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境界線

作者:月影

「何してるの?」

俺が問うと、彼女は表情を変えずに答えた。

「水に浮かんでいるのだ。」
「・・・それ、楽しい?」
「いいや、全く。」
「・・・そう。」

制服のまま学校近くの川に浮かんでいるクラスメイトをぼんやりと見つめてみる。
彼女の名は太田 普。
頭は良いが言ってることもやってることも理解不能の変人で有名である。
時々彼女の奇行に興味を持った俺が話しかけるくらいで、他の奴らは彼女に近づこうともしない。
触らぬ神になんとやら、だ。

「・・・で、何でそんなことしてるの?」
「境界線を確かめるためだ。」
「境界線?」
「水と私の境目のことさ。」
「うん、それ別に水じゃなくても良かったんじゃないかな。」

現に君、びしょ濡れになっちゃってるし。
俺の言うことを無視して、彼女は続けた。

「水と私の境目、空気と私の境目。
私と他のものを区別するためのものであり、私が私として存在している証拠でもあるものだ。
人や物はすべて、境界線によって存在していると言っても過言ではないのだよ。」

久しぶりに話したが、やはり彼女の言うことは難しかった。
分かるような分からないような、不思議な感じがする。

「水は私を受け入れず、私も水を受け入れない。
すると、そこには境界線が生じ、私という存在と水という存在が生まれるのだ。
つまり、すべての者や物は、他のものを受け入れず、他のものに受け入れられないことで存在しているのではないだろうか。」

あぁ、相変わらず彼女は考えることも難しい。
中二と言ってしまえばそれまでだが、独特にもほどがある発想だ。

「・・・どうして急にそんなこと考え始めたの?」
「恋愛小説を読んだのだ。
前話した時に、お前が言っていたものを。」
「え?」

確かに、少し話した気がする。
映画化されて話題になった本だ。

「そうしたら男と女が抱きしめあっているシーンで、女の心内文に『このまま私たちを隔てている境界線が消えて、一つになれたら幸せなのに』というものがあった。
そんなことをしたらお互いの存在が消えてしまうのに、それでも幸せなものなのかと思ってな。
それだけだ。」
「・・・・・・。」

俺はぽかんとしてしまった。
いくらなんでも予想外すぎる。
彼女の行動や発想はいつも突飛で、毎度毎度驚かされることばかりだ。

「さて、帰るか。」

川から上がり、川岸に置いてあったスクールバッグを持つと、彼女はそのまま歩き出した。
俺は、少し慌てて彼女の後を追う。

「そのまま帰るの?」
「そうだ。」

・・・彼女といると、人間の順応力の低さを思い知らされる気がした。

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」

駅までの道を二人で歩く。
特に話すこともないので、無言だったけれど。
俺はふと、隣を歩いている彼女に目をやった。
彼女の考え方は、とても興味深くて面白い。
だがいくら面白くても、その考えに賛同するかどうかは別の話だ。
現に彼女は境界線の重要性を説いていたが、俺は境界線なんてなくなればいいと思う。

「なんだ、人の顔をじろじろと見て。」
「あ、ごめん。」

俺と彼女の、心の境界線なんて。

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