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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

元麒麟児の九代目

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聖なる騎士

 砦の中。

 会議室と思われる場所で、俺は偵察に出たメイから情報を得て地図の上の駒を動かした。

 主要メンバーが揃っている会議室では、地図上の駒の数は大きなものが三つ。

 クレートさんが叫ぶ。

「さ、三千! い、いや、でもこの砦には周辺から集まった兵士たちもいる。戦える人間は三百名だ。なら、この数くらい……」

 何とか出来る、そう言おうとしてクレートさんは口に手を当てて考え込んでいた。

 俺は地図の上を見て。

(三千の兵士は首都から出発した精鋭……ついでに攻城兵器も一杯だ。虎の子なんじゃないか?)

 俺はセルマさんに視線を向けた。三千という数を聞いて、胸の前で手を組んでいた。祈るような仕草に見えた。

「セルマさん、三千というのはザインの兵力のほとんどですか? あ、首都にいる兵力という意味ですよ」

 セルマさんは俺に言う。

「ギリギリの数字、とは言えません。私の代で極端に戦争が減りましたから、人口は増えました。周辺からもかき集めて四千は維持出来たかと」

 ガストーネさんが。

「そこに地方の部隊が加わりますので、全体では一万五千となります。国境からは引き抜かなかったのですな」

 俺たちの役割を果たせないと思っているようだが、俺は首を横に振った。

「十分ですよ。首都の部隊は地方の部隊より質が高いですか?」

 メイから送られてくる視覚情報、そして俺のスキル【リアルスペック】が、相手がこちらよりも装備面で優れていることを数値にして知らせてくれた。

 セルマさんが、俺に。

「地方よりも訓練、そして装備の質は高いです。ただ、私の代では一千の維持に留めていたのですが」

 軍備というのは必要だが、同時に維持費が高い。それだけの数を領民からかき集めても、訓練や装備を揃えるためにどれだけ無茶が必要か……。

(砦で防衛戦をしても、勝てないことはないんだよな)

 そう思っていると、宝玉内からわざとらしい声がした。三代目だ。

『なんという事だ! 敵は精鋭三千をこちらに差し向けてきた!』

 四代目も。

『普通に考えれば、こちらの数を知れば多くて一千かと思ったんですけどね。敵の指揮官は優秀なのか、そうでないのか』

 五代目は。

『これ、防衛しても勝てるが、戦争には負けるな』

 三千の敵を倒せないとは言わない。だが、次の行動に移れない。そうなれば、俺たちは実質的に望んだ結果を得られないのである。

 七代目も。

『こちらを正しく評価していれば、なかなかの指揮官ですがね。実際、三千もいれば野戦で奇襲を受けても返り討ちに出来ると思っているでしょうし』

 そう、ノイニール砦までは平地が続いているのだ。つまり、野戦となるとどうしても数がものを言ってしまう。

 だが、三代目たちは――。

『なら戦わなければいいよね! わざわざ本拠地を空けるとか大胆だよね! 僕なら絶対にしないけど!』
『砦は放棄! そして目指すは――』
『――首都か。残っている戦力を考えれば、そっちがいいな』
『途中に通る村などで兵を増やして進みましょう。どうやら首都と地方で意識の違いがあるようですし』

 ――砦の放棄を決めた。

 俺が宝玉に触ると、三代目が説明してくれた。

『勝てなくはないけど、被害が増えるしこちらが動けなくなる可能性もあるよね? それに、向こうは攻城兵器まで持ちだして移動速度が遅い。対してこちらは少数……首都へと続く道はいくつかあって、相手は数もあって慢心しているね。うわぁ、条件が揃いすぎて逆に怖いや』

 メイから送られてくる情報を、俺のスキルは正確に頭の中で表示していた。一応は周辺を警戒している様子だが、甘く見ているのが分かる動きだった。

 五代目が言う。

『それに、だ。同じザインの領民同士でボロボロになるまで戦わせると、後で面倒になる。ついでに……精鋭部隊は首都の出身者が多いとなると、こちらは防衛に回ると有利だな』

 俺は思った。

(相手に地の利があるのに? それに、首都を落としたとしても完全にこちらの思惑通りに動くか? 民衆に抵抗されたら終わりなんじゃ)

 すると、考え込む俺を周囲のメンバーが不安そうに見ていた。七代目の声がする。

『ライエル、六代目の言葉を忘れるな。自信を持て……部下を不安にさせるな。それに、この戦いはかなり有利に進んでいるぞ』

 俺は自分の意見とは違うが、歴代当主が言うのならそちらを信じる事にした。顔を上げて笑うと、俺は全員に。

「砦を放棄します。そしてそのまま各村や街で兵士を募集し、そのまま首都を目指します。ガストーネさん、取り込みやすい村を教えて貰えますか。あ、こっちは敵の進行方向なので避ける形で」

 俺がそう言うと、全員が唖然としていた。

 アリアが、俺を見ながら皆の意見を代表して口にする。

「え、首都って……本気? だって守りだってここより凄いのよね?」

 答えたのはアウラさんだ。俺を見ながら。

「こういうの、普通は周囲の砦を落としてから行くんじゃないの?」

 すると、宝玉内から三代目の声がした。

『それは違うね。いくら飾りだろうが……王……いや、この場合は聖女だね。聖女を取れば、その瞬間に僕たちの勝ちだ。飾りだろうと、そんなの民衆には関係ないんだよ。さて、予定は狂ったけど楽しく行こうか!』

 俺は笑顔で。

「大丈夫。予定より楽になっただけだから。ついでに、首都には傭兵団という形で向かおうか。さて、準備に取りかかろう」

 手を二回叩くと、全員の顔がハッとしたものに変わった。

 そして、俺は軽い冗談で和ませようと――。

「さぁ、楽しんでいこうか」

 そう言うと、周りの表情がドン引きだった。気持ちを楽にして貰おうと思ったのだが、やはり俺には冗談は向かないようだ。





 ――そこはザインとロルフィスの国境近くの街だった。

 ザイン側についた傭兵団たちが集まり、出陣するのを首を長くして待っていたのだ。

 だが、知らせが届いてみれば、総大将である騎士団長が決起した元聖女たちを討伐するために、ノイニール砦に向かったというものだ。

 これでまたしても延期が決まってしまった。

 多くの傭兵団が、安い金額で契約していた。理由は、ロルフィスでの略奪を許可されており、奪い放題となっていたからだ。

 ただ、攻め込まなければ奪う事もできない。小競り合いでは本格的に稼げず、傭兵団の不満は日に日に高まっていた。

 そんな場所で、アルバーノは傭兵団の団長の一人と話をしていた。

「くそっ! これなら他に行った方が良かったぜ!」

 丸く小さなテーブルにコップを叩き付け、団長は不満を口にしていた。アルバーノも同じだった。

「だよな。安い金で雇って待機だ。これならまだ他で働いた方が良い」

 団長も同じ意見のようだった。だが、彼がアルバーノと飲んでいるのは理由がある。

「アルバーノ、それで本当にベイムで聖騎士団だったか? それを結成した元聖女様には百名程度の兵しかいないんだな?」

 情報収集をするためだった。

「あぁ、間違いない。ベイムではその数だ。ただ、結構な有名人がいてな。そいつが切れ者なんだよ」

 団長はそれを聞いても反応を示さない。だから、アルバーノは。

「もしかしたら、騎士団長は負けるかもな」

 団長は笑った。

「そいつはいい! 貴族もどきの神聖騎士様が負ければ、俺たちの出番だからな」

 すると、アルバーノは呆れたように言う。

「馬鹿だね。事実上の騎士団長様が負けたら終わりだろうが。首都の精鋭三千が負ければ、ロルフィスにどうやって勝つんだよ」

 それを聞いて、団長はアゴに手を当てた。数の上ではこちらが有利だが、ロルフィスは自国の危機である。

 抵抗は凄まじいと予想が出来た。

 アルバーノは――。

「それにな、たった百名。多くても四百とか五百に三千も向けるか? ザインのトップたちは元聖女様に消えて欲しいから必死だ、って噂だ。何か後ろ暗い事でもあるんじゃないか、ってな」

 それを聞いた団長が、アルバーノの前に掌を叩き付けた。手をどけると、そこには銀貨が数枚ある。

「教えろ。内容によっては追加で払ってやる」

 団員の命を預かる団長である男は、自分が知らない事実を知りたがっていた。事によっては、それで酷い目に遭う可能性もあるからだ。

 アルバーノは受け取ると、酒を一口飲んでから。

「気前が良いね。なら、俺もとっておきを教えてやる。ベイムで仕入れた情報だとな、セルバが妙に動かないんだ。あそこ、第二王子様が婿として送られているのにだぜ? しかも、元聖女様はベイムに逃げ込む前に神聖騎士団の精鋭が始末に動いた」

 団長は。

「証拠は?」

 アルバーノは、腰に下げた剣を抜いてテーブルの上に置いた。何の紋章も刻まれていない短剣だ。神聖騎士団が持っていた短剣。

 ただ、暗殺部隊が持っている武器に、身元を明かすものなどない。証拠としては弱い。

「そいつらを倒した知り合いから貰ったもんだ。元聖女様、そうとうまずい情報を握っていたのかも知れないな」

「証拠にならんな」

(だよな。だけど、これで俺とライエルに繋がりがあると思ってくれればいい。後は――)

「急かすなよ。実際、襲撃を受けたのは本当だ。ベイムに逃げ込んだのも事実、そして人を集めたのも事実。だからノイニール砦に精鋭が送られたんだろうが。……この戦争、どうやら後ろで手を引いているのはセルバかも知れないぜ。あいつら、ロルフィスにダメージを与えた俺たちを格好良く叩くつもりかも知れないぜ」

 団長は。

「なんのために?」

「さぁ……でも、ボロボロになったロルフィスを助ければ、セルバの発言力は増えるんじゃないか?」

 暗に、俺たち傭兵は生け贄にされようとしている、などとアルバーノは伝えたのだった――。



 ――ノイニール砦。

 そこには、馬上から唖然とした表情をするアルマンの姿があった。

「……どういう事だ」

 砦を囲み、攻城兵器を組み立てて攻撃を開始した。到着から、まったく敵の姿が見えないので隠れているのかと周囲を偵察もさせた。

 しかし、砦に攻撃を仕掛けても何の反応もなかったのだ。門は簡単に破壊され、兵士たちが突入するともぬけの空であった。

 報告に来た伝令が。

「騎士団長! やつら、こんなものを」

 そう言って伝令が持ってきたのは、一枚の紙だった。

 そこには。

『首都は頂く。陥落するまでに戻ってこられるか競争だ』

 そう書かれており、アルマンは紙を握りつぶした。

「あの性悪女が! 全軍、すぐに首都へ戻るぞ!」

 性悪女――それはセルマのことだった。

 すると、副官である騎士が。

「お待ち下さい! ここまで強行軍でした。兵に疲れが見えます。それに、攻城兵器を解体して移動となると――」

「馬鹿者! すぐに動ける者だけでいい! このままでは首都が陥落するぞ!」

 すると、副官が。

「まさか。敵は多くとも五百です。それに、首都には未だに一千近い兵力があるのです。そう簡単には」

 アルマンはそれを聞いて「確かに」と呟いたが、不安があった。

「……それでもだ! すぐに戻る! 部隊の編成を急がせろ!」

 副官が返事をしたが、その表情はアルマンを疑っているようなものだった――。





 ――ザインの首都。

 城門は固く閉ざされているべきだった。

 しかし、門は開いていた。敵の兵士たちが入り込んでいた。なのに、門は無理矢理開けられた形跡はない。

 油断していたのもあるが、いつの間にか敵が入り込んで門を開けていたのだ。

 神殿に突入を許してしまっていた。

 鎧を身に纏った騎士たちが、神殿に入り込んだ敵に対して武器を向けていた。騎士たちが守っているのは、レミス――聖女である。

 目の前の敵は、青と白という色をした鎧に返り血がついていた。兜をしており、マスクがあるために顔は見えない。

 レミスは、部隊を率いる騎士を見て震えていた。

「なによ、あんたなんなのよぉぉぉ!!」

 レミスの言葉に騎士たちが敵に斬りかかるが、右手にサーベルを持った敵に斬り伏せられた。

 一番目立つ恰好をした敵の騎士は、サーベルを振るって血を落とすと巫女に囲まれたレミスに向かって言うのだ。

「レミス・ザインだな」

 震えるレミスが答えないでいると、敵騎士の後ろから見覚えのある少女が歩んできた。敵が道を空けると、堂々と歩いて自分の前に出たのはアウラだった。

「間違いないわ。レミスよ……」

 少し悲しそうな表情をしていたアウラを見て、レミスは。

「あんた、何をしたか分かってるの! 反乱よ! 私に負けた腹いせにこんなことをして……ただで済むと思わない事ね!」

 すると、アウラは言う。

「セルバを期待しているのかしら?」

 レミスがドキッとして、視線が泳いだ。それをアウラは見逃さなかったようだ。

「……セルバと手を組んだ事は知っているわ」

 すると、レミスは逆上して。

「それが何よ! あの婆は知らないけど、それがザインでしょ! ずっとそうやって来たじゃない!」

 アウラは溜息を吐いた。

「やっぱりそうなのね」

 レミスは慌ててアウラから視線を逸らした。

(どういう事よ。アルマンの奴が砦に向かったんじゃないの? こいつら、もしかしてアルマンを倒したの?)

 恐怖するレミスは、相手がどの程度の規模なのかを考えていた。

(三千を倒して攻め込んで来たの? どういう事よ……城攻めは三倍の兵力がいるんじゃなかったの!)

 すると、鎧を着た女性らしき騎士が指先から糸を出してレミスや巫女を拘束していった。床に倒れるレミスは、アウラを見上げていた。

「はっ、何よその痴女みたいな服は! あんたの貧相な胸が丸分かりね!」

 強気の態度を取るレミスに、かがみ込んだアウラが言うのだ。

「悪いけど、貴方には死んで貰うから」

「……え?」

 笑顔のアウラの顔を、レミスは青ざめた顔で見るのだった――。





 聖女たちを部屋に閉じ込めた俺たちは、神殿で堂々と宣言した。

「聖女レミスは真の聖女――アウラ・ザインの前に倒れた! 武器を捨てよ! 降伏すれば命は取らない!」

 ガストーネさんが神殿前の広場で宣言すると、民衆が集まっていた。そして、あっという間に終わってしまった反乱の結末を唖然として聞いていたのだ。

 城壁に配置された兵士たちは、騒ぎを聞きつけ神殿に戻ってくると全てが終わっていた状態だ。

 俺はその様子を見ながら、変な動きをする連中がいないか見張っていた。

 軽い――とても軽い見栄えだけの鎧を着て、スキル【コネクション】で別働隊の仲間と連絡を取り合う。

『アリア、そっちはどうだ?』

 アリアから返事があった。

『騎士は武装解除したわ。というか、こっちがどれだけの兵力を持っているか知らないみたい』

 夜明け前にメイが城壁に突入部隊――俺たちを運び込み、そして城門を開けたのだ。

 そのまま突入し、神殿まで突き進んだ。

 明け方、全てが終わるまで時間はそうかかっていない。

 俺はエヴァに確認を取る。

『エヴァ、城壁の方は?』

『城門は閉めているし、ついでに敵は来てないわ。ま、戻ってくるのにどんなに急いでも数日はかかるんじゃない?』

 神殿内。

 未だに立てこもっている連中がおり、そちらはクレートさんたちに対応して貰っていた。

 ノウェムやミランダに案内をさせ、俺が敵の潜伏している位置を知らせていた。

『ミランダ、次の部屋に隠れている奴らがいる』

『分かったわ』

 頭の中では、マップ上を赤や青、そして黄色が動き回っていた。それらの情報をみんなに見せるのも可能だが、慣れていないので頭痛を引き起こしてしまう。

 俺が情報を伝えて、神殿内を片付けていた。

『あんまり殺すなよ』

 そう言うと、ミランダは。

『抵抗しないならね』

 すると、セルマさんが民の前に出て演説を始めた。説得のために、アウラさんを紹介しようとしている。

 俺はそちらに集中する事にした。

(こちらは六百名前後……なんとしてもここを落としておかないと)

 移動しながら兵を集め、そうして首都に乗り込んだのだ。

 着ている鎧はモニカが用意した偽物の鎧だ。凄く軽いのも、金属だけではなく木材も使用してそれっぽく見せているだけである。

 何しろ、用意する時間がなかった。

(くそっ、なんでこんなギリギリの状況なんだ)

 内心では焦っていたが、俺は堂々とセルマさんやアウラさんの演説を見守っていた。

 宝玉からは声がする。

 三代目から順番に。

『これで聖女はこっちの手の中だね』
『国庫も確保ですね』
『そうなると傭兵たちの動きが変わるな』
『ふむ……ロルフィスに知らせに行かないといけませんね。時が来た、と』

 ノリノリだ。いつもながら、こういう時は頼もしい。

 ただ、聞こえる声が少なくなっていた。寂しさを感じながら、俺は演説に耳を傾け周囲を警戒するのだった。
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