第 九話 仲間
男は行きずりの女と寝る事が多かった。
それも、商売女ではなく素人を好んだ。
えり好みはしない。どんな相手とでも喜んで寝た。
え?
その男は凄いブサイクなのだろうだって?
とんでもない。
彼は最高にイケメンである。
子供の頃から女の子によくモテた。
そして、今でもよくモテる。まるでホストのような男前なのである。
少し痩せ型で優しい色男。そんな印象を相手に与える。
芸能事務所にスカウトされたこともあるくらい。
だから……この男に言い寄ってくる女は多かった。
そして、その中には当然ながらいい女も腐るほどいる。男はいくらでも相手を選べるのだ。
だが……彼はそうはしない。
少しでもチャンスがあれば誰とでもすぐに応じた。
えり好みなど全くない。
彼を知る者は皆、不思議に思う。
昔はこうじゃなかった、と。
だが今じゃ、自分の母親より年上だろうが、下は未成年だろうがお構い無し。 どんなにブサイクでもいいのだ。
穴があれば誰でも良い、そんなスタンスであった。
さて……ベッドの上での彼は、外見と違い野性的である。
ホテルに入るや否やすぐに女性を求める。シャワーを浴びる暇など彼は女に与えない。一分一秒も惜しむのだ。
そして、その激しいセックスは1時間でも2時間でも変わることなく続くのであった。
最後は女の方がクタクタになって失神してしまうほど。
男と寝た女は朝まで心地良い疲れに抱かれ、決して目覚めることはない。
そんな、ベッドでのびる相手の女性を見て、男は満足げな表情を浮かべる。
そしてそれから、男はすくっと立ち上がると、すぐにそのホテルを立ち去るのだ。
一枚のカードを女の枕元に置いて……
カードには何と書かれているのかって?
そのカードにはこう書かれている。
【ようこそ、HIVの世界へ!】と。
そう、彼はエイズ患者。
3年前に最愛の恋人からウイルスをうつされてしまった。
男の恋人は浮気をしていた。そして、その浮気相手の男にHIVウイルスをうつされてしまっていた。
彼女は2年前に死んだ。
以来……彼は女を恨み、復讐の鬼と化したのである。
それで、こうして今日も彼は女を求めてさまよい歩くのであった。
さて、そんな彼の前に一人の女性が現れた。
男はえり好みはしない。だが……
今回の女は極上であった。
男はさっそくモーションをかけてみた。
すると、女はあっさりとオーケーする。
男はニヤリと笑う。全く女ってやつはどうしようもない馬鹿ばかりだ、と呟きながら。
ホテルに行くとさっそくセックスが始まった。
意外にも女の方が積極的である。
シャワーも浴びずに求めてくる女は珍しい。
でも、男には好都合である。
さっそく、野性的な行為に励む。
しかし、今夜は意外な事ばかり続く日であった。
何と女の方も、かなり野性的なセックスをしてきたのである。
戦いは3時間にも及んだ。
男は久しぶりに疲れを覚えた。
こりゃあ、まずいな……
そんな呟きを漏らしたのは、ホテルに入ってから3時間35分後のこと。男の敗北であった。
しかし、彼の目的は相手を失神させることではない。
最終的な目標は……相手にHIVを感染させることである。
もう、コンドームもつけずに何度も本番行為におよんでいた。
これで十分である。
朝、女が枕元に置かれたカードを見て愕然とするという他愛もない遊びができないのは残念ではあるが……今日は仕方がない。
セックスが終わったあと、男は心地良い疲れに抱かれベッドの上に寝転んだ。
そして、朝まで目覚めることはなかったのである。
そして、朝。
目覚めた男は、ベッドの上に相手の女がいない事に気がついた。
彼女はもう出かけたあと。
全く凄い女だ。
男は感心する。
あれだけ激しい運動をしたというのに……自分より早く目覚めるとは。
女ながら天晴れだな。男はニヤリと笑う。
それから、筋肉痛になった腰をさすりつつ、男は洗顔のためベッドを降りた。
そして、鏡の前に立った時……男は愕然としたのである。
何故なら……
その鏡には何と、真っ赤なルージュで彼へのメッセージが書かれていたからだ。
そこにはこう書いてある。
【ようこそ、ホモの世界へ!】と。
洗面台を見ると、そこにはひげ剃りの後と見られる細かなヒゲが無数に散らばる……
間違いない。彼女は、いや、彼は男だったのだ!
いわゆるミスターレディー。
もしくはニューハーフ。
男は動揺を隠せなかった。
彼にその気は全くない。それなのにあの女、いや男のせいでエイズのみならずホモの世界にも足を踏み入れてしまった。
自分のことは棚に上げて彼はこの裏切りに怒りを覚えた。
そして、忌々しげにこう叫んだのである。
「畜生、女に続き男にも騙されるとは! 見てろよ、これからは男とも寝てやるからな!」と。
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