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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

やっちまったな八代目

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枯れる迷宮

「どうして……人は争うのを止めないんだろう……」

 地下八階層。

 洞窟内を満たしている水によって、水路となってしまった洞窟内。

 俺は、ボートの先頭に座ってボンヤリと前を眺めていた。

 ボートの両脇に取り付けられた水車が回り、前進するボートの後ろには、船がロープで固定されてついてきている。

 ボートに固定されたランタンの光が揺れる中で、俺はゲッソリとした表情をして更に――。

「……人は、同じ過ちを繰り返す」

 そんな事を言うと、宝玉内から笑い声が聞こえてきた。

 四代目だ。

『いや、今回は大爆発でしたね、らいえるサン。おっと、ライエル!』

 俺はうつむき、持っていた弓を構えた。

 ゆっくりとボートの上で立ち上がると、矢を筒から取り出して構える。

 目の前の水面からは、サハギンが飛び出して来た。狙いをつけ矢を放つと、サハギンの頭部に命中してそのまま水面へと落ちる。

 水しぶきが上がり、ボートが揺れた。

 そのまま座り、ボートを動かして前進すると後ろに乗っていたミランダが、五本の指から糸を出し、水面に浮ぶサハギンを引き寄せる。

 右手に短剣を持ち、左手を持ち上げると眉間を射貫かれたサハギンから魔石だけを回収していた。

 残りははぎ取らないで、そのまま放り投げる。

 ミランダのスキル【ワイヤー】は、両手の指先から魔力で出来た糸を出すスキルだ。それだけ、などと思ってはいけない。

 何しろ、その糸の細さや強度を調整する事で、ミランダは魔物を糸でズタズタに分解してしまうからだ。

 いつからスキルを使用出来るようになったのか? そんな事を聞く余裕は、今の俺にはなかった。

 ただ、ボンヤリと水面を見ているだけだ。

 宝玉からは、六代目が俺の様子を見て。

『ライエル、今回は随分と落ち込んでいるようだが……慰めないからな』

(普段からあんまり慰めないじゃないか。特に、成長後の俺をあれだけ笑って、正気に戻るとからかって……少し困らされたくらいで、なんて言いぐさだ)

 俺が正気に戻ったのは、ハイテンションで過ごした次の日の朝だ。

 目が覚め、今までの事が夢でありますようにと祈る俺に、モニカがガッカリした顔で言ったのだ。「私のフィーバータイムは終わってしまいました。次は何ヶ月後でしょうか」と。

 それを聞いて、俺は全てが夢ではないと悟ったのだ。

 真っ赤な顔をして、俺から逃げ出すアレットさん。

 唇を時折触って、普段からは似つかわしくない表情で溜息を吐くアリア。

 俺を見ると、耳まで真っ赤にするクラーラ。

 告白が待ち遠しいと言い出す、エヴァ。

 俺を見て、睨み付けてくるシャノン。

 普段通り、買い食いをしているメイ。ただ、串焼きを一本だけくれた。

 そして、いつもより清々しく綺麗だったノウェム。その清々しさが、少し怖いと思ったのは内緒だ。

 最後、俺の後ろにいるミランダは、ニヤニヤしながら口元に手を当てて。

「ライエル、今日は覚悟を決めたから、ライエルのベッドに潜り込んでいいのよね? 色々と教えてくれる約束だものね」

 俺は、肩をビクリと震わせて、ぎこちなく振り返り。

「きょ、今日は都合が悪い。というか、その……あの……」

 ミランダは、全て理解しているはずなのに、俺をからかってくる。

「幸せにしてくれる、って言ったのになぁ~」

「うぐっ!」

 恥ずかしさで耳まで赤くなってしまい、俺は話を切り上げて前を見た。

 その様子を見て、ミランダは楽しんでいる様子だ。

 宝玉内からは、五代目が。

『しかし、今回は良かったな。成長も経験出来たし、前よりもパーティーが良い感じだ』

 船やイカダをロープで結び、俺たちが引っ張る形で今は迷宮内の第八階層の移動を引き受けていた。

 人、荷物、それらを運搬するのが、今の俺の仕事だった。それというのも、宝玉内でのガチバトルを経験し、クラーラをはじめとする、ボス戦での居残り組みに成長が始まってしまったのだ。

 クラーラ、シャノン、エヴァ。メイは、成長はなかったが、それでも成長を経験したメンバーがほとんどとあって、しばらくは肩慣らしをする事にしたのだ。

 宝玉でのガチバトルを体験し、パーティーの中にはわだかまりはまだ残っていても、一応の決着がついた感じだった。

 シャノン以外が、清々しい笑顔だったのを覚えている。

 そんなシャノンだが、今はボートの一番後ろで俺を睨み付けていた。

 ミランダは、呆れたように。

「いい加減にしなさい、シャノン。巻き込んだのは悪かったけど、私も自分の事で手一杯だったのよ。それに、これに懲りたら少しは実力をつけるのね」

 シャノンは、地上で誰もいない状態になるので、仕方なく連れてきた。しかし、迷宮内の運搬に参加すると言い出したのだ。

 俺を見ながら。

「ライエルは何も知らないじゃない! 本当に最悪だったのよ! 巻き込まれるとか、そんな生易しいものじゃないわ! アレは地獄よ! 酷いわよ! 人を地獄に叩き落としておいて、目が覚めると笑顔とか!」

(俺じゃない。そんな事をしたのは、確かに俺だけど俺じゃないんだ!)

 自分でも何を考えているのか理解出来なかった。

 ただ、あの状態は普通ではなかったのだ。

 高揚感とでも言えばいいのか、何でも出来そうな感覚は判断力や思考を惑わせた。

 結果、全員にキスをしてしまう事に……。

 俺は、ボートの上で膝を抱えてしまう。

「……ごめんなさいとしか言えません」

 そう言うと、ミランダが。

「あ~あ、シャノンがライエルを泣かせた」

 冗談を言うミランダに、妹であるシャノンは両手を振り回す。そのため、ボートが揺れてしまう。

「泣きたいのはこっちよ! あの後、なんだかみんなスッキリした顔をしていたけど……絶対におかしいわよ!」

 ミランダは、髪をかき上げて座っている体勢で足を組み替える。

「あんたも誰か殴ればいいのよ。普段の不満とか吹き飛ぶわよ? 誰か殴りたい人はいないの?」

 すると、シャノンは堂々と。

「お姉様を一度で良いから蹴飛ばしたいわ」

 そんな事を言うものだから、ミランダも笑顔でシャノンの頭に手を伸ばした。頭に手を置いて、笑顔のまま。

「痛い! 痛いです、お姉様!」

 ギチギチと音が鳴るほどに握り始めた。

 七代目が。

『余計な事を言うからこうなる。だが、この娘ならこの程度は愛嬌で済むでしょうな』

 それを聞いた三代目は。

『何気にキスをするときは嬉しそうだったからね。良かったね、ライエル。お嫁さんが増えたよ。それより、告白はちゃんと一人ずつするんだよね? 期待しているから、趣向を凝らすんだよ』

 誰も俺を慰めてくれる人がいない。

 歴代当主も、血の雨が降ったという女性陣のガチバトルを機に、俺に冷たい態度を取っている。

 溜息を吐くと、目的地が見えてきた。

 地下八階層ボスの部屋。

 そこの陸地には、荷物が持ち込まれていた。光がいくつも用意され、水路が途切れた地下九階層に挑むパーティーが臨時のベースとしている場所だ。

 ノウェムたちがそこに待機しており、アリアやクラーラ、エヴァにメイ、そしてモニカも臨時のベースで仕事をしていた。

 ポーターを持ち込み、冒険者たちが集めてきた素材や魔石を箱に詰めて積み上げている。

 次は、戻りながら回収した素材や魔石、そして帰還するパーティーを地下八階層の入口へと運ぶのだ。

 俺たちが近付くと、エヴァが手を振ってくる。





 ――地下十階層。

 ボスの部屋では、アレット率いるパーティーがボスを相手に戦っていた。

 金属の武具を身に纏った騎士たちは、ボスである大きな蛇を囲んで武器で斬りかかっている。

 硬い鱗に守られている蛇は、暗闇で赤く光る瞳をしていた。体をいったん縮め、そして反動で高く飛ぶとアレットたちの上空へと舞い上がって大きな口を開けて落ちてきた。

 狙いは騎士たちに指示を出すアレットである。

 アレットは、背中の大剣を引き抜くと呟く。

「やれやれ……【エアブレード】」

 アレットがスキルを発動すると、両手持ちの大剣に風が発生した。ボスの部屋に風が吹くと、アレットの部下たちは魔物から離れる。

「下がれ! 隊長がスキルを使う!」

 副官が全員を下がらせると、蛇に飲み込まれるアレットを見ていた。兜の下の表情には、焦りなど一つもない。

 口を閉じた魔物は、アレットを飲み込もうとするが――。

「終わったな」

 副官が言うと、蛇の瞳から血が流れていた。

 そして、ゆっくりと魔物は縦に斬り割かれて真っ二つの状態で、左右に倒れる。

 魔物の血が周囲へと飛び散るが、その血を浴びて騎士たちは拳を突き上げて歓声を上げるのだ。

 大剣を片手で持ったアレットが、剣を目の前で一度振るってから背中の鞘に戻していた。

 副官の下に歩いてくるアレットを、周囲の部下たちが囲む。

 そして、離れた場所で控えていたサポートたちが、ボスの解体のために死体へと群がるのだった。

 兜を脱ぐアレットは、副官に一言。

「部下たちに倒させたかったが、少し焦りすぎたかな」

 副官は。

「まだ早いでしょう。あれを相手にするには、新人たちでは厳しいかと。もう数ヶ月で何名かは国に戻りますし、倒させて自信をつけさせたかったのですが、死んだら意味がありません」

 ボスを部下たちに倒させるつもりだったアレットたちだが、想像以上に厄介だったのでアレットが手を出したのだ。

 最奥の間。

 そのボスが倒れると、迷宮内の雰囲気が変わる。

 独特の息苦しさがなくなると、アレットは周囲を見ながら。

「どうやら、枯れたようだな。出る前に崩れないとは思うが、何事にも絶対はない。急いで魔石と素材を回収し、財宝を手に入れたら外に出るぞ」

 指示を出すと、副官が全員に細かな指示を出すために駆け出す。

 すると、財宝を確認した部下が、アレットのところへと駆け寄ってきた。

「隊長! 財宝が――」

「どうした? 黄金だったか? それなら国に持ち帰って財政難の足しにでも……」

 部下は冗談を言っているような顔ではなく、アレットも真剣な表情になる。

「……何が出て来た?」

 部下は、気持ちが焦っているのか、口をパクパクさせ、そして呼吸を整えると、出て来た財宝を言う。

「ミスリルです! しかも量的にもこの迷宮に相応しい量じゃありませんよ!」

(どうしてこんな時期に、よりにもよってミスリルなんかが出てくるんだ!)

 アレットは、部下の報告を聞いて頭を痛めるのだった――。





 地下八階の出口付近にいた俺は、周囲の雰囲気が変わったのをすぐに理解した。

 五代目のスキルである【マップ】が、急激な変化を起こしたのだ。

 六代目のスキル【サーチ】では、敵である魔物の行動が見えなくなる。

 座っていた俺が立ち上がると、ミランダも気が付いたようだ。

「雰囲気が変わったわね。なんか、静かになったわ」

 モニカは、俺たちの行動を見て。

「微妙に揺れていますね。そして、崩れている部屋があります。一瞬で縮んだような……これが迷宮ですか」

 クラーラが、眼鏡を人差し指で軽く持ち上げ、位置を正すと杖を持って周囲を見ていた。

「迷宮には何度も潜りましたが、枯れるのを体験したのははじめてです」

 枯れる――冒険者は、迷宮が討伐されてしまい、魔物や宝がなくなることを枯れると表現している。

 迷宮によって様々だが、枯れると誰もいない部屋が崩れてなくなる場合もある。そして、帰り道は、何十階と降りたのに入口に戻ると外だった、という事もあるようだ。

 シャノンが水面を見ていると、叫んだ。

「あ! 水が少なく……なくなっちゃった」

 繋いでいたボートが、水のなくなった地面に横になっている。

 周囲の船も同じようなものだ。

 俺は、ノウェムに。

「……思ったよりも早いが撤収する。ポーターに荷物を詰め込むぞ」

 すると、ノウェムは。

「アレットさんたちがボスの討伐に向かった段階で、準備は進めています。すぐに移動を開始しますか?」

 俺は頷いた。ここでアレットさんたちを待っていても、何の意味もない。

 迷宮の外で出迎えの準備でもした方が良いだろう。

「いや、すぐに出発だ。帰りだって安全だ。魔物の反応もない。外に出て、帰る準備でもしようか」

 地上は、本格的な街が出来つつある。

 元に戻す必要もなく、今後使用するので俺たちは戻るだけでいいのだ。

(迷宮討伐に参加してみたが、思ったよりも稼ぎも良かった。これを元手に情報でも集めて装備を調えるか)

 思い出したくない思い出も量産してしまったが、今は目的を果たせただけでよしとしよう。ベイムに戻ったら、俺はしばらく一人で過ごす。

 俺には時間が必要だ。

 心を癒す時間が……。

 ノウェムは、俺を見て苦笑いをしている。

「あの、あまり思い詰めない方が宜しいのでは? 誰しも経験する事ですし、多かれ少なかれ、失敗はあると思いますよ」

 宝玉からは、三代目の声がした。

『ノウェムちゃんは優しいね。でも、ライエルの失敗というか、らいえるサンの行動はある意味で正解だったけどね。ライエルも、普段からあれくらい行動力を持とうよ』

 絶対に嫌だ。

 俺は、首を横に振ると、ノウェムに言うのだ。

「……忘れられるなら、どれだけ幸せか」

 そう言って、俺は撤収の準備に入るのだった。
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