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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

契約の女王

作者:ゆうき
今回は童話に挑戦してみました!

子供向けではありませんから優しくありません。
ある意味ハッピーエンドですが主人公はちょっとえげつない性格です。

よろしければお読みください。
―――――約束だよ


それはまだ小さかった二人が交わした契約。


―――――絶対に二人で叶えようね


約束は守るのが当たり前。


―――――もし破ったら許さないからね


だから契約破棄なんて許されない事だ。









「フェリシア・アンブローゼ!今この時をもってお前との婚約を破棄する!」

ざわっ、という擬音が聞こえたかと思ったら辺りを痛いほどの沈黙が支配した。

先ほどまで流れていた軽快だが品の良い楽団による演奏さえ止まり、各所で談笑していた者たちの囀りさえも閉口、否、口を開けたまま閉じない、ぽかんとした表情でこちらを見ている。

この空間に居る人数はおおよそ200人程度、この場の主役たちである100名ほどの貴族の子息子女たちに加え、会場を運営するための従事や演奏者や兵士の総数だ。

その内6名が皆の注目を集めてほぼ会場の中央に位置する、今からダンスを始めるために集まった者たちの舞台を独占していた。

ただしその6名中1名だけは唖然とした表情をした蒼き髪を腰まで伸ばした少女。

貴族の令嬢にあるまじき行為だが許してやってほしい。

唐突にあり得ない出来事に遭遇したのだから口こそ開けていないが、水色の瞳を見開き会場中に響く声で宣言した少年を見続けている行為を許してやってくれないか?

他の4名は貴族の子息にありがちな表情、他者を見下し自身が絶対の強者であるという自信に満ちたものを覗かせてる。

貴族の子息にあるまじき行為だが許してやってほしい。

今彼らは世界の頂点に立っているのだから誰だってそうなってしまうと思うので許してやってくれないか?

そしてまるで世界のすべてを魅了するかの如く優しく包みこむ淡い桃色の髪をした少女。

何かに怯えているのか宣言した少年に縋りつく姿は貴族の令嬢にあるまじき行為だが許してやってほしい。

そうしないと話が進まないから許してやってくれないか?

静かに彼らの所業を見学しよう、どうせ結果は見えているのだから。





「ミハイル様、いえ、ミヒューゼイル殿下。唐突に何をおっしゃるのですか?いくら我が国の第一王子とはいえ殿下だけが主役ではありませんのよ?ここは王立アカデミア貴族院の卒業舞踏会の会場。卒業生全員が主役でしてよ」

現在私たちが居る場所は我が国の王都にある最高学府、貴族の子は必ず通う事を義務付けられた貴族院の多目的会場。

入学式に演奏会、観劇などに使われるこの建屋は魔法技術がふんだんに使われた一種の魔法具でして使用目的に応じて様相を変化させる。

現在は舞踏会が行われるために壇上などは存在せず、一番フラットな形をとっている。

そのような形をとる理由というのが先ほど私が言ったようにこの貴族院を卒業する者たちだけが参加できる舞踏会が行われるからだ。

青い血が流れる者、貴族の子であれば入る事は誰でもできるが卒業できるのは真に才を認められし者だけというこの貴族院の卒業生はそれだけで世間から認められる。

そこに生まれ、たとえ王族であろうとも才がなければ卒業できずに貴族として認められないという過酷な運命が待ち受けている。

だからこそこの場に居るすべての生徒たちはこの日、この場所において主役なのだ。

それをあたかも主役は俺、いや俺たちだ、と言わんばかりに我が物顔で占拠した5名は許されるのだろうか?

「貴様!高々侯爵令嬢の分際で王子である俺に意見するのか!」

「私はあなたの婚約者ですもの。この場で唯一許可無く未来の王にあるあなたに苦言を呈する事が出来る立場でしてよ」

王族、しかも第一王子ともなれば将来は王太子として王の正当後継者となる運命を背負う人物。

そのような存在に対して苦言、耳障りだが聞かないと損をする意見を言う人間がどれほどいようか?

嫌われているという事ではなく、その行為自体が不敬であり、まだ貴族としての爵位を持たない者たちであるこの場にいる生徒たちにはその権限がない。

ただ唯一その権限を有しているのは王子の婚約者、未来の王太子妃のみだ。

その地位にいる私は苦言を呈した。

それが契約だからだ。

「既にお前との婚約は破棄した!そして俺はここに居るエミリアと婚約する!」

「ミハイル様!」

先ほどまで怯えの表情を作っていた少女、フォリウム伯爵令嬢エミリアは全てを魅了する歓喜の表情で、こちらに勝利者の笑みを一瞥してから覆い隠した。

エミリアという少女は元々平民である。

フォリウム伯爵家に仕えていた庭師の娘で、フォリウム伯爵が彼の妻に手を出して生まれた子とされている。

これだけでも醜聞なのだが公表されている情報ではエミリアの父は存在しておらず、母は未婚のメイドの一人だったとなっている。

なっていると言うのは母の方もすでに行方が解らなくなっており、病死したという事に伯爵は処理しているからだ。

なぜそんな面倒な事までしてエミリアを娘として手元に置いているかと言えば、彼女は膨大な魔力を内封していたからだ。

この世界ではどれだけ魔力を持っているかでその者の強さや美貌といった個人の能力が左右される。

なのでエミリアは将来国を傾けさせるほどの美人になると判断した伯爵は、彼女をのし上がる道具にしようとしたのだ。

伯爵の中でも下位であったフォリウム伯爵家を国内一の貴族家に、などと過分な夢を見た、いや、エミリアに魅せられたからだ。

その魔力によってこの国の高位貴族へ嫁入りさせ、内部から乗っ取ろうと考えたのがエミリアを娘とした理由だ。

平民の娘が貴族を凌駕する可能性を秘めた魔力を宿しているなどと本来あり得ないので、貴族たちの間では伯爵が寝取った末にできた娘と囁かれている。

だからこそ、平民であるはずのエミリアはこの貴族院に入学を許され、卒業舞踏会に出席する権利を得れたのだ。

そして、父である伯爵の思惑通り、いや、思惑を超えてこの国の第一王子の心を奪い、この国の妃への道を掴み取ったのだ。

大した娘だと正直に思う。

相手が彼、いや、彼らだとはいえ4人もの男を手玉に取り、その中でも一番高い位のミハイル殿下から求婚されたのだから。

自分の好きな相手が他者の嫁になるというのに悔しそうにせず、祝福いや、一緒になって喜んでいる取り巻きの3名。

そんな状態に仕立て上げた手腕はこの貴族院の卒業生にふさわしいといえよう。

本当に大した娘だ。

「婚約破棄の件了承しましたわ、殿下。ところでお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、まだ居たのかフェリシア」

「一方的な破棄では正式な効力がありませんからお互いに同意をしませんと。それで、お聞きしてよろしいですか、殿下?」

「ふん、王族の権威が一方的とは、な。まあ、いいだろう、言ってみろ」

「破棄の理由をお聞きしておりませんので、できればお聞かせ願えないかと」

「なっ、貴様!」

「なんという恥知らずだ、この女は」

「やっぱり性悪だからだね」

「侯爵令嬢にあるまじき女性ですね」

「理由を聞いただけでこれですか。それで、お聞かせ願えませんか?殿下は了承されましたよね?」

「ふん!そんなに聞きたいのなら聞かせてやろう!貴様が如何に俺の伴侶として相応しくないか、そしてこの国に相応しくないかを自覚しろ!」




一人の婦女子を囲んで侮蔑する男性たちは果たしてこの国に相応しい存在なのでしょうか?という疑問はこの際置いておくとしまして、しっかり理由を聞かせてもらいましょう。

なにせ必要な事ですから。

ミハイル殿下曰く、私がエミリア嬢を虐めていたらしく彼女はすごく傷付いているとの事。

虐めの内容を聞くと貴族らしくない、この貴族院には相応しくないなどの暴言を浴びせたり、私物を破壊したり、魔法での攻撃、物理的な攻撃で怪我をさせた事もあるらしい。

確かに思い当たる節はある事案ばかりだ。

ミハイル殿下をはじめ上位貴族の子息、全員婚約者がいる者たちに対して必要以上に近寄ったりすれば貴族のマナーを教えますよ。

それが何度も続けば私も口調が厳しくなっていくのは当たり前の事。

一応殿下にも苦言は呈しましたが聞いてくれませんでしたね。

婚約者になってから苦言を言い続けてきた所為で、私が話し掛けると耳にフィルターを掛けるようになってましたから。

私の立場だとそうしないといけないからしていた事ですが、逆の立場になってみたら相当嫌な事ですものね、なんども苦言を言われるのなんて。

だからそうなってしまったのは許してあげてほしい。

そして他の子息たちもそれぞれの婚約者から苦言を呈されたはずですが、どうも効果がなかったようです。

私を中心としたグループ、婚約者令嬢たちの会でのお茶会は大体それらについての愚痴大会でした。

それがエミリア嬢を誹謗中傷していたと取られたらまったくもってその通りなので、私たちは言い訳するつもりもありません。

ただ私物を破壊したり攻撃などは行っていないはず。

ああ、私物ってもしかしてエミリア嬢が身に着けていたペンダントですか?

あれは確かに私が壊したと言ってもおかしくないですね。

なぜなら彼女は私が歩いている目の前で転倒して転がってきたのですからその時に零れ落ちたペンダントは踏み抜きましたわね。

一応弁償する話はしましたが彼女が断ったのですけどね。

あと攻撃に付いてですが魔法戦闘の訓練中の事ですから当たり前ではありませんか。

だって膨大な魔力を持つエミリア嬢と対戦できるのは私だけですもの。

なんども戦っていたら怪我をして当然だと思いますよ。



「なにっ、貴様!自分に非はないというのか!」

「まったく非がないと申していませんわ。ただ、それだけで破棄する理由にはならないかと。国法を犯している訳ではありませんし」

「なんという恥知らずだ!」

「どのあたりが恥知らずなのでしょう、ジェラルド・ベネディクト様?」

私が非を多少認めたのですが納得いかないとばかりに怒り心頭に近寄ってきたのはベネディクト公爵の次男である嫡子、ジェラルド様。

長女である姉に似て甘いマスクをしているのですがどうも粗野な雰囲気が強すぎる少年で殿下以上に俺様気質。

婚約者の令嬢はその俺様に惚れていらっしゃるですが、エミリア嬢に現を抜かすのがそろそろ耐えられなくなってきている。

私などに詰め寄る前に自身の婚約者をどうにかしないとその内、うふふ、ジェラルド様が悪いんですよ、あんなメスに、とかいう場面に遭遇しますので。

「お前に虐められ、涙を流したエミリアに詫びもしない事だ!」

「申し訳ありませんでした」

「「「「え?」」」」

「これでよろしかったですか?」

少しですが非はありましたし、謝罪を要求されたのでしたら謝罪しますよ。

なのになぜ驚いているのでしょうか?



「心から謝ってないでしょ?」

「いえ、非を認めてますよ」

「じゃあ、なんで頭も下げないの?」

「作法通りの謝罪をしましたが、何か問題でもあるのですか、シュレイン・イズマーン様?」

次に現れたのはイズマーン侯爵家の嫡子であるシュレイン様です。

この少年は私の従弟にあたる方で薄っすらとですが血が繋がっています。

性格は端的に言って子供っぽい、若干我儘気質な少年です。

どちらかといえばお姉様方に人気のある彼は、小さな頃は私の後ろをついて回るカルガモの子だったのですが途中から付いて来れなくなっていじけていた時期がありました。

その時から私に対して攻撃的になり始めたのですが、所詮子供のやる事なので私は特に被害もなく、貴族位も同じですから排除される事もなく今まで過ごしてきました。

「そんな頭を下げたか下げないか解らない程度だと謝ったと言わないよ」

「私たち青き血流れる者たちが頭を垂れるのは陛下ただ一人。それ以外にするのは不敬ですわよ、シュレイン様」

「臣下の礼を取れと言ってない!ただもっと頭を下げて謝れって言ってるんだよ!」

「こうですか?申し訳ありませんでした」

「「「「え?」」」」

まあ、まだ貴族になっていませんからある程度深く頭を下げても問題はないでしょうし、もっとと言われたら頭ぐらい下げますよ。

なのになぜ驚いているのでしょうか?



「えらく素直に要望通りされますね、フェリシア嬢。何を企んでいるのですか?」

「企みですか?そんな事しておりませんわ」

「私の目をごまかさないで頂きたいですね。あなたの今までの手腕ならここから逆転を狙っていてもおかしくない」

「逆転ですか。一体何から逆転する必要があるのでしょうか、テネシス・ウェンディ様?」

最後に口を開いたのはウェンディ辺境伯家三男であるテネシス様です。

辺境伯というのは他国との国境や外敵から国を守る任を与えられた爵位となり、おそらく国一番の武力を持った貴族です。

その武闘派の家系に生まれたテネシス様ですが、なぜか軍師志望という頭脳労働を得意とした方で、魔力は平均的ですがその頭の回転の速さは貴族院一と言われていました。

ですがエミリア嬢に係るようになってからその頭も鈍り始め、今では随分と腑抜けになってしまいました。

彼の婚約者からすれば以前よりも付き合いやすいと歓迎されている部分もあるようで、プラスマイナスが相殺されて程よい感じになったご様子です。

ちょっと勿体ないですね。

「あなたは殿下から断罪されているのですよ?」

「断罪ですか?ですから国法は犯していませんし」

「・・・ふむ」

「こんな女に何を手間取っているんだ、お前たちは!もう、任せておけん!」

何やら考え始めたテネシス様ですが、微妙に立ち位置を変え始めましたね。

興奮状態の殿下や俺様、従弟はエミリア嬢の側を離れていませんが、彼は心持ち、いえ、だんだんとその輪から離れ始めましたね。

どうやら彼は無事最終試験を合格できたようですね。

おめでとうございます。

そして、ご愁傷さまです、あなた方。

そろそろ世界の終焉(フィナーレ)といきましょうか。



「フェリシア・アンブローゼ!貴様を死刑に処する!」

「罪状はどのような事でしょう?」

「いい加減にしろよ、フェリシア!先ほどから言っているだろう、俺が愛するエミリアを傷付け、王族である俺に反抗した事が罪だ!衛兵、こやつを牢にぶち込め!」

沈黙の世界。

誰も殿下、いえ、彼の言葉に従わず、現在この場で起きている出来事を注視している。

「おい、なぜ俺の言う事を聞かない!お前たちも処刑するぞ!」

いや動けないと言った方が良いかもしれない。

「ちっ、ええい。だったらこの場で始末してくれる!ジェラルド、シュレイン、テネシス。手を貸せ!」

「解りました、殿下」

「了解です、殿下!」

この場で佩剣を許されていたのは王族であるミハイルのみ。

それ以外は武器を持っていないがこの世界の貴族は魔法、相手を殺傷せし攻撃手段を有している。

いくら相手がこの貴族院、いや、国でも有数の魔力を持つ令嬢とはいえ4人相手ではただでは済まないだろう。

だが、令嬢、フェリシア・アンブローゼは表情を崩さず、逆に満面の笑みを浮かべた。

このような笑みを普段浮かべる事はない美少女が出した笑み。

一瞬だけ少年たちを虜にした。

「国法に乗っ取り、これより契約の宜を執り行います」

「「「「え?」」」」

「契約を司る聖霊よ。私、フェリシア・アンブローゼは汝に審議を申し立てる。ここにいるミヒューゼイル・マルムスティーンより契約違反を受けました。裁決願います」

「よろしいでしょう」

私の宣誓に応える声がこの会場に響き、私たちの目の前に絶世の美女、純白の翼を背に天秤を持つ天使がこの場に現れたのです。

彼女は契約を司る聖霊にしてこの国の守護天使。

世界の記憶にアクセスする権限を有した存在で、契約に関する事であれば過去の情報でさえ閲覧できる。

ゆえに彼女に見抜けぬモノはない。

ゆえに彼女が出した答えは絶対的なモノとなる。

「確認しました。ミヒューゼイル・マルムスティーンの契約違反を確認。これにより契約は破棄されました」

「な、なにっ!?」

「感謝いたします、聖霊。それでは契約違反者に対し要求を述べます」

「ま、待て!なぜ俺が違反者なのだ!」

「フェリシア・アンブローゼは国法を犯していない。また婚約に関する契約条項にも抵触していない。その者に対して一方的な破棄並びに断罪しようとした者だからです」

「お、俺は王子だぞ!この国の守護天使であるお前が俺を裏切るのか!俺の主張通りにしろ、聖霊!」

「さらなる契約違反を確認。フェリシア・アンブローゼよ。汝の要求は叶えよう」

「無視するな、聖霊ごときが!」

今まで遠巻きにして見ているだけだった者たちは全員、ミハイルの暴挙に顔を青くしている。

彼は護国の存在に対して刃を向けたのだ。

しかもこの国の王族がだ。

この国が見捨てられても誰も文句を言えない。

言うやつがいるとしたら、目の前にいる彼と同じように聖霊を睨んでいる俺様と従弟だけだろう。

「感謝します、聖霊。私の要求、ミヒューゼイル・マルムスティーンが所持していた王位継承権を私に譲渡する事」

「承認しました」

「な、なんだと!貴様、王権簒奪を企てるのか!」

どうやら興奮しすぎて彼は魔力が極端に減った事に気が付いていない。

そしてフェリシアの魔力が極端に増えた事に気が付いていない。

そしてそれに気が付いていないのは3名だけだと。

「ここに裁決はなされたました。皆に加護があらんことを」

彼以外が静まり返ったこの会場から聖霊は姿を消した。



「フェリシア、貴様!」

右手に持った剣で私を斬ろうと襲い掛かってくる元王子。

だけど今の彼の動きなんて本当に止まっているかのように見える。

パシーン!

だからその刃を避け、代わりに平手打ちを差し上げるのも造作のない事。

そして魔力を失った者が国内、いや世界でも有数の魔力保持者になった私の手加減されたとはいえ平手を受けて無事なはずがない。

「いぎゃぁああああああ!?」

顎がはずれ、歯が砕け、頬は赤黒く腫らしたその少年は崩れ落ちて口から血を流す。

その光景に腰を抜かしたのか従弟は座り込み、助けを求めて最愛の少女に縋りつく。

元王子と一緒に襲い掛かった俺様は私の睨み、魔力が篭った視線、魔眼を受けて凍り付いた。

「最後まで馬鹿な人たち。この国で契約を破る、国法を犯すという事がどれだけ罪悪なのか理解していないとは」

守護天使である契約の聖霊がもたらす加護は、国の気候を整え土地を豊かにする五穀豊穣。

そしてそこに住まう者たちに魔力を分け与え、強くする。

さらに直接聖霊と契約した者にはさらに魔力を与え、その子孫にまでそれは及ぶ。

聖霊は契約の数だけ存在を強めるがゆえにこの国を守護しているだけで、この国が聖霊を使役している訳ではない。

ゆえに聖霊に逆らう事を善しとせず、破ろうとしない。

だがそれも時を経つに連れ忘れていく。

特に膨大な力を授かった直接契約した者とその血族、貴族たちは。

権力に溺れ、他者を見下し、自身は強者であると勘違いして思い上がる。

本当は聖霊が与えてくれた力で、自身の力ではない事を忘れてしまう。

それを忘れない為にこの貴族院が存在し、貴族の子息令息に試練を与える。

その試練とは思い上がらずに貴族の義務を全うする精神を養う事。

その試練を潜り抜けた者たちだけが卒業できる。

例年では50名も卒業できれば十分と言われたこの卒業資格を持った者たち、貴族位を授けられる者たちも今年は倍の100名。

なぜ今年だけ優秀な者が多かったのか?

それは反面教師たる存在が王族や上位貴族に4人も居たからだ。

そしてその4人、将来この国を背負って立つと見込まれていた少年たちには最後の試練、いや、再試験を受けさせられた。

それはエミリア嬢という誘惑に打ち勝てるかというもの。

いつの間にか私の側に来た彼女は私の後ろに控えている。

その光景を呆然とした表情に変えた3人はただ見つけている。

エミリア嬢に纏わる噂はほとんどが情報操作された嘘。

彼女は私の腹違いの妹ににして、契約違反で亡き者となった父が侍女に産ませた娘。

侯爵家の血筋とはいえ不義理の娘ゆえに社交界、それどころか屋敷の外に出た事すらない少女。

実母である侍女も契約違反で死亡し、義母となった私の母に疎まれていたエミリア。

半分とはいえ血の繋がった妹を私だけは愛し、二人の夢を語り合った。

そんな私たちは陛下から任を託されていた。

それは彼らを試し、できれば卒業させる事。

私には苦言を呈し導く役目を。

妹であるエミリアには堕落させる役目を。

契約を結びその任を任せれた私たちがやっていた事が、今、終わろうとしている。



「エ、エミリア?」

「契約違反はダメですよ、元王子さま。あと、私は婚約の承諾をしていませんので呼び捨てはやめてくださいね」

「なっ!?」

「ミヒューゼイル。あなたはもう王族でも貴族でもない、ただの平民です。これからはマルムスティーンの姓は名乗ることを禁じます」

「なぜ、貴様にそんな事、ぎゃああああああああ!?」

「な、何をするんだ、テネシス!」

元王子の剣を拾っていたテネシスが私に詰め寄ってきた彼の右腕を切り捨てる。

この至近距離でそれをやられたら私やエミリアに血が掛かるので、もうちょっと早く割り込んで欲しかったですね。

「何を言うジェラルド。王位継承者で有らせられるフェリシア殿下に無礼を働く輩を始末したまでだ」

「な、お前!」

「それとまだ気が付かないのか?君ももう貴族ではなくなっているのだぞ?」

「そ、そんな馬鹿な!」

「そ、そうだよ、テネシス。ミハイル殿下は聖霊さまが認めたから解るけど、なんでジェラルドまで」

「勘違いするな、シュレイン。君も貴族ではなくなっている。その証拠にお前たちは完全に魔力を失っている」

「え?うそ?・・・無い!僕の魔力を感じない!嘘だあああああああああ!」

「そ、そんな、俺様がそんな。でも、なんでお前は残っているんだ、テネシス!お前も断罪していたじゃないか!」

流石にそこまで馬鹿じゃなかったようで元俺様なジェラルドは思い至ったようですね。

私を無実の罪で断罪しようとしたことで魔力を奪われたと。

でも、それもちょっと違いますのでお教えして差し上げよう。

「私が理由を教えて差し上げましょう」

「偉そうに、お前!」

「黙れ!」

「ぐっ」

「テネシス・ウェンディは再試験に合格した。そしてあなたたちは落ちた。それだけですよ」

「ど、どういう事なの、フェリシア?」

「元従弟ですからその口調でも不敬罪には問いませんが、気を付けてください」

「うっ」

「この貴族院の卒業資格ですよ。卒業できなかった者がどうなるか知っていますか?」

「え?貴族位を貰えないだけじゃあ」

「違いますよ。知らなかったとしても仕方ありませんが、入学式での宣誓の宜を思い出してください」

「入学式での?・・・あ!?」

そう、この貴族院に入学する際に新入生は必ず誓う事になる。

「ここを無事卒業する事を自身の魔力に賭けて誓います。これは聖霊との契約の宜なのですよ。そして卒業できなかった者は魔力を失う。契約ですから仕方ありませんね」

「で、でも僕はちゃんと卒業できて」

「出来てませんよ。卒業資格を有しただけです。有しているからこの舞踏会に参加できているのです。でも、最終試験をクリアできませんでしたから卒業できません」

「そ、その試験って?」

元従弟からのその問いには私は答えません。

ただ私は最愛の妹であるエミリアを抱き寄せ、彼らを微笑んだだけでした。




その2年後、私は陛下との契約により王族を退け、女王となりました。

王子に試練を与えるという無茶な契約をしてきた、しかも最愛の妹を汚れ役に据えた王族なんて容赦する必要はありません。

だから私は引き受けた時に契約要項にこう加えたのでした。

「エミリア・アンブローゼが誘惑に成功した時、第一位王位継承権を拝領する」

私が第一位になったからと陛下が居る限り、王族は残り、王太子の嫁にすると考えていたのでしょう、すんなり通りました。

そして、契約時にもう一つ加えた項目。

上記項目と反する事だったため、陛下も了承し、締結されたもの。

「フェリシア・アンブローゼが誤った者を導きに成功した時、第一位王位継承権を有した者に王位を譲り、陛下は退位する」

陛下もそろそろ良い歳ですから王位継承を考えていたのでしょう、矛盾ある項目だった為すんなり通りました。

ですが結果として王族は追放となり、私が女王として即位したのです。

なぜなら私たちが交わした契約の内容には王子だけを対象とした試練とは書かれていませんでした。

王子と書かずに王家の血を引きし者と契約書には記載されていたのです。

この国の歴史はかなり古く、王家の血は上位貴族たちであればほとんど流れており、私にも少しですが流れています。

ですから私たち姉妹は王家の血を引くジェラルド、シュレイン、テネシスにも試練を与えたのです。

結果はテネシスだけが試練を乗り越え、他の3人は破滅した、という訳です。

「お姉さま、やっと私たちのモノになりましたね」

「そうね、エミリア。でもこれからが本番よ。テネシスも覚悟しておきなさい」

「女王陛下の御心のままに」





この国の長い歴史の中で初めて誕生した女王フェリシア・アンブローゼは、国を発展させ、領土を拡大し、やがて大陸のほとんどを手中に収める大国へと押し上げた。

その原動力となったのは契約に元付く交渉と侵略、支配だと言われている。

だからフェリシアは後世にて「契約の女王」と呼ばれる事となった。





契約の女王が小さな頃に叶えたかった夢は最愛の妹にもっと広い世界に羽ばたいてもらう事。

王妹が小さかった頃に叶えたかった夢は最愛の姉と共に世界中を見て回る事。

仲の良い姉妹が交わした契約は、こうして果たされたのだった。
お読みくださってありがとうございました。

ある意味騙された!と思っていただければちょっとうれしいかもしれません。
ですので誹謗中傷な感想でも甘んじて受け付けます。
でも、普通の感想もあると嬉しく思います。

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