カバンの子
朝、仕事をしている最中、僕は出勤してきたOLの一人を見て驚いた。肩から下げたバックの中に、子供が一人、入っていたからだ。
その子供のサイズは妙に小さくて、小学生くらいに成長しているように見えたのに、そのOLのカバンにしっかりおさまっている。僕は驚いたまま、しばらくそのOLをじっと眺めてしまった。そのOLは、そんな僕を見て不思議そうな顔をしていたけど、それがカバンの子の所為だとは気付かなかったようだった。
恐らくは、彼女にそのカバンの子は見えていないのだろう。それで僕はそう悟った。
昼休み、食事を食べ終えて職場に帰ってくると、そのカバンの子は、別の違う男性社員のカバンに移っていた。どういうつもりなのかと思ったけど、そのままその男性社員のカバンの中に入って、男性社員と共に帰っていってしまう。
なんだろうか?
そう思ったけど、気にしない事にした。その次の日、その男性社員のカバンに入って、そのカバンの子は再び現れた。その男性社員のカバンは、僕の位置からよく見える場所に置いてあったものだから、カバンの子がよく観察できた。
カバンの子は時々、何かに惹かれてはそれをいじったりして、遊んでいるようだった。カバンで運ばれている時は無表情だったから、その差を僕は少しだけ意外に思う。カバンの子は、その男性社員の靴ひもを解いて、「にひひ」と笑ったりしていた。
僕はその光景に少しだけ、微笑んでしまう。
なんだろう? 面白い子だ。
次の日の午後に、その子はまた移動した。いつの間に移動したのかは分からなかったけど、今度は課のお局様のカバンの中だ。僕からはあまり見えない位置。それを僕は残念に思う。その日も、お局様と一緒にその子は帰っていった。
次の日もその子はやって来た。僕はその子が気になってしまって、お局様の机の辺りをチラチラと覗き見していたものだから、不審に思われて叱られた。叱られた僕を見て、カバンの子は可笑しそうに笑う。
こら、悪い子だ。
心の中で、僕はそう言って少し笑う。
その日の昼休み、カバンの子はまた移動したようだった。お局様のカバンの中からは姿を消していたんだ。ただし、何処に消えたのかは分からなかった。もしかしたら、この会社からいなくなってしまったのかもしれない。少し寂しい気持ちになった僕は、そこで気が付いた。
僕のカバンの口が開いている。
まさか、と僕は思った。もちろん、見えないのだけど。まさか、あの子は、今は僕のカバンにいるのだろうか?
分からない。でも、分からないなら、そういう事にしてみてもいいかもしれない。僕はその日帰る時、その子を抱くようなつもりでカバンを抱きしめて家に帰った。家に着いたら、子供が喜びそうなテレビを点けてやろう。何にも見えなかったけど、そこにあの子がいると思うだけで、僕は仕合せな気持ちになれた。
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