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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

元麒麟児の九代目

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大神官

 夜。

 野営を行なう俺たちは、周囲を警戒しながら休んでいた。移動速度が速いので、思っていたよりも追手との距離を作れていた。

 ただ、確認したいことがあり、俺は元大神官のガストーネさんに話を聞く。

 たき火から少し離れ、互いに温かい飲み物を飲みながらの会話だ。

 聞きたいことは多いが、追手の素性を知るのが最優先だった。そして、ガストーネさんたちが何を目的にしているのかも。

 ガストーネさんは、疲れた表情をしながら俺に事情を説明してくれた。

「神聖騎士団の精鋭ですか?」

 頷きながら、ガストーネさんは忌々しそうに呟く。

「精鋭とは名ばかりの暗殺集団です。昔から後ろ暗い事を専門に行なう部隊でした。元聖女であるセルマ様が穏健派でして、どうしても騎士団の不満が溜まっており……」

 宝玉内からは、ガストーネさんを責めるような声が聞こえてくる。五代目だった。

『対立ばかりでなく、適度に魔物や賊討伐を推奨して褒め称えてやれば良かったのによ。対立して国内に火種というか、もう大火事か? 大問題を放置というのがあり得ないけどな』

 自分は子供のことで火種を残しているのに、などとは思っても口にしなかった。俺は、五代目の言葉を柔らかくして聞いてみた。

「魔物討伐や賊討伐、それらを推奨して騎士団を活躍させても良かったのでは?」

 すると、ガストーネさんは酷く疲れた笑みで。

「セルマ様が気付かないとでも? 私とて大神官の家系ですぞ。当然ですが、騎士団に何もさせず養う事などしたくなかった」

 大神官の家系。貴族で言えば、伯爵や子爵、貴族の立ち位置なのだろう。貴族とは違っている部分もあるが、どうやら世襲で神官が決まっているようだ。

 ザインならでは、という事だろう。他ではあまり聞かない。

「……他国を侵略しない。内政に力を注ぐことを許さない大神官や騎士団が結託し、私たちは冒険者を頼るしかなかった。無駄に資金を支払い、そしてなんとか形になるのに二十年の月日がかかったのです。代替わりもさせる事が出来ず、セルマ様には苦労をかけました」

 五代目が、宝玉内からガストーネさんに謝罪をした。

『……正直、すまんかった』

 聞こえてはいないだろうが、俺もいたたまれない気持ちだ。

「セルマ様でしたか? 先代に引退させなければ良かったのでは?」

 すると、ガストーネさんは額を手で押さえて困った表情をしていた。ボソリと、本音をこぼす。

「……年齢的に聖女というのは厳しかったのです。お綺麗ですが、やはり若い女性には敵わないと言いますか、領民も新しい聖女様を求めておりまして」

 六代目が、呆れたように。

『よく今まで統治が続いたな。というか、お飾りの聖女なら誰でも一緒ではないか? 下手をすると簡単に乗っ取りが……』

 すると、三代目が。

『あ、そういう事ね。こうやってどこかの勢力の女性が聖女になって、敵対する国にザインを使って叩いていたわけだ。全周囲に喧嘩とか馬鹿かと思ったけど。いや、今でも馬鹿だとは思うけど』

 色々と間違っていると思いながら、俺はガストーネさんに質問をした。

「今代の聖女は、その……」

「元は近隣の【セルバ】という国の貴族の娘です。本来ならそういった出自の娘は避けるべきだというのに」

 セルバ――小国で、色々と裏で動き回っている国だ。複雑な小国の入り乱れる土地で、今は沈黙を保っている。

 どこかの二国のように、激しく戦っている様子もなかった。

(こんな土地をまとめるのは可能なのか? いや、そもそも、まとめるなんて出来るのか?)

 不安に思っていると、七代目が嬉しそうに。

『いいですな。先代の聖女に、穏健派の大神官……トップと補佐をする者が揃って手元におりますぞ』

 四代目が。

『半ば反乱に近いね。いや、これは反乱だ。聖女の座を奪われた元聖女、そして追い出された大神官!』

 三代目が続く。

『国を憂い元聖女は、このままではいけないと立ち上がるわけだね! もう少し若いと良かったんだけど!』

 五代目。

『ま、二人を前面に出して勢力を作り、ライエルがその中核を担えばいいか? ザインを手に入れたら、反乱を理由に統治方法を変えればいいし』

 六代目が。

『ですな。その神聖騎士団ですか? 送り込まれた精鋭をここで潰しておきましょう。国の規模から考えて、数はそこまで多くないはず。きっと大きな痛手になります』

 ……話を聞いた限り、正式に聖女の地位を譲っている。多少は強引だったそうだが、ガストーネさんも認めざるをえなかったらしい。それなのに、歴代当主たちは反乱という形に持って行こうとしていた。

 俺が宝玉を指先で転がすと、三代目が俺を説得してくる。

『気に入らないのかい、ライエル? だったら、こう考えるんだ! 欠点だらけの統治方法を持つザインを、これを機会に改めると! 何、どうせ周辺国もザインを利用して暴れ回ったんだ。むしろこれは善意! 争いの続くこの地を正しく導くために、今は涙を呑もうじゃないか!』

 五代目も。

『というか、このまま放置ならいずれはセレスが滅ぼす。あれが国内に目が向いているうちに、俺たちは多少強引でもこの地をまとめるぞ。それだけでも足りないが、後は周辺の状況も合わせて考えるか。それに、このまま放置するには、許せん相手だ』

 五代目がいつにもましてやる気を見せていた。そんな中で、六代目が俺に声をかけてきた。

『ライエル、お前の気持ちも分かるが、どこかでこの状況を打開する必要があるのは事実だ。それにお前が関わるだけだと思え。それに、このまま放置すれば、近い将来必ずセレスが動く。お前はもっと先を見て判断しろ』

 優しい声だった。

 俺はしばらくしてから、ガストーネさんに今後の予定を聞いた。

「ベイムに到着したらどうするつもりですか?」

「あまり騒ぎ立てる訳にもいきません。ただ、巻き込んだ者たちの安全は確保してやりたいのです。セルマ様に、元聖女候補のアウラ様もおります。せめて、私だけが狙われて終わりなら良かったのですが」

 見た目は悪人面なのに、どういう訳か優しい人だった。相当苦労したのかも知れない。なのに、歴代当主たちは。

『何? 元聖女候補? 話からすれば、今の聖女の対抗馬だよね? ……おっと、更に手札が増えたよ!』

『候補になるくらいです。ザイン国内に指示する連中もいますよね……楽しみですね!』

『なら、大義を手に入れたとロルフィスにでも売り込むか? あそこも今は王女だけだったよな? 王と王妃が事故死とか』

『きな臭い話ばかり。それでやたら沈黙している国がありますな。名前は出てくるのに、動きが見えない国が一つ……』

『いやいや、今回は実に有意義ですな。戦う事になる勢力の戦力は削れ、大義名分も手に入りました。後は場を整えて勝利する準備をしましょうか』

 楽しそうだった。とても楽しそうだった。

(こいつら怖い)

 俺は深呼吸をすると、ガストーネさんに提案をするのだった。

「ガストーネさん」

「何か?」

「追手の事です。追いかけて来ているのは間違いない。どこかで襲撃を受けることが予想されます」

「……分かっております。腐っても騎士団の精鋭です。無理と思えば逃げて頂いて構いません。ただ、その時はセルマ様とアウラ様を逃がして頂ければ。他は、可能であれば連れて行ってください。向こうも私の首が取れればある程度は納得を――」

 ガストーネさんが言い終わらない内に、俺は笑顔で。

「全員を返り討ちにしても構いませんよね?」

「……は? え!?」

 驚くガストーネさんの顔を見て、俺は計画を話すのだった。





 それはベイムへと戻る最短距離になる谷だった。

 周囲を岩場に囲まれたその場所は、石ばかりで進みにくい。だが、最短距離で進む事を決定した俺たちには、どうしてもそこを通る必要があった。

 付け加えれば、ここは襲撃に適した場所である。砂利が多く、馬車の進みが悪い。そんな中でも、ポーターは問題なく動いている。

(ポーター、やっぱりお前は頼りになるな)

 クリッとしたガラス玉の瞳が、今日も輝いて見えた。頼りになる俺たちの仲間だ。

「さて、そろそろだな」

 周囲を見ながら、俺はスキルで確認をしていた。周囲の地形を五代目の【ディメンション】で確認し、六代目の【スペック】で敵の状態を把握していた。無理して追いかけ、急いで先回りをしていたようだ。

 わざと谷を目指すような進路を取り、おびき寄せた甲斐がある。

 クラーラが、俺に近づいて来た。

「ライエルさん、準備は出来ています」

 アリアも周囲を警戒しており、エルフであるエヴァは周囲の雰囲気から敵がいるのに気が付いているようだ。

 相手は俺たちよりも、標的である馬車を狙っているようだ。周囲のピリピリとした気配を感じながら、俺は配置についたメイに指示を出す。

(メイ、聞こえているな。俺の見ているマップは見えるか?)

 思い浮かべているマップに、赤い光点がいくつも光っている。少し離れた位置で、こちらを監視している集団もいて、失敗すれば報告に戻るつもりなのだろう。

 だが、逃がすわけにはいけない。

(聞こえているよ。というか、頭がガンガンするよ。情報が多いんだよ。それで、僕はどいつらを攻撃すればいいの?)

 俺は離れた場所にいる集団を引き受けて貰う事にした。流石に距離があるため、逃げられてしまう。

(離れている連中を頼む。こっちは、攻撃してくる連中を叩く)

(……いいよ。すぐに戻るけど、間に合うかな)

 スキル【コネクション】によって連絡を取り合っているメイには、離れてこちらを見ている一団を叩いて貰う事になった。

 麒麟であるメイにとって、少数の騎士団の精鋭は簡単な相手だ。問題は、集団の本体と戦う俺たちだろう。

 隣を歩いているクラーラに、俺は声をかけた。

「メイから連絡があった。監視をしている連中の相手を頼んだ。その後からこちらに合流する予定だ」

 クラーラは視線をポーターに向けていた。汗を流し、不安と言うよりも大変そうにしていた。

 周囲に敵が配置につくと、アリアが緊張していた。雰囲気を察し、体に力が入っているようだ。

 エヴァも相手に気が付いており、気が付いていないフリをしていた。敵がどこを狙い、どこに配置しているのか。俺には手に取るように分かっていた。宝玉を左手に握り、右手を掲げると魔法を使用した。

「アイスウォール!」

 並んで移動している馬車、そしてポーターの周囲に氷の壁が宙に浮んで出現すると、そこに狙ったかのように炎が襲いかかる。矢も放たれるが、氷の壁に防がれていた。馬車を引く馬たちが興奮したが、御者が手綱を掴んで落ち着かせていた。

 次々に迫る攻撃を防ぐと、崖の上からローブを着た集団が飛び出して来た。数は七。崖の上に控えているのは二名だった。

 武器を持ったローブを着た男たちが走り寄ってくると、俺は宝玉を弓に変えてスキルを使用する。

 【セレクト】で狙いをつけ、天に向かって光の矢を放つ。天に向かって放った一本の光の矢はすぐに見えなくなった。

 弓を宝玉に戻すと、首にかけてサーベルを二本引き抜いた。

 相手が俺の行動に怪しんでいたが、馬車を狙って四名が走っていた。残りは俺たちに襲いかかってきた。接近戦で弱いクラーラを守るために前に出ると、アリアとエヴァがローブを着た男たちと向き合っていた。

「俺たちを押さえている間に、標的を狙う訳か……随分と忠実だ」

 相手を見て口を開くが、相手はこちらの会話に答えることはなかった。ただ、俺はニヤリと口元を歪めた。

「上には気を付けるべきだ」

 俺の言葉に少し気にした様子を見せたが、目の前のローブを着た男は槍を俺に向かって突きだしてきた。下が砂利で滑りやすい中で、正確に俺の急所を狙ってきた。

(鋭い……でも、六代目よりも甘い!)

 左手で持ったサーベルで槍を弾き、体を駒のように回転させると崖の上から放たれた矢を右手に持ったサーベルで斬り落とした。サーベルでローブを着た男に突き刺して蹴り飛ばす。

 サーベルは手放し、返り血も少しかかる。空いた左手に魔法を準備すると、振り返った先にはエヴァに斬りかかろうとしていた敵がいた。

「ストーンバレット!」

 俺が左手を向けた敵に向かって、地面から飛び出した石ころが何発も撃ち出された。相手に当たると、敵はローブを撃ち抜かれていた。

 避けて俺に視線を向けてくるが、その瞳は憎しみにこもっていた。

「俺ばかりに気を取られるな……確かに言ったぞ」

 俺たち以外に襲いかかったローブの男たちは、馬車のドアを破壊して中に乗り込んでいた。探しているのは、きっと先代の聖女と聖女候補、そして元大神官だろう。

 御者が馬車から離れると、空が光った。敵がそちらに視線を向けると、光の小さな矢が次々に降り注いできた。

 俺たちはその場にとどまっており、相手が光の矢から逃げようとしていた。隠れる場所がない場所で、敵が空から降り注ぐ小さな矢に撃ち抜かれていく。一発一発の威力は低いのだが、それがいくつも体に突き刺さると相手は抵抗空しく倒れていく。

 周囲を見ると、アリアが返り血を浴びて槍を握りしめて膝から崩れ落ちている。駆け寄った俺は、相手を見た。

(スキルを使用して倒したのか)

 アリアは動揺しており、呼吸がおかしかった。魔物を倒す事とは違い、精神的にくるものがあったのだろう。俺はアリアの肩に手を置くと。

「頑張ったな。少し休め」

 すると、アリアは頷いてそのまま俯いて吐いてしまった。背中をさすり、俺は周囲を見た。エヴァが座り込んでいた。怪我はないようだ。

 スキルで確認をするが、生き残っている敵はいなかった。

 そして、崖から飛び出して来たメイが、地面に着地をする。

「やっぱりもう終わっていたね。僕の言うとおりだ」

 胸を張るメイを見て、俺は「そうだな」と軽く返事をするとアリアの背中をさすりながらポーターを見ていた。後ろのドアが開くと、そこからゾロゾロと元聖女様たちが降りてくる。

 無理矢理狭い荷台に押し込めていたのだ。

 戦闘跡を見て、セルマさんが驚きつつ。

「まさか、本当に倒してしまったのですか? 十名近くはいたはずですよ」

 信じられないという視線を俺たちに向けており、後から降りてきたガストーネさんも俺たちと、倒れている自国の精鋭たちを交互に見ていた。

 宝玉内からは、三代目が。

『さて、これでライエルを強く印象付けできた。ついでに敵の精鋭を十五名かな? 倒す事が出来た訳だが……ライエル、ここからだよ』

 真剣な三代目の声に、俺は宝玉を握りしめるのだった。だが、隣では、アリアが吐いたままである。背中をさすり、声をかけ続けていた。
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