挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ネトゲの旦那は私のアバターにしか興味がない! 作者:七風纏
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

17/47

17 エンチャントから始まるラブコメイベント

「シオンさん、何やってるんですか?」
「ん? 『エンチャント』だよ」

 私は、目の前で手際よく作業をしているシオンに尋ねた。
 今日は魔法道具屋に用があったのでログインして一番にここに来たのだが、同じく用事があって来ていたシオンとばったり会ったのだ。
 シオンの言う『エンチャント』とは、武器や防具に精霊の力による特殊効果や属性を付与して、性能を強化すること。
 エンチャントに必要な本のことを『エンチャントブック』と言ってクエストやダンジョンの報酬で手に入れることができる。
 なので、エンチャントをした装備で固めることによって多少は能力値が上昇するらしい。
 でも、このゲームの場合、本格的な強さを求めるならやっぱりキャラクターの育成に力を入れないと駄目みたいだけどね。
 ちなみに、この前ルディアスがサブキャラで戦ったときはエンチャントなしの武器や防具を使っていた。
 だからこそ、彼の凄さが際立つのだ。

「ああ……それがエンチャントなんですか」
「ユリアちゃんって、まだエンチャントやったことなかったっけ?」
「はい。一応、スキルは取っていたので存在は知っていたんですけど使ったことがなくて……。今まで、ルディアスが大量に装備やアイテムを送りつけてきていたので、どれに付けたらいいのかわからなかったっていうのもありますけど……」

 私がそう返すと、シオンは「あぁ……」と察したように呟いて苦笑した。

「じゃあ、今からやってみせるからそこで見ているといいよ」

 シオンはそう言うと、テーブルの上に本と黒いローブを置いて杖を掲げた。
 その様子を、店主であるNPCのリチャードが微笑みながら眺めている。
 彼は、この世界では有名な一流魔術師という設定らしい。
 話しかけると、魔法について色々と親切に教えてくれる。

「こうやって、エンチャントブックと付与したい武器や防具を並べるんだ。それで、この専用の杖を持ってエンチャントスキルを発動させると──」

 シオンが杖を振りかざした瞬間、テーブルの上に乗っている本とローブが同時に燦爛たる光を放った。
 その眩しさに、私は思わず目を覆う。

「ほい、終わったよ」
「もう終わったんですか? 一瞬ですね」
「でも、ちゃんと出来てるから見てごらん」

 私は、シオンからエンチャントされたローブを受け取った。

「あ、本当だ。 HP最大値上昇の効果が付いてます」
「だろ? エンチャントランクが上がる度に特殊効果の上昇値も上がるし、どんどんやっていくといいよ」
「そうします。ありがとう、シオンさん」

 親切に説明してくれたシオンに、私は軽く会釈をしてお礼を言う。

「……いやぁ、やっぱりユリアちゃんの笑顔は癒されるなぁ。ずっと見ていたいよ」
「い、いきなり何を!? 褒めても何も出ませんよ?」
「アバターも可愛いけど、リアルもきっと可愛いんだろうなぁ。しかも、優しいし」
「──あのー。なんか二人だけで盛り上がってますけど、ギルドチャットモードだってこと、忘れてません? 一応、私もいるんですけど!」

 褒め殺してくるシオンに狼狽えていると、ハサネが会話に割って入ってきた。
 そうだ……ギルドチャットだってこと忘れてた。
 ちなみに『ギルドチャット』とは、ギルドメンバー専用のボイスチャットのことだ。

「悪い悪い、ハサネちゃん。ユリアちゃんに癒されるあまり、つい!」
「まあ、ユリア先輩が可愛いのは事実ですけど、狙おうなんて考えちゃ駄目ですよ? 先輩には、もう心に決めた人が──」
「ストップ! ハサネちゃん! ストップ!! ギルドチャットでそういうこと言うのはやめて!」

 私は、また余計なことを口走りそうになっていたハサネを制止した。
 これ、ギルドチャットだから! 一応、今は三人しかいないことになってるけど、オフライン表示でこっそり遊んでるギルメンが潜んでるかも知れないから!

「やだなぁ、先輩。いくら私でも、名前まで言うわけないじゃないですか!」

 慌てふためく私に、そう返すハサネ。
 ……いや、貴女なら割と言い兼ねないと思います。ポロッと口が滑って。

「そうそう。慌てすぎだって、ユリアちゃん。もう少ししたら何人かログインしてくるかも知れないけど、今は大丈夫だろ!」
「そうですか……?」

 シオンはギルドチャットからオープンチャットに切り替えて、陽気に私の肩をポンポンと叩いた。

「さて、エンチャントも終わったし、あとはリチャードの所で買い物してっと……」

 シオンは、そう呟きながらリチャードの元へ歩いていこうとした。
 だが、その瞬間、彼は床に引き摺るほど長いマントの裾を自分の足で踏んでしまいバランスを崩す。

「おわっ!?」
「えっ!?」

 ──そして、シオンは私を巻き込み盛大に転んだ。
 痛くはないけど、派手に巻き込まれたせいで結構衝撃はあった。思わず、目を瞑ってしまうくらいだから。
 私は、床に仰向けになった状態で目を開けた。すると……至近距離にシオンの顔があり、彼の長い水色の髪が顔に垂れかかっている。それで、現状を把握した。
 ……どうやら、シオンが私を押し倒すというベタなお約束展開になってしまったようだ。

「って……うわ!! ユリアちゃん、ごめん!」

 床に手をついて私に覆いかぶさっていたシオンは、慌てて上から退いた。

「あ、いえ。構いませんよ。気にしないで下さい」

 VRだし、この程度のことならそこまで気にするほどのことではないのだろうけど……シオンが耳まで真っ赤になって俯いてるから、こっちまで恥ずかしくなってしまう。

「いや、本当に悪かったよ。大体、俺がユリアちゃんとラブコメイベント起こしてどうすんだって話だよな……」

 そう言いながら頭を掻くシオン。
 口には出さなかったけど「相手がルディアスじゃなくてごめん」と言いたそうに、申し訳なさそうな表情をしていた。
 いえいえ……そこまで気を使わせてしまって、寧ろこちらが申し訳ないです。
 私は心の中でそんな風に彼に謝っておいた。

「しかし……まさか、こんなところで転ぶなんて思わなかったな」
「そんなに長いマントをつけてるからですよ……戦闘中に転ばないように、気を付けて下さいね!」
「確かに、それだけは避けたいけど……ファッションに拘る俺としては、ビジュアルも捨てがたい!」

 そう言ってみせた彼を見て、私は思わず笑ってしまった。それにつられるようにシオンも笑う。
 そんな和やかな空気の中、何故か彼の顔が青くなり始めた。

「……ごめん、急で悪いんだけどさ。俺、ここから消えていいかな?」
「え? どうしたんですか?」
「いや、その……なんか突然、悪寒がして。こういうの、第六感って言うのかな」
「どういうことですか……」
「とにかく……俺の本能が『今すぐここから逃げろ』と言っているんだ。だから──」

 そう言ってシオンは私に背中を向け、店の出入り口の方に歩き出そうとした。
 しかし次の瞬間、彼の表情が凍りつく。
 出入り口の方向を指差して口を動かし、何か言おうとしているのだが、声になっていない。
 私が彼の指差す方向を見ると──そこには、鬼のような形相で立っているルディアスの姿があった。

「ルディアス!? いつからそこに……?」

 やばい、なんか滅茶苦茶怒ってる。
 もしかして浮気だと疑われてる?

「ああ……『やっぱりユリアちゃんの笑顔は癒されるなぁ。ずっと見ていたいよ』のくだりからだな。昨日は偶然、ここでログアウトしたんだ。それで、さっきログインしたら、ちょうど会話が聞こえてきてな……」

 そこからか!!
 ということは、シオンに押し倒されたところも見られてるな……。
 この人、寝落ちしそうなときは予めオフライン表示にするタイプだから、きっとそのまま落ちたんだ。
 通りで、いることに気が付かないはずだよ!

「ル、ルディ……いや、これはその……違うんだ! 押し倒したのは不可抗力だし、別に『ユリアちゃんが嫁だったら毎日楽しいんだろうなぁ。ついでにリアル彼女になってくれないかなぁ』とか考えたりしてたわけじゃないぞ! ……これっぽっちも!」
「ほう……詳しく聞かせてもらおうか」

 ルディアスの目から、完全に光が消え失せていた。
 しかも、なんか鞘から剣を抜いてるし! 戦闘態勢に入り始めたし!
 ……いつからヤンデレキャラになったんですか?

「シオンさん!? 弁解するつもりが、余計に事態を悪化させてますけど!」
「しまった……! 焦ってつい本音が……!」
「え!? 本音なんですか!?」

 この修羅場の中、何気に告白に近いこと言ってますよ。シオンさん……。

「ユリアの体に気安く触れたこと……万死に値する──覚悟はいいか、シオン」

 ……って、やっぱりそっちなのね! 中の人的な意味でのNTR展開に嫉妬したわけではないのね! もうやだこの人!

「待って、ルディアス! わざとじゃないんだし、これくらい許してあげてもいいんじゃないですか? それに、PKは嫌いだって言ってたじゃないですか!」
「──殺さない程度に痛めつければいいんだろ?」

 恐ろしい表情でシオンを凝視しているルディアスは、頭を動かさず目だけを動かして冷たく言い放った。
 その言葉を聞いて、シオンは引き攣った表情で壁際に後退る。
 ああ、もう止められそうにない。彼は一体、どうなってしまうのだろう……。
 唐突なルディアスのヤンデレ化に戸惑いつつ、私はシオンの身を案じた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ