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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

元麒麟児の九代目

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厄介者か幸運の女神か

 周囲には草原が広がっていた。

 空は高く、そして太陽が雲に隠れて少し肌寒く感じる。

(太陽が出てくれれば、暖かいんだけどな)

 冬が終わりを迎えようとしており、俺は槍を持って周囲を警戒していた。

 メイに麒麟の姿になって貰うと、その上に鞍を乗せて馬上で槍を振るう練習をしていた。槍は、アリアから借りたものだ。

「ねぇ、振り回している時に頭にぶつけないでね。角に当てたら噛みつくから」

 メイは、俺が背中に乗って魔物を倒していると、自分の頭部に槍を当てないか心配していた。

 整備された道では、ポーターが止まっていた。アリアがポーターに背中を預けて俺たちを見ており、エヴァは周囲の警戒をしていた。

 クラーラはポーターの天井に乗って、俺たちを見ている。

「当てないようにはするけど……というか、馬上は難しいな」

 六代目に言われて練習をしているのだが、俺は馬を持っていなかった。しかたなく、間に合わせるためにメイに麒麟の姿になって貰ったのだ。

 アリアが俺たちを見て。

「ねぇ、これって凄く贅沢よね。馬がないから麒麟に乗るとか」

 エヴァは周囲を警戒しながら、同意していた。

「ライエルくらいよ。というか、なんで馬上槍? 物語の英雄みたいで恰好はいいけど」

 アリアは、エヴァを見て少し呆れている。

「そういう問題? 本気で戦争に関わろうとしているのは無視なの?」

 依頼を達成した帰り、俺は魔物を見つけては馬上で槍を振るって戦っていた。バランスが取りにくい上に、降りた方が戦いやすいと思いながら。

 ゴブリン三体を発見し、無理を言って俺一人で戦っていた。

 メイは、自分の前に出て来たゴブリンを前足で踏み殺してしまう。

「おい!」

 急な動きで俺がバランスを崩すと、メイは笑っていた。

「だって、足を狙ってくるから。というか、いつまで時間をかけているの?」

 馬上で戦うというのは、本当に難しい。

 宝玉内からは、歴代当主たちの笑い声まで聞こえてきた。六代目が。

『体の軸をもっとしっかり固定してみろ。戦場では人馬一体の猛者たちが沢山いるぞ』

 沢山いるからと言われても困る。

 せめて、恰好がつく程度には出来ないとまずい、そう言われて練習をしていた。

 ゴブリンを倒すと、クラーラが魔石などを回収しようとポーターの天井から降りてきた。

 アリアも同行してきて。

「ねぇ、次は私にやらせてよ」

 俺はメイから降り、確認を取る。

「メイ、いいのか?」

 すると、メイは興味なさそうに。

「別にいいよ」

 アリアが俺から槍を受け取ると、嬉しそうにメイの背中に乗った。アリアも一時期はお嬢様で、馬に乗ることもあったようだ。

 槍を持って馬に乗るアリアの姿は雄々しかった。

「久しぶりだけど、やっぱりいいわね」

 すると、メイが。

「あ、ライエルより安定している感じだね」

 俺は二人から視線を逸らし。

「……乗ったのは久しぶりなんだよ」

 負け惜しみの発言をした。それが面白いのか、アリアはメイを走らせると右手に槍を持って左手で手綱を握っていた。

 魔石を回収したクラーラが、手袋を取りながら。

「上手いですね。というか、様になっています。アリアさん、武門の家に生まれたと聞きましたけど……本当に男性だったら騎士団長や将軍になってもおかしくありませんね」

 俺はアリアを見て。

「そうだな。でも、今は女性でも活躍している人は多いよ。女王はしらないけど、二大戦乙女に聖女。ほら、この辺だけでも三人はいる」

 クラーラは、溜息を吐くと俺に向き直った。そして、いつもよりジト目で俺を見て。

「その聖女さんが問題なんですけどね」

 俺が手に入れた情報は、クラーラにも伝えている。資料を読んで貰っていた。だから、クラーラも聖女に関しては知っているのだ。

 もっとも、その聖女様が酷い。

 宗教国家ザインは、最後の女神を信仰している国だ。

 それは問題ないし、基本的に宗教自体が女神の誰かを信仰している。問題なのは、歴代の聖女である。

(神官のほとんどが家を継いでいるから、ほとんど貴族と変りがない。なのに、国のトップである聖女を容姿とか才能で決めるか?)

 神殿に仕えている巫女たちの中から、血筋に関係なく容姿が優れて才能がある者を聖女に選んでいたのだ。

 そのため、どうしても優秀な者に偏りが出ていた。

 時には、周辺国の事情で、貴族の娘が巫女になってそのまま聖女になった例もある。大臣のような役割を持つ大神官たちが、事実上の統治を行なっているようだが、聖女にも権力があるのだ。

 そして、大神官たちも一枚岩ではない。

(宗教国が、周囲に喧嘩を売りまくるとか……駄目だろ)

 ザインの歴史は戦争の歴史でもあった。

 ただ、前任者は穏健派だったのか、ここ二十年は小競り合いで収まっていたらしい。それまでは酷く、先々代などロルフィスに恨みでもあったのか、大規模な戦を何度もしかけているようだ。

(代替わりをしたら、戦争を仕掛けるとか)

 このザインの事情を聞いて、歴代当主の反応は一致している。特に、五代目と六代目は頭にきたようだ。

 三代目から順に。

『戦争を仕掛ける理由が酷いよね。というか、無条件でロルフィスを応援したくなるよ』
『何を考えているんでしょうね。返り討ちで二度と戦争を仕掛けられないようにトラウマを刻んでやりましょうか』
『……戦の理由が酷すぎるな。ザイン側はない。絶対ない』
『潰してしまった方がスッキリしますな』
『ライエルに統治をさせられないので却下です。そんな国、統治するだけでライエルの時間がなくなります』

 ――ザイン側で戦う事はなくなった。

 五代目など、生きている時代に周辺の領主に何度も理不尽に攻め込まれ、そして耐えてきた人物だ。

 心情的に許せないのだろう。

 俺が溜息を吐きたい気持ちになっていると、スキル【サーチ】に反応があった。黄色い反応が追われていたのだ。

 すぐに全員に声をかけた。

「誰かが追われている。クラーラ、ポーターに戻れ。アリア、そのままついてこい! エヴァ!」

 エヴァを呼ぶと、俺は追われている反応がある方角を見て貰う。

 エヴァが俺たちの中で視力が一番良いので、確認して貰うと。

「馬車が追われているわね。大きな馬車だから、逃げ切れないみたい。でも……」

 困惑しているエヴァは、俺に言う。

「おかしいわ、だって追いかけている連中が賊に見えない。あれ、絶対に訳ありよ」

 訳ありと聞いて、俺は思案した。

(訳ありの集団が追われている? 関わり合いにならない方がいいのか?)

 すると、馬車がこちらに向かってきていた。

「ライエル、どうするのよ!」

 エヴァが聞いてくると、俺は助けようと決める。宝玉を触ると、三代目が少し呆れた声を出していた。ただ、少し嬉しそうだ。

『人助けね。ま、追われている方が悪いときもあるけど。というか、追いかけている方はこちらにも敵意を向けているみたいだし』

 六代目が。

『気を付けろ。賊なんかとは動きが違う』

 俺は全員に指示を出す。

「クラーラ、ポーターを操作して馬車と追っての間に入れ。メイ、人の姿になっておけ。全員、ポーターに乗り込んでそのまま追っての相手をする」

 ポーターに乗り込むと、クラーラが操作を開始する。動き出したポーターの天井へと俺は移動すると、宝玉を左手に持って弓を出現させた。

 エヴァも天井に出て来て、弓を構える。

 数台の馬車を追うのは、馬に乗ったローブを着た男たちだ。

 俺たちが近付くのを見ると、すぐにこちら側に三名を派遣してくる。

「追手は十人……いや、後方にもいるな」

 動きもそうだが、こちらに三人を派遣してきた時の判断も速かった。五代目が、俺に忠告してくる。

『ライエル、手加減をするな。相手は殺すつもりできている。追われている方が悪い可能性もあるが、そのために殺されるのも馬鹿らしいからな』

 七代目は。

『追手は口封じも考えているとなると、厄介事ですな。まったく、この忙しいときに』

 深呼吸をすると、弓を引く構えをする。

 スキル【セレクト】で、敵をとらえるとそのまま光の矢を放った。矢が、こちらに走ってくる三騎に向かって行くと、三騎ともすぐに矢から避けようと方向を変える。

 しかし、矢は追尾し、馬に乗るローブを着た男たちに突き刺さろうとしていた。

 一人は胸を、一人は肩を撃ち抜かれた。

 しかし、三騎の中央にいたローブを着た男は、乗っていた馬を盾にして矢を回避する。そして、地面に着地するとこちらに向かって走ってきた。

 次の矢を放つと、今度は光の矢に向かってナイフを投げて防ぐ。

「見破られたのか?」

 七代目の声がした。

『なる程、一人で挑んでくるだけはあるか』

 エヴァが。

「このっ!」

 矢を放つ。しかし、ためらいがあったのか矢は外れてしまう。俺たちのパーティーは、人相手に戦った経験が少ない。

 すぐに距離を詰められると、俺は弓を宝玉に戻してサーベルを引き抜いた。

(こいつ速い!)

 宝玉を腕に絡めたまま、走るポーターの天井にいた俺たちに飛びかかってくる。

 ローブから出た腕には、武器が握られていた。

 予備のサーベルを引き抜くと、ローブを着た男の持つ短剣を受け流す。ポーターの天井に着地した男と睨み合う形になった。

 狭い場所で向き合っていると、俺の後ろからエヴァが矢を放つ。

 瞬間、俺も踏み込んでローブ姿の男に斬りかかった。

 矢よりも俺の攻撃を受け止めた相手だが、太ももに矢が刺さると動きが悪くなる。サーベルで相手の左手に持った短剣を払うと、そのままもう一本で相手を斬る。

(浅い)

 踏み込みが足りなかった訳ではない。

 相手が、腕を犠牲にして致命傷を避けたのだ。

 相手の左腕がどこかへと跳んでいくと、宝玉から三代目の声がした。

『ライエル、相手を蹴り飛ばすんだ!』

 二代目のスキル【オール】でも、相手の魔力が変に膨れあがるのを感じ、俺も危機感を覚えた。

 すぐに行動に移すと、相手が目を見開いていた。そして、ポーターの天井から落ちたローブ姿の男は、地面を何度か転がると爆発した。

 俺の後ろにいたエヴァが、爆発して燃え上がる男を見ながら。

「……自爆したの」

 信じられないという表情をしていた。すぐに追われている馬車の方角を見ると、追手は引き返していく。

 そして、爆発音が聞こえてきた。

 振り向けば、先程行動不能になっていた二人がいた場所が燃え上がっている。

 追われていた馬車が、速度を落としてこちらに向かってきていた。

 俺は、生き残っていた方が自爆したことに気が付き。

「なんなんだ」

 そう呟くと、四代目の声がした。

『これはまた、随分と厄介なものを拾ったかも知れないね』





 馬車と合流し、ポーターから降りた俺たちは周辺を見た。

 追手が乗っていた馬は逃げだし、そして追手たちも遠くへと逃げていったようだ。スキルで確認しても、相手の反応は遠のいていく

 アリアが、燃え上がっている場所を見ながら。

「自爆とか正気じゃないわね」

 メイも人の姿で降りてきて。

「僕としては、人間自体が正気じゃないと思うけどね」

 そして、馬車から降りてきたのは、こちらもローブを着た一団だった。身構えると、一人の小柄な老人がフードを取る。

 頭部の寂しい白髪の老人は、長い髭を生やしていた。痩せており、垂れ目なのだが隈が酷くて悪人面に見える。

 ただ――。

「先程は助けて頂き、本当にありがとうございます。私は【ガストーネ】と申します。見れば冒険者のようですが?」

 俺は頷くと、ガストーネさんは深々と頭を下げ。

「助けて貰って申し訳ありませんが、私たちの依頼を引き受けてくれないでしょうか。もちろん、報酬は出します」

 宝玉内からは、六代目の声がする。

『どうにもきな臭いな。ここは穏便に断っておけ。助けただけでも十分だろう』

 そう言われたが、断るにしても内容が気になる。

「俺たちも依頼が終わったばかりです。出来る事には限界があります」

 すると、ガストーネさんは言う。

「そう難しいことではありません。護衛を引き受けて欲しいのです。ベイムまでたどり着ければ、問題ありません。依頼が終わったのなら、戻るところでは?」

 断りづらくなってしまった。宝玉内からは、呆れたような声がする。

 ただ、護衛だけなら、と思っていると、馬車からローブを着た人が降りてくる。体つきからして女性のようだ。

「ガストーネ、襲われた者たちはどうするのです?」

 すると、ガストーネさんが慌て始める。

「なっ! 馬車に乗っているように言ったはずです!」

 すると、馬車には他にも女性たちが乗っており、全員がローブを着ていた。急いで女性を馬車の中に連れ戻そうとすると、女性はフードを取った。

「助けてくれたことにお礼を言います。それと、襲撃に遭い、逃げ遅れた馬車があるのです。なんとかその者たちの救助をお願いしたい。報酬は支払います」

 ガストーネさんは、右手で顔を押さえていた。

 そして、相手の女性を俺は見る。資料で見た絵に似ていると思ったのだ。

「……まさか、貴方は」

 俺の近くに来たクラーラも、相手の女性の顔を見てワタワタとしていた。

「ライエルさん、これはまずいです。凄くまずいです!」

 アリアは。

「え、このオバサンがどうかしたの?」

 メイは。

「あ~、紙に絵があったわね。この人、その絵に似ているわ」

 アリアの発言に腹を立てた様子だが、女性は聞き流すことにしたようだ。金色の髪、そして水色の瞳。

 年齢は三十代半ばと聞いているが、二十代後半でも通じそうだ。

「先代ザインの聖女をしておりました【セルマ・ザイン】です。そして、正式に依頼したい。私どもの護衛を引き受けてはくれませんか?」

 俺を真っ直ぐ見つめてくる先代の聖女と名乗る女性。

 冷や汗が流れたが、宝玉内からは歓声が上がった。

 三代目は、机をバンバン叩いているようだ。

『ライエル、良くやった! ここは先代聖女様の依頼を受けようか!』

『これでライエルもこの話に噛めるね! しかも、先代聖女という外交カード付きで! どうやって利用してやろうか!』

『逃がすなよ、絶対に逃がすなよ! このままこいつらを確保だ!』

『逃げたと言うことは、ザインから逃げる必要があったのか、それともロルフィスの追手か……楽しくなってきましたな!』

『良いことはするものですな。日頃の行いが良いので、女神も幸運を授けてくれたのでしょう。たまには役に立つ。さて、事情を聞いて、利用する事を考えようか』

 俺は思った。

(こいつら、厄介な存在が来ても大喜びしてる……)
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