召喚勇者が望むこと
夢に小役人然とした中年男性が現れて「あなた様を勇者として召喚してもよろしいですか?」と聞いてきたので「あいまいな勧誘はやめてください」と答えた。
翌日、夢に小役人の上司っぽい中年男性が現れて「我が王国の危機なのです。助けてくださいますよね?」と聞いてきたので「感情論が聞きたいのではなく、条件が何ひとつわからない話にハイと答えるのは無理です」と突っぱねた。
さらに翌日、そのまた上司らしき中間管理職風の中年男性が現れて「勇者様は、我が王国の敵である魔王軍を倒すべく戦ってもらいたいのです。お願いできますか?」と聞いてきたので「規模も状況もわからず決断することは不可能です」と返答した。
また翌日、そのさらに上司のような中年男性が現れて「敵勢は卑しき魔王が率いる下劣な魔族およそ二十万。畜生にも劣る知性しか持たぬのに、我らに歯向かう外道だ。倒してくれるだろうな?」と聞いてきたので「相手の数しかわからないのではダメです。どういう装備また人類との違いがあるのならばその戦闘方法やそれによる効果。それさえ告げられぬとあらば、お話になりません」とお断りした。
翌朝、同じ中年男性が現れて「いいから、貴様は我が王国のために身を粉にして働けばよいのだ!」と感情論丸出しでやってきたので「このお話はなかったということで……」と打ち切った。
その日の昼、その上司らしき初老の男性が現れて「部下の非をわびるので、どうか交渉を続けさせてほしい」と懇願してきたので「とりあえず、日中はやめてください。寝てしまうといろいろと問題が起きます」と回答した。
夜、同じ初老の男性が現れて「魔族は我々と同じ体躯に神に仇なした証拠である浅黒い肌を持っている。しかし、特段優れた能力もなく、良質な武具を作る技術もなく、大した相手ではない。数だけが頼りのろくでなしである」と告げてきたので「人種の問題なら、戦いに至る経緯があると思います。おおかた奴隷として扱ってきたものたちが反乱を起こしただけでしょう。となれば、双方の主義主張も知らぬままこれに応ずることはできません」と返した。
翌日、冠を被った男性が現れて「人種がなんだというのだ。朕の神に認められし王国に歯向かうものなど生かしておいてよいはずがない。勇者よ、往け! やつらを殺すのだ!」と命じてきたので「交渉のできない人を窓口に立たせないでください」と切り捨てた。
その翌日、同じ冠男が現れて「勇者よ。早く起つのだ! もう、魔族どもは朕の王宮の近くまでやってきている。これ以上は待てぬ。これ以上待たせるというのなら、褒賞を切り下げるぞ!」と脅してきたので「では、交渉決裂ということで」と遮断した。
最初の夢から一週間、冠男が現れて「勇者よ。頼む。どうか、朕のいうことを聞いてくれ。報酬は望みのまま出そう。なんだってくれてやる。朕の宰相にだってしてやろう。だから、魔族どもを蹴散らしてくれ。お願いだ」と懇願してきたので「すでに交渉は決裂しています」と放置した。
翌日、浅黒い肌の青年が現れて「勇者よ。ありがとう。我々は自由を手にすることができた。すべてはあなたのおかげだ。何か望みがあれば全力で応えるから教えてほしい」と感謝を述べてきたので「明日からは静かに寝せてほしい」とお願いした。
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