猫一匹ぶんの
魚の夢見て目が覚めた
まだ寒い公園のベンチ
もう三日、俺は運悪く、空腹さんとお付き合い
野良だから慣れちゃいるけど、飼い猫が少し羨ましい
そんな事考えてると、ふと頭上に影がさした
わざわざ持ってきた缶詰、慣れない手付きで開けて差し出して
ボサボサの俺の背撫でながら、微笑んだ少年の顔
お前が手に入れられたのは、猫一匹ぶんの温もりだけ
モノ好きなやつもいるもんだと、思いながら身に染みる冬
生きのびた俺はあくる日も、また公園へ歩いてった
ベンチには先客、若い男女
そわそわ視線彷徨わせ、ぎこちなく紡ぐ会話聞こえた
――ああ、あれは昨日のあいつじゃないか
ひとりごとみたいに、好きな子が居るって言ってたっけ
あれから告白したのかい?頬を赤らめ俯く少女に
猫一匹ぶんの隙間を開けて座る、遠慮しがちなお前はどうやら初デート
沈黙、沈黙、途切れ途切れ、
何か話さなきゃと、きっと鼓動はやかましい
お前の顔みりゃわかるさ
きっと彼女も同じだろう
恩返しなど柄じゃないが、冬の名残の風は冷たい
ちょうど空いてるそこなら、少しは温かいだろう・・・
お前が埋めたいものは、猫一匹ぶんの隙間だけ
俺が埋めたかったのは・・・?
驚いて、笑みにほころぶ少女の顔
お前に抱き上げられた、俺の目の前に広がった
俺が手に入れたかったのは、猫一匹ぶんの居場所だけ
二人の手の温もりと、笑い声で遠ざかる冬
猫一匹ぶんの距離もいつか
縮まって訪れる春