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ネトゲの旦那は私のアバターにしか興味がない! 作者:七風纏
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20/47

20 どちら様でしょうか?

「──わからないなら、そうですね……二次元キャラを攻略する感覚で接してみたらどうです? ギャルゲーみたいに!」
「お前は、それで機嫌が直るのか?」
「そ、それは……試してみないことには……。それで、ですね……その……ついでに、私を攻略しちゃったりとかしてくれても……いいですよ……」
「……? 言いたいことがあるなら、もっと大きい声ではっきりと言え。特に後半、何言ってるのか全然聞こえなかったぞ」

 俯きながら、もごもごと小声で言った私を見て、遥斗は怪訝そうな表情を浮かべた。

「な、なんでもないです!!」
「そうか。それにしても、やけに顔が赤いな。熱があるんじゃないか?」
「違います! 暑いだけです!!」
「暑いか……? もうすぐ冬だぞ」

 もう! こんなにわかりやすい態度なのに、これでも気付かないなんて!
 一体どこまで鈍感なんだろう、この人は……。

「ま、まあ……それはそれとして。ゲーム内でロールプレイしてるときは、上手くやれてたじゃないですか。……私が、貴方の本性を知る前の話ですけど」
「それは、アバター越しのロールプレイだからだ。現実で三次元相手に、同じことができるわけないだろ?」
「ああ、そうですか……」

 なんていうか、本当に三次元の女性に慣れてないんだなぁ。慣れてたら、それはそれで困るけど……。

「何か、だいぶ話が逸れましたけど。私、離婚する気なんてありませんからね!」

 私はテーブルに手をついて、ずいっと身を乗り出すと、念を押すように言った。

「前はあんなに離婚したがっていたのに、随分な変わりようだな」
「過去のことは、もういいじゃないですか。とにかく……私、貴方以外の相方なんて考えられないんです」

 私はそう言いながら、遥斗を真っ直ぐ見据える。

「……わかった。まさか、お前が俺に対してそこまで【熱い友情】を感じてくれていたなんて思わなかった」

 やっとわかってくれた……って、違う! 友情じゃない! 愛情だよ!?
 まあ、離婚したくないっていう熱意は伝わったようだし、いいか……。

「──正直、安心した」
「え?」
「『別れてほしい』と言われたら、どうしようかと思っていたんだ……俺も、夏陽以外の相方は考えられない。何だかんだで、相性は良いと思うからな」

 遥斗はそう言うと、徐ろに私の両手を取り、自分の手で包んだ。

「……だから、早く俺に追いついてこい。お前が成長するのを、楽しみに待ってる」

 彼はそう言って、そのまま私の手をぎゅっと握ると、力強く微笑む。

「あ、えっと……は、はい!」

 手が! 手が……! しかも「夏陽以外の相方は考えられない」って!
 ……こういうこと、自然にできちゃうなんて狡い。
 変に気取った口説き文句よりも、余程破壊力があるよ。
 まあ、彼にとっては応援の意味でしかないんだろうけど……。

「さっきよりも顔が赤くなったな。やっぱり、熱があるだろ」
「ち、違いますから! あと、手離して下さい!」

 手を握ったまま離してくれない遥斗に狼狽えていると、近くを通り過ぎようとしていた男子高校生と目が合った。
 彼は私の顔を見るなり、驚いた様子で立ち止まる。

「咲本さん……?」

 突然、初対面っぽい人から名前を呼ばれ戸惑う私。
 誰? と思ったけど、よく見たらうちの学校の制服を着ている。ということは、同じ学校の生徒ってことだよね。
 でも、こんな知り合い私にはいないはず。ちなみに、遥斗ほどではないがこの人もわりとイケメンだ。

「誰だ? もしかして、この男がお前の……?」
「え!? 違いますよ! でも、会ったことはあるかも……同じ学校の人みたいですし」

 私と遥斗がそんなやり取りをしていると、彼は悲しそうな表情を浮かべた。
 そして、まだ私の手を握ったままでいる遥斗を鋭く睨む。

「……やっぱり、彼氏がいたんだね」
「は?」

 そう呟くように言った彼に対して、私は思わず間の抜けた声で返事をする。
 一緒にいる遥斗を彼氏だと勘違いしているらしいが、何でこの人がそんなことを気にするのかわからなかった。

「そうか……こいつが僕の聖母マリアを……」
聖母マリア? 何を言っているんだ、こいつは。わけのわからないことを言う奴だな」
「いや、それは貴方が言えた義理じゃないと思いますよ……」

 私は、彼以上にわけのわからないことを言う遥斗に突っ込みを入れずにはいられなかった。
 でも、この感じ……前に、どこかで……。やっぱりこの人とは、前に話したことがある気がする。

「この男が……僕の──聖母マリアであるを汚したんだね」
「一体、何の話だ……」

 彼は、相変わらず遥斗を睨みながら意味不明なことを言っている。
 え……ちょっと待って。今、【夏陽たん】って言ったよね? 私をそう呼ぶのは恐らく【奴】しかいない。
 でも、そんな、まさか。だって、私の記憶の中の彼は典型的なキモオタで、分厚いレンズの眼鏡をかけていて、体型ももっとこう……横に広かったはず。
 だけど、今、目の前にいるのは──片目を前髪で隠した少し陰のある感じの、細身の美少年だ。
 眼鏡はかけていないし、体型も全然違う。でも、どことなく面影はあるかも知れない。

「もしかして、成神なるかみくん……!?」
「久しぶりに、僕の名前を呼んでくれたね。夏陽たん」

 彼はそう言うと、嬉しそうに微笑んだ。
 やっぱりそうだ。一時期、やたらと付き纏ってきたキモオタだ。
 彼の名前は成神なるかみあゆむ
 同じクラスになったことは一度もないのだが、一年生の頃から私のことが気になっていたのだとか。
 彼曰く、告白しようとしたらタイミングを逃しまくって、結果的に付き纏うことになってしまったらしい。
 あまりにも行く先々で会うので、当時はストーカーなのかと疑ったくらいだ。
 でも、なんで? なんであの時のキモオタが、別人としか思えないほどの美少年になってるの?

「その……なんていうか。随分と、印象が変わったね」

 私は、彼のあまりの変貌ぶりをどう表現したらいいかわからず、当たり障りのない言葉を返した。

「ああ、気に入ってくれたかな? あれから、夏陽たんに相応しい男になるために、毎日血の滲むような努力したんだ。……と言っても、ほとんど失恋のショックで痩せたようなものだけどね」

 歩はそう言うと、目にかかっている長い前髪をふぁさっと手で払った。
 艶のある黒髪に切れ長の目を持つ彼は、遥斗とはまた違うタイプの美形だ。
 ふと、昔の彼を思い出してみる。今考えると、元々の素材はそんなに悪くなかった気もする。
 うーん……同一人物なのが未だに信じられないけど、痩せたら格好良くなるタイプだったのかな。

「これで、ようやく僕にもチャンスが巡ってきたと思ったんだ。それなのに──まだ、こんな男と付き合っているなんて!」
「……こいつ、何か勘違いしてるだろ」

 徹底的に敵視してくる歩を、遥斗は冷めた目で見ていた。
 勘違いされているような関係だったら、どんなにいいことか。
 悲しいことに、全くそういう対象として見られていないんですよ。

「違うよ、成神くん! 彼とは、ただの友達で……」
「友達?」
「そう! だから、成神くんが誤解しているような関係では全然なくて……」
「良かった……夏陽たんの【純潔】は奪われてなかったんだね!」
「ちょっと!? 大声でそういうこと言うのはやめて下さい! 場所考えて!」

 私は顔から火が出そうになりつつも、とんでもないことを言い出した歩を制止する。
 相変わらず、彼の処女厨っぷりは健在のようだ。
 ……何で私の周りって、こんな変な男ばっかり集まってくるんだろう。
 しかも、何故か外見は無駄に良いから困る。

「夏陽たん。今から、もう一度告白します──僕と付き合って下さい」
「!?」

 歩は、唐突に二回目の告白をしてきた。それも、遥斗の前で。
 あの時とは違い、美少年に変貌を遂げた歩。そんな彼に言い寄られたら……そこらの女子ならきっと、ころっと落とされてしまうだろう。
 だけど──歩の外見が良くなったところで、私の気持ちが彼に傾くことはなかったし、遥斗への想いは消えるはずもなかった。
 それにしても……この短時間に、何故か二回も異性に迫られることになるなんて。(楓馬の場合は演技だけど)
 そして、それを目の前で見ていながら、嫉妬心の欠片も抱いてくれない遥斗を見るのが辛い。これは、一体何の試練なんだろう……。

「ごめんなさい。前にも言ったように、私、貴方と付き合う気は……」
「どうしてなんだ!? 今の僕は、もう昔の僕とは違うのに!」
「ど、どうしてもです!」

 私が断っているにも拘らず、歩はぐいぐいと迫ってくる。
 遥斗は、その様子を頬杖をつきながら眺めていた。
 ……いや、見てるだけじゃなくて助けて下さいよ!
 そんなことを思っていると、遥斗が静かに席を立った。
 そして、こちら側に移動してくると、彼は歩のシャツの襟を後ろから掴んだ。

「成神とか言ったな。こんなに嫌がってるんだから、いい加減身を引いたらどうだ?」
「なっ……」
「これ以上続けるようなら、これをお前の顔に叩きつけて恥をかかせるぞ」

 遥斗はそう言いながら、私の目の前にある、ほとんどまだ手をつけていないパフェを指差す。
 顔中を生クリームでベタベタにする気かな? パイ投げ的な感じに。
 ……いやいやいや。助けてくれるのは嬉しいけど、それはやめて! これ、私のだから! しかも、楓馬が奢ってくれたやつだから!
 食べ物を粗末に扱ってはいけません!

「ぐぬぬ……でも、君には関係ない話だろう? なんで、友人の君が出張る必要があるんだ?」
「関係はある──夏陽は、これから俺のものになる予定だからな」

 遥斗はそう言い放つと、歩に向かって不敵な笑みを浮かべた。

「「は……!?」」

 歩と同時に、私まで驚きの声を上げてしまった。

「そうだろ?」

 遥斗は私に向かってそう言うと、目で合図を送ってきた。
 あ……そういうことか。助けてくれるための演技ね。

「そ、そうなの。隠してたけど、実はこれから遥斗くんと付き合う予定で……ごめんね、成神くん」

 私は、苦笑しつつも彼の演技に合わせる。

「そんな……」

 歩は弱々しくそう言うと、ボロボロと涙を流し始めた。
 ……前と同じように。しかし、今回は外見が良くなったせいか、泣いている姿も様になっている。泣き顔すら美しい。

「ああ! こんな所にいたでござるか、歩殿!」

 そう言いながら近づいてきたのは、彼のオタク仲間と思しき──これまた典型的なキモオタ男子高校生だった。

「まったく……探したでござる。ほら、行くでござるよ」
「うぅ……」
「ん? なんで泣いてるでござるか? そんなことより、小生は今期のダークホースアニメ『魔法少女マジカ?マジカ?』について語りたいでござるよ。いやー、今週の話は盛り上がったでござるな」
「今は、そっとしておいてくれ……」
「何を言うでござるか、歩殿! さては、まだ視聴してないのでござるな? 主人公は、歩殿の大好きな黒髪ロングキャラでござるよ。デュフフ」

 二人はそんな会話をしながら去っていった。
 ていうか、今時あんな喋り方のオタクっているんだ。そこに驚きだよ。

「あの……遥斗くん。助けてくれてありがとう」
「『魔法少女マジカ?マジカ?』か。確かに、主人公が可愛かったな……」
「って……すっごい会話に混ざりたそうな顔してますね!?」

 ああもう、どうしてこの人はいつもこうなんだろう。
 せっかく、助けてくれて格好良かったのに台無しだよ!
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