第 五話 暗示
自殺した。
今さっき。
手首を切った。
リストカットっていうみたい。
うまく切れなくて、何度もやり直した。
とっても痛い。
死にそうなくらい痛い。
7回目でやっと切れた。血がたくさん出た。
成功したんだ……ようやく死ねるとほっとする。
えっ、死にたかったの私?
よく分からない。
だんだん意識がなくなってくる。
凄く眠い。
このまま、眠ろう。
そう決めた。
でも、なかなか眠れない。
眠いのに……眠れない。
どうして?
強い力が私を引っ張る。
誰かが私をこの地に留めようとでもしているみたい。
浴室が私の血潮で真っ赤に染まる。
だって私は、お風呂に入りながら自殺したのだ。
もうすぐ体の中の血が全部無くなる。
風呂場の浴槽が一杯になるくらい、私の血はたくさん出るのだ。
そうすれば、私はやっと死ねる……
私が死んだらママは悲しむ?
ううん、きっと悲しまない。
私がいないほうがママは嬉しい。
でも友達は悲しんでくれる。
私には仲の良い友達が何人もいるのだから。
パパもきっと悲しんでくれる。
ママと離婚してからもう何年もあってないけど。
でも、私はパパが大好きだから。
学校の先生だって近所のおばさんだって、みんなみんな悲しんでくれる。
仲良しだもの、きっと私のために泣いてくれる。
ごめんね、みんな。
でも、どうしようもなかった。
何故、私は自殺したんだろう?
それは、まったく分からない。
ただ、お風呂に入った時に、何故か置いてたママの剃刀。
その剃刀を見た瞬間、ああ自殺しなきゃって思った。
でも……
死にたくない。
死にたくないよう。
ママ、助けて。
そこでじっと見てないで、私を助けて。
真っ赤に染まった浴室に、白い裸体で横たわる私を、どうかママ助けて下さい。
私が死ねば、再婚しやすいのは分かっている。
私も、もう12歳。
大人の事情は理解してる。
だけどママ、それは酷いよ。あんまりだよ。
毎日、毎日、私に囁くママの声。
毎晩、毎晩、私を駆り立てるママの言葉。
大学の先生をしているママはとっても忙しい。
今までお話してくれる事も、私の話を聞いてくれることもなかったから……
だから、嬉しかった。
近頃、ママが話してくれるのがとってもとっても楽しかった。
だけど、違ったのね。
ママは私が好きになったから話してくれたんじゃなかった。
むしろ、もっともっと嫌いになったから私とお話しするようになったのだ。
この日のために……
ねぇ、ママ。そうでしょ?
ママは大学の先生。
心理学っていうのを教えている。
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