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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

やっちまったな八代目

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後ろに向かって前進だ

 宝玉内。

 普段は円卓が存在し、歴代当主たちがいる会議室。

 そこに、円卓が廃されて円状のリングが登場している。

 周囲には、初代と二代目の武器が壁際で浮んでいた。

 歴代当主たちは、自分の記憶の部屋に引っ込んでいる。どうやら、事情を説明するのは先送りしたようだ。

「ふっ、ついでに済ませればいいものを。だが、俺だけが先走るわけにもいかないか。しかし……壮観だな!」

 周囲を見るためにその場で一回転すると、ノウェムをはじめとする女性陣がリングに上がってきていた。

 ノウェムが。

「ラ、ライエル様? あの、ここでいったい何を……いえ、言いたいことは理解出来るのですが、そもそもここは?」

 聞きたいことが山のようにあるのだろうが、そんな細かい事などあとでいくらでも説明出来る。

「細かい事は気にするな。なに、今は拳で語り合えばいいんだ。簡単だろ?」

 ノウェムが微妙な表情をしながら、周囲へと視線を向けていた。

 準備運動をしているのは、モニカである。

「どんな理由でこのような場所に意識を持ってきたのか……ですが、やれと言われればこのモニカ、嫌々でも参加します!」

 かなりやる気を見せているらしいが、嫌々のようだ。俺の命令に全力で挑む可愛いモニカに、笑顔を向けた。

「いいぞ、その意気だ! 互いに言いたいことがあり、不満もある。しかし、言えない事情もあるなら……戦えば良いじゃない!」

 真っ赤な顔をしたクラーラは、普段持っている杖を抱くように持って俺にたずねてきた。

「いえ、あの……ノウェムさんたちが本気でぶつかると、とんでもない事になるんですけど」

 俺はクラーラに笑顔を向け、右手を肩の位置まで上げると武器を出現させた。

 ノウェムがソレを見て。

「それは、ライエル様の……壊されたと聞きましたが?」

「この空間は便利なんだよ。だから、こうしても大丈夫」

 俺は左腕を深く切ると、そこから血が流れた。痛みはいつもより少ない。

 ソレを見て、アリアが。

「何してるのよ! というか、あんたさっきの――」

 抵抗する恰好だけだったアリアが、未だにキスをしたのが許せないのか抗議してきた。先程まで、混乱していたが立ち直ったようだ。

「問題ない。すぐ治る。ほら」

 傷口が消え、血も消えるとメイが五代目の記憶の部屋に続くドアを見ながら。

「ふ~ん、そんな事が出来る空間なんだ。便利なんだろうね。たださ、こんな場所に連れ込んで、僕たちに殴り合え、っていうのはなんで?」

 メイはまだ納得していないようだ。

 エヴァは、何故か惚けたような表情で、フラフラとしている。

「溜まりたまった鬱憤(ウップン)は、どこかで発散するべきだ。というか、俺のために行動しているノウェムとミランダに罰を与えるなど俺には出来ない。ただ、互いに不満があるなら、この空間で殴り合えばいいだけだ。スッキリするまでルール無視でやりあっていいんだよ」

 ミランダは、ノウェムを警戒しながら俺に体を向けて腰に手を当てた。

「なら、私もノウェムも今まで通り? 言っておくけど、私はノウェムを信じないわよ。これまで以上に不信感も持ったんだけど?」

 その言葉に、俺は笑顔で。

「それがどうした? 俺がお前たちを信じれば問題ない。安心しろ、俺はミランダも信じるが、ノウェムも信じている。だから、ミランダは俺を信じていればいい。必ず幸せにするぞ」

 幸せにすると言うと、ミランダは調子が狂うのか溜息を吐いていた。だが、頬が少し赤く染まっているのを見た俺は。

(凄いな、俺……何を言っても相手が惚れ直してしまう。自分が怖くなってきた)

 ノウェムは、少し悲しそうに俺にたずねる。

「……オクトーから伝言があったはずです。私の名前も出ましたよね? ライエル様は、それでも信じると? オクトーに出会ってもいないのに、たった一言で私を信じられますか?」

 ノウェムの兄に会っていたのは事実だろうが、俺からすれば兄妹の出会いでしかない。そもそも、セレスがこんな回りくどい事をするはずがないのだ。

(だって、あいつは飽きっぽいし。俺のように格好良く耐えるという事が出来ないからな。よく考えなくても、ノウェムが隠したいならそれでいいや)

 ただ、俺はノウェムに言わなければいけない事があった。

「オクトーさんは関係ない。俺がお前を信じると言っている。それに、残念だがオクトーさんには会う気がない」

「……え? あ、あの」

 ノウェムが慌てていると、俺は髪をかき上げて天井を見た。

「地下百階層以上の迷宮……そんなもの、都市などが管理された迷宮しかない訳だ。つまり、最奥の間を突破した段階で俺たちはお尋ね者になる。ついでに言えば、俺の目的はセレスを掲げているバンセイムを打ち倒すことにある。時間がないので、会う気がない。残念だ。一度くらい会っておきたかったが」

 ヤレヤレという感じで首を横に振ると、ノウェムが頬に手を当てて少し俯いていた。どうやら、俺がオクトーさんに会うつもりと考えていたらしい。

 無理ではないだろうが、時間がかかる。

 準備に十年以上かかるだろう。だから、オクトーさんには会わない。

 周囲を見ると、オロオロとしているシャノンの姿があった。最後の最後に、キスをすると言い出したのでキスしたのだが、周囲を見て混乱している。

 顔を少し赤くしたミランダが、シャノンを見て。

「何をそんなにキョロキョロしているのよ? 怪我をしないなら、あんたも参加する?」

 ミランダの顔を見て、シャノンは言う。

「……お姉様の顔を、はじめて見たわ。いえ、今まではたぶんこうだろう、って感じはしていたんだけど」

 ミランダは、驚きながらシャノンの両肩を掴んで顔を間近で見ていた。

「シャノン、あんた目が見えるの!?」

「み、見えるというか、今までと違って視覚情報も入ってくるというか……というか、ドアの向こうにも人がいるんだけど? いったい誰が――」

 俺は、シャノンに近付いて、肩に手を置いた。

「良かったな。シャノン。目が見えて。それと……世の中、知らないことがあってもいいと思わないか? でないと、今度は『ベロチュー』ではなく、ディープキスをするぞ」

 シャノンが顔を赤くすると、俺は笑ってリングの中央へと戻ろうとした。ミランダは、俺の背中に声をかける。

「ライエルも隠していることがあるみたいね」

 俺は顔だけ振り返ると。

「隠し事なんか誰にでもあるだろ。いつか時が来ればベッドの上で話してやる。覚悟を決めたら俺に声をかけろ」

 ミランダは、俺を見ながら一歩下がって顔を隠して黙り込んでしまった。

 笑いながらリングの中央に戻ると、俺は両手を広げて宣言する。

「さて、始める前に時間を決めよう。お昼までにしようか。思う存分殴り合ってくれ。ただし、俺は宝玉の外でみんなの体を見張る仕事に入るからここでお別れだ。俺がいると、何かとやりにくいだろうからな。では」

 アリアが俺に手を伸ばしながら。

「ま、待って!」

 手を振りながら、俺は宝玉から自身の体へと意識を戻すのだった。





 ――宝玉内。記憶の部屋。

 三代目であるスレイは、宝玉から一足先に抜け出したライエルを見ていた。

『……らいえるサンが、笑顔で逃げた』

 ドアは施錠しており、開くことはないが会議室の様子は記憶の部屋からでも見ることが出来る。

 今は、会議室と言うよりも闘技場と言ったところだろう。

 四代目であるマークスも、三代目であるスレイの記憶の部屋に来ていた。

『これ、分かってやっているなら褒めても良いんですけど……え? もしかして、俺たちはノウェムちゃんたちが戦っているのを最後まで見るんですか?』

 困惑している四代目は、ライエルがいなくなって緊張感が張り詰めたような闘技場を見ていた。

 胃がキリキリするような気がすると、無言のまま女性陣は円状のリングの上で互いを牽制していた。

 先に動いたのは、準備運動をしていたモニカだった。

 三代目が言う。

『あのオートマトン、ノウェムちゃんに仕掛けやがった!』

 見える映像には、大きなハンマーをスカートから取り出し、振りかぶって嬉々としてノウェムに振り下ろすモニカの姿がある。

「先手必勝です! チキン野郎の許可の下、私に制裁されないさ、この女狐!!」

 ノウェムもモニカの方に体を向けると、右手を前に出して杖を出現させた。それは、フォクスズ家の家宝である杖だ。

「モニカさん……あなたの本気を、一度見ておこうと思ったんです」

 そう言って微笑んだノウェムは、杖を大鎌に形を変えさせて魔法を使用する。

「凍れ、そして防げ」

 言葉だけで魔法を使用し、モニカの前に地面から氷と岩の壁が出現した。

 それを見たモニカは。

「流石です。だが甘い! このモニカ・フルオプションバージョンの前には、その程度はスポンジでしかありません!」

 大きなハンマーから、火が噴き出すと勢いを増して氷と岩の壁を破壊する。そのまま床にハンマーを振り下ろしたモニカだが、そこにノウェムはいなかった。

 ハンマーは地面に触れることなく、宙で制止している。

「なんと! この獣、邪魔しましたね!」

 見れば、メイがハンマーを片手で押さえていた。

「ノウェムを狙わせないよ。僕としては、君の料理も好きだけど、一番はノウェムだからね」

 それを聞いて、モニカが。

「訂正しなさい! このモニカが、あの女狐に負けるなど……おっと」

 メイとやり合っているモニカに、エヴァが弓を放った。闘技場の壁に矢がぶち当たると、光になって消えてしまう。

「外した。死角から狙ったのに!」

 悔しそうにするエヴァを見て、モニカはハンマーを両手に持ってリングの端に移動する。

 三人を警戒するように視線を動かしていると、ノウェムが前に出て来た。

「ここでは現実世界の体にダメージが及ばないとか。では、多少の無理はできますね」

 笑顔のノウェムが大鎌になった杖を構えるが、右腕に糸が絡まる。

 右腕を取られたノウェムが視線を糸の先に向けると、そこにはミランダがいた。

「三対一は卑怯よね。それに、手加減の必要がないなら――」

 その光景を見て、三代目と四代目は口を開けて唖然としていた。

 闘技場の光景は、キャットファイトなどという生易しいものではなかったのだ――。





 体に意識を戻した俺は、久しぶりに自分でお茶を煎れて飲んでいた。

 八人をポーターの荷台に運び込み、横にして寝かせている。

 この前の稼ぎが良かったので、このまま何もしないまま過ごしていても今回は黒字が確定しているのでノンビリ出来ていた。

「正式に依頼されたパーティーは、途中で抜けられないのが面倒だな。ま、しばらくは動きもないだろうし、ゆっくりするか」

 ポーターの後ろにテーブルと椅子を持ってきて、お茶を飲みながら俺は優雅に過ごしていた。

 だが、宝玉内からは歴代当主の叫び声が聞こえてくる。

 三代目が普段の飄々とした態度とは違い。

『腕がぁぁぁ!! ちょっと待って、流石にそれは……ぎゃぁぁぁ!!』

 四代目はブツブツと。

『血が……腕が飛んで……マウントでボコボコとか……それ、女の子がやっちゃ駄目……』

 五代目は興奮気味に。

『メイに何しやがる、あのポンコツ……今から行ってぶっ壊してやる!』

 六代目は何かを思い出したのか。

『もう止めろ。そんな無慈悲な攻撃を……くそぉぉぉ!! ミレイアはあんなに優しかったのに、なんでミランダは!』

 七代目は乾いた笑い声を出しながら。

『ハハ、アハハハ……五代目、そんなに興奮しないで。何、たまにはこんな本気バトルも必要ですよ。たぶん……きっと……』

 歴代当主たちが騒がしい。

 荷台のドアが開いており、そこから女性陣の寝言のような声が聞こえてきた。

 アリアの声は。

「その顔を一度で良いからボコボコに……」

 クラーラは。

「……サポートだって戦う方法はいくらでも……」

 エヴァは。

「至近距離なら短剣があるから……これで急所を……」

 メイは。

「……全部黒焦げにして……やる」

 モニカが。

「……フルオプションでも攻めきれないなどと……こうなれば奥の手……」

 ミランダは。

「次は足を……」

 ノウェムが。

「……この程度では……ここから少し本気を……」

 寝言を聞きつつ、俺は微笑むとお茶を飲みながら、持ってきた茶菓子に手を伸ばすのだった。

 空を見上げると、天気が良かった。

「……良い天気だ」

 すると、宝玉内から、歴代当主の責めるような声が聞こえてくる。三代目から順番に。

『何が天気だよ! こっちは血の雨が降ってるよ!』
『なんで逃げた! 戻ってこい、ライエル! いや、戻ってきてよ、らいえるサン!』
『あのポンコツを止めろ! それに宝玉内がとんでもない事に……あぁぁぁ!!』
『ライエル、お前まさか分かっていて逃げ出したのか?』
『答えるんだ、ライエル! いや、らいえるサン!』

 五月蝿い歴代当主の声を聞きながら、俺はカップの中のお茶を飲み干すと微笑む。時間までまだ数十分というところだろう。

 互いに本気で戦っているようで、少しだけ安心した。

「一度くらい激しく不満をぶつけ合うべきです。ま、俺がいたらノウェムもミランダも遠慮をするでしょうし」

 自分の愛する女たちが、血で血を洗うように戦う光景を見たいなどと誰が思う?

 ただ、必要だったから実行しただけだ。

「ま、少しは気が晴れるでしょう。今回は、シャノンの目が見えるという効果も発見出来ましたし、言うことがありませんね。それに、今回最大の宝は、全員のキスをコンプリートした事ですよ」

 笑顔でそう言うと、宝玉内から三代目の声がした。何か、恐ろしいものを見たような口調で。

『全部分かって……なんて恐ろしいんだ、らいえるサンは……少しでもライエルの時にこれくらいの度胸を持っていれば……いや、駄目だ。普段のギャップがあるから面白いんだし。でも、今回は……ぎゃぁぁぁ、今度は首が! 首がぁぁぁ!!』

 俺はお昼前の優雅な時間を過ごしつつ、宝玉の声に耳を傾けていた。

 シャノンの声が荷台から聞こえてくる。

「……覚えておきなさい、ライエル……巻き込まれて散々な目に……必ず仕返しを……」

 恨み言だった。

 俺はそれに面白そうに返す。聞こえていないのは分かっているが、つい口に出てしまった。

「あぁ、いつまでも覚えておいてやろう。お前が顔を隠して、背伸びをしながら目を閉じてキスする姿もついでにな」

 俺は、なぜこんな簡単な解決方法を思いつかなかったのか、今までの自分が不思議でしょうがなかった。

「まったく、キス程度で何をウジウジしていたのか。本当に馬鹿らしくなってくる」

 今までの自分の内向きな性格が嫌になりつつ、今日からは新しい自分がみんなを引っ張らねばと決意する俺だった。
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