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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

孫馬鹿な七代目

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ベイムのギルド

 ベイムへと戻ってきた俺たち。

 ギルドへの報告へと向かうために、今日はクラーラと共に来ていた。

 人の出入りが激しいギルドのロビーで、並んだ列の先にはタニヤさんが受付をしていた。

 眼鏡のフレームを指先で掴み、位置を正すと俺たちを見る。

「おや、随分と早く戻ってこられましたね。それとも、依頼の達成が不可能ですか?」

 俺たちが依頼を達成したというのを分かっているのか、冗談を言いながら俺たちに椅子に座るように言ってきた。

 俺は必要な書類を手渡すと、タニヤさんは封筒を確認して丁寧に開封すると中の書類を確認する。

 俺たちの目の前でそれを読み、左手に書類を持つと右手をあごに当てて何度か頷いていた。

「評価は『B』ですね。ただ、丁寧な仕事を評価されています。報酬は予定通り支払わせて頂きます」

 俺がギルドカードを差し出すと、タニヤさんが受け取って手続きを進めていく。

 書類に素早く記入していくタニヤさんは、手を止めないままに俺に確認を取る。

「仕事の内容から移動に片道五日から六日ですか。随分と速いですよ。馬を使われました? ギルドに登録している冒険者なら、手続きをすれば安く借りられますけど、知っていましたか?」

 俺を見て、微笑んでいるのを見るに、下調べをしているのか確認しているのだろう。

 ベイム以外ではなかったサービスに驚くが、俺は。

「次回から利用させて貰います」

 そう言うと、タニヤさんは軽く溜息を吐いて書類に視線を戻す。彼女の机の上は、カウンターがあって見ることが出来ない。

 だが、何かしら判子を押しているような音がした。

 書類と共に俺のギルドカードを返してくると、タニヤさんは席を外す。報酬を持ってくるのだろう。

 クラーラは。

「いいんですか? あの質問は試験に響くのでは?」

 俺は肩を上下させた。

「いいんだよ。こっちは期間内に仕事を終わらせることが出来た。それに、評価も悪くない。出来すぎれば利用されるし、それを断るだけの実力も俺たちにはないからね。下手に背伸びをして高い評価を得ても動きにくくなる」

 俺の意見を聞いて、クラーラは安心したようだった。ギルドに頼られるということは、名誉な事でもある。

 サービスだって他より優遇されるだろうし、何よりも知名度が違ってくる。だが、ギルドに使い潰されるのはごめんだった。

 特に、ベイムには相当な量の依頼が舞い込んでくる。処理出来ないほどに依頼がある中で、使い勝手の良い俺たちは彼らにとって喉から手が出るほどに欲しいパーティーだろう。

 移動速度、そして対応力。

 メンバーの一人一人が実力者で、ある程度の事はこなしてしまう。だから、評価はある程度で制限されるべきと考えた。

「アラムサースでそれなりに冒険者をしてきましたけど、ベイムはやっぱり違いますね。雰囲気もですけど、職員の質も」

 俺はクラーラに同意しながら、アラムサースのギルドは酷かったと一緒に頷く。そして、俺とクラーラは少し笑うのだった。

 タニヤさんが金属のトレーに乗せた報酬を持ってくると、カウンターに置いた。

「では、報酬の確認をしてください。それと、東支部の事は理解されていると思いますが、これからは定期的に依頼をこなしてもらいます。余裕のある時は迷宮に挑むなり、都市の周辺で魔物退治をして貰っても構いません。正し、マナーは守ってください」

 金額を確認し、俺は受け取るとタニヤさんに確認を取る。

「流石に自由がないのは困りますけどね。どれくらいの期間で依頼をこなすんですか?」

 薄い金属の板に文字が刻まれたものを取り出したタニヤさんは、ソレを使って俺たちに説明をした。

「依頼内容や難易度にもよりますが、今回の内容でしたら一ヶ月に一度でも。ただ、簡単な依頼ですと、一ヶ月で二回から三回はこなして頂きます」

 本当に二日や三日の距離で、魔物退治などであれば月に二回から三回はこなす必要があるようだ。

 宝玉内からは、声が聞こえてくる。四代目だ。

『騎士団がいないから、冒険者に魔物の討伐をさせる訳だ。つまり、自分で稼いで維持をしてくれる兵士か……欲しいな』

 必要経費がいらず、必要なときに報酬を出せば仕事をする集団は、四代目に魅力的に見えるのだろう。

 七代目は、それに反論した。

『そんな兵士たちはいりませんね。実力も分からない連中を使うのは、戦争で傭兵を必要とする時で十分です。二度と使おうとは思いませんが』

 七代目の冒険者嫌いも相当なものである。

「それをこなさなかった時のペナルティーは?」

 クラーラが確認すると、タニヤさんは微笑みながら。

「何もありません。こちらから何かをする、という事はないと思って頂いて結構です」

 俺はその笑顔を見ながら思うのだ。

(つまり、何もしないなら、ギルドも特別に何もしない。迷宮討伐を斡旋する事も、ってところか)

 ギルド側も、無理に仕事させるよりも自分たちに協力的な冒険者を探す方が大事なのだろう。

 やる気のない冒険者などに構ってはいられない、という事だ。結局、ギルドは魔石の利権を握っている組織でもある。

 同時に、冒険者の管理などオマケとは言わないが、本腰を入れる部分ではないのかも知れない。

 魔石を集める冒険者の管理は必要だが、彼らにしてみれば俺たちに仕事の斡旋をしているのはサービスだろう。

「それと、依頼を達成するとそこから税金を引かれます。これは聞いているかも知れませんが、依頼の達成はベイムへの貢献と見られますよ」

 依頼をこなせば、ベイムが潤うということだ。

 魔石などを売り払っても、そこから税を取らないらしい。それがベイムの方針のようだ。

 クラーラは、少し呆れている様子だ。

「どのみち、冒険者が稼いだお金のほとんどがベイムで使われますからね。領主のいないベイムでは、そちらの方が重要なんでしょう」

 タニヤさんは微笑み。

「賢いですね。でも、あまり口に出さない方が良いですよ。どこで【スイーパー】が聞いているとも限りませんし」

 ギルドが存在は認めているが、表に出てこない掃除屋がスイーパーである。一般人よりも力のある冒険者を相手にする彼らは、優秀でないと勤まらない。

 俺はクラーラの代わりに。

「気を付けますよ。もっとも、この程度で狙われるほど、スイーパーが短気だとは思いたくありませんけどね」

 タニヤさんは、依頼を達成した俺たちに言う。

「さぁ、どうなんでしょうね。さて、ではベイム初の依頼達成おめでとうございます。これからも期待していますよ、ライエル君。それに、クラーラさん」

 受け取るものを受け取った俺は、今月は依頼を受けなくても問題ないと知った。明日にでもメイの冒険者登録を行なう事にして、椅子から立ち上がるとクラーラと共にギルドを出るのだった。





 報酬を受け取った俺は、クラーラと共に宿屋へと戻る途中で屋台に寄っていた。

 腹が減ったと言うよりも、よく食べるメイがいるのでお土産を用意しているのだ。もっとも、アリアにシャノンも食べるだろうが。

 屋台の多い通りを歩きながら、お土産の食べ物をクラーラと二人で選ぶ。

「肉の串焼きですか。メイさんとアリアさんは喜ぶでしょうけど、シャノンちゃんは微妙でしょうね」

「え、そう? あいつ、なんでも食べない?」

 そう言うと、クラーラは俺を見て首を横に振る。

「流石にその認識はどうかと思いますよ。確かによく食べますけど、好き嫌いも多いですし甘い物が好きですからね」

 俺は言われてみると、確かにそうだと思い出す。ただ、肉の串焼きでも喜ぶのは間違いない。

「なら、飴細工か? いや、お菓子感覚で芋を揚げたものでもいいかな? クラーラは?」

「私ですか? いえ、食事以外ではそんなに食べる必要がないので」

 冒険者なのでそれなりに食べるクラーラだが、他のメンバーと比べると食事量は少ない方だ。

 俺は頭を使うときは、甘い物が良いというのを思い出し、近くで売っていた甘いお菓子を大銅貨で購入する。

 その袋をクラーラに渡し。

「飴なら長持ちするし、本を読む時にでも舐めればいいよ。手も塞がらない」

 クラーラは、受け取るとコクコクと頷いて少し俯いた。

 宝玉から三代目の声がする。

『おっと、ライエルがここでクラーラのご機嫌取りに動いたぞ!』

 四代目がサラリと。

『ふむ、これで前にペンダントを買ったシャノンちゃんはいいとして、残るは七名か……大変だね!』

 大変だね、などと言いながら笑っている歴代当主を殴りたくなってくるが、未だにまともに一撃を加えられていない。

 今日にでも、一撃くらい撃ち込んでやりたいと思う俺だった。

 すると、声が聞こえてくる。

 冒険者の言い争う声だ。仲間内で、喧嘩でもしている様子だった。

「俺が悪い、って言うのかよ!」

 視線を向ければ、そこには大剣を背負ったエアハルトの姿があった。相変わらず、上だけタンクトップという恰好は、理解が出来ない。

 寒くないのだろうか。

 クラーラは、飴の入った茶紙の袋を抱えながら、エアハルトたちを見る。

「どうやら、依頼から戻ってきたみたいですね」

 エアハルトが俺も貰った封筒を所持し、握りしめてクシャクシャにしていた。前はエアハルトの仲間というか、子分だったパーティーメンバーたちが、不満そうな表情をしていた。

「そうだよ! 大体、調べもしないのに一日で到着とか……四日もかかったじゃないか! それに、行った先では依頼主を怒らせて評価は低いのが確実! 持っているお金だって少ないのに、収入まで少なくしてどうするんだよ!」

 何やら、依頼主を怒らせて評価を下げてしまったようだ。

 俺は遠くからエアハルトたちを確認し、ある程度の距離を取る事にした。何故、こんな場所で喧嘩をしているのかも気になる。

「屋台で串の一本を買ったから、ってなんだって言うんだ! お前、怒りすぎなんだよ。俺に相応しい依頼が来れば、バンバン稼いでやるから黙ってろ!」

 不満がある中で、一人だけ屋台で食べ物を買ったらしい。

 宝玉内からは、六代目の声が聞こえてきた。

『いくらなんでも、それは駄目だろう』

 エアハルトに呆れている様子だが、三代目は笑いながら。

『う~ん、人それぞれ人の率い方は違うけど、アレは駄目だね。カリスマで引っ張れるタイプでもないのに、俺についてこい、とか……ライエルに負けたのを忘れているのかな? ま、面白い見世物だけど絡まれると迷惑だ。ライエル、すぐにここから離れようか』

 エアハルトが俺を見つければ、この場で再戦を挑んでくるかも知れない。それは流石にまずいというか、面倒なので俺はクラーラの手を引いてその場を離れる事にした。

 五代目が、宝玉から呆れた声を出す。

『世間知らず、それに無鉄砲。ま、冒険者はあれくらいの方が伸びるかも知れないな。ライエルは、どちらかと言えばお行儀が良すぎるくらいだ』

 成功するには、あれくらいの無鉄砲さも必要だと五代目は言う。確かに、そういった一面が必要だと思う。

 だが、一歩間違えば身の破滅だ。

 上手く行けば成功するだろうが、本人の資質も今後に影響してくる。

 ここから這い上がり、冒険者として生きていくためのスタイルを確立するのも不可能ではない。

 俺の方が先輩になるが、それでも同じような新米だ。

(俺にはノウェムやご先祖様たちが助言をしてくれたから……そうでなかったら、今頃は俺が笑われていたのかも知れない)

 エアハルトの周りでは、迷惑そうにしている住人たち。そして、笑ってみている同業者に住人たちがいた。

 本人たちは、それを気にもせず大声で罵りあっている。

 俺はエアハルトを見て、素直に馬鹿に出来ない自分がいるのに気が付いたのだった。





 ――ギルドの一室。

 そこでは、上司にタニヤが冒険者について報告していた。

 いくつかの書類が提出され、タニヤの評価がそこに書かれている。

 上司は、新しくベイム東支部で活動する冒険者パーティーの資料を見ながら、お茶を飲んでいた。

 元は冒険者でなく、魔石の管理が有能なタイプの上司である。だが、同時に冒険者関係は現場の意見を聞くので、部下からは評価されている上司でもあった。

「それで、【ターニャ】の意見はどうかな? この中に、光る逸材たちはいるかね?」

 タニヤをターニャと呼ぶ上司に、ターニャは訂正をしなかった。彼女は二つの名前を持っている。

 タニヤはギルド職員としての名前。

 そして、ターニャはスイーパーとしての名前だ。

「はい。いくつかのパーティーは我々の利益になるかと。それと、ライエル率いるパーティーですが」

 上司がその書類を探し、手に取ると頷いていた。

「見事に良い評価を得たね。高評価ではないが、悪くもない。これならすぐにでも迷宮に送り込めそうだ」

 すると、ターニャは頷きながら。

「えぇ、最高の評価です。ただ、狙ったようにも感じられます」

 上司はターニャを見た。

「何か不満でも?」

「いえ、優秀な冒険者は、ギルドの貴重な財産。彼は、彼らは貴重な東支部の財産になると考えていますよ」

 ターニャが、相手の後ろ暗い事でも見つけたのかと思った上司は、またお茶を飲んで安心していた。

「なら、良いんじゃないかな? 私たちはサポートをすればいい。適度に依頼もこなしてくれるなら、迷宮討伐の斡旋をしてあげなさい。利用するだけでは、彼らはすぐにどこかへ行ってしまう。適度な餌は必要だよ」

 それを聞いたターニャは、頷くと上司に報告をした。

「それと、こちらは酷い方なのですが」

 上司が避けていた資料に目を向けると、いつもの事なので興味なさげにしていた。毎年のようにこの手の連中が出てくる。

 決闘騒ぎに、世間知らずで冒険者になった若い連中だ。

「いつも通りだ。ギルドのためになるように誘導して、駄目なら放置でいい。それでどこかに行くようなら、却って助かるからね」

 問題を起こす冒険者は、ギルドでも敬遠される。

 その冒険者たちこそが、エアハルトたちだった。だが、すぐに見放す事もしない。彼らのような冒険者は一定数がおり、そこから成長した者たちも大勢いるからだ。

 彼らをギルドの思うまともな冒険者にする方法も、ギルド側には存在していた。

「そうだね……ターニャではできる女過ぎる。包容力のある受付嬢に担当させてみようか。今回の一件で、ペナルティーとでも言って専属の受付にさせよう」

 それだけの数の職員がおり、対応も可能であった。

 一人の美人受付嬢が、いくつものパーティーを請け負ってやる気を出させているのだ。そうして彼らを管理し、都合の良いように利用しているとも言える。

 親身になってくれる受付の美人が、依頼を受けて貰えなくて困っていればどうなるか? 恩を感じる、あるいは好意を持つ冒険者は、率先して依頼をこなしてくれる。

 冒険者として余所で実力を付けた者たちは、自分たちが不利益になると思えばそんな依頼は避けてしまうのだ。

 なので、エアハルトのような冒険者も一定数は必要だった。

「なんとかとハサミは使いよう、だったかな? 彼らが一人前になれれば、ギルドも利益になる。それに、彼らにとっても大きな利益だ。いや~、損をしない関係であるべきだよね、ギルドも冒険者も」

 ニコニコしている上司を前に、ターニャは頷くと彼の机から資料を回収して綺麗にまとめる。

「それでは、失礼します」

 そう言って部屋から出るターニャに上司は。

「では、受付を頑張ってね、タニヤ」

 そう言うのだった――。
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