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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

続くのか? 十代目

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トライデント

 寝泊まりをしている客室。

 そこで俺は、朝からグッタリとして寝込んでいた。青い顔をしていると思う。動くのも辛く、気分が悪かった。

 近くには桶が置かれ、部屋ではノウェムが俺の看病をしていた。

「ライエル様、大丈夫ですか? お水を飲みます?」

 成長前の体調不良。

 それが顕著に出る俺は、同時に船酔いにもかかっていた。昨日の夜から何度も吐いては、ノウェムやモニカに迷惑をかけていた。

 そんな俺の様子を見に、シャノンが部屋にやってきた。

「うわ、なんか酷い……」

 嬉しそうな表情で、俺の弱った姿を見るシャノン。その後ろには、洗濯物を持ち込んだモニカが立っていた。

「この小娘。チキン野郎のフィーバータイムの前です。静かにしてください」

 嫌そうな表情でシャノンを見下ろしていたモニカだが、俺が視線を向けると笑顔で――。

「チキン野郎、シーツを洗濯して衣類も完璧です! さぁ、着替えましょう。フィーバータイムをそんな寝汗でベットリな服で迎えてはいけませんよ」

 本当に嬉しそうに俺に着替えを勧めてくる。ノウェムも、苦笑いをしながら立ち上がると、俺を立たせるために手を差しのばしてきた。

 手を取るのも面倒な俺は。

「もう、放っておいてくれ。それから、絶対に今回は失敗しない。いいか、絶対だ! 俺は今まで四回も失敗してきたんだ。五回目は……五回目以降はもう失敗しない」

 毛布を頭までかぶると、シャノンが笑っていた。

「無理。絶対無理。また恥を晒すといいわ」

 すると、ノウェムが俺に抱きついてくると、そのままゆっくりと体を起こさせた。きっと酷い顔をしている俺を見て、笑顔で座らせると服を脱がせ始めた。

「体を拭けばスッキリしますから。さぁ、ライエル様」

 かいがいしく看病するノウェムを見て、宝玉からは声が聞こえてきた。四代目の声だ。

『こういうところは最初からまったく成長してないよね。最初の頃を思い出すよ。宿屋で頭を洗って貰って、気が利かないでやって貰って当たり前、みたいな状態だったし』

 フォローしてくれるのは、七代目だ。

『成長まで体調不良です。今は仕方ないでしょう。ですが、最初の頃を思えば、ライエルは随分と成長しましたね』

 五代目が、少しいつもよりも声が低く。

『……随分と最初の頃より寂しくなったけどな』

 三代目は、いつものように飄々と。

『でも、ライエルの周りは賑やかだからいいんじゃない? ほら、僕たちは本当ならここにはいない訳だし。ライエルの成長を見られるだけでも幸運と思わないと』

 良いことを言っているようだが、俺には“成長”の部分に悪意を感じて仕方がなかった。

(それは歴代当主の言う“らいえるサン”の事を言っているのか? くそっ、素直に受け止められなくなったのは、絶対にこの人たちのせいだ!)

 家を出てから、俺も随分と性格が悪くなったと思う。





 ――アリアは、部屋で本を読んでいるミランダに声をかけた。

 クラーラもだいぶ船になれてきたが、本を読むと気分が優れないので今は外に出て空気を吸っていた。

 アリアは、甲板で日課のトレーニングを終えたので、タオルを肩にかけて部屋に戻ってきたのだ。

「シャノンは?」

 すると、ミランダは本から視線を外すことなく、ベッドの上に座ってページをめくりながら。

「ライエルの所よ。あの子、気になってしょうがないんじゃない?」

 アリアも、少し頬を染めて照れ隠しに顔に手を当てながら。

「あぁ、数日はあの状態だからね。起き上がったらテンション高いだろうし」

 ミランダは本を読みながら、アリアに話しかけた。

「ある意味で最強よね。恥とか照れとかまったく感じないから、能力をフルに発揮するのはあの時くらいだし。今まで戦闘には出てないけど、普段のライエルとどっちが強いのかしらね」

 アリアはタオルをベッドの手すりにかけ、服を脱いだ。汗で張り付いた服を脱ぐと、着替えを探すためにバッグに手を入れる。

「成長後は失敗が多いから、戦闘は避けるのが基本じゃないの?」

「……そうだけど、気になったのよ。実際、ライエルの本気、ってどれくらいか気にならない?」

 アリアは体を拭いて着替えると、ベッドの上に座った。

「本気? まだ手を抜いているの?」

 ミランダは本を読み終えたのか、閉じるとベッドの上に置いて。

「違うわよ。全力でスキルを使用したらどうなるのか、って事よ。ライエル、八つもスキルを持っているのよ。支援系だけと言っても、その数は驚異的じゃない? 代々青い玉を受け継いできて、スキルに重複がないから余計に凄いのよ」

 言われた意味が理解出来ず、アリアが首を傾げているとミランダが呆れつつも説明してくれた。

「いい? 普通はどうしてもスキルとなると、肉体強化とか分かりやすいスキルが発現しやすいのよ。でも、最初から持っていれば、違うスキルが発現しやすいでしょ」

 アリアは頷きながら。

「なんとなく分かったわ。私の赤い玉も、肉体強化のスキルがあるし。というか、ライエルのスキルとはどう違うのか分からないけど」

 同じ強化系のスキル。

 赤い玉は前衛系のスキルの強化系を発現させ。

 青い玉は支援系の強化系を発現させる。

 だが、そこに小さな違いはあっても、同じ強化系のスキルである。ミランダは両手を上げて降参のポーズを取ると。

「専門家でもない私が説明出来るわけがないじゃない。微妙な違いがあるんでしょ。それより、夜はノウェムと交代で私がライエルの面倒を見る事になったわ。今から寝るから起こさないでね」

 ミランダは本を部屋にある小さな机の上に置いて、横になると毛布をかぶって目を閉じた。

 アリアは。

「え、そんなの聞いてない……って、もう寝てるし!」

 すぐに寝てしまったミランダを見て、アリアはこの後をどう過ごすか考えるのだった――。





 ――ベイム、ライエルの屋敷。

 大きな屋敷では、庭でマクシムが槍を振るって技を磨いていた。

 オートマトンの二号が、芝生の手入れをしており広い屋敷には二人だけの姿が見えるだけだった。

 基本の動きを繰り返すマクシムが、汗をぬぐって休憩に入ると屋敷から悲鳴が聞こえてきた。

 アデーレだ。

「どういう事ですかぁぁぁ!!」

「アデーレお嬢様!!」

 マクシムはタオルを投げ捨て、槍を持って屋敷に飛び込むとそのままアデーレの部屋へと向かうのだった。

 オートマトンの二号は、マクシムのタオルを回収して一言。

「これがご主人様のものなら保管するのに……はぁ、仕事に戻りましょうか」

 そう呟いていた。

 アデーレの部屋に飛び込んだマクシムは、机に突っ伏すアデーレを見て叫んだ。

「大丈夫ですか、お嬢様!」

 すると、ゆっくりと顔を上げたアデーレは、涙目でマクシムに助けを求めて来た。

「大丈夫ではありません。なんですか、この書類の山は。どうしてザインやロルフィスの書類が、ベイムのライエルさんの屋敷に届くんですか!」

 マクシムは、書類の山を見ながら。

「……両国で活躍をした英雄なので、こういった書類もあるのかと? あ、あるのでしょうか?」

 すると、アデーレは机を手のひらで何度か叩いて。

「ある訳がありません! なんでこちらに報告が来るんですか! なんで提案が来るんです! あの人、いったい何をしたんですか! しかも、こっちのロルフィス王女殿下からの書類……ラブレターじゃないですか! なんですか! 何をやったんですか、ライエルさん!」

 マクシムは、悔しそうに俯きながら。

「申し訳ありません、お嬢様。俺では助けることが……」

 アデーレは溜息を吐きながら。

「それでは、飲み物のおかわりを頼めますか、マクシム。今日の夕方には取りに来るそうなので、それまでに終わらせておかないと」

 疲れ切ったアデーレから、カップを受け取った。マクシムは槍を脇に挟んで大事そうにカップを持って、部屋から出て行く。

「すぐにご用意いたします!」

 廊下を走るマクシムを、掃除をしていていたオートマトンの一号が。

「廊下を走ってはいけませんよ」

 そう注意してきた――。





 ――船の旅が六日目にさしかかった頃。

 ライエルはまだ寝込んでいた。

 今では言葉を発するのも苦痛なようで、誰が話しかけても「あー」とか「うー」などの返事しかしない。

 船橋でそろそろ危険な海域に入るため、顔を出したヴェラもライエルの部屋に立ち寄ったが酷い状態のままであるのを確認していた。

 船長が、ヴェラに護衛であるライエルたちの様子を聞いてきた。

「お嬢様、冒険者たちの様子はどうです? もう数人は平気で動き回っているようですが、男の方が姿を見せないので船員たちが心配していましたよ」

 心配というか、本当に役に立つか疑問に思っているのだ。

 ヴェラは、見て来た様子を偽りなく話した。

「成長前で駄目ね。タイミングが悪すぎるわ。いるわよね、そういう運のない奴、って。どんな冒険者も、一流なら多かれ少なかれ、そういった運を持っていると思っていたけど、彼らは違うみたい」

 船長は帽子を深くかぶり、苦笑いをしていた。

「そいつはまた……ま、こちらにはお嬢様がいるので安心ですが」

 ヴェラは、少し表情が硬くなったが、すぐに笑顔で。

「幸運の女神って噂? 止めてよね。男が寄りつかなくて困っているのよ」

 船長は大笑いをしながら。

「男の方に見る目が無いんですよ。お嬢様はいい女ですから、その内に嫌でも群がってきます」

 ヴェラは「そうだといいけどね」などと軽口を叩くと、内心では気分が良くなかった。

(近寄ってくるのは、金目当ての男だけよ。それに、こうして海の上でどうやって出会えと? まったく……)

 ヴェラは、妹と仲が良い使用人の少年を思い出した。年頃は同じなのだが、屋敷で下働きをしていた少年――その彼が、ヴェラの初恋だった。

 未だに引きずっているのだが、その彼は自分が船で海に出るようになると妹と付き合い始めていた。姉妹の仲も悪くなく、妹には応援するとヴェラは言った。

(……妹には呼び捨てで、私にはどこでもお嬢様扱いだったわね。昔から脈無しだったけど、正直辛いわ)

 少年からのプレゼントである赤い日傘は、妹がお金を出して買わせたのを知っていた。

 妹に気を遣わせたと思うと、ヴェラは自分が情けなくなってくる。

(お父様が認めれば、後継者は彼で決まり。そうなると、私は今後も船に拘束されるのか……)

 未だに妹と少年の関係は認められていない。だが、それも時間の問題ではないかと、ヴェラは思っていた。使用人の少年は才能もあり、真面目な性格だ。

 そんなところに、ヴェラも惹かれていた。

(はぁ、もう少し、ちゃんと話しておくべきだったかな……帰ったら、少し三人で話を……)

 考え込んでいると、船橋にいくつもある金属の筒から声が聞こえた。それは、見張り台に繋がっているものだ。

『な、何か見えた! それに、急に空が曇って――』

 慌て出す船員に、船長が怒鳴りつけて正確な情報を言わせた。

 ヴェラは、船橋の窓から外を見ると、そのまま船橋から飛び出して外に出た。

「どういう事よ。風なんてなかったのに……それに、こんな……」

 周囲は先程まで快晴だった。鳥が船の周りを飛んでいたのに、今は姿が見えない。渦を巻いた雨雲が広がっており、雨が降り始めるとヴェラは黒髪をかきあげて前を見た。

 近くにあった手すりに掴まると、船が大きく揺れ始める。

 船員が、ヴェラの後についてきて戻るように言う。

「お嬢様、早く中に! 濡れますから!」

 ヴェラは、真っ直ぐに船の針路方向を見ていた。そして、船員に手を向けるとすぐに指示を出した。

「すぐに戻るわよ! 取り舵でも面舵でも良いから、すぐに進路を変更して!」

 だが、船員を押しのけて船長が顔を出してきた。

「お嬢様! 舵が利きません! まるで吸い込まれているみたいに、前に引き込まれています!」

 ヴェラは、悔しそうに真正面を見た。

 そこには、海面から顔を出す大きな魔物――いや、海の神と言われる【トライデント・シーサーペント】がこちらを見ていたのだ。

 三つの頭を持ち、中央の頭部にはまるでトライデント――アゴの横に鋭く伸びた爪とも牙とも分からない金属のようなものが見えた。

 他の頭部にはないが、三股の頭部から六つの赤い瞳が自分たちを見ているのは気が付いた。

 絶望するしかなかった。ヴェラ・トレース号などよりも何倍も大きく、そして船乗りたちには見れば生き残るのは困難とされている魔物。魔物であり、海の神とまで言われた存在が、自分たちを獲物として見ていたのだ。

 首が三股に分かれている部分の少し下には、大きなヒレが見えていた。海面に浮び、こちらが来るのを待っているようだ。

 甲板の上では、船員たちが座り込んで頭を抱え込んでいた。

 船長も、トライデント・シーサーペントを見て、帽子を深くかぶり。

「……船から降りてください、お嬢様。まだボートなら見逃されるかも知れません」

 ヴェラはゆっくりと船長を見ると。

「逃げられるわけがないでしょ。この船も引き込まれているのよ」

 トライデント・シーサーペントを中心にゆっくりと渦を巻く海面を見たヴェラは、手すりに拳を振り下ろした。

「……何が幸運の女神よ。こんなところで」

 もう、家族には会えないと思ったヴェラだったが、それでもこの状況から逃げられるならと考えてしまった。

 そして、首を横に振った。

(何を考えているの! こんな状況で沈めば、本当に海の底に……海の底? まさか、あれは予知夢だとでも)

 ハッとして顔を上げたヴェラは、悔しそうに歯を食いしばっていた。

「……戦闘用意。大砲を出しなさい。いつまでも海の神とかのさばらせておくわけにはいかないのよ!」

 だが、船員たちは絶望した表情で。

「でも、お嬢様……相手は神様で」
「おっかねーよ。海の神様に銃を向けるとか」
「大砲なんかで海の神様が倒せるわけが……」

 船長も諦めた様子だった。何しろ、それだけ相手が圧倒的なのだ。中央の頭部は、王冠をかぶっているようにも見えた。金色の王冠と、口の横に伸びた金色の鋭い刃。

 口と合わせて、三股の槍に見えた。

 雨雲から雷が落ち、黒い影であるトライデント・シーサーペントを青白い光が照らした。青い鱗が綺麗に七色の光を反射し、そして自分たち獲物が来るのを待っている様子だ。

 ヴェラはもう一度、声を張り上げた。

「戦闘準備! このままやられてたまるもんですか! こっちは最新鋭の船なのよ!」

 だが、船員の一人が。

「……それでも、海の神様には」

 絶望した様子で、他の船員も動こうとしなかった。もう一度、ヴェラは拳を手すりに叩き付けた。

 雨が強く降り始めると、ヴェラは目の前で待つトライデント・シーサーペントを睨み付け――そこで気が付いた。

 甲板の上を歩く、青い髪をした少年の姿だ。

 気分が悪く、寝ているはずだった少年は、堂々と座り込んだ船員たちを無視して船の先へと向かっていた。

 雨を受け、それでも本人は揺れる船の上で先頭を目指し、敵を見て――。


「パーフェクトォ!! 素晴らしいぞ、その巨体、雄々しさ、神々しさ!! お前はこの俺にこそ相応しい相手だ!」


 ヴェラは、その嬉しそうな声を聞いて身を乗り出し。

「あいつ、あんな所で何を――」

 ライエルは、雨の中で両手を大きく広げ、そして大声で。

「成長記念の一発目の相手に相応しい。貴様……俺の資金集めの糧となれ!! フハハ、フハハハ……ゴホッ! 少し海水を飲んだ。水しぶきが酷いな」

 巨大な敵を前に、ライエルは高笑いをして船が波にぶつかり海水が舞い上がってそれを飲み込んで咳き込んでいた――。
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