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第六十九話 痴女
 あたしの携帯電話に警察から電話があり、その時初めて親友の春香はるかが捕まった事を知った。

 すでに取り調べは済ませ、もう釈放されるとのこと。

 ただ、身元引受人がいないと留置場一泊コースになるらしく……

 あたしがそれになってくれと、春香が泣きついてきたのだ。

 あまりにも突然のことで驚いたが、それ以上にショックを受けたのは彼女の罪状を聞いた時。

 容疑は電車内での強制猥褻。

 要するに『痴漢』ならぬ『痴女』であった。





「いやいや、さっちんーー迷惑をかけたわねえ。ごめん、ごめん」

 警察に捕まった帰りだというのに、喫茶店でおっさんのような手刀を前後に振っている親友を見ると、本当に変わらないなあと感心してしまう。

 中学校時代から数えると、もう十九年の付き合い。

 無駄に明るく、無意味に元気ーーそれが彼女なのである。

「まあ、大したことじゃないのよ。ただ、ちょっとイケメンがいたもんで、ついね」

「何が、ついねよ!」

 あたしは口をとがらせ抗議した。無罪放免と言えど、捕まったのは事実だし犯罪を犯したのも確かなのだ。

 混雑した満員電車の中で男子高校生の体に触り、あろうことかズボンのチャックを開け性器を取りだそうとしたらしい。

 下手をすれば、実刑判決が出てもおかしくないところ。

 幸い、その高校生が被害届を出さなかったので事なきを得たが……

 笑って済ませられる話ではない。

「とにかく、もう二度とやめてよね」
「えー、それは約束できないわ」
「何がいいのよ、あんなこと?」
「ふふーん、知らないの? 痴女って、とってもいいのよう。特に高校生以下は反応が初々しくてねえ。ちょっとした女王様気分」
「バカ!」

 何が女王様気分だ。

 あたしは注文していたブレンドコーヒーを一口すすると、つい声を荒げてこう言った。

「とにかく、今度捕まったら友達やめるからね!」
「ええ、なんでよー?」
「当たり前でしょ。痴女の親友なんてカッコ悪いわ」
「そんなあ、病気の友達を見捨てるの?」
「病気?」
「そうよ。痴女って一種の病気なんだって。性嗜好障害って言うの」
「本当なんでしょうね?」
「間違いないわよ。診断書もあるし」

 聞けば、そのことを理由に警察の同情も買ったらしい。確かに哀れではある。しかし……

「いくら病気でも、他人に迷惑をかけちゃだめよ」
「それは分かってる。でも自分でも抑えがきかなくて」
「早く彼氏をつくりなさいな」
「それが一番良いんだけどねえ」

 駅前の喫茶店で頭を悩ませている二人。そんな所へ一人の若者が現れた。

「あ、あのう」
「あ、あなたはさっきの?」
「は、はい。先ほどはどうも……」
「いや、こちらこそ、どうも……」

 顔を真っ赤にしたブレザー姿の高校生。春香が襲った被害者らしい。どうやら彼女のことが気になって探していたようである。

「突然すみません。あ、あの……ぼ、僕と付き合ってくれませんか?」
「はい、喜んで!」

 強制猥褻が結んだ恋かあ。

 素敵だわ。

 ていうか、なんで痴女の春香に恋人ができて真面目なあたしにできないのかしら?

 あたしが二人の恋の成り行きをぶすくれた表情で見守っていると、急に春香が振り向いてこう言った。

「ね、痴女っていいもんでしょう?」

 あたしには、返す言葉がなかった。



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