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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

続くのか? 十代目

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先読みらいえるサン

 日が沈んで夜になった海の上。

 俺は、ベッドに運ばれて横になって休んでいた。

 額の上にはタオルが置かれ、ヒンヤリとして気持ちがいい。酒を口につけただけで顔が赤くなるのは誤算だったが、目的は達成したので問題ないとそのまま眠ろうとした。

 すると、ドアがノックされた。返事をすると、部屋に入ってきたのはヴェラだった。

「なんだ、やっぱり告白を受け入れる気になったのか?」

 そう言うと、呆れた表情でヴェラは言う。

「どんだけ前向きなのよ。いいから寝てなさい。個人的にお礼を言いに来ただけだから。それと、私はあんたの気持ちには応えられないわ。好きな人がいる」

 ゆっくりと体を起こすと、ヴェラが俺の額から落ちたタオルを取ろうと近付いた。

 腕伸ばしたので掴んで引き寄せると、目を細めて後ろ腰に手を伸ばしたヴェラを見て。

「それは残念だ。だが、それなら気を付けた方がいい」

「……どういう意味よ?」

 そのままヴェラを引き寄せ、ベッドに寝かせると俺が押さえ込む位置に回り込んだ。先程と逆転した立場だ。

 寝ているヴェラに、俺が覆い被さる。

 すると、腹の辺りに金色の銃口が突きつけられていた。

「……笑えないわよ。私に恩人を撃たせないで欲しいわね」

 俺は笑うと、銃口を自分の心臓部分に持って行く。

「狙うならここにしろ。それと、弾が入っていないようだな」

 そう言うと、ヴェラは悔しそうにしていた。俺から顔を背け、そのまま――。

「あんたも私の財産目当てでしょ。資金がどうのとか言っていたし……悪いけど、他を当たって貰える。どうせ私はトレース家を継げないわ。残念だったわね」

 俺はそれを聞いて。

「なるほど……好きな相手は片思いか、それとも身分が釣り合わないか。前者だな」

 片思いの部分に反応したヴェラを見て、彼女の鎖骨部分を指でなぞった。

「金も欲しい。お前のコネも欲しい。色々と欲しいが……お前の体も心も欲しくなった」

「あんた、酔っ払ったの? 成長後でテンション上がっているんでしょうけど、後で酷いことになるわよ」

 顔を赤くして抵抗するヴェラを押さえつけ、俺は笑う。

「分かった。なら勝負をしよう」

「また? 懲りない奴ね」

 呼吸が荒くなったヴェラを見ながら、俺は。

「この船でベイムに戻るまでが契約だ。数週間は港に滞在するんだったな?」

「……ちゃんと修理もするから、少し期間は延びるけどね。それがなに?」

 俺は笑顔をヴェラに向けて。

「俺は何もしない。だが、ベイム到着までにお前が負けを認めたら……俺にキスをしろ。気を付けろ。俺の事を考えるなよ。考え続けたら、俺に惚れるぞ」

「……あんた、明日とかどうなっているか見ものだわ。ご心配なく、あんたに惚れることは有り得ないから」

 俺はベッドから出て、ヴェラに手を貸して起き上がらせた。ヴェラは、そのまま部屋を出て行くときに、胸元を手で押さえて部屋を出て行く。

 去り際に。

「恩人だからここまでしても許したのよ。勘違いはしないでね。ただ、今日はありがとう」

 そう言ってドアを閉めた。

 首に下がった宝玉からは、七代目の声がした。

『今回は失敗だったな、らいえるサン』

 誰もいない部屋で、俺は勝利を確信しながら。

「俺は言いましたよね。最終的に勝つために負けることもある、と。なに、あとはおちるのを待つだけです。あの勝負で勝っても、彼女は納得しませんでしたからね。むしろ、負けたから渋々付き合う、では本当におちるまで時間がかかる。これで良かったんですよ」

 四代目が、笑いながら。

『負け惜しみにも聞こえるけどね。ま、今回はご苦労様でした。面白いと言うよりも、なんだろうね……いつもより攻めの姿勢は評価出来たかな』

 五代目も同意見だが、少し心配したように。

『普段のライエルよりも積極的だが、積極的すぎる。今回は逃げられない状況だから良かったが、逃げられる場合は撤退も視野に入れるべきだな。成長後が今回は良い感じで作用したな』

 七代目は、今回の鯨――白鯨の言葉を気にしていた。

『わしとしては白鯨の言葉が気になりますね。三百年前のウォルト家、わしらと関係がないと思いますか?』

 三代目は、少し考えた後に。

『……ない、とも言い切れないね。アグリッサを倒した時の情報が不自然に少ない。それに色々とやらかしている国だから、その興りも何かしらあるかもね。それにしても、らいえるサンも酷いよね。考えるな、か……言われると余計に考えるんだよね』

 ついでに、回収した魔石もくれてやった。

 今回、俺はトラシーの頭部を手に入れたのだ。鱗やら牙、そして金属と大量に手に入った。協力して貰ったので、魔石くらい渡さないと駄目だろう。ただ、トラシーの頭部は全て貰うと言ったとき、ヴェラが申し訳なさそうにしたのが少し気にはなった。

 何度も「本当にそれで良いの?」などと聞き返してきたのは、もっと分け前を寄越せと言われるのとは違う――こちらを心配しているような感じだった。

 俺はベッドに横になると、目を閉じる。

「まぁ、戻ったら色々と調べてみましょう。それに……ベイム到着までには、ヴェラは俺に惚れますよ」

 俺の言葉に四代目が。

『なんという自信過剰……明日が楽しみで仕方がないね』

 五代目がボソリと。

『俺なら耐えきれずに海に飛び込むかもしれん』





 ――トラシーの襲撃から、二日目の朝。

 ヴェラは船橋で船長と話をしていた。体が軽く、今なら誰にも負けないと思えるのは、きっと成長後のせいだろう。

 もっとも、ライエルを見ているので自制しようと心がけてもいた。

「やっぱり遅れるわね」

「距離も離れましたし、何よりも二日を潰してしまいましたからね。この歳でまさか成長が来るとは……まったく、昨日の事は忘れたいものです」

 トラシーを倒した事で、船内の全員に成長の傾向が見えたのだ。ライエルほど重くはないが、ヴェラも丸二日は何もしたくなかった。

 今も高揚感があり、冷静な判断が下せないと思っている。

 昨日は異様な高揚感に包まれた船内の様子を見て、船を進めるのは危険と判断して最低限陸に近付いて休んでいたのだ。

 船内の清掃や修理に時間を割いたが、おかげでどうにも港へは間に合いそうになかった。

「旦那が部屋から出て来てくれると助かるんですがね。あの速度が速くなるスキルですか? 使って貰えませんかね」

 ヴェラはライエルの名前を聞くと、嬉しそうにニヤニヤとしながら。

「出てこられないみたいよ。何しろ、かなり酷い状況だから」

 船長はヴェラを見ながら。

「お嬢様も人が悪いですね。旦那の所に何度も通って……」

「キスの借りを返しただけよ。安い物でしょ? 私のファーストキスだったのよ」

「それは確かに」

 船長は笑うが、同時に笑えない状況でもあるのを思いだして帽子を深くかぶり直した。

「しかし、このままでは赤字にはなりませんが、信用問題になりますね」

 ヴェラはそれを聞いて。溜息を吐きながら。

「そうなのよね……もう一回だけ、頼みに行こうかしら」

 船長は、嬉しそうなヴェラの横顔を見ながら、帽子をかぶり直すフリをして小声で。

「素直じゃありませんね」

 そう言うのだった――。





「止めろ! 止めてくれぇ! 俺をらいえるサンと呼ぶんじゃない!」

 与えられた部屋の中で、俺は毛布をかぶって耳を塞いでいた。

 ドアの向こうから、そして宝玉からも声が聞こえてくる。

「旦那、出て来て下さいよ」
「ライエルさん、頼みます、って」
「船が遅れているんですよ。話だけでも聞いて下さいよ、ライエルさん」

 船員たちが俺にフレンドリーになったのはいい。だが、俺を旦那とからいえるサンとか呼んで来る。

 止めて欲しい。何故なら――。

『おいおい、三日前のらいえるサンはどうしたんだい? ここは外に出てスキルくらい使ってあげなよ』

『女神すら惚れさせるんだよね? ヴェラちゃんももう惚れているかもよ? 結果を見に行こうよ』

 爆笑する三代目と四代目の声に、俺は毛布の中で叫んだ。

「ふざけろ! 俺は絶対に外に出ないからな! 絶対だ!」

 すると、今度はドアの前にノウェムたちが来たようだ。

「ライエル様、食事の時間ですので出て来て下さい。ここ数日、何も食べていませんよね?」

 ミランダも楽しそうに。

「さっさと出て来て愛を囁きなさいよ。ほら、約束でしょ? ゆっくりねっとり聞いてあげるから」

 アリアはドアを強めにノックしながら。

「いつまでウジウジしてるのよ! カビが生えるわよ! さっさと出て来なさい。そして、私たちにも熱い告白してみろよ!」

 シャノンは俺に助けを求めるように。

「早く出て来なさいよ! 怖いのよ! みんなテンションが高くて怖いのよぉ!」

 エヴァも疲れた感じで。

「私たちだけで相手をするのも疲れるから、早く出て来て代わってよ」

 クラーラは、そんなエヴァに対して。

「ライエルさんを身代わりですか。流石エルフ。汚い手段が得意ですね」

 メイはドアの向こうで。

「クラーラが一番変わるよね。朝からずっとこんな感じだし」

 ドアの向こうで、クラーラが活き活きしているのが分かった。

「ライエルさん、いつまでも引きこもっても解決しませんよ。外に出て私たちにからかわれましょうよ。女ばかりで退屈なんです。頬を染めた蜘蛛女とか、女傑とかうっとうしいので相手をしてあげて下さい」

「……おい、女傑って誰のことよ」

 アリアがドアの向こうで、クラーラを問い詰めていた。

「サハギン相手に返り血を浴びて、船乗りの男たちをドン引きさせた人ですよ。鏡を見ればきっと会えますよ」

 シャノンの悲鳴が聞こえてきた。

「船員たちが逃げたぁぁぁ! ちょっと、お姉様が腰から短剣を……早く出て来なさいよ、馬鹿ライエル!」

 俺は毛布に包まりながら、叫んだ。

「嫌だ! 絶対に外なんかに出るもんか! 到着するまでそっとして置いてくれ!」

 すると、鍵をかけたドアがゆっくりと開いた。

 モニカだった。

「いつまでもグジグジと……。そんなチキン野郎も素敵ですが、フィーバータイム中に私に愛を囁いて貰えませんでした。それが何よりも後悔ですね。次回に期待するとして、食事の時間ですよ。体も拭きましょう」

 ドアが開くと、シャノンが部屋の中に飛び込んできた。

「さっさと起きなさいよ! こいつらの相手をしてよ!」

 シャノンが俺を無理やり起こそうとすると、その頭に手が乗った。ミランダの手だ。ミランダはシャノンの頭を掴むと。

「シャノン……こいつらの中には、私も入っているのかしら? 貴方までそういう目で私を見ていたと思うと悲しいわ。お姉ちゃん、悲しいからシャノンを餌にして釣りをしたい気分」

 ギチギチと頭を掴まれたシャノンは、痛みと恐怖で悲鳴を上げた。

「ヒギャァァァ!!」

 ノウェムが、俺の食事を持ってきて笑顔で勧めてくる。

「数日何も食べていませんよね? さぁ、食べて下さい」

 クラーラも部屋に入ってくると、俺を見るなり。

「酷い顔をしていますよ、ライエルさん。何があったのか話してみませんか? 成長後にハイテンションでヴェラさんに告白したのが気になっているんですか? それとも、告白に失敗したのが悲しいんですか? どっちなんですか?」

 ネチネチと笑顔で責めてくるクラーラを見て、俺は涙目で毛布に包まった。

 エヴァなど。

「トライデント・シーサーペントに挑むところとか、商家のお嬢様を救うところは格好がよかったのに……なんでここにきて逃げ腰になるのよ。しまらないじゃない。歌ではカットね」

 クラーラが、そんな事を言うエヴァにいつもより強気で反論する。

「だからエルフは駄目なんですよ。事実は克明に記録しないと意味がないでしょうに! 私は全部記録しますよ。覚えていますからね。コネクションで繋がっていましたし、らいえるサンの言動とか、行動とか全部!」

 俺は叫んだ。

「忘れてくれよ! しかも記録に残す、ってどういう事だよ! 俺に一生、笑われろと言うのか! むしろ、変なところは全部カットでいいじゃないか! 記録に残すとか拷問だからな!」

 メイはノウェムが持っている俺の食事を見ており、モニカは俺の着替えを持って待機していた。狭い部屋がカオスになっていると、お客さんが来たのをアリアが知らせてきた。

「ライエル、お客さんよ。ほら、ちゃんと相手をしてあげなさいよ。告白した相手なんだし。あ~あ、私もあれくらい熱い告白とかされたいわ」

 アリアの期待するような視線を受けて俺は、イライラしながら思った。

(チラチラ俺を見るんじゃない!)

 心の中で文句を言いつつ、俺はドアの前にいるヴェラさんを見た。

「……なんですか?」

 相手は少し考え、そして溜息を吐きながら。

「そんな姿を見たらからかえないわね。まぁ、成長後にテンションが高かった、って事で許すから、私たちに協力しなさい。報酬も払うから」

 取りあえず、こんなカオスな状況から逃げ出したい俺は、毛布をかぶったまま立ち上がってヴェラさんについていくことにするのだった。





 船の先頭で、俺は毛布に包まって横になっていた。

 四代目のスキルであるスピードを使用して、船の速度を上げているのだ。船の大きさや、海の上とあってスキルを使用したときの感覚が微妙に違う。

 その調整をしながらスキルを使用すると、ガリガリと魔力を削っていく。

 しかし、以前よりも増えた魔力のおかげでなんとか維持出て来ていた。

「……このまま海と一つになって、何もかも忘れてしまいたい」

 そう呟くと、ヴェラさんの声がした。

「詩人としては微妙? それに、あんまりお勧めしないわよ。だから、海に飛び込むとか止めてよね」

 ゆっくりと転がって後ろを向くと、そこにはヴェラさんが立っていた。見上げると――。

「黒か……良いと思います」

 黙ったヴェラさんが、座り込むと俺に飲み物を渡してきた。カップにはスープが入っていた。

 怒ってはいるが、こちらに手を出してこなかった。

「結構余裕ね。それを飲んでおきなさい」

「……蹴られるかと思ったんですけど」

 言いながらカップを受け取り、口をつけると美味しかった。色々とあったが、やはり体は食べ物を求めているようだ。

 上半身を起こして座ると、ヴェラさんは俺に背中を預けるように座って。

「……前に言った好きな人ね。妹の恋人なのよ」

 俺は成長後の話を蒸し返されるのかと警戒するが、どうにも違ったようだ。

「昔から近付いてくるのはトレース家目当ての男ばかりよ。あんたもそうでしょ? ま、あそこまでしたのはあんたが初めてだけど」

「……すみません」

「謝るな。悲しくなってくるから。はぁ……昨日は夢を見たわ。いつも見ていた夢の続きを」

 夢の話を聞きながら、俺はカップの中のスープを飲んでいた。ヴェラさんは、どうやら海に沈んでしまう夢をよく見ていたようだ。

「でも、昨日は陸に上がる夢を見たの。なんだかホッとしたわ。これで悩まなくて済みそうだし」

「あの、なんで俺にそんな話を?」

 ヴェラさんは、少し考えてから立ち上がった。スカートを払ってから、俺から離れて行く。そして、振り返って。

「さぁ? そういう気分だったのかもね。なんだか夢のお礼も言いたかったし。それと、簡単にはおちないと理解して欲しかったから? ま、色男さんには私なんて数多くいるうちの女の一人でしょうけどね」

 笑顔でそう言って立ち去るのだった。

(俺はこの人が何もしないでおちるとか言ったのか? ……成長後の俺は馬鹿だよなぁ……いや、自分の事だけど)

 俺は何か声をかけようと思ったが、声が出ないのだった。
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