第 七話 5m
5メートル。それが私とストーカーとの距離だった。
私の名前は花園香、都内の区役所に勤める28歳の公務員である。
私が初めてストーカーの存在に気づいたのはひと月ほど前、仕事帰りにコンビニへ寄った時だった。
その時、私は背中ごしに熱い視線を感じていた。
不安に駆られその視線の主を探す私。
すると……
そこにいたのは40前後の渋めの男。
古臭いトレンチコートに身を包み、上気した顔でじっと私を見つめている。
(やだぁ!)
心の中で悲鳴をあげる私。
すぐに分かった。彼は間違いなく私のストーカー。
女の第六感である。
そして、それから一カ月後……
私の推理は正しかった。
男は毎日私の前に現れるようになったのだ。
朝出勤する私の後を5メートルほど離れてついてくる彼。
付かず離れず、ずっとその距離。
帰宅の時も同じ。5メートル後ろから熱い視線を送ってくるのだ。
夜は電柱の影に隠れて私の部屋を見張る。
明かりが消えるまで待ってるみたい。
でも、彼が何か悪さをするわけではない。
いつも5メートル離れた所で、私を見ているだけのストーカー。
普通なら警察に訴えるのだろうが……
私は違った。
私は昔から、どこか陰のある男が好みである。
つい最近まで好きだった男は、父親が犯罪組織のボスという暗い陰を持っていた。
彼は隠していたが私には分かる。
そんな男に私はたまらなく惹かれるのだ。
そう、いつしか私は……この犯罪者に恋をしていた。
でも、私は彼の名前すら知らない女。
その差5メートルの距離はなかなか縮まりそうになかった。
何とかこの差を縮めたい。
私は一計を案じた。
(そうだ、彼の後をつければいいんだわ。そうすれば彼の事をもっとよく知れるはず!)
男は私の部屋の明かりが消えるとすぐに、どこかへと去っていく様子。
その後をつければ良いのだ。
実は私……その手の尾行には自信があった。
さっそく実行に移す事にする。
部屋の明かりを消すと急いで勝手口から外に出る。
彼はちょうど去るところだった。
すぐに後をつける。もちろんバレないよう5メートルほど距離をおく。
手馴れたものである。
すると彼は私の尾行に気づくことなく、ある建物に入っていった。
それは……何と警視庁!
私は焦った。
どういうこと?
急いで彼の後に続く。
すると、建物の中で彼が偉そうな警官と話をしているのが見えた。
聞き耳をたてる私。
彼は言った。
「警視総監。御子息をつけまわしていた例の女ストーカーのひと月に及ぶ尾行が終了しました……」
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