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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

初代様は蛮族

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初恋の人

 魔物の討伐から戻った俺は、フラフラしながら回収した素材の売却、そしてギルドへの報告を行なった。

 基本、魔物の素材に関しては、ギルドは扱っていない。

 ただし、魔物から採取できる魔石と呼ばれる、小さな赤い石だけはギルドが管理している。

 貴重なエネルギー資源であると同時に、ギルドの利権でもあった。

 冒険者は、素材を商人や業者に売り払い、魔石をギルドに売って利益を得るのだ。ギルドは、魔石の取引で利益を得ている。

 もっとも、魔石の利権は大きい。

 ギルドが運営されているのも、莫大な利益を生み出しているからである。

 とはいえ、それは末端の職員には関係ない話だ。

 冒険者としても、魔石の販売ルートを独占しているようなギルドと事を構える理由にもならない。

 いつものようにホーキンスさんの受付に並び、順番が来るまで待つ。

 返り血を浴びたゼルフィーさんは、ギルドの隣にある銭湯でお風呂に入っている。

 ノウェムと二人で並んでいると、心配そうに俺にたずねてきた。

「ライエル様、本当に大丈夫なのですか? 顔色が悪いままですよ」

「大丈夫。さっきよりも回復したし、それに手続きを終えれば帰るだけだし……」

 心配させまいと無理をするが、かえってそれが心配させてしまったようだ。

『やっぱり貧弱じゃねーか』

 初代の声がする。俺のポンコツぶりが嬉しそうだ。

(いや、お前らのせいだからな)

 嬉しそうな初代に、七代目が言う。

『さっきまで顔が真っ赤だったのは誰ですかな?』
『お、俺じゃねーよ!』
『お前には無理だ! キメ顔で言ったおかげで、恥ずかしい思いをしたようで』

 ニヤニヤとしている七代目の顔が浮かぶようだ。

 だが、俺の魔力をもう少しだけ考慮して欲しい。

「ライエル様、また顔色が……明日は休みましょう。ライエル様は無理をしすぎです。ゼルフィーさんには私の方から伝えておきますから」

「うぅぅ、ごめん」

 魔力が回復する側から使用していくご先祖様たちに、俺は怒っても良いのではないだろうか?

「次の方どうぞ……って、ライエル君! 顔色が悪いですよ!」

 ホーキンスさんにまで心配されてしまった。

「だ、大丈夫です」

「いや、その顔色は大丈夫とは……まったく、ゼルフィーさんはいったい何をしていたんですか?」

 ホーキンスさんに素早く手続きを終えて貰うと、その日は帰ってすぐに横になるのだった。





 魔物退治の次の日は、休日となった。

 本来、外に出て魔物を相手にすると、冒険者は技量にもよるのだが休日を挟む。

 俺たちのように、近場で魔物の相手をする場合は、連日外に出て、一日休む、を繰り返す傾向にある。

 スライムを相手にして、すぐ休んでいては稼ぎが悪いからだ。

 今回はゴブリンの相手をした事で収入が良かったのと、俺の体調不良で休みが決定した。

 借家に戻り、ノウェムの看病を受けている。

「やはり戦闘となると疲れも違いますね。今後は仲間も増やし、ライエル様の負担を減らさないと」

 ノウェムは過保護すぎると言いたかったが、言えない理由がある。それは、ご先祖様たちと同じ意見だからだ。

 ゴブリン七匹を相手にしたが、俺が魔法を使って一掃できた。

 ただ、それはゼルフィーさんという優秀な前衛がいたからだ。

 すぐにカバーに入って貰い、ゴブリンを近づけさせない。攻撃を一手に引き受けて貰ったから魔法も使用できた。

 居間にあった古びたソファーは、表面に傷が入っており、中身が見えている。

 そこに座り、ボンヤリと火のついていない暖炉を見ている。

 いや、考え込んでいた。

(仲間となると、前衛になるのかな? 俺がどこを担当するかにもよると思うけど)

 基本的に、仲間ならどのポジションでもいいのが現状だ。

 後衛がいてもいいし、前衛でも三人なら安定して戦える。

「ゼルフィーさんが最低でも三人で、という訳だ」

「そうですね。贅沢を言えば切りがありませんが、あと一人いればしばらくは安定すると思います」

「戦いは数、って事か」

 俺がそう言うと、五代目がそれに横槍を入れる。珍しい事だ。

 今日は声を聞いていなかったが、五代目が担当しているようだ。

『正しい言葉だが、今のライエルには適切な数というのを理解して欲しいところだな』

(適切な数?)

『数を揃えるのは重要だが、それを維持できるか? そして必要な人材か? 今後どうやって発展させるのか? 考える事は山のようにある。個人の力量、性格、特徴、背景……人を率いるというのは、規模は違えど難しいという事だよ』

 俺はノウェムを見る。

 居間から出て行き、台所へと向かっていた。お茶を煎れるようだ。

 小声で、五代目と会話をする。

「メンバーに入れる人選はどうしたらいいんでしょう?」

『必要な人材を考えておくといいぞ。だが、優秀な人間は引く手あまただ。希望通りの人材がパーティーに入るなんてそうそうないだろうな』

(やっぱり、難しいのか)

「臨時で組んでみて、相手を知るとかした方がいいんですかね?」

『その辺のノウハウはゼルフィーっていう冒険者に聞けば良いんじゃないか? 俺たちには冒険者のノウハウなんてない』

「そうですよね……」

(冒険者としてのノウハウか……二代目と初代が頼りなんだけど)

 初代、二代目は開拓村を興したウォルト家の先駆けとも言える立場だ。

 冒険者ではないが、近いような事をしてきた実績が二人にはある。

 二代目も言っているのだが、こうした事に関して初代は役に立つスキルを所持しているらしい。

 何しろ、二代目のスキルは他のスキルと併用する事で効果を発揮するスキルだ。

 現状、俺に扱えるスキルがあるとすれば、初代が発現したスキルらしい。

「初代に助けて貰えるのが一番楽なんですよね?」

『だな。単純だけど有用なスキルだった。俺もお世話になったから分かるし。使いやすい上に、二代目のスキルと汎用で戦力が一気に向上するから』

 初代のスキルは、一言で言えば『能力の上昇』だ。

 スキル名は『フルオーバー』。

 単純に能力を向上させ、敵を圧倒する。

 単純だが、これは非常に有用なスキルである。歴代の当主たちが、このスキルの世話になっているのだ。

『初代しだいなんだが……俺たちの時は、そういう事は気にせず使えたんだけど』

 宝玉になり、スキルには意思が芽生えた。

 それが歴代当主の記憶と心である。ご先祖様たちがスキルそのものなのだ。

 つまり、認めて貰えないと使用できない。

『俺のスキルもライエルには負担が大きい。嫌いだからじゃなく、今のお前には負担でしかないから使用させられないからな。地道に魔力でも増やせば可能性はあるだろうが……』

「その方法が分からないんですけどね。普通に成長すれば増えるとは聞いていますけど」

 魔力の増やし方など、魔法を使用して魔力を増やしていくトレーニング方法がある。だが、これが本当に効果的なのか分かっていない。

 効果はあるだろうが、何もしないでも魔力は成長と共に増える。

 迷信の類いでは、魔物を倒せば魔力以外にも成長すると聞いた事があった。

 ただ、それを確認する相手は、俺の周りにいなかったのを覚えている。

『ライエルのスキルが判明すれば、もっと違う方法もあるんだろうな。ま、気長にいけばいいんじゃないか?』

「はぁ……(スキルを使用できるようになる宝玉を持っているのに、何一つ使用できないなんて……)」

 ノウェムがお茶を持って戻ってきたので、俺と五代目は会話を中断した。





 次の日。

 ゼルフィーさんとの待ち合わせ場所に向かった俺とノウェムは、方針転換を告げられた。

 ギルドで手続きを行なうと、そのまま冒険者の多い喫茶店で話をする。

 装備を持っていても入れる店なのか、冒険者が多く利用していた。

 窓際の席が空いており、そこで三人座ってお茶を注文した。ゼルフィーさんは、甘いお菓子も注文している。

「ここは奢るよ。それと、二人には仲間を入れろと言ったのを覚えているね? あれなんだけど……少し慎重に行動しようか。誰でも引き入れるのは止めて貰う」

「それはどういう意味ですか?」

 ノウェムがゼルフィーさんに確認を取る。

 すると、ゼルフィーさんは理由を説明してきた。

 俺たちの力量を正確に計り、その結果として仲間は慎重に選ぶようにと告げたのだ。

「あんたたちの力量はバランス以前に新米としてはずば抜けている。それこそ、体力面を省けばライエルはダリオンの冒険者でも上位に入るよ。それからノウェム、あんたの聖属性の魔法も実際に見たが……ダリオンでは間違いなくトップレベルだ」

 俺は、その意見に首をかしげた。

 冒険者の駆け出しに優しい街であるダリオンでは、やはり全体的な水準で言えば冒険者の質は低い。

 だが、ダリオンの上位と言えば一人前は確実である。

(評価が高いなら、仲間もすぐに集まりそうなんだけど……)

「それは駄目なんですか?」

 ゼルフィーさんは、困った顔をする。

「悪くはない、が……面倒だという意味では悪いね。あんたたちの事は調べさせて貰った。どこの出身かという情報もね」

 ゼルフィーさんは、俺の実家を調べた――いや、俺がどこの出身かを調べ、それで俺の立場を知ったようだ。

 もっとも、深い事は知らないようだ。知りたくもないだろうが。

「あ、あの、嘘を言うつもりは」

 俺が弁明しようとすると、ゼルフィーさんは手で制す。

「別に悪いと言ってはいないよ。引き受けた仕事は可能な限りやり遂げるのが私のやり方だ。途中で投げ出すつもりもない。違約金だって怖いからね。ただ、事情がある、そして冒険者として才能もあるというならこれからは慎重に考えないといけない」

 俺は、どうやら少し冒険者を甘く見ていたようだ。こんなに早く調べられるとは思ってもいなかった。

 ノウェムも真剣な表情で話を聞いている。

「しばらくダリオンにいるんだったね? それもいいだろうさ。けど、いつかはダリオンを出るんだろ? 仲間選びは慎重に、そして信用できる奴にする事だ。変な連中に目を付けられてもつまらないからね」

 変な連中とは、冒険者として寄生する連中や、同業者を騙す連中である。

 前者はパーティーに寄生し、分け前だけを貰い何もしない連中だ。

 後者は詐欺師が多い。

「さて、それで今後の方針なんだが」

 ゼルフィーさんがそう言った時だ。喫茶店のドアが勢いよく開け放たれた。

 ドアに取り付けられていた鐘が、大きな音を立てる。

 そして、足音が俺たちの方へと近づいてきていた。

 ノウェムが警戒して立ち上がったので、俺も腰を上げ相手に視線を向ける。だが、相手は俺たちを見ていなかった。

「ゼルフィー……」

 そして、名前を呼ばれたゼルフィーさんは、少し困った表情をして呟いた。

 ただ、そこに初代の声も重なる。

「アリアお嬢様……」
『アリスさん! どうしてこんなところに……』

「え? どっち……」

「ライエル様?」

 思わず呟いてしまうと、ノウェムが俺の顔を見る。どうやら、相手に敵意がないので杖を下ろしたようだ。

 俺も、慌てて座ると、二人を見る。

 ゼルフィーさんがお嬢様と呼び、初代がアリスと呼んだ女性は、赤い髪をした俺たちと同年代の少女だった。

 背中まで伸びた赤い髪は、毛先に癖があり跳ねている。

 少しきつめの瞳は紫で、俺たちの前で息を切らしている。相当焦っているようだが、同時に活発な少女に見えた。

 動きやすい恰好をしているのか、割と肌に張り付くような衣服を着ている。

 ただ、ゼルフィーさんがお嬢様と呼ぶのは、少し違和感があった。

 確かに見た目は綺麗だし、どこか品もある。ただ、恰好はお嬢様というにはほど遠い。

「お願いゼルフィー、力を貸してちょうだい」

「いや、その……今は仕事中でして」

 周囲も俺たちのテーブルに視線を向けていたが、特別騒いでもいなかった。小声で、何があったのか話し合っている。

「痴情のもつれか?」
「あの青い髪の野郎、羨ましいぜ」
「というか、あれってゼルフィーの姉御だろ?」
(なんで俺が睨まれているんだ? 関係ないよね)

 妙に俺を目の敵にするような視線に耐えつつ、二人の会話に耳を傾ける。だが、宝玉の方では初代が騒ぎ始めた。

 魔力がゴリゴリ削られていく。

「ロックウォード家の『玉』が盗まれたの! あれは代々受け継がれてきた大事なものなのよ! それを取り戻すために力を貸して!」

 興奮しているというよりも、かなり焦っているアリアと呼ばれた少女を見てから、俺は隣のノウェムに視線を向ける。

「これってどういう事?」

「え~と、ゼルフィーさんが過去に仕えていた相手の家族でしょうか? 騎士のようだと思っていましたが、本当に騎士だったのですね」

 ノウェムがそう言うと、ゼルフィーさんが訂正してくる。

「いや、私は騎士じゃなくて、父がね……って! お嬢様、今の私はロックウォード家の家臣ではありませんよ。それに仕事中で、頼まれても困ります」

 申し訳なさそうに言うゼルフィーさんに、アリアは暗い表情になる。

 そして、俺の方へと視線を向けると頼み込んでくる。

「あなたがゼルフィーの雇い主? なら少しで良いの。私に時間をちょうだい! どうしても大切な宝なのよ……ロックウォード家の玉で、二百年以上は受け継いできた宝なの! お礼はなんだってするから、どうかゼルフィーを貸してちょうだい!」

 すると、ノウェムが立ち上がる。

「急いでおられるのは理解できます。ですが、私たちにも事情があります。ゼルフィーさんには三ヶ月の契約を結んでいますし、少なくない依頼料を支払っています。お気持ちは理解できますが、どうかお引き取りください……それと、頼られて困っているように見受けられるのですが?」

 ノウェムがそう言うと、ゼルフィーさんもうつむき加減だが言い返さなかった。

 アリアさんは、ソレを見て悔しそうにする。

 何かあるのだろうが、それ以上に今は――。

『アリスさんや! あの頃のままのアリスさんが……俺の初恋は終わってなかったんだ!』

 初代がとんでもなく興奮し、そのせいで俺の魔力がガリガリ削られていく。

(ちょっと待って、今までになく魔力が奪われて目眩が……)

 頭がフラフラする。

 それに二代目も参加し始めた。

『おい! ライエルがやばいんだけど! もうフラフラしてるんですけど! ちょっと落ち着けよ!』
『落ち着いていられるか! 俺の青春は、アリスさんなくしては語られ――』

 そこまで宝玉から声が聞こえたが、途中で声が聞こえなくなる。

 同時に、ノウェムが拒否をした事で、アリアさんが俺の肩を掴む。

「お願いします。何でもしますから、ゼルフィーを貸してください……大事な物なんです」

 目に涙をため、必死に頼み込んでくる女性を前に俺は声が出なかった。

 必死なのか、俺を前後に揺すってくる。頭がグラグラと揺すられ……。

「ライエル様を離してください! って、ライエル様? ライエル様!?」

「え? 何……キャァァァ!!」

「ちょっと! なんで気を失ってるのよ!!」

 意識が遠のく中、俺は思った。

(お、俺のせいじゃない……)
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