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俺、りん  作者: じぇにゅいん
プロローグ
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プロローグ

よく晴れた日の放課後は、気持ちの良いものだ。

一日の授業が終わった開放感は、生徒たちを活動的にさせる。

城南高校野球部に所属する瀬乃江せのえ和宏かずひろも、その一人だった。


今月3年生になったばかりの和宏が目指しているのは、ズバリ“夏の甲子園”である。

名門校に比べて、決して恵まれてはいないグラウンドだが、その脇のブルペンでは熱のこもった投球練習が繰り広げられていた。


「ふう……ラスト一球だっ!」


アンダースローから放たれたボールは、キレよくキャッチャーのミットに収まる。


「ナイスボー!」


ブルペンキャッチャーを勤める2年生が、元気よく声を張り上げて、先輩である和宏を盛り立てていた。


和宏の身長は162センチ……決して高くはない。

一時は、この身長が元で野球をやめようかと思った時期もあったが、昨年の秋、監督の勧めもあって、この低い身長を活かせるアンダースローに転向した。


地面近くの低いところから放たれるボールは、打者にとっては、いささか打ちにくく感じるものだ。

しかも、アンダースローにしたことによって、ボールのキレがかなり増したため、和宏は、今やこのチームのエースといえる存在になっていた。


「先輩! いいボール来てますよ!」


元気な後輩は、そう言ってマウンド上の和宏に駆け寄る。


「おうサンキュー。これから走り込みに行くから、監督にそう言っといてよ」


後輩の返事も待たずに、和宏はタオルを首に巻いたまま、いつものランニングコースに向かった。


「っかりましたぁ!」


後輩は、どこまでも元気だった。


和宏のランニングコースは約7キロ。

さして長距離というわけでもないが、途中に心臓破りの急坂があるため、ことのほか心肺機能が鍛えられるコースである。

このコースを毎日走る和宏は、己の体力に自信を持っていた。

それは、1年生の頃から、このコースを走り続けてきた和宏の自負だ。


ベスト16止まりだった昨年の夏と違い、今年のチームはもっと上に行ける……和宏はそう思っていた。

確かに、城南高校は名門ではない。

しかし、手を伸ばせば甲子園出場という夢に手が届きそうな……そんな感触は、和宏のみならず他のチームメイトたちも感じ取っていた。


いつものランニングコースに出るために、校門から校外に走って出て行く背番号1番。

何の不満もない日々。

溢れる将来の夢と希望。

今日この日までは……確かにそれはあった。

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