挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

やっちまったな八代目

123/345

宝石

 暗い迷宮の通路。

 洞窟のようなその場所は、どこかで水が流れる音がしていた。

 クラーラが杖に灯した光で天井を見れば、鍾乳石が見える。

 地面はデコボコしており、迷宮内の幅は五メートルもないだろう。

 天井は鍾乳石があるため、低く感じてしまう。

 迷宮に入ったアリアは、白い息を吐きながら。

「ここ、凄く寒いわね」

 薄着ではないが、それでも動きやすい恰好でいるために防寒対策がおろそかになっていた。

 俺も寒く感じており、予想していたよりもきつい。

 クラーラが。

「鍾乳石から水が落ちてきますね。それに、場所によっては水たまりも出来ています。何度か通路を曲がりましたけど……ポーターはやはり入れませんね」

 現在、ギルドから派遣された俺たちは、発見された迷宮の地下一階を歩いていた。

 洞窟のような入口は、いきなり階段から始まっていた。

 中へと入り、アリア、ミランダ、クラーラの三人と調査目的で入っている。

 ミランダは。

「出てくるのは気味が悪いコウモリみたいな魔物だし、他はカエルかしら? 勘弁して欲しいわね」

 勘弁して欲しい、などと言っていた。

 だが、アリアもミランダも、戦闘中は叫び声など上げないで淡々と魔物と戦っている。いや、処理と言った方がいいだろう。

 俺の方は、スキル【マップ】と【サーチ】で、地下一階の地図を見ながら他の冒険者の動きを見ていた。

「……次は右に曲がろうか」

 先に進んでも行き止まりである通路を避け、右に曲がる。

 進んだ先には俺たちとは違うパーティーがいて、引き返しているところだった。

 初日。

 アルバーノさんが率いるパーティーが先行し、その後に他のパーティーが迷宮内に入って戦闘を行なっていた。

 耳を澄ませば、戦闘音や声も聞こえてくる。

(狭いし迷路だな。それはいいけど、ボスは復活しないタイプか?)

 迷宮内に入ると、ボスの反応はなかった。

 地下二階へと続く部屋は広いのだが、そこにボスの反応は表示されていない。

 アルバーノさんたちは先に地下二階へと降りたようで、俺たちは地下一階を調べ尽くすように歩いていた。

(確かに、先に先行して宝箱を独り占め……でも、取り残しも多いな)

 先に進む事を優先しているようで、その間にある罠も解除している。無理なら、危険と分かるように印を付けていた。

 前を歩くアリアが、立ち止まると後ろ腰にしまっている短剣を引き抜いた。

 短槍を用意するまでもない相手だと判断したようで、盾のある左腕を前に出す形で構える。

 俺もサーベルを引き抜くと、翼のばたつきが聞こえた。

 ミランダはローブへと手を入れると、そこから指の間に長い針を挟んでおり天井目がけて投げた。

 薄暗い場所で、何かが落ちる音が複数――。

「ちっ、二匹を逃がしたわね。ライエル、アリア、お願い」

 悔しがるミランダだが、三匹を仕留めていた。

 アリアは短剣を大きく振り、襲いかかってきた大きなコウモリを斬り伏せる。

 俺の方は、サーベルを構えて襲ってきたところを突き刺した。

 胴体部分を貫き、コウモリが甲高い声で鳴くとそのまま息をしなくなった。

 周辺を警戒すると、ミニポーターを連れたクラーラが杖を手放してコウモリたちから素材と魔石をはぎ取りにかかろうとする。

 クラーラが杖を手放したので、明かりが消えかかった。

 俺は右の手の平を天井に向け、光を準備するとクラーラが。

「ありがとうございます」

 そう言って、作業に入った。

 アリアが前方を警戒し、ミランダが後方の警戒に入った。

 俺は魔物を見下ろす。

「羽を広げると一メートルは超えるな。個体差もあるんだろうけど……こいつら、凄く不気味な顔をしているね」

 魔物に可愛さなど求めていないが、俺が首に下げている宝玉は違う。

 今も、五代目が――。

『あれは魔物、あれは魔物……でも、よく見れば可愛い気も……』

 それに対して四代目が。

『いや、これが可愛いとかないって』

 呆れたような声を出していた。

 そうして、考え込んでいるとクラーラが声をかけてくる。

「ライエルさん」

「何?」

 クラーラの方を見ると、魔物を持ち上げたクラーラが大きさを見せてくる。翼を広げると、小柄なクラーラが隠れそうな大きさだった。

「今日一番の大きさです」

 そう言われ、俺も眺めながら。

「ミランダが仕留めたのか? 針を回収して貰うとして……個体差が凄いな」

 クラーラは解体を進めながら同意してくる。

「はい。小さいものは小さいんですけどね。魔石の大きさもあまり違いはありませんし、素材も大きさでどれだけ値段が変わるか……」

 一匹いくら、などと簡単に割り出せないのは困るが、最低限の価格だけ期待しておけば問題もない。

 俺はクラーラが杖を差し込んだミニポーターを見る。

 底が深い箱に、車輪と階段を降りる足が取り付けられただけのミニポーターだが、頭部だけは円柱に丸い小さなガラス玉が二つ埋め込まれていた。

 モニカがポーターを名乗るなら、これは絶対に必要であると主張したのだ。

 俺も同意である。

「そう言えば、最初はポーターも簡単な作りだったんだよな。今は立派になったけど」

 クラーラは、少しだけ嫌そうにしている。

「これ以上は立派になれても困りますけどね。私では操作の限界が近いですから」

 そう言いながら、クラーラは回収した素材や魔石をミニポーターにしまい込む。

 種類別に分けて収納され、終わると移動を再開するためにクラーラが杖を手に取った。

 俺は明かりを消すと、マップで次に向かう場所を確認した。

 だが、魔物の多くは、同じ冒険者たちによって狩られており、先に進む以外の方法はない。

(アルバーノさんたちが取りこぼした宝箱でも回収に行くか)

 宝箱と言っても、箱の形はしていない。

 壁に埋め込まれている状態もあるし、発見されにくい場合も多い。

 だが、俺はそんな場所もスキル【マップ】と【サーチ】で簡単に知ることができるのだ。

 歩き始めた俺は、全員に言う。

「次に見つけた大きな部屋で休憩に入ろう」

 アリアが喜ぶ。

「助かるわ。というか、思っていたよりも寒すぎ。薪は持ってきたし、火は用意するのよね?」

 手頃な大きさの缶を持ってきており、そこに薪を入れて火を付ける予定だ。

 道具などもあるが、使い心地を試したかったのもある。

 何よりも、魔具のような道具を使えば簡単に暖を取れるが、こちらの方が安価だった。

 薪などは落ちていた枝なども移動中に集めていたので、魔具のように魔石を使用する必要がない。

「食事もする。今日は地下二階への入口を見つけたら、そのまま帰還だけど」

 ミランダが言う。

「地下二階の様子を見た方が良くない?」

 俺は首を横に振った。

「行けるだろうけど、無理はしたくない。それに、今日はどのパーティーも下見に来たような感じだし」

 頭の中に浮んでいるマップ上では、他のパーティーの多くが無理をせずに地下二階への入口を発見すると引き返している。

 俺たちのように、宝箱を探し始めているパーティーも多い。

 そうして、俺は予定通り宝箱のある大きな部屋へと入るのだった。





 迷宮から帰還すると、まだ空は青かった。

 外に出て背伸びをすれば、迷宮内が外よりも寒かったのは肌で実感出来る。

「さて、今回の稼ぎはどれくらいかな」

 ミニポーターの中身を見れば、魔物の素材や魔石が沢山積み込まれていた。

 誰かが背負って運ぶよりも、更に多い量が運べるのは確実だ。

 しかし――。

「随分と倒しましたけど、これだと地下二階で荷物が一杯になりますね。出来るだけ戦闘を避けても、地下四階から五階で荷物が……もう一台か二台は欲しいところです」

 クラーラがそんな感想を漏らすと、アリアも同意した。

「確かにそうね。手荷物も減らしたいけど、これだけ荷物を積み込むと乗せられなくなるし」

 ミランダは。

「道具を側面にかけられるようにすればいいんじゃない。ポーターみたいに、盾として使うわけでもないし」

 俺は。

「改良の余地はあり、か。モニカに相談するとして、今日はこのままテントに荷物を……あれ?」

 迷宮の入口近くには、ギルドの職員が人手を雇ってテントを建てていた。

 なのに、今日になると何故か建物が建っている。

 疲れているのかと思い、何度か目をこするが結果は同じである。

 周囲をよく見れば、昨日よりも大きく発展していた。

「なんだ、これ……」

 驚いているのは、アリアも同じである。

 クラーラは。

「流石にベイムの冒険者たちですね。こういった事も随分と手際がいいです。街ができると言われた意味も理解出来ました」

 楽しそうにしているのは、ミランダだけだ。

「へぇ、随分と大きくなったのね。というか、ここまでするとは思わなかったわ。それに、なんだか人も増えていない?」

 宝玉では、三代目がボソリと。

『まるで、魔法使いの村だね。あれ、やってはいけない、って戒めの話なんだけど』

 活気があるのは良いのだが、これはどういう事かと首をかしげる。

 そのままギルドの管理している建物に向かうと、商人や職員が素材や魔石の買い取りを行なっている。

 魔石以外は商人に売っても構わないので、俺たちは先に魔石を職員へと持って行った。

 まだ戻ってきている冒険者たちは少ないので、すぐに売ることが出来た。

「ご苦労様です。では、確認させて頂きますね」

 そう言って魔石を見て、重さを量る職員に俺はたずねた。

「随分となんというか……本当に街でも作るつもりですか?」

 すると、職員は俺の顔を見て。

「あぁ、参加したのははじめてですか? というか、実際に作っている、というのが正しいですね。別に街にしようと思ってはいませんけど、将来的に使用出来ればそれでいいとは思っていますよ」

 俺が不思議に思っている中で、魔石の買い取り価格が提示される。

 頷いて、お金を貰うと俺は素材の方を売りつけに向かったアリアたちに合流した。

 周囲では、複数の商人が買い取りを行なうために待機している。

 どちらかと言えば、全員が若い。

 俺は、アリアたちに。

「そっちはどうだった?」

 すると。

「ベイムよりも安いわね。というか、向こうも持ち運びとか護衛とか、金がかかるから安くなる、って最初に言ってきたわ」

 迷宮近くで魔物を倒せるので、稼ぎとしては普段よりも大きくプラスになるだろう。

 魔物が沢山いる限定された空間に入るので、遭遇率は跳ね上がる。

 四人で一日の稼ぎとしては、十分に元は取れている。

「……まぁ、この調子なら赤字にはならないか」

 今日の稼ぎを見るに、赤字になることはないと思って頷いた。

 すると、クラーラが。

「ライエルさん、アレはどうしますか?」

 俺は歩き出すと、皆を連れてポーターのところへと戻る。

「保留かな。使い道があるし、全員の意見を聞いてからでも遅くないから」

 クラーラの言うアレ、とは宝。

 つまり、宝箱から発見した財宝である。

 宝石の類いなのだが、原石ではなく最初から磨かれたような宝石だ。

 売れば金貨で何枚から何十枚という代物になる。

 宝石の質にもよるが、迷宮内で発見された宝の多くは魔力を蓄えている。普通の宝石とは価格が変わってくるのだ。

 使い道としては、希少金属と同じように魔具の材料というのが多い。

 クラーラが、眼鏡の位置を正しながら。

「それにしても、発見されたばかりなのに随分と年季の入った迷宮ですね。地下一階でいきなり高価な財宝が発見出来るなんて」

 発見されたばかりと言っても、実は昔から存在した、などという事は珍しいとは言えない。

 発見が遅れ、魔物を大量に吐き出す手前だったのかも知れない。

「鍾乳石だったか? あれも、何十年とか何百年かかってできるんだよな? 本当に迷宮は謎が多いよ」

 入ってみた感想は、寒いのと濡れることもあって体調管理が大変そうという事だった。

 後は、狭いので人数が多くても戦闘に参加出来ない可能性があるという事だ。

 加えて、魔法の使用は近くに他のパーティーがいないか確認する必要もある。

「明日はアリアとミランダには休んで貰って、残りのメンバーを連れて行くか。ノウェムとエヴァに、メイと……モニカはどうするかな」

 ミランダが、苦笑いをする。

「シャノンは最初から人数外なのね。姉としては、早い内に自覚して欲しいから、迷宮に入らせたいんだけど」

 俺はそれを聞いて。

「なら、明後日にでもシャノンを連れて行くか? あ、その時にでもモニカを加えればいいな」

 迷宮の様子を見るために、今回は少数で挑んだ。

 だが、明日からは五人から六人でも問題ないだろう。

 そうして話をしていると、賑やかさを増した街を歩いてポーターのところへと到着した。

 見れば、モニカが大きな鍋――寸胴で、何かを作っている。

 アリアがソレを見て。

「あぁ、なんか見ているだけで暖まりそう。早く食べたいわ」

 幸せそうな表情をしているが、確かに美味しそうな匂いがしている。

(戻ってきてから準備するのも大変だし、仲間がいるというのはありがたいな。そうなると、家事のできる連中は分けてパーティーを編成するべきだな。……なんか、段々と複雑になっていくんだが)

 人数が少ないときは、それはそれで違った大変さがあった。

 だが、人数が増えてくると、違う大変さが増えたのを実感する俺であった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ