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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

続くのか? 十代目

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女神の好みは抗う者

 嵐の中、俺は大きな渦の中心にいるトライデント・シーサーペントを見ていた。

 腕を組み、水しぶきがかかって濡れてしまっている。甲板では、ノウェムたちが俺に戻るように声をかけていた。

 どうでもいいが、濡れている俺は二割増しで恰好いいと思う。

「ライエル様、戻って下さい! 濡れてしまいます!」

 髪をかき上げると、濡れており水が飛び散る。

「もうずぶ濡れだから問題ない。それよりノウェム、今の俺は普段と比べてどれくらい恰好いいか――」

 すると、ノウェムの後ろにいたモニカがツインテールを振り乱して。

「普段の五割増しで恰好いいです! 私のメモリーには、すでに万単位でチキン野郎の画像が保存されています! 動画もバッチリですぅ!」

 嬉しそうにクネクネしているモニカを見て、俺は。

「よく分からないが、嬉しいことを言う。ならサービスで上着も脱ぐか?」

 すると、アリアが俺を見て怒鳴ってきた。手すりに掴まり、揺れる船の上でアリアは視線を巨大な敵――トライデント……長いから、トラシーでいいか。

「いいから戻りなさいよ! あんな化け物が出て来たのよ! あんた、私たちがなんのためにここにいるか分かっているの! 護衛よ! 護衛!」

 赤い髪を濡らし、普段からピッチリしている服を好んでいるアリアは、濡れてほとんど体のラインが浮き出ていた。

「だからここにいる。因みに、俺は裸体にも自信があるんだが? 見ておかなくて良いのか?」

「なんであんたはこんなタイミングでぇぇぇ!!」

 アリアが叫ぶが、モニカは俺の方をワクワクしながら見つめていた。やはり脱ぐべきだろうと、上着に手をかけた。

 すると、甲板へと出て来たヴェラさんが、俺に声をかけてきた。

「そこの成長後の痛い奴! 黙って指示に従いなさい! 護衛の依頼はキャンセルよ。あんなのを相手に戦えとか言っていられないわ。すぐに脱出する準備に入りなさい!」

 甲板の上で、蹲っている船員たちが、脱出と聞いて顔を上げた。しかし、海はトラシーを中心にゆっくりと渦を巻いており、小さなボートでも逃げられそうにない。

 もしくは、渦に飲み込まれて沈んでしまいそうだった。

 俺は――。

「キャンセル? それは困る。あれは俺の獲物だ。特にトラシー王冠が気に入った! 俺はあれが欲しい! ついでに仕事もこなして、資金をゲットだ!」

 右手を握り、力説する俺に甲板に出ていた仲間、そして船員たちが唖然としていた。代表して、ヴェラさんが俺を指差して。

「トラシーって何よ!」

「可愛いだろ? トライデント・シーサーペントでは長いから今決めた」

「可愛くとか関係ないのよ! いい、あれは海の神とまで言われた魔物なの! 下手に手を出しても意味なんかないわ! ……もう、逃げるしかないのよ!」

 悔しそうに俯くヴェラさんは、どうやら気持ち的には抵抗していたいようだ。甲板には、船員たちが脱出のためか集まってきていた。

 ミランダも、シャノンの手を引いて俺の方へと近付いてくる。

「ライエル、あんた何をしているのよ!」

 驚くミランダの後ろでは、エヴァとメイが俺を見ていた。いや、俺の後ろに見える、トラシーを見ていた。

 海面から三つの頭部を見せ、こちらが近付くのを待ってくれている律儀な奴である。

「……嘘でしょ」

 エヴァがそう言うと、メイも普段と様子が違った。

「これは……僕でも無理だね。海にいる神獣たちが放置する訳だよ」

 どうやら、海にも神獣がいるようだ。見てみたい。

 杖を持ったクラーラは、言われるでもなく周囲を照らすために杖に明かりを点していた。

 厚い雲に覆われ、快晴だった空は暗くなっていた。

 まるで夜のようであり、そして海面は黒く染まって俺たちを飲み込んでしまいそうだった。

 甲板の上に人が集まってくると、船の動きが次第に渦に抵抗しなくなった。ゆっくりと流れに乗り、徐々にトラシーに近付いていく。

 揺れる甲板の上で、誰もが絶望した表情でトラシーを見ていた。

「なんで海の神様に……」
「お嬢様だっていたのに」
「ちくしょう……」

 船員たちが絶望している中で、俯いて握り拳を作るヴェラさんは下唇を噛んでいた。

 宝玉内から、歴代当主たちの声がした。

『流石にあれは大きすぎるね。しかも、僕たちには戦った経験がない。どうするのかな、らいえるサン?』
『逃げるにしても、こちらを獲物と見ていますしね。あれ、人間を食うんですか? あの巨体で、満腹になるのかな?』
『魔物に満腹とかあるのか? しかし、大きすぎて可愛くないな。もっと目がクリクリしていれば……』
『現状での最適解……囮を使用して生き残る、なんだが……さて、らいえるサンはどう出るのかな?』

 期待されている俺は、一人堂々と船の先頭でトラシーを指差した。大声で――。

「モニカ、あれは神か?」

 モニカは、揺れる船の上で水しぶきがかかり、雨が降っているのに服も髪も濡れてはいなかった。まっすぐ立つと、赤い瞳を光らせてから口を開く。

「魔物と断定します。大きいだけで、魔石の反応もしっかりありますね。まぁ、雰囲気だけはありますが。やはり、王冠のおかげでしょうか?」

「いいよな、あれ。俺は欲しい。高く売れそうだ。……さて、諸君。聞いての通り、あれは神ではない」

 すると、船員の誰かが。

「女神様の生まれ変わりだ! 三番目の女神様の……海で逆らえば、沈められて俺たちは魂まで囚われる!」

 迷信を信じている様子で、多くの屈強な船員たちが震えながら座り込んでしまった。

 俺は笑顔で。

「なら問題ない! 俺の家は、代々女神を信仰してきた。神一人くらい倒しても、まだ六人残ってる!」

 宝玉内からは、三代目の笑い声がした。

『そうだった。僕たち、基本的に七女神全員を信仰していたね。確かに、一人減っても問題なさそうだ』

 すると、ノウェムが俺を見て複雑そうな表情をし、アリアが俺に怒鳴ってきた。

「この罰当たり! あんたのせいで狙われたんじゃないの!」

 俺は、少し落ち着いて右手であごを触りながら。

「確かに。俺は持っている男だからな……女神が俺のために、資金源を差し出したのかもしれない。今はカツカツだからな。普段の信仰は大事だな!」

 アリアが、顔を真っ赤にしながら「なんでこういう時だけ自信に満ちあふれて……」などと言っているので、俺はトラシーを指差しながらポーズを決めた。

「……抗う者にこそ、女神は微笑む」

 周囲が俺を見ていた。やはり、俺は適当に言葉を言っても、持って生まれたオーラが、説得力を生むようだ。

 すると、ヴェラさんが顔を上げて俺を見た。多くの船員たちも、俺を見ている。

「祈るだけでは女神は微笑まない。生きるために足掻く者にこそ、女神は最後に微笑みかける。海の女神様とやらが、俺たちを試している。俺は挑むが……協力する者はいるか? ここで勝利すれば、俺たちは神に挑んだ者になる! 神殺し! どうだ、素晴らしい響きだろ!」

 すると、ミランダにしがみついたシャノンが小声で。

「こいつ絶対に頭おかしい」

 天才とはいつお常人に理解されないと、本で読んだことがある。こういう事かと、俺は小さく笑った。

(馬鹿め。魔物を倒して神殺しの称号が得られるんだぞ。お得ではないか!)

 ヴェラさんが、俺を見て深呼吸をしてから、問うてきた。

「勝算はあるのよね?」

 俺は堂々と。

「生きている限り倒せる。この世に最強などというものはない。因みに、勝算があるから戦うんだけどね。このライエル・ウォルト……未だかつて敗北したことがない!」

 すると、シャノンが小さい声で。

「……セレスにボコボコにされたわよね?」

 ミランダは、シャノンに向かって「シッ!」と黙っているように言っていた。

(ふっ、まだ負けてない。勝負中だ。俺は最終的に勝利する男! 今までの負けは、全て勝利への布石!)

 ヴェラさんは、俺の顔を見て。そして、振り返って船員たちに檄を飛ばした。

「あんたたち! このままこいつらに全部任せる気! この船は私たちの船よ。そこで好き勝手に暴れ回られて、黙ったままでいいの!」

 船員たちは俯いていた。

 そんな時だ。船長が帽子をかぶり直した。そして、声を張り上げる。

「お前ら、俺たちの幸運の女神様が戦えと仰せだ! このまま護衛の冒険者だけに、いい恰好をさせていいのか! どうせ負ければ終わりだ。逃げてもボートなら沈んじまう。なら、派手にいこうじゃないか!!」

 その言葉に、船員が顔を上げて立ち上がった。一人、また一人と。

「くそっ、本当についてないぜ」
「あの護衛、失敗したらぶん殴ってやる」
「ちっ、海の女神と幸運の女神……女神対決とか、誰得だよ」

 文句を言いながら、震えながら立ち上がる船員たちを見て、ヴェラさんが少し驚いていた。

 俺は、船が大きく揺れると、その勢いを利用してヴェラさんの前に飛んで着地をした。

 三代目が。

『ここで滑ったら面白かったよね』

 などと言うが、俺は立ち上がるとヴェラさんと向き合い。

「な、なに?」

「いや、貴方は正しく幸運の女神だ。何しろ、海の神とやらに挑むのに、俺という強者を船に乗せたのだから……さて、では勝つために一つお願いがある」

 勝つためと聞いて、ヴェラさんは真剣な表情になった。最初の部分は呆れたような表情で聞いていたが、真剣な表情の彼女を見て――。

「キスがしたい。それも、ディープな奴だ!」

「……は?」

 船員たちが、驚いた表情で俺を見ていた。

「な、なに!」
「こいつ!」
「おい、誰か銃持って来い!」

 驚く彼女に抱きつき、船が揺れる勢いを利用して後ろ腰を左手で支えた。倒れそうなヴェラさんを支えている形だ。

 驚いて抵抗出来ないヴェラさんに――。

「失礼。だが心配ない。すぐに俺のものにしてみせる」

「あんたやっぱり頭おかし――ンッ!」

 口を塞ぎ、そして舌を入れた。抵抗するヴェラさんが俺を押しのけようとするが、男の力に抗えないのかされるがままだった。

 五代目の声がする。

『なんでライエルは、普段からこれだけ積極的じゃないんだろうな』

 四代目も同意見のようだ。

『普段からこれなら、もっと楽なんだけどね』

 しばらくして、ヴェラさんをゆっくり立たせると、彼女は後ずさりしながら袖で口元をぬぐって俺を睨み付け――そして目を見開いた。

「あ、あんた……そう、いう事ね。確かに、勝つためには必要だわ」

 俺は、笑顔で。

「そうでしょう? だから、俺の周りにいる船員に、銃を下ろせと言ってくれません?」

 俺の周りでは、目を血走らせた船員たちが銃を構えて今にも引き金を引きそうになっていた。

「こいつお嬢様になんてことを!」
「頭吹き飛ばしてやる!」
「魚の餌じゃぁぁぁ!!」

 船長も憤慨した表情で俺を見ており、すぐにでも「撃て」と言いそうだった。しかし、それをヴェラさんが止めた。

「止めなさい! 悔しいけど、勝つためには必要だったわ。ほら、船が流されてるわよ! 配置につく! ライエル! あんた、私にキスをしておいて、負けましたとか絶対に許さないからね!」

 頷きながら、俺は周囲を見た。先程までの恐怖や緊張は、いくらか和らいでいた。

(さて、ヴェラさんも船員も、緊張がほぐれたな……)

 悔しそうに銃を下げて自分の配置へと戻っていく船員たちを見て、俺は勝ち誇った笑みを浮かべ。

「当然だ。勝たなければ俺が財産的に死んでしまう。さて、それでは本気を出していこうか。モニカ、俺の傍につけ。メイはシャノンの傍だ。シャノンの目が必要になる。アリア、エヴァ、クラーラは船内に配置させる。ヴェラさんの指示を聞け。ノウェム、ミランダは甲板の前と後ろに配置だ」

 指示を出すと、ノウェムが俺の側に来た。

「ライエル様、勝てますか?」

 聞かれた俺は。

「勝つ! それに魔物を倒して神殺しと呼ばれるんだぞ? ランドドラゴンより効果があると思わないか? 帰ったら有名人だ。また騒がれる……やれやれだな」

 すると、苦笑いをしたノウェムが、俺を見ながら。

「女神は抗う者に微笑む、ですか……そうかも知れませんね」

 俺は笑顔で、自分を親指で指を差しながら。

「だろ? このライエル・ウォルト……女神だろうが惚れさせる自信がある。むしろ、もう惚れられたかも知れない。罪作りな男だ」

 ノウェムは、おかしかったのか笑いながら何度も頷き。

「そうでしょうね」

 そう言うのだった。





 ――ヴェラは、濡れた衣類をすぐに着替えて船橋に来ていた。

 左手で頭を押さえ、痛みに耐えている。慣れない情報に困惑しながらも、正確にそれらを理解していた。

(船の周囲が分かる。海の中……船の中まで……これだけのスキルを、共有して使用出来る。あいつ、本当に凄かったのね)

 そんなヴェラを、船長が心配して声をかけた。

「お嬢様?」

「面舵よ。それから、動力炉には魔石をガンガン投入して! 大砲が届く距離まで近付くわ」

「い、いいんですか!」

 驚く船員に、ヴェラは言うのだ。

「こっちの攻撃が届かないと意味がないわ。それから、大砲に関しては発射のタイミングは冒険者の指示に従って貰うから」

 船員がまたも驚いていた。

「そ、そこまで任せて大丈夫なんでしょうか?」

「責任は私が取る! あの三つ首の魔物に、人間様の怖さを教えてやろうじゃない! それと、動力炉に人が足りないわ。急いで応援を送って!」

「は、はい!」

 次々に指示を出すヴェラは、頭の中に浮んだイメージを再度確認した。

(分かる。人の動きまで。それに、声まで聞こえてくる)

『ちくしょうぉぉぉ!! 私だけ他より数秒短かった!!』

『モニカ五月蝿い! こっちはずぶ濡れで大変なのよ! ブホッ! ゴホッ!』

『あ~あ、またシャノンが水を飲み込んだ。目が見えるなら大丈夫じゃないの?』

『クラーラ、あんたさっきから反応ないけど、変な妄想してんじゃないの?』

『……アリアさん、キスするときに凄く乙女な感じだったのは、あなたも同じですからね』

『熱い! ここ凄く熱い! なんか魔石を大きな釜に放り込んでるの! おかげで凄く熱い!』

『エヴァ、あんたも黙って! こっちは外でずぶ濡れで寒いんだから!』

『ライエル様、情報は手に入りましたか?』

『クラーラのスキルで問題なく手に入った。どんな攻撃をするのか、分からない、という事が分かった。大収穫だ!』

 ヴェラは、頭の中で聞こえてくる声が五月蝿く、手で頭を押さえていたのだ。

 船橋では船員たちが、慌ただしく報告をしてくる。それを、ヴェラもライエルに伝えるのだ。

『準備出来たわよ。大砲の発射はそっちに任せて良いのよね?』

 すると、ヴェラにライエルが返事をした。

『任せろ。勝たなければ未来がないからな。……今の良い感じじゃなかったか?』

『流石です、ライエル様』

『ちゃんとやれよ! なんで余裕なのよ! 目の前にあんな大きな魔物がいるのよ! あんた、どうしてこんなタイミングで……ウザいのよ!』

 シャノンという少女の言葉に、ライエルは。

『普段より抑えているつもりだが? ほら、俺ってオーラが一般人と違うから、抑えるだけでも大変なんだぞ。適当なことを言っても、みんな信じるからな。やっぱり持って生まれた才能だな』

 ライエルの言葉に不安になってくるヴェラだが、ライエルの言葉の後に男性の声が聞こえた気がした。

『間違いない。才能だ』
『ですね。ここまでの猛者はなかなか……』
『なぁ、今回は『女神だろうが惚れさせる』でいいんじゃないか?』
『まだ始まったばかりではないですか。おや、変なラインが……あ』

 プツリと声が止むと、ヴェラは頭を何度も振った。聞こえたのは、男性――しかも、ライエルの声ではなく、それなりの男性の声だ。三十代前後の声に聞こえ、まるでこの状況を楽しんでいるようだった。

(……どういう事)

 ヴェラがそう思っていると、船は動き出してトラシーに近付く。

「お嬢様! 大砲が届く距離に来ました!」

「発砲はまだよ! 指示に従って!」

(くっ、今は考えている余裕がない)

 ヴェラがトラシーに意識を集中すると、頭の中に響く声も徐々に真剣なものになっていた。だが、ライエルだけは――。

『あ、決め台詞! 決め台詞が必要ではないだろうか! くそっ、いつもの楽しんでいこうが言えなかった……』

 こんな調子だった――。





 甲板の上、中央辺りに立つ俺は隣のモニカに視線を向けた。

 かつて、アラムサースの迷宮でボスから回収した金属の鈍器。それを、モニカは修復して大砲にしていたのだ。

 細く小さな体に不釣り合いな大砲を構え、モニカは俺に。

「この武器は未完成です。それに、試射をしていません。弾数も徹甲弾五。榴弾二という少なさです。一射目で誤差は修正しますが、この嵐の中です。命中率は距離もあって低いと思って下さい」

 完璧に仕上がっていない大砲を構えるモニカに、俺はそれを聞いて。

「十分だ。まずは優雅に構えているあいつに、少し本気を出して貰おうか」

 モニカは首を傾げながら。

「怒らせて宜しいのですか?」

 俺はモニカの身長の倍はある大砲を見ながら。

「こいつで致命傷を与えられないなら、次の手立てに移るだけだ。そうなった場合、近付いて貰った方が倒しやすい。さて、俺もやってみるか」

 宝玉を左手に持って首から外すと、宝玉の銀の装飾部分が大きな弓の形になった。長弓は、俺の身長を超える大きさになっており、糸がない。だが、魔力を流し込むと青白い光が発生して糸を作った。

「お前ともラインは繋がっている。俺の方で修正してもいいぞ」

 すると、モニカは。

「舐めないで下さい。当てるだけなら簡単なのです。精密度が違いますよ。ですが、本当に中央の頭部は狙わないでいいので? 明らかにあそこが急所のような気がしますが?」

 モニカに対し、俺は――。

「あの王冠のような奴が吹き飛んだら嫌だからな。ま、吹き飛ばせない方がいいんだが……あの真ん中の頭は、俺が頂く」

 そう言って甲板の上で弓を引くと、光の矢が出現して形を整えていく。ただ光っていた矢が、ゆっくりと細部まで整って矢の形を再現していく。

 そこから十分に狙いを定めると――。

「これくらいで沈むなよ」

 矢を放った。青白い矢は、真っ直ぐにトラシーの右側の首目がけて直進すると、相手も気が付いたのか首を動かした。

 だが――。

「徹甲弾、行きます。耳を塞いで口を開けておいて下さい」

 モニカに言われた通りにすると、大砲が火を噴いてモニカが甲板の上で耐えた。甲板の木造部分が軋み、そして船にも振動が伝わる。

 砲身からは、水しぶきや雨が当たって蒸発して白い煙を出していた。

 頭には、ヴェラさんの声が聞こえた。

『ちょっと! うちのより凄そうじゃない! あんた、そんな兵器を隠し持っているなら、いいなさいよね!』

 だが、俺は手を耳から離すと、砲弾が当たった左側の頭部を見た。右側の頭部にも、光の矢は直撃したのは間違いない。

 煙が晴れると、直撃した頭部が激怒したのか天を向いて咆吼した。こちらにまで空気の振動が伝わってきた。

 渦が勢いを増し、こちらを急いで近づけようとしている。

 中央の頭部が、大きく口を開くとそこに青白い魔力の塊が発生して膨らんでいく。俺はそれをスキルで確認した。

 シャノンの魔眼から得られた情報と。

 二代目のスキル。そして、六代目のスキルから得られた結論は――。

「直撃すると木っ端微塵だな。あれはまずい」

 モニカは俺の顔を見て。

「その割には楽しそうですが?」

「簡単だ。直撃しなければいい。ノウェム、ミランダ、指示通りに展開してくれ。それから、右舷の大砲は俺の指示に合わせて発射だ。それと、ヴェラさんは船の速度を上げてくれ。もっと近付いてもいい」

 俺のスキル――コネクションで繋がったノウェムとミランダ、そしてアリアから返事がきた。

『準備はできています』

『逸らすだけ……簡単にいってくれて』

『いつでもいいわよ』

 ヴェラさんは。

『指示を出すならもっと早くして。急に動けないんだからね!』

 トラシーの中央の頭部が、こちらに口を大きく開いて青白い魔力の塊を発射してきた。遠くて動きはゆっくりに見えるが、近付くにつれてスピードが上がってくるように見えた。

 俺は、右手を横に振り払うと。

「マジックシールド展開!」

 ノウェムとミランダのマジックシールドが展開すると、船が守られるように一瞬だけ層の厚いマジックシールドが展開した。

 しかも、形は歪で、船が速度を上げたこともあって直撃コースから外れた。船から逸れた魔力の塊は、遠くで海面に激突すると大きな水柱を上げていた。

 モニカがソレを見て。

「確かに。一撃で吹き飛んでしまいますね」

 俺は右手を前に突き出し。

「撃てぇ!!」

 右舷から砲身を出した大砲が、一斉に火を噴くと俺はスキルであるセレクトを使用する。

 砲弾が命中するようにトラシーの両脇の頭部に狙いを定めたのだが、直撃すると淡く光ったトラシーの姿を見た。

 モニカは、冷静に分析する。

「魔力というとんでもエネルギーで、体の周りを覆っていますね。今の攻撃も、衝撃のほとんどが本体に伝わっていません。私とチキン野郎による攻撃の方がまだマシですね。よく見れば、両脇の頭部は、先程の私たちの砲撃で傷が入ったようです」

「そうか。真ん中を狙わなくて良かったよ」

 それを聞いて、俺はトラシーを見た。こちらを赤い瞳で睨み付けており、先程よりも渦の勢いが増していた。

「本気になったらそれでいい。さて、近付くか、それとも遠距離で攻撃を続けるか……」

 モニカは。

「近付いてくるようです。怒らせるのは成功しましたね」

 俺は笑顔で弓を構えた。先程よりも、矢の本数を増やして少し上に向けて放った。動き出したトラシーに、光の矢が降りかかっていく。爆発を起こすが、青白い光に守られて決定打にはなっていない。

 すると、トラシーは海面に潜った。

 モニカは。

「渦が止みましたね。どうやら、止まっていないと発生させられないようです」

 俺はヴェラさんに指示を出す。

「渦が止まりました。そのままトラシーから逃げ回って下さい」

『簡単に言わないで! あぁもう! 取り舵! 取り舵よ!』

 船はゆっくりと左に方向を変えていき、速度を上げておりトラシーがこちらを追いかける形になった。

「さて、出て来たところを狙うか」

 俺とモニカがもう一度弓と大砲を構えると、海面に向かって先に俺が矢を放った。すぐに、耳を塞いで口を開けると、モニカが大砲をぶっ放した。

 海面に水柱が二つ。

 トラシーの動きが鈍ると、船と距離ができる。

 宝玉内からは。

『あれ? このままはめ殺しかな?』
『いや、もっと本気があるはずです』
『だけど、タフだな……こっちが不利じゃないか? モニカの大砲は、残弾が五発か』
『ですが、やはり大きいと迫力がありますな。持ち帰るのは一部分だけ……そうなると、やはり中央の頭部がいいですね』

 モニカが、次の砲弾をセットしていると、トラシーの頭部……中央部分以外が海面から顔を出し、口に青白い光を集め始めた。

 溜息を吐きつつ、俺は弓を素早く構えて放つ。

「何度も同じ手を……ついでに、遅い!」

 光の矢が口元の青白い光に当たり、爆発すると自分の魔力でダメージを負うトラシーの頭部。ゆっくりと海面に倒れると、またしても動きが鈍った。水中で体勢を立て直そうとしているようだ。

「ハハハ、追撃だ!」

 俺の言葉に、モニカも。

「了解です」

 大砲を持って海面を狙える位置へと移動すると、そのまま大砲を向けてまたもぶっ放した。

 距離が離れすぎたので、俺はヴェラさんに速度を落として貰う。

「速度を落として貰えます?」

『……分かったわ。それより、このまま逃げないでいいの?』

「え?」

『え?』

 逃げるという選択肢を選んだヴェラさんに、俺は――。

「勝てるんでいいです。というか、ここで何か持って帰らないと、うちの資金繰りが大変なので……」

 すると、モニカが次の砲弾をセットして俺に。

「どうやら激怒したようですね」

 トラシーへと視線を向けると、中央の頭部が海面から姿を見せて自分の他の頭部に噛みついた。噛みついて、暴れ回る他の頭部を切り離し、もう一方も争いながらかみ切ろうとしていた。

「……よし、砲撃だ」

 トラシーは、俺たちを待ってくれていた。だが、俺たちが待つ必要はない。せっかくできた隙なので、利用する事にした。

「そんな鬼畜なチキン野郎が、このモニカは大好きです。ガンガン行きましょう」

「俺も大好きだ。愛してるぞ、モニカ」

「……ッ! 今なんと! ちくしょうぉぉぉ!! 撮り損ねた! もう一度お願いします! もう一度だけ爽やかな笑顔で!」

「ハハハ、そう簡単には言えないな。さて、続きと行こうか。終わったらいくらでも愛を囁いてやる。お前ら全員にな!」

『真面目にやれよぉぉぉ!! お前、絶対に馬鹿だろ! なぁ!!』

 甲板の上で泣き叫びながら抗議するシャノンに、俺は笑顔を向けた。メイに守られながら、シャノンは魔眼でトラシーを見つめているのだ。

「さて、愛を囁く前に、素材と魔石を回収するか」

「は、早く片付けなくては! 時間が! チキン野郎のフィーバータイムが終わる前にぃ!」

 自分と同じ体を持つ頭部と争っているトラシーに、俺たちは容赦なく攻撃を浴びせるのだった。
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