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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

屑のする復讐

作者: リック

 中学からの俺の友人が死んだ。バカばっかり一緒にやってきた、大事な友人が、事故で。


(のぼる)……気持ちは分かるけど、ご飯くらい食べなさい」


 母親が部屋で沈む俺に気を遣う。けれど、今の俺にはとても期待に添えそうにない。

 友人――速人(はやと)が亡くなったのは、車の衝突事故だ。警察の話では、車体に身体が挟まれ、救急車と警察が到着して救出された時には死んでいたが、それまでは意識があったとのこと。

 ……最後にあいつは何を思ったろう。どれだけ絶望しただろう。神様、俺達が何をしたんだよ。人並みに羽目を外したことはあったけど、こんな最後を味わうだけのことなんか絶対してない。


 昇の死を聞いてから俺は、鬱になった。人間がこんな簡単に、苦しみながら死ぬことがあるのかと。


 仕事すらやめ、軽く引きこもりになって数日、家族もいないある日、意外な人物が俺を尋ねてきた。


「こんにちはー! 元気してる? してないか、その顔じゃ。落ち込んでるぅ?」


 中学の同級生の……確か、静香(しずか)だ。名前が示すようにクラスでも大人しいやつだった気がするけど、今の静香は派手目のワンピース、バリバリの化粧、有名ケーキ店の箱を持って、特徴的な顔のホクロがなければ同一人物だと思わなかっただろう。それにしても……。

 いきなり尋ねてきた上、この横柄な態度は何だ? 親しき仲にも礼儀有りだろう。今の俺はお前にこんな態度されて大人の対応できる余裕はない。それが顔に出てたのか、静香は苦笑して言った。


「ごめんごめん。昨日連絡来たんだよ。しばらく会ってない中学の同級生から電話あって、何事かと思っていたら『速人くんが亡くなった。友人だった昇くんがそれで落ち込んでる』 って。それで私慌てて休み取って今日来たの。こんな格好になっちゃったのは許してね」


 少しもやもやしていたが、静香のその言葉で俺は少し冷静さを取り戻した。そうか、心配して来てくれたのか。昨日の今日なら色々間に合わないのも仕方ないな。俺は昔語りをするつもりで静香を家にあげた。


「授業の内容なんて覚えてない」

「先生は嫌いだった」

「勉強より遊ぶ事が好きで、よく困らせた、あの頃はやんちゃだった」


 そんな誰にでも覚えがありそうな話を、静香に向かって一方的に話し続けた。まさか静香も愚痴くらいは聞いてくれるだろうし。


 しかし静香は、最初こそ営業スマイルのような微笑を浮かべていたが、どんどん不機嫌な顔に変貌していった。何だよ、変なやつ。そう感じながらも喋っていたら、いつの間にか俺の手元のケーキがなかった。


「ああ、食べたよ? 私が買ったんだもん」


 ……こいつ、食い意地が張った奴だな。女の癖にデリカシーもないのか。苛立ちながらも、きっと俺達と別れてから底辺校にでも行った可哀相な奴なんだと無理に納得させる。とにかく、亡き友人を偲ぶつもりで来たからには、思い出話に付き合うくらいはしてもらう。


「あいつも俺もバカだったよな」

「でも年頃の男子なんてそんなもんだよな」

「女子は男より成長が早いから、そんな俺らをいつもヒステリー気味に注意して……俺達いつも肩身が狭かった」


 ドカッと、静香が食べ終わった皿を強くテーブルに置く音がした。こいつ、人んちの皿を……いつの間にこんな人を不快にさせる動作を身に付けたんだ? 中学の頃は……ほとんど記憶に無いけど、もうちょっとやりやすかった気がするのに。そんなことを考えて黙っていたら、初めて静香のほうから話を振ってきた。


「少しはこっちにも話させてよ。で、ねえねえ事故当時のこと教えてよー速人くん即死だったの? 意識はあった?」


 あまりの話題に血の凍る音がした。こいつ、何言ってんだ? 無神経すぎる!


「何で睨むのよー。ならもう聞かない。代わりにあんたのこと聞くわ。ねえねえ親友亡くしてどんな気持ち? 今どんな気持ち?」


 思わず涙を流してこいつの顔面を叩く。こいつ、慰めるふりして、他人の不幸を笑いに来たのか!


「……ハッ、屑」


 性懲りもなく悪口まで言うこいつの腕を引っ張り、玄関まで叩き出す。あいつが家から出たら、俺はすかさず玄関の鍵を音を立てて閉めた。



◇◇◇


 昨日、中学の友人から電話が来た。


『ちょっと静香、速人くん覚えてる? ほら中学の、同級生の……。事故で死んだってよ。それで親友だった昇くんまで鬱になったって。私、昇くんと同じ会社なものだから上司に相談されちゃって。でもさ……


自業自得だよね』



 その言葉にはしっかり同意しておいた。何故なら――


 本人達は忘れてるのかもしれないけど、中学三年生の時、学級崩壊を起こした主犯二人なのだから、同情なんか出来ない。


 酷いものだった。


 授業中にライターを取り出し、速人くんが「もっとあったかくなるかも」 とホッカイロに火をつけて昇くんが身体で先生の目から隠して、その結果火災報知機を鳴らして授業を中断させた。受験生で。


 バカだから大人ぶってライターなんか持ってるのかと暢気に考えていたけど、その数日後、校舎端にある人気の無い女子トイレで用を済ませていたら、個室にいる時に男子が集団で入ってきてスパスパやり始めた。煙の量に何事かと外に出るとあの二人が居て、私をからかってきた。


『男の前で用を足すとか何考えてんだ!』

『痴女! 痴女!』


 誰がどう見ても私に否はない状況だったのに、私は二人がかりで罵られて洗脳に近い状況になった。人気のない女子トイレを使うほうが悪かったのか、と思うほどに。


 日に日にあの二人に引きずられて授業をまともに受けない生徒が多くなるにつれ、私は学校にいくのが鬱になっていた。でも父子家庭だったから、絶対公立の高校に受かってお父さんを安心させたかったから無理矢理学校に行っていた。独学には限界がある。


 そんな受験シーズン直前くらいに、廊下で地味な女の子が怯えながら先生に伝えていた言葉。


『先生、男子が校舎の屋根にのぼって遊んでます……』


 ふと屋根を見ると、何人かがいて平らなところでバク転したりしてた。一番目立つところにあの二人がいた。……死人が出たら、強制的に自主休校になるのかなあと気が遠くなった。


 最後のほうには先生達もお手上げのようだった。受験期によりにもよってあの二人の挟まれた席で授業を受けることになった私は、先生に席替えを訴えた。


『あー……でもどうせもうちょっとで君達卒業だし、ね?』


 先生もろくに授業を聞かない生徒達で苦労しているんだろう。そう思えば気持ちも分からなくなかった。――そんな状況で私が高校に合格したのは、奇跡に近かった。


 しかし高校入学後、ふとしたことであの悪夢の時期を思い出し、トイレで吐いたりしてしばらく苦しんだ。何で私がこんな目に。よくそう思って、元凶の二人を恨んだものだ。


 その恨みは、大人になって少しずつ薄れていくが、決して消えたりはしなかった。そしてあの電話。


 下衆と呼ばれてもいい、あいつに思い知らせてやりたい。だからわざと人の心の無いかのような発言を繰り返した。


 結果――あいつは昔のことなんて覚えていないようだった。そうか、あれらの出来事は『やんちゃ』 くらいなものか……。


 でも収穫はあった。あいつ、ニートだ。親友の事故死で心を病む? バカらしい。私は中学時代で既に病んでいた。甘ったれが。

 テレビも流行りの時だけ報道してないで、若いからってバカやるとこういう末路ですよーって映せばいいものを。最後まで内容を放送する番組は、非常に稀だ。

 とにかく、ニートで引きこもりなあいつの姿を見て、少しは胸がすく思いだった。それに、あいつはちっとも自分が悪いなんて思っちゃいないようなのは腹立つけれど――――。


 ボロ泣きした最後の姿。あれだけでこれからしばらくはご飯が美味しい。……屑のほうが人生楽しいっていうのはあいつらから学んだことだ。

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