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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

孫馬鹿な七代目

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追加依頼

 俺たちは、空が茜色に染まっているのを森から出て気が付いた。

 薄暗い森の中から外に出て見れば、冷たい風がいつもより強く吹き付けてくる。

 血と泥まみれの俺たちは、早く戻って体を洗いたかった。

 革袋に詰まった素材を担ぎ直し、歩き始めるとその後ろにミランダ、アリア、エヴァと続く。

 俺は全員の表情を見た。

 エヴァの方は、森になれない俺たちを先導して疲れている。

 ミランダもアリアも、なれない森にはいって疲れ切っていた。

(明日は休みにするか。次でグレーウルフの討伐も終わらせて、この村から出ないとな)

 休暇を挟んで全員の体力の回復と、装備の点検に一日を費やすことを決めた。

 ただ、仲間が疲れているから、休みというのが本音でもない。

(というか、俺もきつい)

 慣れない環境は酷く疲れる。

 初日、二日目と動きは良くなっているが、服はボロボロだった。

 森の中を歩き回り、道なき道を進むのは大変な苦労がある。

 汗、そして泥や血でベタベタする体に衣服を早く洗いたいと、重い体を急がせて村で寝泊まりする建物に向かう俺たち。

 そんな時に、エヴァが。

「ねぇ、ちゃんと報告してよね。じゃないと、いつかここは魔物で溢れかえるわよ」

 森の中でどうにも獣が少ないのを感じたエヴァが、俺にその事を村長に報告しろと念を押してきた。

 エヴァが直接言えば良い、などと言ってもいられない。

 村長は良いのだが、村人がエヴァの意見を聞くとは思えない。エルフは人間と比べると立場が弱い種族である。

 そして、これはリーダーでもある俺の仕事だった。

「分かっているよ。着替えたら村長のところに行く。でも、お前も来いよ。俺一人だと説明出来ないから、助言して欲しいし」

 森の中の違和感に気が付いたのはエヴァだ。だが、俺はそれを説明されてもピンとこない。そして、それをしっかり説明出来るか不安だった。

 場合によっては、村の名士たちが集まって話をするかも知れない。その時、俺が上手く伝えられるか不安もあった。

「疲れたから横になりたいけど、それも無理か……いいわよ」

 エヴァが納得したので、俺はそのまま。

「明日は休みにする。流石に二日続けては体がきつい。様子を見て、一日か二日は休もう。いっそ、報告は明日にするか?」

 エヴァが俺を睨んでくる。

「私は急いで欲しいんだけど?」

 俺が思うよりも深刻なようで、俺は悪かったと言って謝罪する。

 アリアが。

「なら、私は着替えたら今日の内に装備の点検を済ませるわ。明日はノンビリしたいし」

 ミランダの方は。

「どこか見て回るところがあるといいんだけど。そう言えば、エヴァは初日に歌を歌ったのよね。またやるの?」

 エヴァは少し難しそうな表情をして、額に手を当てる。

「あの後に注意されたから、今度は村長や名士に許可を取る必要があるのよ。なんか、仕事を放置して聞きに来た村人がいたらしいの。こっちも失敗だったわ」

 子供にせがまれて歌ったら、どうやら大人も集まってしまったらしい。

 おかげで、エヴァは注意を受けたようだ。

(俺のところにそんな話は来てないな)

 エヴァ、個人に誰かが注意をしたのかも知れない。

「なら、村長のところに行くついでに許可を取るか」

 すると、エヴァは笑顔になる。

「いいの!」

「まぁ、無理をしない程度なら。装備の点検と、体を休めてくれるなら後は文句を言えないからな」

 宝玉内から、四代目の声がする。

『ようやくここまで。最初の頃は、まったく他人に関心がなく、ノウェムに迷惑をかけていたライエルが成長したね』

 わざと泣いたような声を出していた。

 逆に三代目は笑いながら。

『でも、成長しても駄目なところが多いけどね。最初の評価が低いから、ちょっとした事で成長を感じられるね』

 五代目が。

『……俺としては、あまり深入りしてはまずいと思うけどな。いいか、それとなく全員にフォローを入れておけよ。声をかけるとか、体調を気遣うとか。本当に忘れるなよ』

 凄く心配されている。

 意外だと思いながら、俺は宿泊している建物を目指した。





 エヴァを連れて村長の家に向かうと、どうやら食事を終えた後のようだ。

 食事中や準備中では迷惑になると思い、そうした時を狙ったが正解だったらしい。

 家に入ると、村長は奥さんに飲み物を用意するように言って、俺たちの話を聞いてくれることになった。

「さて、どうした? また馬鹿が覗きや盗みを働いたか?」

 俺は、エヴァと共に事情を説明する。

「実は――」

 それを真剣な表情で聞いていた村長。

 俺たちの説明が終わると、丁度狙ったかのように奥さんが温かい飲み物を俺たちに出してくる。

 礼を言って受け取ると、説明で疲れた口の中に熱い飲み物をチビチビと含む。

 エヴァは、熱いのか息をフーフーと吹きかけていた。

「……よく知らせてくれた。道理でグレーウルフが増えるわけだ。今まではそうでもなかったんだが」

 森の異変に敏感なのは、エヴァだけではないようだ。

 同じように森の近くに住む村人にとっても、重大な事だったらしい。

「獣の数が少ないか。確かに、言われてみれば最近は出くわす機会が少なかったな」

 納得した様子の村長は、どうやら心当たりがあるようだ。

 アゴに手を当てて何度も頷いている。

「何か心当たりが?」

「……お前たちの装備を狙った馬鹿共がいただろ。あいつら、最近は森に入る事がおおかったんだ。それ自体は珍しくないが、最近だと武器まで持ちだしてな。ここには貴族なんていないから、決められた量の食糧を都市に納めればいい。割と裕福なんだが、そういった金で武器を買う連中も多い。家にある武器を持ちだしたんだろうが……」

 ベイムの農民は裕福で、武器を持っているのは村に入ったときに確認していた。

 村長は、嫌そうな顔をする。

「罠か。獲物を捕るために使用する時は、放置するなと教えてはいたが……。くそっ!」

 村長の話を聞くと、どうやら成長をするために魔物を倒そうと考えたようだ。

 ベイムでは、魔物を倒すと強くなれると信じられている。冒険者が多いだけあって、それを実感している者が多い証拠だろう。

 そして――。

「魔物でなく獣をやりやがった。森のバランスが崩れると危険だから、手を出すなとは言っていたんだが……見分けなんかつかないか」

 ――生き物と魔物の違いはなんだ?

 そう聞かれて多くの人が応えるのが、魔石の有無である。

 魔石が出れば魔物。

 そうでなければ生き物。

 確かめたいなら、倒して魔石を取り出せば良い。

 結果、魔物ではなく獣を多く倒してしまったのだろう。

 森の近くに住んでいるだけあって、森の中に仕掛ける罠などに詳しいのが災いしていた。

 捉えた狼などを、そのまま集団で倒していたのだろう。

 魔石が取れれば持ち帰り、そうでなければ放置する。

 見た目には、魔物を倒してきたように見えたのかも知れない。

 村長は悔しがっている。

「俺のミスだ。悪いな、教えて貰って助かった。しかし、ギルドは良い冒険者を寄越してくれたな」

 話の区切りがつき、俺はエヴァが歌を聴かせる許可を取ろうとする。だが、村長は首を横に振った。

「悪いが、明日は駄目だ。気に入らないからとか、エルフだからとかじゃないぞ。明日は名士も村人も集めて馬鹿共を吊し上げだ。同じ事をする連中が出ないようにしないとな」

(そこまでやるのか?)

 そう思っていると、三代目が俺の疑問に気が付いたようだ。

 宝玉内から三代目の声がした。

『……馬鹿をやる連中が出るのは仕方ないけど、その後を間違うと村とか簡単に滅びるんだよ。村によってやり方は違うだろうけど、同じ馬鹿が出ないようにするだろうね』

 六代目が。

『そうして、酷い目に遭っても、世代が変わると同じ事をするんですよね。教えても馬鹿をする奴は馬鹿をしますからね』

 そういう六代目に、五代目がボソリと。

『……家出をしたお前が言っても、説得力がないと何度も言っているだろうに』

 歴代当主の会話を聞き流しながら、俺はエヴァをチラリと見た。

 仕方ないと思っているようで、あまり気にした様子がない。むしろ、それだけ真剣なのは、エルフにとって嬉しいようだ。

「悪いな。こっちは生活というか、命がかかっているから勘弁してくれ」

 村長にそう言われた俺たちは、そのまま仲間の下に戻るのだった。





 次の日。

 久しぶりに、歴代当主との真剣勝負をしないでゆっくりと熟睡した俺は、起きたら日が高く周囲では仲間の声がする。

 起き上がって背伸びをすると、体が疲れているのかまだ少し重く感じた。

「村の話し合いは終わったのかな?」

 そう呟きながら外に出ると、モニカが俺を発見して近づいてくる。

「お昼前に起きるとは、とんでもない奴ですね。料理や掃除をする私のことも考えてくださいよ。駄目なご主人様を持って、私は幸せで涙が出て来ます」

 怒っているのか、それとも喜んでいるのか?

 手に持っていた荷物を、モニカは俺に差し出してくる。

「なんだ、これ?」

「お昼まで時間があるので、軽食です。食べたらポーターの中に隠れている小娘に渡して洗うように言ってください」

 俺は受け取って蓋を開けると、そこにはサンドイッチが入っていた。

 手にとって食べてみると、湿っているが美味しかった。

「なんだ、シャノンは隠れているのか?」

「ふっ、家事に休みなどないというのに、自分だけが休めないのは不公平だと……ま、お昼は私がチキン野郎のために頑張らせて頂きますがね!」

 普段通りで良いのにと思いながら、俺はサンドイッチを食べ終えるモニカに礼を言っておいた。
入っていた容器を持ってポーターのところに行く。

 周囲を見れば、ノウェムたちは外出しているようだった。

 ポーターの荷台部分のドアが開いており、そこにはクラーラが腰掛けて本を読んでいる。

 移動中に読むため、買い込んでいた多くの本の一つだ。

 だが、それらをクラーラは全部読破してしまっていた。

「読み直し?」

 声をかけると、クラーラは頷いた。

 そして、俺が手に持っている容器を見て、荷台の奥で毛布に包まっているシャノンに視線を向ける。

「眠っていますよ。ミランダさんに村を見て回ろうと誘われたんですが、途中で戻ってきてからずっとですね」

 一人で戻ってきて、隠れて眠っているようだ。

 俺は荷台に乗るとシャノンの下に行く。

 すると、アリアが走って戻ってきた。

 モニカのところへと向かい、大声で。

「モニカ、ライエルは起きた?」

 モニカはアリアの様子を見て、急な用事だと思ったのか。

「ポーターの荷台に入りましたが? 何かあったのですか?」

 アリアがポーターを止めている場所に近づいてくる。モニカも一緒だった。

 肌寒いというのに、汗をかいているアリアは俺に。

「ライエル、昨日言っていた連中が逃げ出したらしいわ。しかも、森の中に入っていった、って。それで、村長がライエルに話がある、って」

 俺はポーターの荷台から降りる。

「村長が? 俺になんの用事だ?」

 アリアと共に村長の家まで向かうことになった俺は、クラーラやモニカに待機するように伝えた。

 二人で村長の家を目指していると、村の大人たちも慌てているようだった。





 村長の家に到着した俺は、既にそこにいたノウェムやミランダ、そしてエヴァと合流して話を聞くことに。

 広い村長の家は、村の名士も集まっており狭く感じる。

 疲れた表情をしている村長が、俺に言う。

「悪いな、来て貰って。実は追加で依頼をしたい」

 依頼と聞いて、俺は周囲を見た。

 名士たちは憤慨しており、ノウェムたちは微妙な表情をしていた。

「内容は?」

 依頼の内容を聞かなければ、受ける事もできないので確認することに。

 内容は。

「逃げ出した馬鹿共を連れ戻して欲しい。森に逃げ込んだところまでは見たが、村の連中で入って探し回るのは難しい」

 名士たちが声を上げる。

「魔物が増えているのに、何を考えているんだ、あいつら」
「村長、対応が甘すぎるんじゃないか? だから、追放した方がいい、って言ったんだ」
「村の金を持ち逃げして……管理は村長の責任だからな」

 村長への不満の声が上がっており、名士たちは俺を見て値踏みをしているようだ。

「この冒険者たちで大丈夫か? 女子供だけだろ」
「前の村長の時は、もっと有能な冒険者を派遣して貰ったのに」

 俺たちの年齢や容姿などは、確かに歴戦の冒険者には見えない。

 だが、言われて気分の良いものではない。

 村長は溜息を吐くと。

「追加の報酬は俺の方で用意する。後は俺の方で片付けるから、今日はもう戻ってくれ」

 名士たちが、グチグチと文句を言いながら村長の家を出て行く。

 数名が、奥さんをチラチラと見ていた。

 残ったのは、村長より少し若い男と俺たち――。

 村長が、机を叩くとドアを睨む。

「くそっ! 普段は何もしないくせに、こういう時だけまとまりやがって! 誰の嫁に色目使ってんだ、あのクソ野郎共!」

 悔しそうにしており、何よりも自分の嫁を見ていた連中が気に入らないようだ。

 残った男は、三十代に見える。

「村長、今は話を進めないと。夜にでも愚痴には付き合うからよ」

「わ、悪いな。すまないが、頼めるか? 最悪、持ち逃げされた村の金を取り戻してさえ貰えれば良いんだ。できない時はそれでもいいが、森に入る時に覚えていたら探してみてくれ」

 広い森の中に入った若者たちを探すのは、魔物が増えている状況では大人でも厳しいだろう。

 報酬は、持ち逃げされた金額よりも多くを提示された。そうしなければ、戻ってこないからだ。

 ついでに、逃げ出した若者を連れ戻せば、追加で報酬が得られるようだ。

 俺は引き受けると、村長に言う。

「大変ですね、村長も」

「ん? あぁ、いつもの事だ。自分たちじゃ満足に依頼を出せない上に、冒険者も派遣して貰えないのを知ってるくせによ……こういう時だけ、元冒険者の俺を責め立てやがる。馬鹿共の扱いも、酷すぎれば余所者だから酷いことができると言うからな。だからやりたくなかったんだ」

 何をやっても文句を言われる環境に、俺は同情したくなった。

 どうしてこの村に永住する気になったのか?

 少し疑問に思うが、村長との会話を思い出す。

 もっと稼げば、良いところに屋敷が持てた、などと言っていた。俺には、稼げるようになれ、とも。

「ここ以外の村は駄目だったんですか?」

 俺の質問の意味が理解出来たのか、村長は首を横に振った。

「どこも同じだ。人気のあるところは金もかかる。住むために大金を納めさせる場所もあるくらいだ。それよりは、金のかからない村を選んだんだが……ちくしょう、分かっていても腹が立つな」

 三十台の男が。

「お前も冒険者なら、稼げるようになっておけ」

 俺たちは依頼の内容を確認すると、外へと出るのだった。

 すると、村長の怒鳴り声が聞こえてきた。
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