のことなら気にしないでもいいじゃない。少しゴネているだけなんだし」

 ラタータの爺さんは、それを聞いて笑っていた。そして、ヴェラに諭すように言うのだった。

「なら、ちゃんと説得してくるんだな。悪いが、こっちも仕事があるんだよ。因みに、だ……その仕事はお嬢ちゃんの船を整備するためなんだがね」

 ヴェラが肩を落とし、謝罪すると手詰まりだった。これ以上は交渉出来そうにない。ヴェラの父であるフィデルさんを説得するくらいしか思いつかなかった。

 ヴェラを見て笑っているラタータ爺さんは、俺をチラリと見て。

「ま、彼氏に売り物でも見せていけ。腰に下げている物よりはいい武器を用意しているからよ。頑張って小僧を説得するんだな」

 ヴェラでも説得のできない相手が、ベイムで有名な職人であるのは間違いなかった。鍛冶士の多いドワーフの中でも、名前が挙がるくらいに優秀な職人だ。

 是非とも協力して欲しかった。

 すると――。

「父さん、店にお客さんだよ。なんでもサーベルをみたいとか」

 ドワーフの女性が仕事場へと入ってくると、ラタータ爺さんは渋い顔をした。

「お前……誰でも取り次ぐな、って言ったよな? あのな、孫にでも相手をさせておけ。こういうのも大事な経験なんだよ」

 すると、ドワーフの女性はラタータ爺さんの肩を張り手で叩いた。

「五月蝿いよ! その孫が困っているから、相手をしてやってくれ、って言っているんだろうが! 大事な私の息子の頼みを聞けない、ってのか!」

 流石のラタータ爺さんも、娘の怒気に焦ったのか咳払いをして立ち上がった。

「わ、分かったから。まったく……育て方を間違えたぜ。悪いな、お嬢ちゃん。こっちは客の相手だ。品物は見ていってくれていいからよ。サービスするぜ」

 ラタータ爺さんが娘さんと一緒に仕事場から出て行くと、俺たちも外に出てから表に回って店へと向かった。

 店も構えている鍛冶屋で、周囲では一番大きな建物がラタータ爺さんの店だった。

 仕事を引き受けることもあるが、こうして自分で商品を作って売ってもいる。

 弟子も多く、跡取りである婿養子の店長に、修行中のお孫さん――三代で店を切り盛りしていた。

 表から店へと入ると、そこでは先程まで渋々だったラタータ爺さんが大声で。

「そいつはいけないな! そいつのために立派なサーベルを用意しないといけないよ。数打ちを大量に買い込むのも悪くはないが、いざという時のために頼れる武器は必要だからな!」

 嬉しそうに客の相手をしていた。そして、カウンターを見ると、そこには見慣れた後ろ姿の二人がいた。

 一人はサイドポニーの明るい茶髪。

 もう一人はツインテールの金髪でメイド服姿。

「あいつら何をやっているんだ?」

 俺がそう言うと、ヴェラは。

「さっきと対応が違わない? 物凄く嬉しそうなんだけど? 私より扱いがいいんだけど?」

 少しだけ不満そうなヴェラに、俺は苦笑いをしつつノウェムたちと合流した。

「お前ら、今日は買い物じゃなかったのか?」

 すると、ノウェムとモニカが振り返ってきた。二人とも、俺を見ても少しも驚かない。

 モニカが、これまでの経緯を説明する。

「いえ、先程ここで出くわしまして。本当なら女狐と買い物など嫌なのですが……あ、命令をされれば別ですよ。このモニカ、チキン野郎の命令なら嫌なことも率先してやる覚悟があります!」

 どうでもいいので、俺はノウェムを見た。すると、ノウェムは微笑みながら。

「この機会にライエル様にサーベルをプレゼントしようかと。数打ち品ばかりでは消耗も激しいですし、何よりも日頃の感謝の気持ちもありますので」

 なんて良い子なんだ。シャノンはノウェムの爪の垢でも煎じて飲めばいい。

 だが、ノウェムが苦笑いをした。

「その、ただ……モニカさんが、ここはサーベルではなくカタナにするべきだと」

「カタナ?」

 俺が首を傾げると、モニカは興奮したように。

「はい! やはりチキン野郎にはカタナが似合う! ヤマト魂ですよ! ヤマト魂! いや、武士の心だったかな? まぁ、そんな細かい事はどうでもいいのです! きっと気に入りますから!」

(ヤマト魂ってなにさ? 武士? 騎士じゃないのか?)

 ただ、俺はカタナという武器を知らなかった。どんな武器なのかを聞くために、ラタータ爺さんを見たのだが。

「いや、わしも知らん。説明を聞いたら、サーベルみたいなものだというのは理解出来た。でもなぁ……作れと言われて作れなくもないが、半端な物は売りたくない。時間がかかると思ってくれ。というか、ハッキリ言うと武器として問題がある」

 ヴェラが武器としての問題と聞いて。

「なに? リーチが短いとか? ライエル、あんたも銃をメインにしなさいよ。魔具として使用すれば、結構な威力よ」

 それが出来ないから困っているんだ。だが、宝玉内からは七代目が同意してきた。

『流石はヴェラちゃんだ! そう、銃こそが世界を変える武器となる! ライエル、ここは銃を選びなさい。サーベルなど古い』

 俺はそのサーベルを何年も振り回してきている訳なんだが……。

 ラタータ爺さんが口を開いた。

「サーベルと同じだ。突く、斬る、をこなす武器なんだが、そうなると耐久がな。しかもサーベルよりも繊細そうでな。ハッキリ言うと、希少金属でも鉄とかだと駄目だな。簡単に壊れる。もっと質の高い希少金属じゃないと武器として微妙だ」

 モニカはそれを聞いて。

「サーベルにも同じ事が言えますよね? さぁ、チキン野郎! カタナを持ちましょう! 大丈夫! 刃の部分が少し違うだけで、サーベルとほとんど同じですから!」

 どうしてここまで勧めてくるのか理解出来ない俺は、困った顔をして周囲を見た。

 だが、ノウェムを見るとラタータ爺さんが。

「というか、お前たち知り合いだったのな。まったく、偶然とかあるもんだ。おし、分かった。ついでだ。お嬢ちゃんたちの依頼も受けてやろう。なんかやる気が出て来た」

 そのラタータ爺さんの言葉に、ヴェラが驚く。

「……え?」

 ノウェムは、俺たちを見て何があったのか理解したのかラタータ爺さんにお礼を言った。

「ありがとうございます」

「なに、気にするな! というか、小僧のお願いも個人的なものだしな。こっちを優先しても文句を言われる必要がないからよ」

 ノウェムは前から亜人に好かれる傾向にあった。

(これも女神の――いや、邪神の恩恵なのかな? まぁ、いいか)

 俺はなんとか職人の確保ができた事を喜んだのだが、ヴェラの方が。

「……なんだろう。なんか納得出来ない。私でも駄目だったのに、ノウェムだとすぐに引き受けるとか」

 納得出来ない表情をしていた。
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