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第二十九話 童貞
 俺の所に突然やって来て「子供ができたから認知してよ」と騒ぐ女は、顔馴染みの小夜子だった。
 近頃、ずっとこうなんだ。
 何を馬鹿な事を……思わずため息がついて出る。
 俺はまだ童貞なんだっての。

 だが小夜子は聞いちゃいない。
 やれ俺の両親に紹介しろだとか、やれ自分の両親にきちんと挨拶に来てだとか一人で騒いでやがる。
 お前、俺の両親くらい知ってるだろうが!
 家、隣なんだから。
 それにお前の両親には毎朝挨拶してるよ!
 隣なんだから。

 しかし、俺はようやく理解した。
 ああ、こいつ俺のこと好きだったんだ……
 今更だがようやく気づく。
 だけど、残念だ。俺にはもう好きな子がいる。
 小夜子には申し訳ないけど、俺はキッパリと断ることにした。

「ごめんね、さよちゃん。ぼく、好きな女の子がいるんだ」
「ええ、そんなのいやだ。じゃあ、あたしたちの赤ちゃんはどうするの?」
「あのね、さよちゃん。手をつないだくらいじゃ赤ちゃんはできないんだよ。ママが言ってた。パパが言うには僕はまだ童貞だから大丈夫なんだって」
「あら、バカねえ。赤ちゃんはチューしたらできるのよ!」
「そ、そうなんだあ。だけど僕たちチューもしたことないよね?」
「ふふふ、この前保育園のお昼寝の時間にチューしたわ」
「ぼ、僕が寝てるあいだに?」
「ええ」
「そ、そんなあ、ひどいよ、さよちゃん」
「あたしより先に眠ったあなたが悪いのよ。さあ、チューして赤ちゃんができた以上……あたしと結婚してもらうわよ!」

 ああ、なんてこった。俺は5歳にして父親になるのか……
 童貞だった頃が懐かしいぜ。



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