挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

やっちまったな八代目

122/345

アレット・バイエ

 ミランダに誘われ、俺はアレットさんのパーティーがテントを張った場所に来ていた。

 クラーラとミニポーターの確認をしていたのだが、どうにも確認事項があると言うので足を運んだのだが……。

「やっぱり、気乗りがしない」

 すると、呆れた表情でミランダが言う。

「ここまで来てそれはないでしょう。本当なら、挨拶でもした時に話を聞いておくべきだったのよ」

 ミランダの言うことは正しいし、俺は確かにアレットさんに挨拶を行なおうとした。だが、そこでとんでもない出来事を目撃したのだ。

 俺にだって、慈悲くらいはある。

「……俺、そこまで残酷になれないんだよね」

「何を言っているのよ? ほら、さっさと行くわよ!」

 周囲で見張りをしている人に、ミランダが近付くと用件を伝えていた。見張りの人が、俺の顔を見ると、ハッとした表情になり複雑な表情のままテントへと向かう。

 ミランダは、俺の方を見て。

「何をしたの?」

「……俺は何もしていない」

 それだけしか言えなかった。なのに、宝玉内の歴代当主たちは笑いながら――。

『確かに、何もしてないね。嘘は吐いてない。けど……ついにアレットちゃんとご対面! 夢見る少女はどうしているかな!』

『色々と好条件を獲得するために、やっぱり三代目の言った『良い人は見つかりましたか?』は必要だと思うんだ。ライエル、笑顔だよ、笑顔! 笑顔で相手を揺さぶるんだ!』

『相手がどんな人間か確かめてからだろうが。不良物件かも知れないぞ。あんまりからかうと、誰かの嫁みたいになるかもな。あれは怖いぞ』

『……五代目、それは俺の事ですか? というか、ここは四代目の意見通りに好条件獲得のために、相手を揺さぶる必要が……』

『六代目は色々とやらかしましたからな。ライエル、六代目は見習うんじゃないぞ』

 宝玉内の歴代当主たちの意見を、普段通りにスルーすると俺はテントから微妙な表情をした見張りの人に許可を貰う。

「……お会いになるそうです」

 周囲の雰囲気を感じ、ミランダは俺に。

「ねぇ、なんでこんな雰囲気なの? 本当に何もしてないのよね? それとも、何かされたの?」

 心配してくれるミランダに、俺は。

「会えば分かる」

 そう言って二人でテントの中に足を踏み入れた。

 テントの中には、アレットさんと俺が対応した背の高い騎士がいた。

「あ、あの……お久しぶりです」

 そう言うと、騎士は「お久しぶりです」と言ってきた。ミランダも「初めまして~」などと挨拶をするのだが……。

 アレットさんは机を前にして椅子に座っており、俯いていた。

 そして――。

「くっ、殺せ!」

「……え?」

 その場の雰囲気がおかしくなった。いきなり自分を殺せと言いだしたのだ。

 そればかりか、頭を両手で抱えて額を机に叩き付け始めた。

「もう殺せよ! なんだよ、私をいじめて楽しいのか! そうだよ、どうせ婚期を逃した女だよ! だって仕方ないんだよ! まさか出世するとは思わなかったんだ! 仕方ないんだ……仕事が全部悪いんだ……」

 ミランダは笑顔だが、頬が引きつっていた。

 部屋にいた副官らしき騎士の男性は、右手で顔を押えて黙っている。

「いや、今日は別件で――」

「――別件? 何? じゃあ、私はからかう価値もないと! 笑いに来たんじゃなければ、一体何が目的だ、このや――あうっ!」

 黙っていられなくなった騎士が、アレットさんの頭に手刀を振り下ろした。

「隊長、いい加減に立ち直ってください。迷宮討伐でもその調子では、命を落とす者が出てもおかしくありませんよ」

 アレットさんは、荒くなった呼吸を整えると咳払いをした。

「す、すまん。どうも気恥ずかしくて。……さて、何か用かな、ライエル君」

 深呼吸をして、落ち着いたアレットさんは、先程とは別人に見えた。

 すぐにキリッとした表情で、俺たちに座るように言って話を聞こうとした。これが最初の対応なら、きっと無条件で好感が持てただろう。

 だが、今の俺がアレットさんに抱いている感情は――。

(なんだろう、このいたたまれない気持ちは)

 ――同情だった。

 同じ、成長後の急激な心境の変化を経験する仲間である。俺は、この人のことはからかわない事に決めた。

 机を挟んで向かい合って座ると、アレットさんが落ち着いたこともあって周囲に気を配れる余裕が出て来た。

 三代目が。

『あれ~、色々と聞かないの? 面白いのに』

 残念そうな声を出しているが、俺は無視する。

 テントの中は、アレットさんの物と思われるベッドや鎧などが置かれている。テントの中央に置かれた机は大きく、色々と書き込むための道具が置かれていた。

 魔道具の一種である、ランタンが暗い室内を明るく照らしていた。

 道具なども、しっかりとした物を揃えている。

 中でも一番目立つのは、両手持ちのアレットさんの大剣だろう。業物であるのは間違いなさそうだ。

 五代目が。

『冒険者というよりも、本当に騎士団のようだな。こいつらはいったい何者だ? なんのために冒険者をしている?』

 分かっているのは、どこかの騎士団員たち。そして、次世代の戦力を鍛えるために冒険者として活動し、収支が黒字であればあまり報酬は気にしないと言うことだ。

 ミランダは、アレットさんに事情を説明する。

「アルバーノという冒険者が、実はアレットさんに聞けば分かる、と。自分たちの仕事の邪魔はしないで欲しいと言っていたもので」

 アレットさんはそれを聞いて頷いていた。

「明日にでも話そうと思ったんだが。そうか、アルバーノが……クレートとの喧嘩で懲りたんだろうな。たまには良い薬だよ」

 言葉遣いはどこか荒い感じがあるのだが、優しい印象を受けた。

 アレットさんは、俺たちに事情を話してくれる。

「私たちは冒険者だが、国に戻れば騎士なんだ。武者修行というのはおかしいが、経験を積むためにベイムに来ている。ま、伝統みたいなものでね。実戦形式で鍛えられ、自分たちの稼ぎは自分たちで得られる訳だ」

 冗談のように言っているが、宝玉内の四代目が反応していた。

『いいな~、それいいな~』

 アレットさんは、自分たちの事を話すとそのままアルバーノさんたちの事も説明する。

「色々と理由はあるんだが、アルバーノたちとは良い関係だと思うよ。実際、偵察や索敵、それに罠の除去に設置と、頼りになるからね。私たちでもできない事はないが、任せることにしているんだ」

 どうやら、アルバーノさんたちが許可を得ているなどと言ったのは、本当のことのようだ。

 少し不満そうなのはミランダだ。

「つまり、彼らには先行して貰い、邪魔をするなと? 美味しいところは奪われるわけですか」

 アレットさんは苦笑いをする。

「そう言わないでくれ。それに、早い内に地下五階までは解放して、臨時で参加したパーティーを投入したい。それ以降は自己責任で好きにして貰って構わないよ」

 それを聞いて、ミランダは目を細めた。

「……許可のないパーティーを迷宮に?」

 アレットさんは、ミランダに睨まれても笑っている。先程の残念なイメージさえなければ、きっと頼りになる人だと純粋に思えたはずだ。

 そう、思いたかった。

「地下五階まで、だ。せっかく護衛をしてくれたのに、稼げないと不満を抱くだろ。それに、ここにいるという事は、間接的に私たちが認めた冒険者という事になる。下手な失敗をして足を引っ張られる事も少ないよ」

 絶対にないとは言わないのだろう。

「俺たちは、基本的にアルバーノさんたちの後に続けばいいんですか?」

 アレットさんは、首を横に振った。

「地下三階までは解放しているらしい。らしいというのは、ボスを倒したが復活するタイプなのか、それとも二度と出現しないタイプの迷宮なのか判明していないからだ。その辺をアルバーノたちには調べて貰う。結構危険な仕事でね。美味しい思いをしても私は不公平とは思わないよ」

 先を進むのは良いが、危険だと教えてくれているようだ。そんな危険な場所に飛び込むアルバーノさんたちの実力を、アレットさんは認めているのだろう。

 初参加、そしてベイムでのやり方を学ぶ立場にある今の俺にとっては、ここで反論しても意味がない。

 俺は笑顔で。

「分かりました。邪魔をするような事も、迷惑になるような事も出来るだけ避けます。ま、新人なので、色々と教えて欲しいこともありますし、従いますよ」

 アレットさんは、笑顔になると俺を褒めた。

「その気持ちは大事にするといいよ。あまり真面目すぎるのも問題だからね。ま、癖の強い連中となると、アルバーノにクレート、そしてマリーナかな?」

 三名の名前を挙げるアレットさん。

(その名前は前から聞いていたんだよな。というか、癖が強いのか? アレットさんより?)

 ミランダは、三人のことを知ろうと情報を求めた。

「その三名は危険なんですか? できたら、色々と情報が欲しいのですが?」

 アレットさんは、笑顔で――。

「残念だが、冒険者、しかも顔見知りの情報は渡せないね。ま、癖が強いだけで危険は少ない連中だよ。自分たちで確かめる事だ」

(……普段がしっかりしているだけに、成長後のあの残念さが際立つな。あれさえ見ていなければ、もっと格好良く見えたんだろうな……)

 少し残念に思いながら、俺は話を終えた。





 次の日、俺は朝早くから芸人の一座がいる場所に足を運んでいた。

 ミランダと共に来たのだが……。

「騙されるな、ライエル君! そいつは、とんでもない男だ!」

 黒髪をキッチリとオールバックにし、身なりを整えている【クレート・ベニーニ】が俺と向き合っているアルバーノさんに指を差していた。

 互いに相手の仕事の邪魔をしない、という話をしていただけである。

 嫌そうな表情をするのは、アルバーノさんも同じだった。

 生真面目なクレートさんが率いるパーティーは、アルバーノさんが率いるパーティーとは正反対だ。

 装備は金属製の胸当てや手甲に足甲といった恰好をしている。持っている武器も、槍や剣意外にも斧やメイスを所持していた。

 アルバーノさんの方は、ローブを着ているが着けても革製の武具である。武器よりも、道具の方が多いのではないか? そう思える装備をしていた。

「クレート、いい加減にしろよな。俺は、仕事の話をしているんだよ。早い内に地下五階までを開放するように、姉御にも言われているの!」

 ウンザリした様子のアルバーノさんに、クレートさんは悔しそうにしていた。

「あの人は本当に……立派な騎士でありながら、ギルドのルールを守らないなんて」

 ミランダが、俺に小声で。

「ねぇ、なんか騎士に憧れているみたいよ」

 六代目が、少し呆れている。

『あ~、こういうのはいるな。時々、生真面目すぎて相手をするのに疲れるんだ。悪くはないが、世の中はそれだけで回らないからなぁ』

 やはり、厄介な人物なのだろう。

 俺は。

「……いや、俺にどうしろと?」

 周囲では、今日から本格的に迷宮へ挑むとあって、冒険者たちは武具を着用して街を歩いていた。

 芸人の一座は、俺たちをワクワクとした表情で見ている。

(こいつら、エヴァと同じだ。あいつだけが、特別じゃなかったんだな)

 そんな感想を持っていると、クレートさんが俺に忠告してきた。

「いいかい、ライエル君! そいつらは元盗賊だ! しかも、ルール破りは当たり前の連中なんだ。迷宮内では気をつける事だ」

 そう言って、パーティーを引き連れてクレートさんは歩き去ってしまった。

 アルバーノさんの方は。

「ちっ、朝から暑苦しいのに出会ったな。せっかくの美人と話をしてテンションが上がったのに……行くぞ、お前ら」

「うーっす」
「しかし、あのクレートの野郎、まだ根に持っていやがるのか」
「ハハハ、今度は後ろから魔物でもけしかけるか」

 アルバーノさんとは違い、仲間の方は口の悪さが更に上を行っていた。

 少し声を低くしたアルバーノさんは。

「……さっさと行くぞ。遊ぶ金が欲しいなら、仕事なんかすぐに終わらせるに限るからよ」

 飄々としているが、癖の強い集団を率いているだけあって凄みがあった。

(少し羨ましいな)

 ミランダと共にポーターのところへと戻ることにする。

「俺たちも行こうか。今日はどんな場所か感触を確かめる程度だけど」

 俺の横を歩くミランダは。

「これで残りはソロのマリーナさんだけね。どんな人だと思う?」

 言われた俺は、首を横に振るのだった。

「さぁ?」

 これ以上、癖のある人物ではない事を祈るばかりだ。





 ポーターに戻ると、騒ぎがあった事を知ったエヴァが悔しがる。

「なんでよ! なんで連れていってくれなかったのよ! 悔しい……面白い見世物だったかも知れないのに!」

 今日は留守番であるエヴァは、髪を振り乱して本当に悔しそうにしていた。

「いや、別に喧嘩とかないし」

 言い訳をすると、睨み付けてくる。

「なんにでもきっかけはあるでしょうが! こうした小さな積み重ねが、きっとどこかで意味が生まれるのよ! あ~、悔しいわ。ストレス発散で歌でも歌いたいなぁ~」

 チラチラと俺を見てくるエヴァは、俺になんとか歌うための交渉をするように求めているように見えた。

 エヴァと話をしていると、ノウェムが咳払いをする。

「エヴァさん」

 笑顔を向けられ、エヴァは渋々と引き下がるのだった。

「う~、分かったわよ」

 初日は、俺、クラーラ、アリア、ミランダの四名で様子を見るつもりだった。

 ノウェム、エヴァ、メイ、シャノン、モニカは留守番を任せている。

 俺に笑顔を向けてくるノウェムは。

「それでは、ライエル様……お気を付けて」

「怪我しない程度に頑張るよ。ノウェムも、他の連中をよろしく」

 そう言って、俺はアリアたちを引き連れて迷宮へと向かうのだった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ