第 四話 魔人
ランプというものがこの国に普及してない以上、魔人に選択の余地はなかった。
彼は己れの住処としてランプに似た物……つまりタコツボを選んだのだ。
これが失敗のもと。
そもそもタコツボとは海中にある。
だから、彼の住むツボが人の手に渡る事は滅多にない。
されど魔人の仕事は人間の願いを3回かなえること。
つまり彼は、この国に来てまだ一度も、仕事にありつけないでいたのだ。
そろそろ魔人の国の友人達からは、あいつはニートじゃないかと噂される始末。
早く何とかせねばと彼は考え始めていた……
そんなある日、彼のタコツボが偶然にも漁師の網に引っかかった。
超ラッキー!
これ幸いとばかりに、彼はタコツボから飛び出す。
「わははは、わしはランプ……じゃなくてタコツボの魔人じゃ! 何でもお前の願い事を3つかなえてやろう!」
3年ぶりの仕事に気合いが入る。
一方、漁師の方は突然タコツボから出てきた大男に、腰をぬかして驚いていた。
「ひ、ひぃ、ば、化け物じゃ〜!」
「化け物じゃない、タコツボの魔人!」
少しムキになって言い返す魔人。
だが、漁師は脅えた様子で首を振る。
「そ、そんなの聞いた事がねえだ〜」
「ちっ、3年も海に引きこもりだったからなぁ。知名度が低くなってやがる……まぁいい、とにかく願い事を言ってくれ。何でも3つかなえてやるから」
「へっ? 3つも願い事をかなえてくれるんけ? ひょっとしてあんた神様か!」
「だからぁ、タコツボの……ってもういいよ、神様で。早く願いを言え! こっちは仕事したくてウズウズしてるんだ」
強引に話を進める魔人。ようやく漁師から願い事を引き出せた。
「じゃあのぅ、最初は……金! 金をくれ!」
漁師が言った。
「良かろう」
魔人は手を振って空中に一万円札を一枚作り出し、漁師に渡す。
「へっ、何これ?」
「金だが」
「ちょっと待て! 金って……一万円札が一枚だけ? そりゃ無しにしてくれ!」
魔人は暫く黙っていたが、すぐにこう言った。
「……よし、ちょっと待ってやったぞ。これで2つ目の願いはかなえた。それから3つ目は最初の願いを無しにすることであったな。それもかなえてやろう」
そう言うと魔人は手を一振り。
あっという間に漁師が握るあの一万円札が消えた。
「それではな」
こうして彼はタコツボに戻った。
そして3つの願い事をかなえてもらった漁師は、腹立ち紛れにタコツボを勢いよく海に放り込む。
魔人のツボはまた海底深くへ沈んでいったのだった。
あれから3年が経過した。以来彼のタコツボは、人間の手に一度も渡る事なくいまだ沈んでいる。
そろそろ転職かなと魔人は考え始めていた。
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