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ネトゲの旦那は私のアバターにしか興味がない! 作者:七風纏
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26 ネナベデビュー?

 その日、私はギルドのたまり場で頭を抱えて項垂れていた。

「うーん……」
「やあ、ユリア」
「あ、アレクさん! こんにちは!」

 私が顔を上げると、ちょうどログインしてきたと思われるアレクが目の前に立っていた。
 彼がゲームに復帰してから一週間。昔から親しかったルディアス、シオン、リノとは特に問題もなく仲良くしているようだ。
 休止前から彼を知る他のギルメンも、「お世話になったサブマスが帰ってきた」と嬉しそうに話していた。
 やっぱり、ルディアスと同じくらい人望があるんだね。

「すごく悩んでいるようだけど、どうしたのかな?」
「ええ、それが……今、NPCの好感度を上げようと頑張っているんですけど、なかなか上がらなくて……」
「どのNPCなんだ?」
「花売り娘のアリシアです」

 私は、広場の噴水の近くに立って笑顔を振り撒いているアリシアを指差した。
 輝くような金髪のロングヘアに、水色のエプロンドレスを身に纏う可愛らしい少女だ。
 彼女が手に持っている籠の中には、様々な種類の綺麗な花が詰められている。

「さっきから、彼女の好きな物をプレゼントしたり、会話をしたりして頑張ってるのに、一向に上がらないんですよねー……」
「ふむ……」

 私が嘆いていると、アレクは顎に手を当てて考え込むような仕草をした。
 そもそも、なんでアリシアの好感度を上げようと奮闘しているのかというと……クエストで、彼女が売ってくれる特別な花が必要になったからだ。
 しかも、その花は彼女の好感度をMAXまで上げないと売ってくれないらしい。

「今やってるクエストで『深蒼しんそうの花』を手に入れないと次に進めないんですよ」
「あぁ、そのクエストか……。たぶん、男キャラでやればあっさり上がるはずだよ」
「え!? そうなんですか!?」
「アリシアは気まぐれだからね。だけど……イケメンキャラに弱いという弱点があるんだ」
「知らなかったです……」

 そんな弱点があったとは……もしかしたら、wikiに書いてあったのかなぁ。見落としていたのかも。

「ああ、でも『深蒼の花』なら、プレイヤー間の取引でも手頃な値段で手に入れられるはずだよ。そっちの方が、手っ取り早いんじゃないかな?」
「うーん……確かにそっちの方が楽そうですけど。でも……やっぱり、ちゃんと自分でやりたいかなぁ」
「へぇ……随分と拘るね」
「私、昔からそういうことは拘るタイプで。変な拘りですけどね」
「そういう人、嫌いじゃないけどな。僕も似たようなところがあるからね」

 アレクはそう言って私を見据えると、目を細めて笑った。

「そうなんですか。ふふ、仲間ですね!」

 冗談っぽく返した私に、アレクもまた微笑む。
 サブマスが気さくな人で本当に良かった。

「それじゃあ、私、ちょっと男キャラに切り替えてきますね」
「ああ、男キャラ持ってたのか」
「ええ。ゲームを始める時に、男女両方作ってみたんです。結局、女キャラで始めることになりましたけど」
「なるほどね」

 女キャラにしたお陰でルディアスと仲良くなれたわけだし、結果的には良かったかな。


◇ ◇ ◇


 男キャラに切り替えて、アリシアからすんなりと『深蒼の花』を売ってもらった私は、再びギルドのたまり場に戻った。

「アレクさーん! できましたよ! 案外、あっさりでした!」
「あ……本当だ! ユリア先輩が男キャラに!」

 いつの間にか、たまり場に来ていたハサネが、私を見るなり驚いたように叫んだ。
 あ、そういえばこのキャラのままだった。

「ハサネちゃん、いつここに来たの?」
「ユリア先輩の貴重な男キャラ姿が見れると聞いて、飛んできました!」

 ……どうやら、アレクから聞いたらしい。

「アレクさん! 教えちゃったんですか!?」
「あれ……駄目だったかな?」

 詰め寄る私に、アレクは少し後退る。
 もう、余計なこと言わなくていいのになぁ……。

「やっぱり、ユリア先輩ってキャラメイク上手いですねぇ。格好いい衣装がよく映えそうな銀髪美少年じゃないですか」
「そうかな? あ、ちなみにこのキャラは『ユリウス』って名前で、ユリアとは双子設定だったりするんです。だから、少し顔が似てるでしょう? 実は、そういうこと考えたりするのが好きなんですよ」
「ああ、それは何となくわかるよ。自キャラ一人一人の生い立ちとか考えたりね」
「そう、それです。まさか、共感して頂けるとは!」

 意外と話に乗ってくれるアレクとハサネに、嬉しくなる私。
 そのまま三人でわいわいと自キャラ談義に花を咲かせていると、いつの間にか結構な時間が経っていた。

「でも、男キャラでプレイするのも結構楽しいですね! 案外、同時進行でキャラを育てるのも悪くないかなぁ……なんて」
「……ユリア……どうして……」

 突然、そんな声が聞こえた。私がその方向に視線を移すと、少し離れた所に呆然と立っているルディアスがいた。
 って……この人も、いつの間にここに来てたの!?
 ルディアスは私の顔を見て、何やら固まっている。

「……? ルディアス、どうしたんですか?」

 彼は悲しそうな表情をしたかと思うと、私の問いかけも虚しく一目散に駆け出した。
 え!? なんで逃げるの!?
 アレクとハサネの方を見ると、二人も私同様、目を丸くしている。
 こういう場合、どうしたらいいの? ……まあ、普通に考えたら、追いかけるべきだよね。
 そう判断した私は、二人に断ってルディアスを追うことにした。

「一体、何なんですか!? もう!」

 何とか追いつき「あと少し」と思っていたら、角を曲がられてしまった。

「確か、ここに入っていったような……」

 私はそう呟きながら、人気ひとけのなさそうな薄暗い路地裏を覗いてみる。
 すると、少し奥の方に、壁に凭れ掛かっているルディアスを見つけた。
 私は、静かに彼の元に歩み寄っていく。

「やっと見つけた……。どうして逃げたんですか?」

 私はそう尋ねると、気怠そうに空を仰いでいるルディアスの隣に並び、同じように壁に背中を預ける。

「……男キャラで始めるというのは、本当なのか?」
「えっ」

 その言葉を聞いて、察しがついた。
 ちょうどタイミングが悪いときに彼が来たせいで、何か誤解が生まれているのだと……。

「それは、ただの冗──」
「唯でさえ、ユリアに触れられる機会が減っているというのに、別キャラまで育て始めたらどうなってしまうんだ……!?」

 ……ああ、そういう心配ね。「冗談です」って言おうとしたんだけど……聞いてないな、これは。

「まあ……お前がどうしてもネナベプレイをしたいと言うのなら、止めはしないが」
「あのー、私、ネナベしたいなんて一言も言ってないですよ」

 ネカマやネナベの定義って、現実の自分と違う性別のキャラを使ってるだけじゃ当てはまらないよね。
 私が「中身も男です」と公言してるならまだしも……。

「大体、ルディアスだって、女キャラ使ってたことあるじゃないですか」

 やたらと突っかかる言い方をしてくるルディアスにむっとした私は、少し嫌味を返した。

「……わかってる。どのキャラを使おうと、本人の自由だ。強要はできない。でも……嫌なんだ」
「何が嫌なんですか」
「お前に男キャラを頻繁に使われることが……だな」
「えー……」
「まあ、これは『俺の嫁だけを演じてほしい』という我侭から来てるのかも知れないが」
「それって、あれですか? 私が他のキャラ……特に男キャラで動き回っていると、ユリアを演じる上で何か影響が及ぶとか、そういうことですか?」
「……そうかも知れないが、わからない。ただ、別のキャラを使うと聞いた瞬間、嫌だと思った」

 えーと、何ていうか……ものすごく面倒くさいです!
 なんかこの人、最近さらに難解になった気がするよ……。

 ……あれ? でも、前はそんな拘わりは持ってなかったような……。
 どちらかというと、別キャラを使うことに対しては放任主義だったよね。
 ユリア以外のキャラを使うなら、浮気すら許す勢いだったのに。
 じゃあ、なんで……?
 どういう意味で「俺の嫁だけを演じてほしい」なんて思ったの?

「あの、どうして──」

 そう言いかけて、口を噤む。
 何故なら──「わからない」と言った彼が、その気持ちの【正体】を自分で探ろうとしているように見えたから。

「とりあえず、安心して下さい。NPCの好感度を上げるために、一時的にこのキャラを使っていただけですから……」
「……そうだったのか。早とちりしていたみたいで、悪かったな」

 少し気まずい雰囲気を引き摺りつつも、私たちは笑い合う。
 誤解は解けたけど……何となく、ギルドのたまり場に戻りづらい。
 それはルディアスも同じだったようで、私たちは暫く狭い路地裏から空を見上げ、流れ行く雲を眺めていた。
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