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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

初代様は蛮族

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フルオーバー

 廃鉱跡を前にした俺は、人が住まなくなって久しいだろう村の跡を見る。

 今では誰も住んでおらず、かつて村だったという痕跡がかろうじて残る場所だった。

「ここが盗賊団の根城か」

 ノウェムも杖を持って俺の側に立ち、周囲を警戒している。

 盗賊団の何倍の数もいるせいか、集団は気が抜けている状態だった。

「ライエル様、士気が低すぎます」

「あぁ、問題だね。もっとも、今回に限ってはそっちの方が良いんだけど」

 油断している兵士の恰好をした冒険者たち。

 欠伸をしている者もいれば、笑いながら報酬の使い道を話し合っている者までいる。

 彼らを見て、銀貨二枚は高いのではないかと最近の俺は思ってしまう。

 真面目に働いて大銅貨十枚もない稼ぎだったのだ。

 少し、理不尽にも思える。

 地味な依頼をこなしてきた今の俺なら、銀貨二枚がいかに破格の報酬か理解できた。

 実感が伴うのは、やはり知識だけとは違うと理解できる。

『こんな集団を率いて戦えと言われたら、普通は拒否するんだが……ま、今回だけはこいつらの雰囲気も大事だな』

 相手がどう出てくるのか?

 それは既に対策を練っている。

 目的地には片道で丸一日かかり到着した。明日は日が昇れば盗賊団に襲撃をかける予定である。

 俺は自分の周囲を見る。

「……ノウェム、一人では行動するなよ。そうだな……ロックウォードさんを呼んで、一緒に行動してくれ。他にも女性陣がチラホラいるから、一緒に動いてくれればいいよ」

 そう言うと、ノウェムは首を横に振る。

「いえ、ライエル様のお側におります。回復の出来る私は、役に立てると思いますので」

 側を離れないつもりらしい。

 もっとも、ご先祖様たちも同じ意見のようだ。

『ライエル、側に置いておこう。人質に取られても厄介だ。ノウェムはお前に近しい人物だと向こうも気がついているだろうし。何よりも、周囲の連中――信用できないからな』

 五代目の言うとおりである。

 急いで集めて廃鉱跡に攻め込んでみたが、中には敵がいるのだ。

 もっとも、これに気がついたのはご先祖様たち全員だ。

『奴らだって馬鹿じゃない。何かしらの対策くらい練るだろうさ。トップがいれば、それなりには動くんだ……そのせいで俺たちがどれだけ苦労させられてきた事か』

 五代目の声が低くなる。

 歴代当主が、盗賊団を憎んでいる。というか、領主にとって賊とは頭の痛い問題だ。

 もしも領民が賊となり、隣の領地に流れようものなら自分たちだけの問題ではなくなるのだ。

「ライエル様、皆さんの準備は整っています」

 ノウェムが俺に伝えてくると、俺は頷いた。

「予定通りに行動しよう。明日に備えて全員に休憩を取って貰おうか。そうだな……ロックウォードさんだけには声をかけておこう。気がついたら終わっていた、というのだと彼女も納得がいかないだろうし」

 俺がそう言うと、ノウェムが頷く。

「一緒に行こうか」

 ノウェムを連れ、俺はロックウォードさんのところへと向かった。

 当然だが、歴代当主が、俺にノウェムを一人にさせるなと忠告してきたのだ。






 廃鉱内――。

「頭! 奴ら来ましたぜ。ノンビリ野営をしてやがります」

 部下の報告を聞いて、大男はニヤリと笑う。

 手に持った赤い玉を握りしめると、近くに置いていた斧を手に取った。

 戦利品として手に入れた、領主の武器である。

 大きな戦斧を握りしめ、左手には紐でくくった玉を持つ。腕に巻き、落とさないようにしていた。

「甘く見やがって。こっちは何度も戦ってきたんだ。本物の戦場って奴を教えてやろうじゃねーか」

 笑いながら言うと、部下の盗賊たちも手に武器を取る。

 冒険者として潜り込んだ部下たちも、報告のために戻ってきていた。

 二十七名の盗賊団が揃った。

「よし! 夜襲をかけるぜ!」

 大男が宣言する。

 だが、部下の一人が下を見て驚いた声を上げるのだった。

「か、頭!」

「なんだ!」

 ――すると、全員が集まった場所に、煙が入り込んできた。





『おぉ、煙がよく出るな』

 五代目の声を聞きながら、俺は廃鉱への入口に持ってきた木の枝を運び込んで火を付けていた。

 葉もついており、煙がよく出る事で有名な種類の木だ。

 それも、目がしみるなどの効果もある。

「ノウェム、魔力は大丈夫?」

「はい。まだいけます」

 ノウェムがそう言うと、隣に立っているロックウォードさんが目を大きく見開いて周囲の状況を見ていた。

「ど、どういう事よ。明日の朝に襲撃をかけるんじゃなかったの!?」

 俺は、首を横に振る。

「バレバレなんだから、そんな事をしたら敵に襲撃されるよ。それに、潜り込んでいた敵たちも戻ったところだし」

 ダリオンに潜伏している賊の一味がいるのは、ご先祖様――特に三代目が見抜いた。

 同時に、協力者がいた事も判明している。

 調べている段階で、その名前が出てきたときは少し驚いたが――。

「潜り込んで? なんでそんな事が分かったのよ! 分かったら捕まえるとか、その……」

『……潰すときはまとめておかないとな。変な恨みを買うのも馬鹿らしい。勿体ないが、そのためにライエルに馬鹿息子を演じて貰い、金もばらまいたんだ。おっと、説明している暇はないか。ライエル!』

 慌てているロックウォードさんに、今は説明している時間がないと言って俺はサーベルを引き抜いた。

『よし、スキルの効果で俺も協力できる。親父……五代目のスキルと同時使用で使え、ライエル』

 六代目が声をかけてくると、俺はスキルを使用した。

 能力を一割から二割上昇させるスキル【フルオーバー】のおかげで、一時的とはいえスキルが使用できるようになったのだ。

 五代目のスキルは【マップ】である。

 そして、六代目のスキルは同時使用推奨の【サーチ】だ。

 マップは、周囲を地図として認識するスキルだ。

 今の俺には、廃鉱内の通路が手に取るように分かる。

 そしてサーチ……これは、周囲の敵や罠などの配置を発見するスキルである。

 どちらもスキルとしては破格であり、とても有用なスキルだ。

 だが、常時使用するのは魔力の消費が激しい。ので、俺はそれを使用したとしても、一定時間だけである。

 周囲の状況を確認する。

 どうやら、廃鉱内に罠の設置は見受けられない。盗賊団だけが廃鉱内で動き回っている。

「やっぱり逃げ道がある、か……すいません、ゼルフィーさんに伝言を頼めますか?」

 俺が頼んだ相手は冒険者だ。

 もっとも、主に賞金稼ぎを生業にしている対人に特化した冒険者――賞金稼ぎとも言う存在だった。

「随分と正確で助かるが……あんた、スキル持ちかい?」

 冒険者の男が、俺が指定した場所を聞くと驚いていた。

 そして、俺は笑ってごまかす。

「さぁ、どうなんでしょう」

 そう言うと、相手は「悪かった」と言ってすぐに走り出した。

 黒いローブを着た冒険者だったが、闇に消えるように走り去る。

「随分と迫力があったわね。あんた、凄腕も雇っていたのね。少し安心したわ」

 ロックウォードさんがそう言うと、俺は首をかしげる。

「雇ってはいないね。協力はしたけど」

「え?」

 ロックウォードさんが理解できないのか、考え込むとノウェムが杖を構えた。魔法を中断すると、新しい魔法を準備する。

 周囲の冒険者たちも、己の得物を構えて敵の接近に備えた。

「割と速いな……前の方から六人来る」

 俺がそう言うと、周囲も少し驚いたがすぐに真剣な表情になる。

『使い方が上手いじゃないか。連続使用じゃなくて、必要なときに使用して魔力の消費を抑える。少し前に覚えたとは思えないな』

 五代目に褒められる。

 フルオーバーというスキルのおかげで、俺はスキル使用に必要な条件を満たす事が出来た。

 未だに三代目と七代目のスキルの使用は無理だったが、それでも他のスキルに関しては一時的だが使用できるようになったのだ。

「初代は偉大だね」

 俺がそう呟くと、初代の声が聞こえた。

『ようやく理解できたか!』

『おい、黙っておく約束だろうが。ほら、ライエル……目の前だ』

 五代目が初代を制すと、俺はサーベルを構えた。

 ロックウォードさんも周囲の状況に流されつつだが、自分の武器を構える。持っていた武器は、お嬢様とは思えない槍である。

「ウインドバレット!」

 ノウェムが魔法を使用すると、煙から出てきた盗賊団の一人が吹き飛んだ。

 威力は押さえてもらっている。

 俺も、斬りかかってきた盗賊の一人を相手にする。

「こ、この野郎がぁぁぁ!」

 そう言って斬りかかってきた相手が持っていたのは、短剣であった。片刃で少し曲がっているタイプで、幅もある。

 俺の細いサーベルで受け止めれば、こちらが折れそうであった。

 そう、受け止めれば――。

「遅い」

 サーベルで短剣を弾いて相手の体勢を崩すと、俺はそのまま相手の腹に蹴りを入れる。今回、俺は相手を殺す事はない。

 それが取り交わした契約であるからだ。

 周囲を見れば、同じように冒険者たちによって盗賊たちが取り押さえられていく。

 そんな中で、冒険者として紛れ込んでいた一人の盗賊が、自分を縛り上げる男を見て叫んだ。

「だ、誰だ、お前! お前なんか俺は知らねーぞ!」

 その盗賊を無言で縛り上げる男。

 縛り終わると、そのまま拳を盗賊に叩き込んで黙らせる。

「手際が良いね。動きも違う。頼って正解だったね」

「はい、ライエル様」

 ノウェムも同じ意見だった。

 一段落すると、またスキルを使用する。常時使用するよりも、今は必要なときに短く利用するのが、今の俺には合っていた。

「……フルオーバー」

 俺はスキルを使用すると、周囲の状況を確認した。

 頭の中に浮かんでくる周囲の地図、そして廃鉱内で動いている盗賊たち――。

 入口以外にも、抜け穴的な場所が廃鉱跡にはあったのだ。盗賊たちが、廃鉱内へと戻るとそちらを目指して走り出している。

 だが、抜け道の先には既にゼルフィーさんたちが待機していた。

 スキルの使用を解くと、俺は作戦が成功したのを感じる。ただ、宝玉からは五代目の声が聞こえてきた。

『終わるまで気を抜くな。指揮官が気を抜けば、周りも気を抜く。気を抜けるのは、全てが終わってダリオンに到着してからだと思え』

 咳払いをして、俺は集中する。

『そうだ。適度にスキルを解いては良いが、できるだけこまめに確認しろ。本当なら常時確認できればそれがいいんだが、倒れたら元も子もないからな』

 俺は宝玉を触り、了解の意を示した。

 出口が既に冒険者たちに塞がれたと知った盗賊団の動きは、明らかに右往左往しているのが理解できる。

 だが、一人の反応が消えると、動きが段々とまとまりだす。

『見せしめか。どうやらここからは厄介になるな。相手も死にものぐるいだ。ライエル、捕縛が無理ならすぐに相手を殺せ。盗賊だろうが、手を抜いていい相手でもなさそうだ』

 五代目の意見を聞いて、俺はまた宝玉を触る。

 こうした賊との戦闘経験は、五代目が一番経験している。

 ウォルト家が子爵に陞爵し、周囲の寄親として頼られるようになったためだ。

 周囲の助けに応え、兵を出す事も多かったらしい。

 そして、陞爵したばかりで、寄子との関係も微妙だったか、それとも単純に舐められていたのか――ウォルト家に多くの賊が流れ込んだ時期でもある。

 五代目が言うには、周囲の貴族たちから陞爵した事で妬みもあったのが原因だとハッキリ言っていた。

 つまり、周囲の貴族たちがウォルト家の領内に賊を大量に送り出したのである。

 それを潰してきたのが、五代目だ。

『まったく、使わない廃鉱跡なら焼いてしまえれば楽なんだが。入口なんかを塞いでも良いな』

 五代目の怖い発言は置いておくとして、俺は残った盗賊たちがこちらに走ってくるのを感じた。

 ゼルフィーさんたちがいる方向へいかなかったのは、それだけの被害を出したからだろう。

 盗賊たちの反応は五つに減っている。

 俺はスキルを解くと、相手が来るのを待った。俺が構えると、周囲の冒険者たちも得物を構える。

 俺の判断を――敵の接近を知る、スキルの能力を信じたのだろう。

『随分と評価されたみたいだな。ま、俺たちの親子のスキルは、欲しい奴には喉から手が出るほどに欲しいスキルだろうよ。有効に使えよ、ライエル』

(はい)

 心の中でそう返事をすると、少し晴れてきた煙の中から必死の形相で盗賊たちが飛び出してくる。

 その中、斧を持った大男が飛び出してきた。

『あいつが盗賊団のボスだな。……ライエル』

 五代目が言うと、俺はスキルを使用しないままに大男に向かう。周囲も必死の盗賊たちを相手に戦っていた。

 こちらに手を貸す余裕はないだろう。

「ライエル様!」

 ノウェムが魔法を使用するために杖を構える。

 だが、俺はそれを声で制した。

「俺がやる!」

 大男はそれを聞き、露骨に眉をしかめる。そして、大きな斧を片腕で振り回していた。

 両手で振るような大きな斧を、片腕で振り回している。

 いくら筋肉があると言っても、その振り回し方には違和感があった。

「ガキが粋がるんじゃねーぞ、ごらぁぁぁ!!」

 横に振り抜いた戦斧を、俺は後ろに跳んで避ける。そのまま追いかけてくる大男を、戦いにくい木が密集している場所に誘い込んだ。

 しかし――。

「甘ぇ!! 俺にはこいつがあるんだよ!」

 そう言って、左腕を俺につきだしてくる。赤い光が拳の指の隙間から漏れていた。

(ギョク)か?」

 俺がそう言うと、自慢気に大男が言ってくる。

「そうだ。しかもスキルが複数ある一品だよ! お前なんかすぐにミンチにしてやるぜ! 何せ――」

 片腕で振り回した大男の戦斧が、木々に当たる。普通ならそこで止まるのだろうが、そのまま木を切り倒していた。

 一振りで木を切り倒したのである。

「武器の強度を上げるスキルだよ! この玉が俺にスキルの使い方を教えてくれるんだぜ! 最高だな!」

 強度を上げただけでは片腕で大きな戦斧を振り回せない。

 案の定、厄介なスキルがいくつもあるようだ。

「筋力を強化するスキル! そして、刃から……」

『おい! 横に跳べ!』

 初代の声がした。相手の間合いではなかったが、俺はすぐに横に跳ぶ。

 すると、振り下ろした戦斧から、斬撃が飛んできた。木々を数本切り倒し、その威力を見せつけてくる。

「ちっ、勘の良い野郎だぜ。今のが、斬撃を飛ばすスキルだ。だけどよ……こいつは凄ぇぞ」

 大男がニヤリと笑う。笑い、そして俺の視界から一瞬消えた。

 すぐに上から声が聞こえたので、その場から飛び退く。だが、衝撃だけで体の体勢が崩れると、そのまま地面を転がった。

 転がる瞬間に見えたのは、地面が抉れている光景だ。とても、大男がやったとは思えない。

 転がり、そのまま勢いを利用して立ち上がると目の前に大男が迫っていた。

「スラッシュ、っていうとんでもないスキルだ! こいつのスピード、そして破壊力はいつもの五倍だぜぇぇぇ!!」

 俺は、男が振り下ろす戦斧を見ていた。

 凄い速度で迫ってくる攻撃は、スキルによるものだという。

 周囲から声が聞こえた。

「ライエル様!!」
「ライエル!」

 ノウェム、そしてロックウォードさんの声が聞こえた。

 次の瞬間、俺の脳裏に初代の顔が浮かんでくる。腕を組んで会議室の椅子に座っている姿は、蛮族スタイルだが堂々としていた。

 そして、口元がニヤリと歪むと言うのだ。


『ほら……ぶちかませ、ライエル!!』
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