挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

続くのか? 十代目

163/345

お金

 屋敷には本館の他に大きな倉庫があった。

 地下には通路と何かを研究していた形跡のある地下施設が存在し、地下牢のようなものまで存在している。

 そんな場所で、ダミアンははしゃいでいた。

「いいね! いいね! なんだか研究するのに打って付けの場所だよ! 倉庫には大型ポーターを置いて、僕はここで理想の女性を生み出す研究だ!」

 以前よりも肌つやの良いダミアンは、目を輝かせて地下施設で喜びながら回転している。

 三体のメイドが、それを聞いて早速。

「……あら、こんなところに埃が」

 指先で家具をなぞり、チラチラとモニカに視線を向けていた。それを見て、モニカがツインテールを振り乱して反論する。

「戻ってきたばかりなんですよ! こちらは優先順位が低いので、掃除は後回しだったんです! お前ら、ここに住みたいなら、ちゃんと手伝いくらいしやがれ、です!」

 ダミアンは、眼鏡を指で押し上げて位置を直していた。はしゃいで眼鏡の位置がズレたようだ。

「僕の作業に支障がない程度には使って良いよ。さて、道具なんかを運び込みたいけど、この施設だと違う場所に搬入口がありそうだね。色々と調べておくのも悪くない。あ、そうだ」

 そう言って、ダミアンはメイドの三号に「あれを出して」と言った。三号は、スカートとエプロンの隙間から筒状のものを取り出す。

 蓋を開けるとキュポン、と音がした。中身を取り出して机の上に広げると、それが設計図であるのは分かった。

 俺は覗き込むようにして。

「なんの設計図?」

 ダミアンは、一号と二号と睨み合うモニカを見て。

「彼女の依頼でね。重複したオプションを譲る代わりに、僕にゴーレムの設計を頼んで来たんだよ。それも、オートマトンのコアを利用するタイプだ。コアだけだと再生出来ないんだけど、ゴーレムにするだけならなんとか意思を持つゴーレムが作成出来るからね」

 モニカに振り返った俺は。

「お前、前に言っていたのはこれのことか!」

 ツインテールをかきあげ、左手を腰に当てるモニカは足幅を少し開いてポーズを決めた。

「褒めて良いんですよ? いや、褒めなさい、チキン野郎。貴方のために準備してあげたんですから」

 だが、ダミアンが。

「でも、色々と実験も必要なんだけどね。試作機も用意しないといけないし。理論は構築したし、試作機も作れるけど……材料がないんだよね」

 どうやら、資金不足で作れないようだ。

 俺は、設計図の中の人型ゴーレムを見た。鎧を着た女性の姿だ。ダミアンが使用しているゴーレムともデザインが違っていた。

「随分と女性を意識したような……これ、一体でいくらかかるの?」

 すると、ダミアンは天井を見てブツブツと呟き……。

「設備を揃えるのに金貨で二千枚。そこから試作機を作って、更に実験を繰り返して……一体目を完成させるのに、三千枚じゃない? でも、その後は金貨で五百枚もあれば量産出来ると思うよ」

 俺は噴き出してしまった。

「そんな金はない。というか、コアの数を考えると……」

 ダミアンは、笑顔で。

「金貨で数万枚は覚悟した方が良いね。ま、問題は他にもあるんだよね」

「他にも?」

 俺が聞くと、ダミアンは。

「金属の加工も問題だけど、それ以上に希少金属を大量に使用する事になる。設計通りに作って、問題がないか検証して、更に改良して……その希少金属を加工する職人も必要になるけど、そういう人に依頼するとお金がかかるからね。ま、最低限は僕の言った金額は必要かな」

 どこまで言っても金がかかる。つまり、ダミアンが提示した金額は最低限度であり、それ以上が必要になる可能性の方が高かった。

 ダミアンは笑顔のまま。

「でも大丈夫じゃない? ここは腕の良い職人も多いみたいだし。問題があるとすれば、お金やそういった人材を確保することだね」

 俺は。

「それが難しいんだけどね」

 今にも膝から崩れ落ちそうになった。

(金貨で数十万枚……その規模は流石に俺一人だと無理だな)





 金策。

 冒険者の金策と言えば、やはりギルドで仕事を貰うのが一般的だった。

 久しぶりに冒険者ギルド東支部に足を運んでみれば、俺が入ってくると冒険者や職員の視線が集まった。

 ベイムを歩いているときも、視線を感じていた。

 だが、建物の中は、それ以上である。

 歩いて受付の列に並ぼうとすると、職員に声をかけられた。

 タニヤさんだ。

「ライエル君、ちょっと」

「え?」

 腕を引かれるように列から離れると、そのまま階段を上って三階まで連れて行かれた。普段会議などで使用している二階より上は、一度も立ち入ったことがない。

 そんな場所に連れて行かれた俺は、部屋から出てくる冒険者を見た。

 外ハネした癖のある黒く長い髪をした、背の高い女性は俺を見るとニヤリと笑い。

「なんだ、坊やはもうここに呼ばれたのか。クレートやアルバーノよりも見込みありとは思ったが、随分と早いね」

 タニヤさんは、女性……マリーナさんに。

「今回も討伐系の依頼ですか?」

 すると、マリーナさんは。

「それ以外には興味がないんだ。もっと歯応えのある相手が欲しいんだが……坊や、聞いたら随分と強いんだって? あのヘソ出しの小さい女の子の方が私好みだったけど、興味が出て来たね」

 そう言って、マリーナさんは俺に一歩踏み込んできた。俺は、咄嗟に半身を下げ、武器に手を回した。

 抜かなかったのは、タニヤさんが俺とマリーナさんの間に割り込んだからだ。純粋な殺気……それを感じ、冷や汗が出た。

 タニヤさんが。

「遊びすぎです。ギルド内での私闘は禁じていますよ」

 マリーナさんは口元に手を当てて笑いながら。

「怖い顔しないで欲しいね。でも、あんたと戦うのも悪くないかも……さて、私は依頼をこなすとしますか。じゃあね、坊や」

 マリーナさんが立ち去ると、黒いコートの後ろ姿に視線を向けた。

 宝玉内。五代目が、マリーナさんをこう評価した。

『いるよな。時々、獣みたいな奴が。戦闘狂とでも言えば良いのか、とにかく強くて規格外なんだよ』

 七代目は、苦手なタイプのようだ。

『生まれながらに強い。周りと違う人間はいますな。武芸やそういったものではなく、野性的な強さを持つタイプです。ま、私は苦手でしたがね』

 四代目は、面白そうに。

『……彼女、初代と同じだね。ただ強い、っていうのかな? 理由はないけど、とにかく強い人間だ。磨き上げた強さを持つ人間からしたら、厄介な部類だよ』

 三代目は、少し考え込みながら。

『欲しいんだけどね。ま、あの手合いはお金とか忠義とか関係ないし、ちょっと難しいかな。それより、ライエル』

 言われて、俺はタニヤさんに振り返った。

 先に進み、ある部屋の前で俺を手招きする。

「ライエル君、こっちです」

 言われてその部屋に向かうと、タニヤさんが部屋に入った。俺も後から続いて部屋に入ったが、そこは落ち着いた部屋だった。

 部屋の中央にはテーブルが置かれ、椅子も豪華だ。飲み物まで用意されている。

「……なんの部屋です?」

 俺は部屋を見ながらそう言うと、タニヤさんが。

「一部の冒険者に対応する部屋です。聞かれたくない話もあるような冒険者、それに実力のある冒険者はこちらで受付を行ないます。東支部でライエル君の知り合いなら……マリーナさん以外はアレットさんですね」

 タニヤさんの説明を聞くと、一部の冒険者――。

 実力があると認められた冒険者は、こちらで受付を行なっているようである。単純な強さだけではなく、ギルドが決めた条件をクリアしないとここには来られないのだとか。

「……ギルドに認められたと?」

「というよりも、認めないわけにはいかない、という感じですね。ザインとロルフィス、それにセルバではライエル君の二つ名がいくつも出回っているようですよ。一番多いのは聖騎士でしたか? 二つ名持ちの冒険者……名を上げようとする人もここには多いですからね。不要なトラブルを避けるために、こうして個室対応をする必要が出て来ます」

 宝玉内からは、三代目が納得したようだ。

『そうか。一階の受付だと、やっぱり誰かが聞き耳を立てる可能性もあるからね。その対策のためか』

 納得すると、俺は椅子に座った。タニヤさんが、そのまま受付を行なってくれるようだ。

 少し疲れた顔をしながら、タニヤさんは俺に言う。

「普通はここに来る事もない冒険者がほとんどなんですよ。実力はあっても、一階で受付をしているパーティーは多いですからね」

 四代目は、納得したように。

『つまり、目立つ奴を監視するための処置でもある訳だ。要注意人物枠じゃない? 良かったね、ライエル』

(なにも良くない!)

 タニヤさんは俺の前に向かい合って座ると、書類を取り出した。そこには、いくつかの依頼が用意されている。

 見ると、今までとは金額が違った。

「一階でよく見る依頼とは違う気がしますけど?」

 俺は書類からタニヤさんに視線を向け直した。タニヤさんは、笑顔で首を少し傾げて。

「優秀な冒険者には、それだけ難易度の高い依頼をこなして欲しいですからね。金額はそれに見合うだけのものを用意させています」

 つまり、難易度が高く、大勢の冒険者では達成困難な依頼をここで依頼するというのだ。内容を見れば、グリフォン退治に、ドラゴン退治まで存在していた。

 それも、ベイム周辺だけではない。

「ベイム周辺意外にも派遣を?」

「そういう事です。地域密着型のギルドの多くは、予定外の魔物が出てくると対応ができない事が多いですから。他のギルドに応援を求めます。ですが、優秀な冒険者が常に手透きとは限りませんからね。ベイムには優秀な冒険者が多いので、そういった依頼を出してくるんですよ」

 俺はアゴに手を当てて書類を眺めた。どれも、金額的には金貨数十枚から数百枚の依頼だ。

「これを達成しても、迷宮への討伐依頼は――」

「優先的に回しますよ。ですが、迷宮に潜るよりも危険が少ないので、こちらを優先する冒険者の方も多いですね」

 金貨数百枚なら、確かにこちらを選ぶ方が安定している。どんな迷宮かも分からず、そしてどんな敵がいるかも分からない未知の迷宮。

 そこに挑むよりも相手がハッキリしている分、まだこちらが安全だ。

 だが、歴代当主たちは難色を示した。

 四代目だ。

『これ、移動距離と討伐にかかる時間、それを考えると効率が悪いね。ドラゴン退治なんか、北方かな? 移動に船を使って片道で二週間? 戻ってくると一ヶ月だ。それで金貨で八百枚とか言われても……』

 三代目も同じ意見だった。

『装備や色々と考えると、実入りは半分以下じゃない? 別にいいんだけど、これだけをやって資金稼ぎは流石に……全然足りないね』

 ドラゴン退治、相手はドラゴンだが亜種だった。

 懐かしい相手だ。何しろ、空を飛べない前足が大きな【ランドドラゴン】で、初代の記憶の部屋で戦った相手だ。

 これが空を飛ぶドラゴンなら、依頼料は金貨で何千枚になっただろう。

 タニヤさんは、俺を見ながら。

「ランドドラゴンの討伐ですね。気になりますか? 森に住み着いたみたいで、騎士団を退けた個体です。倒せば名を上げられますね」

 俺は書類を見ながら。

「気になりますね。一度、戦ったことがある相手です」

 すると、タニヤさんが不思議そうな表情をしていた。

「冒険者になる前に、ですか? ランドドラゴンはドラゴンの亜種で、倒しやすい相手ではありますが……そう思った冒険者や騎士団を、数多く葬った魔物でもあるんですけど」

 俺は書類を受け取ると、笑顔で。

「うちのご先祖様は、一人で倒したんですけどね。ま、思い出もあるので引き受けますよ。今はお金も必要ですし」

 愚痴をこぼすと、タニヤさんが俺に。

「お金ですか……もしかしたら、すぐに解決するかも知れませんよ。もっとも、その依頼を達成すれば、ですけど」

 俺は気になったのでタニヤさんを見た。

「どういう事ですか?」

 タニヤさんは――。

「忘れているみたいですね。ここがなんと呼ばれている都市なのか。ここは冒険者の都でもあると同時に、商人の都でもあるんですよ、ライエル君」

 それを聞いて、四代目が――。

『ほほう、冒険者を支援する、と。バンセイムだと領主が雇うとかあるけど、商人は用心棒とか専属って感じだったけどね。受付嬢の話だと、それなりの額を用意してくれそうな雰囲気ですよ』

 五代目は、それを聞いて思い出したように。

『海もあって船を持っている商人も多いとなれば、大きな店を構える商人がそれなりにいるわけだ。領主がいないなら、税も自分たちで決められる、と。ま、バンセイムとは事情が違うわな』

 七代目も嬉しそうに。

『さぞ、貯め込んでいるのでしょうね。大陸の平和のために、その資金を少し使わせて貰いましょう』

 三代目が、全員の意見をまとめる。

『先行投資をして貰おうか。異国であるのを忘れていたよ。そうだった……金がないなら、持っている奴から借りれば良いよね!』

 俺は思った。

(なんだろう。この人たち、いつもより黒く感じる)

 タニヤさんが、困っている俺を見て不思議そうにしていた。

「どうしました、ライエル君?」

「え、あの……タニヤさん、その辺の事情を、もっと詳しく聞けませんか?」





 ――シャノンは、モニカが持ってきた設計を見ていた。

 正確には、少し不思議な反応がある紙を見ていたのだ。インクに魔力が少しだけ混ざっており、シャノンにも線が見えていたから。

 ただ、それが何を表わしているのかは、意味不明だった。

 テーブルの上に置かれた設計図を見ているのは、シャノン以外ではクラーラとメイだ。

 珍しい組み合わせであるが、他の面子は買い物に出かけているのでしばらく戻ってこない。

 モニカは、三人を放置して部屋の掃除を行なっている。

 クラーラは、眼鏡を掴みながら設計図を見て。

「どうして女性の姿なんでしょうね? 強そうに見せるなら、ダミアン教授のような鎧姿のゴーレムが一番なのに」

 メイは興味なさそうに。

「人間は理解出来ないことをよくするけど、これもそれじゃない? もしくは、ダミアンかライエルの趣味?」

 手に持ったお菓子を食べながら、メイは設計図を見ていた。ポロポロとお菓子をこぼしており、モニカが近付いてメイの周りを掃除する。

「こぼさないでください。それに、設計図に汚れが……まぁ、コピーしたので問題ないんですけどね」

 コピーと聞いて、クラーラがピクッと反応を示した。だが、また設計図に視線を戻した。

 シャノンはモニカに。

「ねぇ、なんで女の子の姿なの?」

 すると、モニカは当然のように。

「私の姉妹のコアですよ。女の子の姿がいいに決まっているじゃないですか。装備も無駄に凝っているので、ドレスのような装甲ですからね。お金がかかってしょうがない」

 クラーラは普通に。

「え? そこは削ったらいいのでは?」

 すると――。

「女の子はお金がかかるんです。それぐらいはチキン野郎に頑張って貰わないと。ま、色々と説明すると、ドレス型の装甲にも意味があるんですよね。その辺りの技術を説明すると面倒なので……うん、やっぱり女の子にはおめかしが必要! とだけ説明しておきます」

 シャノンは思った事を口にする。

「変なの。というか、そのあんたの姉妹はどれだけいるの?」

「いくつか答えられますね。製造番号的には……多分数十万単位? 同系統ならそこから絞り込まれて数千体でしょうか? 手持ちのコアはこれだけですけどね」

 モニカは手のひらの上に光るキューブを取り出した。小さな立方体のキューブが、いくつも集まって形を作っていた。

 シャノンは。

(なんか変なの。それより、これいいなぁ)

 理解出来ないシャノンは、首を振って線が光って見える設計図を再び眺めるのだった――。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ