第 三話 愛情
「小夜子さんのお茶は美味しいですよねぇ。どうしたらこんなに上手に入れれるんですか?」
同僚の男子社員の質問に私は答えた。
「あら、お茶くみに技術なんていらないわ。お茶をお出しする相手の人に愛情さえあれば良いのよ」
「へぇ……愛情ですか」
よほど感心したのか呆然としている彼の様子に、私は笑いを禁じえなかった。
そう、お茶くみは技術じゃない、愛情なのだ。
これが私の10年に及ぶOL生活で導き出した結論。
私の名前は葛城小夜子。都内の設計会社に勤務しているOLだ。
自分で言うのも何だが工藤静香似の28歳。
そんな私の入れるお茶は男子社員の評判だった。
皆が美味しいと言って飲んでくれる。
少し照れるが、冒頭でも言った通り特別な技術がいるわけではない。
お茶くみの対象となる相手に、多少の愛情があれば良いだけの話。
例えば、ムカつく小川の禿げちゃびん(課長)には熱々のお茶を出す。
ただし、沸点を僅かに下回る温度まで冷ましてあげる。
それが私の愛情。
それからお茶の量は、表面張力を効かせて縁のギリギリにまで入れる。
そして……
「ごめんなさい課長、入れすぎちゃって」
と、なるべく可愛らしく謝る。
すると、禿げは大袈裟に手を振りながらこう言うのだ。
「ああ、いいですいいです。喉が渇いていたからちょうどいい」
それからすぐに、分厚い唇を湯飲みにつけてずずっとすする。
沸点を僅かに下回る熱々のお茶を……
当然ながら、「熱っちぃ!」となるわけだ。
わははは、ザマミロ〜。
さて、逆にキムタク似の衣笠君には完璧なお茶を出す。温度、香り、濃度全てがまさに理想。
だって、私のお婿さんになる可能性がある人なんだもん。
禿げに出したみたいな熱湯で火傷させるわけにはいかないでしょ?
これが私の愛情。
そして、それ以外の男子社員にはぬるめのお茶を出す。
禿げに大量の熱湯を使うし、衣笠君のお茶は完璧さを求めるあまり何度も入れ直したりするから、どうしても最後はお湯が足りなくなるの。
だからそんな時には迷わず水を継ぎ足すことにしている。
どうでもいい不細工男子社員にはこの程度で十分。
あいつらにお茶の善し悪しなんか分かる筈がない。
課長みたく火傷するよりかはマシでしょ? これが私の愛情。
私のお茶は社内で評判のお茶。
ちなみに会社の名前は葛城設計事務所。
私のパパが社長だけど……それが何か?
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