第五十九話 ナノ
私は大きな間違いを犯したのかもしれない。良かれと思ってやったことが、今や自分の首を絞めているのは皮肉な事である。実は、禁断の技術であるナノテクノロジーに手を出してしまったのだ。ああ、これからどうしよう……
きっかけは私の利己的な欲望だった。不老不死への憧れ、それが私を駆り立てたのである。神様から与えられた寿命という運命にどうしても納得がいかなかった私は、永久の命を求め一つの新しい生命体を作り出してしまった。そう、それがナノマシン。
彼らは、小さすぎて私ではどうすることもできない様々な病を勝手に直してくれる素晴らしい医療マシン。文字通りナノ(極微)の世界の住人だった。苦労はしたが、私はついに二体のナノマシンを作ることに成功する。
たった二体で何ができるのかだって? いやいや、侮るなかれ。このナノマシンは繁殖するのだ。最初の二体を親として子供が次々と産まれ、ついには私の体中でまんべんなく活躍するのである。便宜上、マシンと呼んだがその実態は生命体。
だが、ただの生命体ではない。彼らには私を大切にするようプログラミングしてあった。ゆえにどこへ行っても彼らは、自分たちの周りの環境(すなわち私の体)を大切扱った。かれこれ一万年ほどはこれで上手くいっていたのだが、しかし……
近頃、困った事が生じていた。ナノマシンが増えすぎたのだ。これは私の致命的なミス。彼らは十分な数に達したあとも繁殖を続け、ついには許容量をオーバーしてしまう。私の体は小さな極微の住人に占拠されてしまった。ああ、私がナノマシンに総数60億を超えたら自殺するようプログラミングしていれば良かったのだけど……全ては後の祭り。
彼らは増えすぎたことで基本的なプログラムをも無視するようになってしまう。何度も言うがナノマシンはもともと、環境(私の体のこと)を大切にする生命体。でも、あまりにも増えすぎたため、彼らは私より自分たちの都合を優先させるようになった。自然環境(くどいようだが、私の体)を破壊し、より楽な暮らしをするためオートメーション化を押し進めた。結果、ありとあらゆる汚染物質を垂れ流し私を苦しめるようになる。いやはや困ったことである。
これは、永遠を望んだ私に対する神からの罰なのだろうか? 私は毎日毎日、ナノマシンに蝕まれていく体を指をくわえて見てるしかない。彼らはあまりにも小さすぎて手が出せないのだ。このままでは永遠の命どころか数千年で死の星となるだろう。ああ、これからどうすれば……
私は偉大なる神により創られた太陽系第三惑星地球。そして、ナノマシンは私の体に巣くう獅子身中の虫。彼らは自らを人間と呼んでいる。
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