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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

元麒麟児の九代目

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決意

 ベイム到着を目前に、俺たちは最後の休憩を取っていた。

 街道から少し離れた場所で休憩を取っているのは、旅人や行商人、そして冒険者から護衛対象を見られないようにするためだ。

 一目見て分かる人間が多いとは思えないが、絶対はないと言って少し離れた場所で休憩を取っていた。

(本当はそれだけじゃないんだが)

 周囲の警戒をする俺は、視線を護衛する馬車に向けた。襲撃を受けて表面は酷い状態だが、修理すれば使えるだろう。

 近くでは襲撃してきた神聖騎士団の馬が、襲撃者たちの装備を乗せて休憩を取っている。

 宝玉内からは、四代目が。

『馬はどこかに預けるから出費がかさむね。それに、装備を下手に売るとそこから情報が流れる。しばらくは保管かな』

 俺も同意見だ。気にしすぎで済めばそれでいいが、相手が執念深くベイムまで来た場合を考えれば油断は出来ない。

 六代目の声がする。

『もっとも、調べようと思えばいくらでも調べられる。絶対に知られることはない、などと思わないことだ。さて、ベイムに入る前に――』

「キャァァァ!!」

 六代目が言い終わる前に、悲鳴が聞こえてきた。

 女性の声だ。見張りをしていた俺とエヴァが駆け出すと、そこには以前助けた怪我を負って意識を失っていた男性がいた。

 ブツブツと独り言を言いながら、手にはナイフを持っていた。

「……アウラを……アウラを……」

 手当てをしていたのか、近くには巫女がいて怯えて尻餅をついていた。その後ろには、アウラさんが立ち尽くしていた。

「な、なんで、あなたが」

 信じられないといった表情をしており、どうやら状況が理解出来ていなかった。

(慣れない移動で疲労もピークだろうな。おっと、今はこの状況を――)

 駆けつけたのは俺たちだけではない。

 セルマさんやガストーネさんも来て、アウラさんを逃がそうとした。

「何をしているのです! 早く逃げなさい!」

 セルマさんがアウラさんの腕を掴んで揺すると、本人は混乱から立ち直りつつあった。だが――。

「アウラァァァ!!」

 男性がアウラさんに飛びかかると、巫女が前に出た。男性が力で投げ飛ばし、そしてガストーネさんがセルマさんの前に出て。

「グッ!」

 腹部にナイフが突き刺さったように見えた。

 俺は飛び出すと、男性の腕を掴んで血のようなものがついたナイフを投げ捨て地面に取り押さえた。

 男性は操られているように。

「アウラァァァ!! アウラァァァ!!」

 などと叫んでいる。精神に干渉して操作するスキル。三代目が持つスキルと同じか、それとも似たスキルか……彼は、そのスキルによって操られていた。

「大人しくしろ!」

 暴れる男性を取り押さえると、エヴァがガストーネさんに駆け寄った。クラーラも駆け寄り、倒れていた巫女さんに手を貸していた。

 アリアやメイは、周囲を警戒している。

 セルマさんが、ガストーネさんのところへと駆け寄り、そして手を握った。

「ガストーネ!」

「セ、セルマ様……ご無事で」

 息を切らし、そしてセルマさんが「貴方以外は全員無事です」と答えると嬉しそうにしていた。

 アウラさんがゆっくりとガストーネさんに歩み寄った。

 ガストーネさんは、無理をして微笑んでいるように見える。

「な、なんで私を庇って。私、もう聖女候補でもないのに」

 すると、ガストーネさんが。

「巻き込んでしまって申し訳ありません。ですが、無事で良かった……」

 セルマさんがガストーネさんの胸を押さえると、そこから血のようなものがドクドクと流れ出ていた。

 ガストーネさんの服が赤く染まる。

 セルマさんが、ガストーネさんを横に寝かせ手を組ませた。周囲にみなが集まり、涙を流すとアウラさんはその場に膝から崩れ落ちるのだった。

 俺は暴れる男性を縛り上げ、気絶させると立ち上がって言う。

「……長めに休憩を取ります。遺体は俺たちも埋葬を手伝います」

 セルマさんが。

「ありがとうございます」

 すると、アウラさんが地面に座り込んだ状態で。

「何よ……あんたのミスでしょう! あんたたちが守らないから! だからガストーネ大神官が命を落としたんじゃない! 依頼を受けたなら命懸けで守りなさいよ! 何よ、何よ……」

 泣き出すアウラさんを見て、俺は心が痛むのだった。





 ――セルマは、アウラと共に馬車の中にいた。

 セルマは進行方向を前にして右側に。アウラは左側に座っていた。

 ライエルたちはガストーネのために埋葬の準備をしており、アウラを落ち着かせるためにセルマが馬車に乗り込んでいた。

「アウラ、自分を責めないで」

 セルマがそう言うと、アウラは涙をポロポロと流していた。

「だって……だって……」

 アウラにしてみれば、確かにガストーネは己を利用しようとした大神官だ。ただ、ガストーネがアウラを大事にしていたのも事実。

 セルマにしても、元は商家の娘に過ぎなかった。

 アウラは貧しい騎士の家に生まれ、身寄りを失って神殿に預けられた。

 そんな二人からすれば、聖女など大神官たちの操り人形だ。そんな中で、ガストーネは心から仕えてくれた。

 いや、ザインを守るためだけかも知れないが、セルマもアウラもガストーネの事を嫌いにはなれなかった。

「あなたを守れて、ガストーネも本望だったのでしょう。笑っていましたよ」

 アウラは。

「あいつらがちゃんとしていれば! そうすればガストーネは!」

 聖女候補になった日。

 アウラはガストーネに呼び捨てにするように言われていた。これからは主従だと、明確にするためだ。

 それだけ、ガストーネはアウラに本気で仕えようとしていた。

「アウラ、ライエル殿たちが手を抜いた訳ではないのです。ライエル殿は……こうなる可能性を感じていました。出来るだけ近付かないようにと提案もしたのです。それを私が無理を言って」

 そう、ライエルは怪我人を自分たちが預かると申し出ていた。今にして思えば、その時点で可能性があると判断したのだろう。

「なら、しっかり言えば良かったんです! あいつらが――」

「アウラ!」

 セルマが大声を出すと、アウラはビクッと体を反応させて黙ってしまった。

「……ごめんなさい。ですが、こうなる事は分かっていたのです」

「え?」

 セルマは目を伏せて淡々と告げた。馬車の中、ローブの一部が赤く染まっているセルマは、膝の上で手を組んで。

「いずれ命を狙われると。そのために逃げたのです。あなたは可能性が低いと思っていました。でも、彼らはあなたを先に狙った。本来なら、私たちだけですんだのに」

 アウラはハッとした表情でセルマを見ていた。

「……私を逃がしたら、セルマ様たちは」

 セルマは俯いたまま。

「私たちだけではどうにもならないでしょう。逃げても殺しに来る。まさか、あなたを最優先で狙うなんて」

 セルマは本心からそう言っていた。

 最優先で命を狙われているのは、アウラだったのだ。

 神聖騎士団――いや、ザインが恐れているのは、アウラだった。

 アウラは。

「なら、私のせいでガストーネは……」

 セルマは。

「いずれはこうなっていました。遅いか早いか、ただそれだけです」

 アウラは両手で頭を抱え、髪を握る。かきむしりそうだったので、セルマはアウラの手を取って真剣な表情で顔を見た。

「アウラ、あなたはベイムに行ったら静かに暮らすのよね?」

「セルマ様?」

「私は残った者たちと足掻いてみるつもりです。幸い、ライエル殿には伝がある。どこまでやれるか分かりませんが、ザインの目が私を向くようにします」

 決意のこもったセルマの言葉。これも嘘ではない。

 アウラは顔を横に振って。

「逃げましょう! セルマ様まで死んでしまいます。そんな事になれば、私は恩人をまた失う事に……」

 ポロポロと泣き出すアウラの視線の先には、赤く染まったローブが視界に入っていた。

 セルマが死ぬところを思い浮かべたのか、青い表情をしていた。

(憎まれ口を叩いても、あなたは私たちの期待に応えて聖女候補になってくれましたね。本当に優しい子です)

 急遽、対抗馬として現聖女レミスと競わせた。時間があれば勝てたかも知れない。

 ただ、本人は自分たちへの義理で聖女候補になったのをセルマは知っていた。

「アウラ、これからの人生はあなたが決めなさい」

「わ、私が」

「そうです。あなたが決断するのです。ベイムで静かに暮らすなら、ベイムに入ってからは私とあなたは赤の他人。ライエル殿に頼んでベイムで暮らせるように手配はします。ですが、二度と私たちと関わらないように。それがあなたのためです」

「嫌です。そんなの嫌です!」

 アウラがセルマに両手で掴みかかり、セルマはアウラを抱き寄せた。

「逃げても良いのですよ。戦う事を選べば、あなたに待っているのは過酷な道……私もガストーネもあなたの幸せを望みます」

 アウラは顔を上げてセルマを見た。真っ赤にした目で、口を閉じていた。泣くのを我慢しているようだ。

「私……離れるのは嫌です。もう、家族を失いたくないです。お母さん……」

 セルマはアウラの頭を優しく撫でた。

「私を母と呼ばないように言ったのに……小さい頃から、あなたは甘えん坊でしたね」

 セルマは苦笑いだ。アウラとの年齢差を考えれば、確かに母と娘でもありえた。

 実際、ライエルの母とも年齢差は少ししかない。

 甘えるアウラを優しく自分から離すと、セルマは笑顔で言うのだ。

「ベイムには今日中に到着します。アウラ、選びなさい。あなたの人生ですよ」

 アウラは一度俯き、そして涙を拭いて顔を上げた。

「私も戦います。聖女候補として、関わった者として戦います。だから、私を置いていかないでください」

 セルマは真剣な表情で。

「それでいいのね? 後悔はしない? 静かに暮らさないと掴めない幸せもあるのですよ」

 アウラの表情は真剣だ。

 もう決意したのだろう。

 セルマは頷くと、馬車から降りようとアウラに言う。

「……もう作業が終わった事でしょう。アウラ、降りて顔を洗いますよ。ガストーネにそんな顔を見せるわけにはいきませんからね。それに、決意したことをみなに知らせないと」

 アウラは頷くと、馬車のドアを開けて外に出るのだった。

 後ろから見守るセルマは、そんなアウラの背中を微笑んでみていた。本当の母であるような笑みで。

 ただ。

「……え?」

 アウラは、外に出ると頬を引きつらせて固まったのだった――。





 馬車には二つのドアがあった。

 左側のドアの前で、俺たちは降りてきたアウラさんを前に拍手をした。

 俺にアリア、そしてクラーラにエヴァ、メイも参加して全員で。

 他にも、ついてきた巫女さんたちや、関係者。

 それに、先程まで暴れ回っていた男性も笑顔で拍手をしていた。

 ガストーネさんも、嬉しそうにしていた。

「アウラ様、ようやく決意してくれたのですね」

 泣いている姿を見て、関係者の中には涙を流している者までいた。

 だが、本人――アウラさんは、俺たちの前で信じられないものを見たように固まっていた。

 後ろからセルマさんが降りてくると、アウラさんがセルマさんに掴みかかった。

「騙したんですか!」

「失敬な。騙してなどいません! 実際、あの者が怪我をして意識がなかったのも事実なら、精神に干渉を受けたのも事実なのですよ。ライエル殿がその干渉を打ち消したのです。それに、本当に狙われていたのはあなた……アウラだったのですから。それに、私やガストーネが死ぬ可能性も未だに高いのですよ。あのまま覚悟のないあなたを連れ回すのは、私も不安でした。それに、こうでもしないとあなたは理由をつけて本心を語らないでしょうに。何年の付き合いだと思っているんです?」

 セルマさんが、暴れ回った男性に視線を向けていた。男性は恥ずかしそうに頭をかいていた。

 俺の方は、宝玉から聞こえる声をスルーしている。三代目だ。

『僕のスキルは凄いでしょ。何しろ、精神に干渉する事が可能なら、打ち消すのも可能だからね』

 三代目のスキルで、人間トラップになっていた怪我をした男性を元に戻した。

 そして、演技をして貰い、血のようなものはポーターに積み込まれていたモニカの暇つぶし用の道具箱から拝借したものだ。

(怪我をした男性に事情を話して、仲間が死んだ事を教えて悲しませて……そのまま演技に参加させて。そっちも大変だったんだよね)

 三代目に相談した結果、このような手段を選択したのだが……。

 五代目が笑いながら。

『性格の悪さがスキルにまでにじみ出ているな。今回は上手くいったがな』

 三代目と五代目が、威嚇し合うように笑いあっていた。

 七代目が俺に。

『さて、ライエル……種明かしの時間だな』

 言われて俺は一歩前に出て、アウラさんに言うのだ。

「アウラさんを本気にさせるために、俺が演出しました。ちなみに、断ったら右側のドアから降りてガストーネさんも現われないで作った偽物の墓の前で黙祷をする間に、ガストーネさんだけ先行してベイムに入る予定だったんだよ。だが、君の決意を見せて貰った! 俺たちもこれから全力でサポートしよう!」

 笑いながら言うと、アウラさんも笑顔で俺に歩み寄ってきた。

 わざと、腹が立つように言ったのは、不満を俺に向けるためだった。

 これがセルマさんやガストーネさんに向いても困る。

 これからはアウラさん、セルマさん、ガストーネさんの協力が絶対に必要なのだ。

「なる程、私はあなたの掌の上で踊らされていた、と? 頼りなく思っていましたが、なんだか頼もしく見えてきましたよ。冒険者さん」

 笑顔で俺とアウラさんも笑い合うのだが、相手が握り拳を振り上げて俺のボディーに打ち込んできた。

 女の子の拳と侮っていたが、どうやら判断を間違えた。体の動きもスムーズで、ためらいの一切ない拳が俺の腹部にめり込む。

「カハッ!」

 内臓に衝撃が来て、息を吐いて地面に膝をついた。

(俺が黒幕と教えて、平手打ちでもくるかと思ったらグーでボディー狙いとか……)

 腰のひねりも加わった、見事な一撃を受けて俺は無理矢理笑顔を作って。

「み、見事なボディーでしたね」

 すると、アウラさんは笑顔のまま俺を見下ろし、親指を下に向けて。

「いいでしょう。私もあなたの計画に参加してあげますよ。見事に騙されましたし。それに、ここまで出来るなら少しは期待が持てそうです」

 宝玉内から、四代目の声がした。

『このアングルにあの拳……嫁を思い出す』

 六代目が。

『覚悟が出来たようだな。さて、これで欲しいカードが手元に揃った訳だ。ライエル、楽しくなってきたな』

(……俺はそれよりも苦しいんだが)

 精一杯の作り笑いをアウラさんに向けていると、隣でアリアがボソリと。

「ライエル、あんた頑張りすぎ……」

 どうやら、同情してくれたようだ。

 エヴァは。

「このシーンはカットかな。感動的なシーンにしたいし」

 歌にするために、メモを取っていた。それを聞いたクラーラが。

「記録はしっかり取るべきです。そうした判断が、後の学者を混乱させるんです」

「知らないわよ。私は歌を聞いて欲しいの。余計な真実は必要ないのよ。お客が喜ばないじゃない」

「それは貴方の判断です。勝手に決めつけるのは駄目だと思います。エルフがそんな事だから、多くの学者が民謡などの研究で喧嘩をするんです」

 どうやら、この場面をカットするエヴァが許せないらしい。クラーラらしいと言えば、らしい。互いにメモを取りながら、意見をぶつけ合っていた。

 メイは俺たちを見て。

「人間は面倒だよね」

 そう言っていた。だが、俺も――。

(俺もそう思う)
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