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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

元麒麟児の九代目

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第九章エピローグ

 ――ザインでライエルたちが奇跡の勝利を収めた頃。

 アラムサースでは、ロルフィスから派遣された騎士二名が、ダミアンの下をたずねていた。

 ライエルからの紹介状を受け取った【ダミアン・バレ】は、学術都市の七傑と言われる天才である。少々頭のネジが数本外れているが、だからこその七傑でもあった。

 歴代の七傑、全員が天才だがどこか問題のある人物だ。ダミアンも、理想の女性を生み出したい、などと言って研究をしている変態である。

 研究室には同じ顔、同じ服を着たメイドが掃除を行ない、騎士二人にお茶を用意していた。

 ダミアンはソファーに座って手紙を受け取ると、黒い小さな板を手にとって。

「これはお前たち向けだってさ」

 メイド――オートマトンが受け取ると、黒い板をポケットに入れた。すると、赤い瞳がチカチカし始め――。

「……迷宮に囚われた姉妹たちが残したデータがあります。破損が激しく、全ては解析不可能です。ご主人様、どうやらあの役立たずモニカは、ベイムで迷宮の秘密の一端に触れたようですよ」

 それを聞いて、騎士二人が驚いた表情をした。だが、ダミアンはお茶を飲みながら。

「そうなんだ。もう興味がないんだよね。だって僕の研究には関係ないし。しかし、困ったな」

 騎士が驚き、そして呆れながらダミアンに確認をした。

「あの、困ったとは? 我々にはポーターの技術を渡せないと?」

 ダミアンは眼鏡を外し、目頭を揉む。

「教えるよ。僕にはもう過去の技術だ。学園にお金を出せば親切丁寧に教えてくれると思うけどね。もっとも、あれの基礎を作ったのはライエルなんだ。ライエルに教わる方が早かっただろうに」

 騎士二人は顔を見合わせ、そして困った様子だった。ライエルが開発したとは、思ってもいなかったのだ。

「あの、それで困ったというのは?」

 ダミアンは眼鏡をかけると、笑顔で。

「ライエルの妹であるセレスがね、近い内にこのアラムサースに来るんだよ。いや、実に困った。困ったよね……どうにも目当てが僕なんだ」

 ライエルが手紙に書いたのは、セレスの脅威だった。注意するように書かれているが、ダミアンにはどうしようもない。

 すると、ダミアンは立ち上がって。

「ま、必要な資材とかここよりベイムの方が揃うよね? それに学園も最近嫌な感じだ。そう言えば、セントラルに学園の主要メンバーが出向いてからだったかな? アハハハ、ライエルが言うとおりだ」

 笑い出したダミアンは、そのまま騎士二人に言うのだ。

「よし、逃げようか。一号、二号、三号……資材を積み込んでベイムに行くよ。この二人は護衛だ」

 すると、メイドたちはスカートを掴んで軽く持ち上げお辞儀をした。

「はい、ご主人様。これでモニカの依頼も達成出来ます」

 ダミアンが首をかしげた。

「依頼? 何か頼まれたのかな?」

 一号と呼ばれたメイドが。

「人型の戦闘用ゴーレムの設計、およびオートマトンのコアを利用したゴーレムの開発です。報酬は、古代技術――我々のオプションになります。あの無能。重複したオプションを渡すから協力しろと言ってきました。磨き上げた連携でボコボコにしてやります」

 ダミアンはアゴに手を当てて。

「流石はライエルだね。面白い事が起きているようだ。そうだね。ライエルの世話になろうか。よし、なら早速出発の準備だ」

 ダミアンがそう言うと、メイドたちは研究室内で慌ただしく動き始めた。

「これは移動用の大型ポーターに――」
「我々の力を見せるときですね」
「ふむ、ゴーレムの基本設計は我々が担当しましょう。ご主人様にはコアを組み込む装置を開発して貰って――」

 アラムサースまで来た騎士二人は、さっさと逃げることを決めたダミアンを唖然として見ているしか出来なかった――。



 ――ベイム東側ギルド。

 そこにローブをまとった二人組がいた。

 一人はフードから水色の髪が見えていた。

 小柄で華奢な少女は【アデーレ・ベルギ】。バンセイムからダリオン、アラムサース、セントラル、そしてベイムまで流れてきた17歳の少女だ。

 周囲の人の波から彼女を守るように立つのは、背の高い青年だ。槍を布にくるんで持っており、腰には剣も差している。

 一見して戦士と見える体格と武器に、周囲もぶつかるのを避けていた。

 名前は【マクシム・ダンヘル】――27歳の元陪臣騎士は、領主の娘であるアデーレを守ってベイムまで来ていた。

 二人組は、東側ギルドの前で周囲を見ていた。

 アデーレは、緑色の瞳で冒険者たちを見ている。その中にお目当ての人物を発見出来ないと、溜息を吐いた。

「やはり無理でしたね。ベイムは人が多すぎますよ」

 諦めるアデーレに、マクシムは笑顔で。

「来たばかりで諦めていては始まりませんよ、アデーレ様」

 すると、アデーレはマクシムに笑顔を向けて頷いた。マクシムは顔を赤くして、指先で頬をかき、視線を逸らす。

「そうですね。ここにいるのは間違いないわけですし。なんとしても見つけ出したいところです……ライエル・ウォルト、元ウォルト家の麒麟児さんを」

 アデーレの視線が細くなった。

 マクシムも頭部の額当てを軽く動かす。長い茶髪の髪は額宛で押さえてオールバックになっており、赤い瞳で周囲を見た。

「ダリオン、アラムサース、セントラル……話題に事欠きませんからね。ここでも有名になっているかも知れません」

 マクシムが言いながら周囲を見ると、アデーレはアゴに手を当てて俯いていた。

「そうだと良いんですけどね。ダリオンで盗賊団壊滅、アラムサースで地下四十階層を最少人数で突破。セントラルでの兄妹対決……本当に善人である事を祈りますよ」

 しかし、マクシムは。

「変な噂も多かったですがね。ただ、ベイムに逃げ出したとも考えられます。そんな奴に何を期待するんですか、お嬢様」

 アデーレは空を見上げた。フードが外れ、水色の髪が見える。

「分かりません」

「分からない、ですか……いや、まぁ最後までお供しますが」

 呆れるマクシムだが、アデーレは言う。

「家族はセレスに出会って狂いました。セントラルには抗議に出向いたはずなのに、帰ってくれば内乱への参加を希望しましたし。明らかに狂っていますよね。直接会うのは危険だと思いました。だから手がかりを求めてベイムまで……」

 アデーレが顔をマクシムに向けた。

「マクシムの友人である騎士も討ち取られました。バンセイム指折りの騎士であった者がまったく相手にならない。まるで三百年前のおとぎ話のようですよ」

 おとぎ話と言い切るアデーレは、東支部の前で溜息を吐くと歩き始めた。小さな歩幅に合わせて、マクシムも歩き始めた。

「マクシムには悪いけど、ベイムで冒険者になりましょう。ここでライエル・ウォルトの情報を探ります」

 騎士にとって、冒険者とはバンセイムでは落ちぶれを意味していた。だが、マクシムは笑顔で。

「お嬢様が望むなら」

 そう言って微笑むのだった――。





「なんだよ……【断罪する聖騎士】とかなんだよ!」

 ザイン首都にある神殿の中、俺は与えられた部屋の中で両腕を机に何度も振り下ろしていた。

 騎士団長を討ち取り、戦争に一区切りがつきそうになっていた。なっていたはずなのに、俺のところにエヴァが笑顔で駆け込んできたのだ。

 歌い手であるエヴァは、首都で語られている物語を俺に聞かせてくれたのだ。

「【青き聖騎士】や【愛の聖騎士】に【奇跡の守護者】もあるわよ。因みに、セルマさんとアウラさんがヒロインの二通りの物語もね。年齢差のある背徳的な愛! 中年女性を中心に大受けよ! アウラさんの場合は王道だから普通に人気。何しろ、たった百名で始めた戦争で、二万の軍勢を打ち破ったんだもの」

 Vサインをして大喜びのエヴァを見ながら、俺は両手で頭を抱えた。そうして、次に入ってきたのはクラーラだった。

「ライエルさん、実は少し聞きたいことがあります」

「なに?」

 俺が疲れた表情でクラーラに顔を向けると、クラーラはメモを手にとって。

「ザイン奪還を決めた時の気持ちと、ロルフィスでの交渉の時に指を鳴らしてまるで伝令がくるのを分かっていた話……どうにも創作っぽいので、もっと詳しく教えてください。あと、奪った砦を捨てて、首都に攻め込む決断をした理由もお願いします」

 目を輝かせるクラーラは、真剣に俺の話を聞こうとしていた。

 だが、エヴァは。

「ちょっと! 創作っぽい、って何よ! 立派な理由じゃない! 困っている聖女や、ロルフィスの民を救うために立ち上がったのよ! なんで胡散臭いから、って事実をねじ曲げようとするのよ!」

 エヴァに詰め寄られ、クラーラは眼鏡を指で押し上げて光らせた。少し怖い。

「後世のために記録を残すためです! ちゃんと詳細を書き記さないと、貴方たちが改良して全く違う話になるじゃないですか!」

「事実じゃない! 打算なしで動く英雄がいてもいいのよ! 損得勘定ができない馬鹿でも良いの! それが英雄よ!」

「違います。断じて違います!」

 俺は右手を伸ばし、二人の言い争いに介入するか悩んでいると、宝玉から大爆笑する歴代当主たちの声が聞こえてきた。

 三代目が早速、俺の二つ名を聞いて喜んでいる。

『断罪する聖騎士ぃぃぃ!! 恰好いいねぇぇぇ!!』

 四代目など。

『青き聖騎士と愛の聖騎士……やっぱり聖騎士縛りか。良かったね、ライエル……これで二つ名持ちの有名人だ。これから仕事がどんどん舞い込むよ!』

 ――今後の金儲けに大喜びしていた。

 五代目は。

『今までの馬鹿息子や、背負われライエルよりマシだろ? でも、断罪か……なんでこう、まともすぎる二つ名は、かえって駄目に聞こえるんだろうな』

 七代目は笑いを我慢しながら。

『い、いいではないか……プッ! しかし奇跡の守護者ですか。奇跡ではなく積み上げてきたものの違いだというのに。ま、面白いので採用ですね』

(こいつら楽しんでやがる。いつも通りかよ!)

 腹立たしい気持ちもある中で、俺は溜息を吐いて椅子に座った。すると、エヴァとクラーラが俺を見ていた。

「な、なんだ?」

 エヴァが真剣な表情で。

「ねぇ、ライエル……二つ名はどれがいい? それ中心で広めるように同族に言いたいんだけど。いくつもあると混乱するから」

 クラーラも。

「統一は大事ですね。ライエルさん【青き聖騎士】【断罪する聖騎士】【愛の聖騎士】【奇跡の守護者】……あと【聖女の聖騎士】なんてのもありますけど? 最後は愛や恋をテーマにした語りで出て来ますね。相手はセルマさんとアウラさんです」

 俺は二人の顔を見ながら叫んだ。

「却下だ! どれも気に入らない! 俺が納得する二つ名を考えたら使ってやる!」

 すると、宝玉内から三代目の声がする。

『馬鹿だな、ライエル……こういうのは他者がどう呼ぶかで決まるんだ。今の内に無難な二つ名を選んでおくんだ』

(……無難なのが一つもないのに?)

 俺の二つ名でどれがいいかを言い争うエヴァとクラーラを見ながら、俺は頭を抱えるのだった。





 ――ザインの神殿内。

 そこには最後の女神――七番目の女神の像があった。信者たちが作った勝手なイメージの女神を見上げるのは、ノウェムだった。

 隣には手伝いをしているシャノンがおり、ミランダやアリア、そしてモニカは他の仕事をしていた。

 メイはロルフィスに手紙を届けに向かっており、ノウェムの手伝いが出来るのはシャノンだけだったのだ。

 周囲には大事な場所だからと、巫女も派遣されて掃除が行なわれていた。

「……なんで私が掃除しているの? 囮に使われたと思えば、そのままポーターに押し込められて出して貰えたら神殿の掃除とか……この扱いの悪さに抗議しても絶対に許されると思うわ」

 不満を口にするシャノンは、雑巾で長椅子を拭いていた。ノウェムの手が止まっているのを注意したかったが、既にノウェムは自分の仕事を終えているので何も言えない。

 シャノンは女神の像を見上げているノウェムを見ると、少し驚いた。ライエルの時とは比べるまでもないが、少しだけ魔力に揺らぎがあったのだ。

 普段、揺らぎのないノウェムが、である。

 シャノンの目は見えないが、魔力を見るという特殊なスキルが備わっていた。それによって、シャノンは見えているかのように行動出来るのだ。

(なんか、怒っている? 違う、悲しそうな……)

 そんなノウェムを見ていると、唇が動いた。

「私たちを……神などと……何故、人は……」

 途切れ途切れに聞こえた声に、シャノンは怖くなって作業を再開した。すると、ノウェムがシャノンに声をかけた。

 それも、いつの間にか隣で屈んでシャノンの視線の高さに合わせている。

「シャノンちゃん」

「は、はいっ!」

 上ずった声を出すシャノンに、周囲の巫女たちの視線が集まった。だが、すぐにまた叱られているのかと、巫女たちは仕事を再開する。

 ノウェムは笑顔だった。いつものように、魔力に揺らぎがない。なさ過ぎた。

「これが終わればお昼ですから、それまで頑張りましょうね」

「……う、うん」

 シャノンは頷くしかなかった。

(気付かれなかった? 良かった)

 そう思っていると、ノウェムが一言。

「それと、さっき聞いた私の言葉は忘れなさい。特に意味のない言葉ですから」

 釘を刺されたシャノンは、何度も何度も頷くのだった――。





 ――ロルフィスの王城。

 メイは一室でアレットやロンボルトと会っていた。

 持っていた手紙を渡すと、ロンボルトが口元に手を当てて驚いた表情をしていた。アレットが気になったのか、説明を求めた。

「宰相、ザインの状況は?」

 すると、ロンボルトが汗をぬぐって手紙をアレットに手渡した。受け取ったアレットは、内容を見て目を見開く。

「たった……たったの百人でザインを奪還したのか。本当にやったのか」

 手紙とメイを何度も交互に見るアレットに、メイは言った。

「だから言っているじゃないか。ライエルがザインを落とした、って。それで、約束通り動いてくれるか確認しに行け、ってさ」

 メイは興味がないのか、テーブルの上のお菓子をパクパクと食べていた。

 ロンボルトは。

「……セルバを攻め滅ぼすのか? 今なら無理矢理にでも約束していた諸国連合を組織出来る。何も滅ぼすまでいかずとも」

 その発言に、メイは最後のお菓子を口に放り込んで飲み込んだ。

「元からそのつもりでしょ? それに、仕掛けたのはそのセルバだよ。ついでに言えば、ライエルを襲撃したのはセルバの人間だよね? 約束は守ってよ」

 メイが子供のように言うが、アレットは。

「分かっているのか、攻め滅ぼすという事は……」

 メイはそのまま首をかしげて。

「ボスが替わるだけだよね?」

 メイは麒麟であり、そして思考は人間に近いとも言えなかった。戦争を縄張り争い程度にしか考えていないのだ。

 そして、ライエルの意見は五代目であるフレドリクスの意見。

 メイはフレドリクスに命を助けて貰った恩がある。

「動かないならライエルは単独で動くかも知れないよ。でも、そうなると今後はどうなるか僕には分からないし」

 単独でもセルバを攻略出来る、二人にはそう聞こえた。実際、少ない兵力でライエルはザインに勝利した。

 その手腕が、ロンボルトには恐ろしかったのだろう。

「会議にかける。すぐには返答出来ない」

 メイは立ち上がると、そのまま窓へと向かう。王城の高い場所にあるのに、平気な顔で窓に身を乗り出し振り返ってきた。

 最後に――。

「じゃあ、会議をしている、ってライエルに伝えてくるね」

 そう言って飛び出していった。

 メイの背中を見た二人は、何度見ても理解出来ないと思うのだった――。





 ――掃除をしているモニカは、周囲の状況を見ていた。

 魔法による破壊、そして汚れた床。

 それらを掃除して数日が過ぎており、モニカは。

「なんでチキン野郎の世話もできないのに私がこんなに頑張らないといけないのでしょうか? 最近、チキン野郎のお世話が出来ていません。元気が出ない」

 やる気なく掃除をしても、流石は高性能なメイド型オートマトン。

 どんどん周囲を綺麗にしていく。

「頑張ったのに。私、今回は凄く頑張ったのに……」

 不満そうなモニカは、ライエルの傍にいられないことがとても残念なようだ。すると、アウラが廊下を歩いていた。

 巫女に囲まれ、聖騎士団副団長のクレートを連れていた。

「やぁ、モニカさん。今日も良い天気ですね」

 暑苦しい笑顔のクレートは、まさに今が幸せという表情でモニカに挨拶をしてきた。すると、巫女がクレートに注意をする。

「副団長様、移動中は挨拶はしてはいけません。他の者は道を空けて聖女様を通しますので」

「そうなのか? 面倒だな」

 すると、溜息を吐いたアウラも手をヒラヒラさせて。

「今からそれなしね。どうせ全部ぶち壊して作り直すから、新しいルールにするわ。後で必要な事は書き出すなりしてね」

 巫女に命令するアウラは、口調はともかく聖女のようだった。服も、モニカが作った体のラインが出るものを着用している。

 その後ろには、手錠をしたレミスがいた。

「おや、もう出発ですか?」

 アウラは頷きながら。

「そうよ。ザインでは死亡扱いだし、国外追放ね。ある程度の財産は持たせるけど」

 レミスを殺せなかったアウラだが、それはセルマも同じだった。聖女は飾りだ。それを知っていたアウラとセルマには、非情な事が出来なかった。

 だが、ザインに残してもおけなかった。

 すでに反対派は潰しているが、それでも次はレミスが決起しないとは言い切れない。だから、国外追放である。

「お優しいことです。ま、チキン野郎もどうせ殺せないでしょうけどね。女性には優しいので。……私だけに優しくすれば良いのに」

 本音を語るモニカを、アウラは呆れてみていた。そして、巫女の一人が。

「騎士団長であるライエル様にそのような……愛の聖騎士に無礼です!」

 すると、モニカは嬉しそうに。

「おや、その話は詳しく聞きたいですね。チキン野郎が愛の聖騎士? なんともチキン野郎らしいのか、斜め上なのか……聞かせてくださいな?」

 巫女に詰め寄るモニカを放置し、アウラは歩き出した。

「ほら、行くわよ」

 すると、レミスが言う。

「絶対に後悔させてやるわ。お父様を殺したロルフィスも憎かったけど、今は違う……あんたが一番憎い」

 レミスの言葉に、アウラは澄ました態度で。

「そう」

 一言で終わらせるのだった――。





 ――宝玉内。

 三代目が、円卓の上に浮んでいる三つの武器を見上げていた。

 一つは大剣。

 もう一つは弓。

 最後はハルバードだ。

 銀色の武器に手を伸ばすが、三代目には触れることが出来ない。まるで主人が誰であるかを知っているようだった。

 四代目は、円卓の周りに配置された椅子を見る。

『数が減りましたね』

 五代目は俯きながら。

『そうだな』

 七代目は、円状の部屋の壁にあったドアを見た。記憶の部屋の入口は、今は五つになっていた。

『ドアの数も五つですな。減ったものです……ん?』

 五つ……。

 三代目が、椅子から立ち上がって新しく出現したドアを見た。ドアの前にある椅子は、ライエルのものだった。

『今になって……いや、もう一年になるか。出てもおかしくない、って事だろうね』

 ライエルの記憶の部屋が誕生し、宝玉内は静寂が支配した。

 そして、三代目が。

『……ちょっと覗いてみようか?』

 すると四代目は立ち上がって眼鏡を指で押し上げつつ。

『気になるんですか? 仕方ないですね』

 五代目も立ち上がりながら。

『いや、あんたも乗り気じゃないか』

 七代目などドアに近い事もあって一番乗りだった。

『ではお先に』

 すると、三代目が。

『あ、ずるい!』

 先を越されて慌てて駈け出そうとすると、七代目がドアを開けてすぐに閉めた。不思議に思って近付くと、七代目は首を横に振り。

『疲れるなどここではなかったのですが……』

 四代目がドアに近付きながら。

『何をやっているんだ。まったく……ほら、何もない……ん? なんでだぁぁぁ!!』

 笑ってドアを開けた四代目が、息を荒くしてすぐにドアを閉めた。そして、ブツブツと。

『あり得ない。なんで。それにここはライエルの記憶の部屋。出会っているはずがない』

 五代目も気になったのかドアを開けた。すると、そのままゆっくりと閉めて首をかしげた。

『おかしいな? 俺の部屋じゃないんだが……』

 三代目は理解出来なかった。だから、自分もドアを開けた。

 すると、そこにはかつて三代目が暮らしていた屋敷の中の光景が広がっていた。

『……え?』

 そして、ドアが開いたことに気が付いた一人の少年が、三代目に手を振っていた。

『スレイ、今日はお婆ちゃんのシチューだよ。ちょっと濃いけど、文句を言わずに飲むんだよ。不味いとかいうと、お婆ちゃん悲しむから』

 小さな少年の笑顔を見て、三代目はドアを強く閉めた。

 三代目の呼吸が乱れる。

『……なんで、デューイ兄さんが……なんで……ここは僕の記憶の部屋じゃないのに。それに、あんな記憶はない……なかったはずだ』

 そこにいたのは、三代目の兄であり死んでしまった少年【デューイ】だった。

 まるで本当に生きているかのように、目の前で動いていた。記憶の中で、決められた行動をする映像ではない。

 焦る三代目は、後ろに下がってどのドアを見た。

 三代目、四代目、五代目、七代目……四人は、ライエルの記憶の部屋の前で唖然とするのだった――。
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