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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

やっちまったな八代目

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メッセージ

 迷宮討伐を開始して五日目が過ぎる頃には、地下五階層が解放された。

 本来なら参加の出来ない冒険者パーティーが、我先にと挑んで迷宮内を探し回り魔物を討伐して回っている。

 地下五階層までのボスを倒した事もあって、アレットさんたちのパーティーから地下五階層で見張りを行なう人員を出していた。

 中間地点で待機をさせ、それ以上は関係のない冒険者たちが降りないようにしているのである。

 俺たちのパーティーは、全員が迷宮を経験した。

 それもあり、全体的に休暇にしている。

 地下五階層までなら、なんとか一日でも戻れる。ボスもいなければ、魔物の数も少ないので戦闘回数も少ないからだ。

 だが、それ以上先に進むとなると泊まりがけになる。

 準備もそうだが、その前にパーティーの編成を決める必要があった。

 周囲では簡易な建物が増え、本格的に街になり始めたベース。

 そんな街の中で、テント生活をしている冒険者たち。

 朝になれば、装備の確認をして冒険者たちが迷宮へと挑み、夜になると帰還して稼いだ金を酒や博打、そして女に使用している。

 迷宮に挑んで命懸けで稼いでいる冒険者たちよりも、その冒険者を相手に商売している商人や娼婦たちの方が稼いでいるように見えた。

 実際、商人も娼婦たちも、稼ぎ時だと騒いでいるように見える。

 ベイムからは、数日おきに荷物が届くようになり、魔物の素材や魔石を満載にした荷馬車が、ベースからベイムへと帰還していた。

 冒険者たちも、帰りたくなると護衛の依頼を引き受けてベースからベイムへと戻る。

 そして、新しい冒険者たちが、ベイムからベースへと流れ込んでも来ていた。

 俺は、そんな街を見て。

「日に日に立派になるのは良いけど、いったいいつまでこの調子なんだか」

 初めての参加とあって、勝手が未だに理解出来ていなかった。

 俺の近くにいたミランダは、商人から情報を仕入れているのか俺に教えてくれる。

「迷宮討伐はこんなものらしいわよ。騎士団や兵士たちでも、物資は必要だからこういったベースを用意するらしいし。ま、賑やかすぎるのは冒険者だからじゃない? ライエルも遊んでくれば」

 俺はミランダの顔を呆れながら見る。

「賭け事は楽しくない。食事も間に合っている。ついでに女は……まぁ、いいや。金を貯め込んでおきたいから、遊びは良いかな」

 それを聞いたミランダは、ニヤリと笑いながら腕を組んでその上に胸を乗せて大きな胸を強調してきた。

 俺を挑発しているらしい。

「残念ね。娼婦から、あの恰好いい少年を紹介して、って言われたのに。安くしてくれるらしいわよ」

 俺にだって性欲はあるが、問題なのはそんなところに足を運んだ後だ。

 仲間にバレないように行くなら良いだろうが、こんな状況で足を運べばすぐに分かってしまう。

 宝玉内から、四代目が。

『絶対に罠だよ。ミランダちゃん、ライエルが足を運んだら、その娼婦たちから色々と情報を集めるつもりだよ。……この子が一番怖くない?』

 その意見に反対するのは、六代目だった。

『ミランダが怖い? 何を言っているんですか。この程度なら可愛いものですよ。他の女に視線を向けるだけで文句を言うなり、手が出る訳でもない。というか、俺の一押しはミランダなので、そういう言い方はしないでください』

 六代目が、もうミランダ推しだと宣言してしまった。

 すると、三代目が。

『なら、僕はクラーラちゃんを推すよ! あの子は良い子だよ! 便利なスキルもあるし』

 便利なスキル目当てで、クラーラを俺に推してくる三代目。

 四代目は。

『いや、ノウェムちゃんを推そうよ。フォクスズ家の娘ですよ』

 五代目は。

『……メイが一番じゃないかな?』

 七代目など。

『王家の血を引くライエルに相応しい娘など……最低でも伯爵家が相応しいと思うのですが?』

 俺は思った。

(もうウォルト家の跡取りでも、伯爵家の人間でもないから関係ないんだけど。七代目は、こだわりすぎなんだよ)

 挑発するミランダに、俺は鼻で笑いながら。

「そんな安い挑発には乗らないぞ」

 ミランダは嬉しそうに。

「そう。それなら良かった。でも、遊び程度なら私は許すわよ。本気にならないなら、ね」

 今のミランダの発言に、六代目が。

『……あいつも、これくらい寛容だったらなぁ』

 奥さんでも思い出したのか、六代目は疲れたように愚痴をこぼし始める。





 地下六階層を目指すため、俺は三日程度の予定を組んで迷宮に挑むことにした。

 地下六階まで降りて、そこで魔物と戦い様子を見る。

 ミニポーターの調整も行ったので、夜にメンバーの編成を伝える事にした。

 テントの中で食事を済ませ、そのままお茶を飲みながら予定とメンバーの発表を行なう。

 冬とあって、テントの中も寒かった。

 コップの中のお茶から湯気が出ている。

 ランタンの光で明るいテントの中、俺は全員を見渡して次のメンバーを告げる。

「明日から三日間の予定で迷宮に挑む。主に地下六階の確認だ。挑めるなら、ボスにも挑もうと思う。メンバーは、前衛にアリア、メイ、エヴァ。後衛にノウェムとクラーラだな」

 残るメンバーは、ミランダとシャノン、それにモニカだ。

 モニカが不満そうにする。

「私、まだここに来て一回しか迷宮に足を運んでいないのですが?」

 俺は笑顔で。

「みんなそんなものだろ? 俺とクラーラだけじゃないか?」

 ミランダも不満そうだ。だが、シャノンはテーブルの下で小さくガッツポーズをしている。

「私が外された理由は?」

 ミランダの笑顔だが、不満に思っているのか目があまり笑っていない。

「深い意味はないけどね。戦力の温存」

 すると、モニカが。

「やはり、切り札であるこのモニカは大事に取っておくのですね。まったく、そう言ってくれればいいのに」

 ……俺がモニカをメンバーから外した理由は、こいつが参加すると魔物の素材や魔石の回収が大変だからだ。

 両手にメイスを持ったモニカの一撃で、コウモリは吹き飛んでバラバラ。カエルは潰れてベチャベチャ……回収するクラーラが、流石に可哀相だった。

 ボスにでも挑むのなら、モニカは連れていった方が良いかも知れない。それ以外では、正直に言って邪魔である。

 周囲を見渡すと、アリアが少し困った表情をしていた。





 次の日の朝。

 改良されたミニポーターを引き連れて俺たちは迷宮の入口を目指していた。

 側面に荷物をかけられるようにしたミニポーターが、前回よりも頼もしく見える。

 ただ、メンバーの雰囲気はどこかバラバラだった。

(……アリアが孤立というか、馴染めていない)

 古株であるはずのアリアが、メンバーの中で孤立している。

 いや、正確に言えば――。

「ねぇ、ノウェム! 帰ったらあの屋台に行こう。今でもいいよ」

 メイがノウェムに、屋台で出している食べ物をねだっている。

 五代目が宝玉から。

『メイ! なんでも食べたら駄目だろうが!』

 心配して声を出している。

 エヴァは。

「はぁ、私は残りたかったな。せっかく、歌う許可も同族から貰えたのに……。あ、戻ってきたら聞きに来てよね、ノウェム」

 自分の歌を聞きに来て欲しいと、ノウェムに声をかけている。

 二人の相手を笑顔でするノウェムは。

「メイさんは、戻ったら食べましょうね。エヴァさんは、パーティーに迷惑をかけない範囲でお願いしますよ。戻ったらみんなで聞きに行きますから」

 三人の仲が良すぎて、アリアが孤立しているのだ。

 俺はクラーラを見た。

 どうにも、クラーラはエヴァと距離を置いている。

(……最後のしめを取られて、怒っているのか? というか、元気なエヴァと、物静かなクラーラは合わないと言われると、合わないよな)

 ここに来て、更に人間関係が複雑になって来た。

 俺は溜息を吐きながら、アリアに声をかける。

「どうした。加わらないのか」

 すると、アリアは俺から視線を逸らした。

「……今更、仲良しみたいに振る舞えるわけがないじゃない。今まで、必要最低限の会話しかしてないし」

 アリアの視線はノウェムをチラチラと見ている。

「ノウェムは気にしないと思うけど? というか、もう仲直りでもすればいいだろうが」

 アリアは俺を睨み付けてくる。

「そう簡単にいかないのよ! というか、最大の原因はライエルなんだからね!」

 五代目の溜息が聞こえてくる。

『ライエル、それ以上は深く踏み込むな。声をかけてフォローする程度に留めろ。お前にこの状況を切り抜けられるとは思えないからな』

 恥ずかしながら、俺も同意見だった。

「わ、悪かった。ただ、一緒に戦うんだから、余計な事を考えないようにしろ。何かあれば俺に言え」

 アリアは俺を見ながら。

「頼りないリーダーの言葉に、涙が出そうになるわね」

 四代目が。

『まったくだね』

 でも、三代目は。

『それでも、きっと……らいえるサンならなんとかしてくれると思うんだ。そう、らいえるサンなら』

 チラチラと視線を向けられているような気分になり、俺は宝玉を地面に叩き付けたくなった。

(あんな状態は、俺じゃない!)

 “成長後”という、ハイテンションな状態を、歴代当主は『らいえるサン』などと呼んで来るのだ。

 何が面白いのか、『ベルトライエル賞』などというものまで作り、俺の発言をまとめているらしい。

(暇人共が!)

 俺からすれば、黒歴史を祖先たちが真剣な表情でまとめている訳だ。

 止めて欲しい。





 迷宮内へと足を踏み込んだ俺たち。

 俺のスキル【マップ】と【サーチ】で、最短距離で地下五階層のボスの部屋。つまり、地下六階への入口に到着すると、その部屋でアレットさんに遭遇した。

 部下たちと何か相談していたようだが、俺たちを見ると話を切り上げて近付いてくる。

 ボスがいた部屋だけあって、広い部屋である。

 だが、そんな部屋に机やら荷物を持ち込んで、まるでここは迷宮討伐の前線基地のようになっていた。

「もう来たのかい。随分と早いじゃないか。もう少しすれば、地下六階のボスも倒して先に進めるようにするんだが?」

 地下六階のボスは、まだ討伐していないようだ。

 俺はアレットさんにたずねる。

「ここで生活をしているんですか?」

 すると、アレットさんは笑う。

「いや、上でも仕事があるから、私は行き来をしているんだ。荷物を運ぶ必要もあるから、他のパーティーを雇って荷物もここに運び込む必要があるからね」

 俺は感心していると、アレットさんが部屋の奥。

 階段を親指で指差した。

「ここから先はギルドに認められたパーティーのみで挑んで貰う。ま、ライエル君たちは先に進んで良いが……この先には、アルバーノやマリーナしかいないから気を付ける事だ」

 アルバーノさんたちは当然として、マリーナというソロの冒険者も参加しているらしい。

 今まで見たことはなかったが、どうやらここから先もソロで挑んでいるようだった。

「ソロでこの先はきつくありませんか?」

 アレットさんは、肩を上下にさせると少し呆れた様子で。

「私もそう言ったさ。だが、マリーナは頑固でね。それに、単独で挑めるだけの力も持っているから止められないんだ。見かけたら、あまり近付かないことだ」

 手をひらひらとさせ、俺たちから部下の下へと戻るアレットさんの背中を見送った。

(……クレートさん以外のくせ者たちが、この先にいるわけだ)

 俺は階段を見ると、どうにも進みたくなくなった。





 地下六階層。

 そこは、洞窟内という雰囲気は変わることがなかった。

 スキルの【マップ】や【サーチ】で確認を取るが、特別な変化は感じられない。

 動き回っているパーティーは、戦闘を避けて部屋を移動して宝箱を回収して回っている。

 単独の反応を探すと――。

「なんだよ、コレは」

 俺は驚いた。赤い光点が群がる黄色の光点。

 しかし、近付けば赤い光点が次々に消えていくのだ。

 単独なのに、魔物に囲まれながら相手にしているのも異常だ。だが、それを単独で乗り切っているのも異常である。

「どうしました、ライエル様?」

 立ち止まった俺にノウェムが声をかけてくると、俺は首を横に振った。

「いや、なんでもない。こっちに進もう」

 アルバーノさんや、マリーナさんたちに近付くわけにもいかないので、俺たちは違うルートを進むことにした。

 宝箱の反応を発見したので、それを回収するのも良いかも知れない。

(トラップのないタイプで良かった。もう、ほとんど残っていないと思ったけど、残していたのかな?)

 ほとんどの宝箱を回収するアルバーノさんたちは、やはり他の冒険者たちから好かれてはいない。

 実力もあるだけに、周りも大きな声で言えないのが更に不満を抱える原因だった。

 そうして進むと、俺はまたしても立ち止まる。

 今度は、アリアが呆れた声を上げた。

「ちょっと、そう何度も立ち止まらないでよ。何かあったの?」

 俺は一番近くの部屋。

 通路の壁の向こうにある部屋に、不思議な反応があるのを確認した。

「……宝箱が出現した」

 見ると、俺たちに一番近い部屋に、宝箱が出現した。それを、俺のスキルが発見したのである。

 俺を見るメイは。

「確かに動きがあるね。でも、よくそこまで細かい反応を見分けられるね。僕でもそこまで詳しくは分からないよ」

 エヴァも感心する。

「これで今回は目標達成? なら、早く地上に戻るとか!」

 そう言うと、ノウェムが否定する。

「駄目ですよ、エヴァさん」

「……ですよね」

 クラーラは、俺を見て首をかしげていた。

「どうしたんですか、ライエルさん。もしかして、罠付きとか? ミランダさんがいないので、スルーしますか」

 俺は首を横に振る。

「……いや、罠も何もないんだ。でも、何かおかしいというか。とにかく、確認に向かおう」

 トラップ関係の反応はなく、そして急に出現した宝箱を回収するために俺たちは移動を再開した。

 少し進んだ先に、部屋への入口である横穴があった。

 中に魔物の反応はないのだが、クラーラが部屋を照らしてアリアが先行して部屋の中に入る。

 エヴァがその後に続き、二人が周囲を見回すと手招きをしてきた。

 パーティーの後ろはメイが見張りを行ない、俺たちが部屋に入ると全員が周囲を見渡す。

 宝箱は、必ずしも箱の形をしていない。

 迷宮によって様々な形をしており、中には壁に埋め込まれている状態のものもある。

 部屋の中をクラーラが照らすが、それでは足りないので俺、ノウェム、エヴァが魔法で周囲を明るく照らす。

 すると――。

「……ペリドットだ。前と同じだな」

 黄緑色の宝石が、壁に埋め込まれた状態で輝いていた。

 ノウェムはソレを見て。

「連続して同じものですか。少し信じられませんね。ベースでは、そんな話は聞いていませんし」

 迷宮から同じ種類の宝が次々に出るのは珍しくない。

 ただ、俺たちが宝石を発見してから、ベースで他に宝石やペリドットが発見されたという話を聞いていないのだ。

(アルバーノさんたちが回収して手元に持っているのか? それとも、ここはそういう迷宮なのか? でも、これもまた前のと同じで随分と綺麗だな)

 どうにも、何かありそうな気がしてならなかった。

(ペリドットって、何か意味があるのか?)

 考え込むが、俺には答えが出なかった。そんな時だ。

 クラーラが、呟く。

「ペリドットは、確か八月の誕生石でしたね」

 エヴァも同意する。

「そうね。でも、二回続けて同じ宝石か……きっと、何か意味があるのよ!」

 アリアは、少し呆れている。

「同じ宝石が二回続いたくらいで。それより、早く回収しましょう。……ノウェム?」

 ペリドットが埋め込まれた壁を見るノウェムは、何か考え込んでいるようだった。
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