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15th:子供達は。
 騒ぎ立てるように、集まっていた鳩達がいなくなる。屋上には静けさが残された。気まずいような雰囲気は彼らが運び去ったかのようだった。
 かわりに残っているのは、見たこともないような光景に心踊った、子供二人の興奮した様子。
 すごい、と目を輝かせて口走ったのは、意外にも大人しく、落ち込んでいた様子のイダテだった。勢いそのままに、双子に駆け寄って。
「お兄さん、お姉さん。かっこいい! どうやったの!?」
 荒い鼻息を隠そうともしなかった。
「ありがとう」
 イダテと目線が合うように、膝を折り曲げたセレンが微笑む。
「だけど」ソルが、右手で口の左端をつかむ真似をする。「種は教えられないな」口にチャックをするかのように、左から右へと手を滑らせた。
「僕にも出来ますか!」
『もちろん』
 双子は、声を合わせて答えた。
「それなら、僕らの所に遊びに来れば?」
「そうしたら、色々と手品教えてあげるよ」
「でも……」
「イアンさんの家と僕たちの家って近くなんだ」
「だから、いつでも会えるよね」
 えっ。イダテは頭の中が真っ白になった。
 お互いの家は、とても遠いんだって勝手に決め付けていたし、このせいでポップとも滅多に会えないと思っていたから。
「それじゃあ。ポップと離れ離れにならないの?」
「そういうこと」
 イダテは、ポカンと口元を開けて一瞬、静止した。目をしばたき、右手をぎゅっと握りしめた。
「ポップ。僕たち、離れ離れにならなくて済むんだって。やった!」
 イダテは、ポップの方向へと振り向いた。その顔に満面の笑みを浮かべて。
「あぁ。よかったな」
 イダテの気分のあまりの様変わりように、すぐにはついていけず、生返事のようにしか返すことのできないポップだった。
「で、ピップ君は、手品どうだったかな?」
 ソルがそう言うと、ポップの右頬が無意識のうちに震えた。
「今、なんて?」
「面白かった? パップ君?」
 セレンが悪意などありえないような、笑みを浮かべて問う。
「俺は、ポップだ!!」
 両頬が引きつり、勘忍袋の緒が切れた。噛み付かんばかりの大声で叫んだ。
 口を、拳が入りそうな程目一杯に開いたまま。
 それを、ソルに両端をつかまれた。そのまま、上に吊り上げられる。
「はふ? はひはっへふふんはよ!(なにやってるんだよ!)」
「怒らない、怒らない」
「どこかの大人みたいに、苦虫噛み潰すような顔してちゃだめだよ。ポップ」
 ソルが頬から両手を離すと、ポップは頬を素早く触った。
「ちゃんと、俺の名前言えるじゃねーか」
「うん。わざとだもん」
 あっさりと肯定するセレン。
「わざと。って……」
「こうでもしなきゃ、ずっと固い顔のままだっただろ? 今の顔のほうがずっといいね」
「今、すんごい怒ってるんだけど」
 悪かった。そう言って、ソルは右手を差し出した。「仲直りの握手」
 元はといえば、双子が仕掛けてきたのに。微かにそう思ったが、ポップはその手を握り返した。
「簡単には許さないからな……兄貴」
「今、なんて?」
「あ、に、き、って言ったんだ!」
 今にも食いかからんとするかのように、ソルにわめき立てた。勢いそのままに、睨みつけた。
 睨みつけられた彼は、きょとんとポップを見ていた。意外な事が起きたかのように。
「あんた、これから俺と暮らすんだろ? だから兄貴って呼んだんだけど」
 怒鳴った後の反応があまりに普通だったから、ポップはだんだんと声が尻つぼみになっていった。
 じっと睨み付けていたその視線を外す。何処へ向けようか、困惑した。とりあえず、斜め下の地面を見つめた。
 熱くなってしまった。その後の結果は目に見えていた。ギャングの中では、そうすることで疎まれていたから。
 怒鳴っても、握り続けていた右手が、また強く握られた。
 ポップは逸らしていた目線を元に、とはいかなかったけれど、ソルの顔が見える程度に微かに戻した。気弱な上目遣い。
 不愉快ではなく、愉快であるかのように目をいたずらに開き、頬を吊り上げる彼の姿が目に入った。
「な…んで?」
 怒らないんだよ。それは、彼は口にしなかった。
 顔が崩れないように意識するのに一杯だった。まばたきをしただけで、壊れてしまいそうだった。
「面白い。まさか兄貴って呼ばれるだけで、こんなに怒鳴られるとは思わなかったな」
 ソルは、まだ力強くポップの手を握っている。しかし、それは怒っているからではなく。まるで。
 新しくできた絆を確かめるように。
 その手は
 とても、とても
 強く
 優しかった。
「とりあえず。まただけど、よろしく」
「あ・・・あぁ」
 言葉少なめに、ポップは答える他なかった。これ以上の言葉を紡いでしまったら、感情が溢れてしまいそうだった。
「じゃっ。これからどうしょっか?」
 セレンが言う。
「イダテ!?」
 ポップは目をこれでもかと見開いた。
 イダテが、後ろからセレンに抱きしめられていた。とはいっても、身長差があったから、実際はイダテの両肩口の上からセレンが両手を入れて、彼の臍の辺りで交差していただけだけれど。
 サスペンダーを前にしたような格好になったイダテの顔は、これ以上なく朱くなっていた。
 年上の女の子に、そのように抱き寄せられているイダテに、ポップは嫌でも、嫉妬を覚えてしまう。
「イダテ君。何かいい案ある?」
 イダテの頭に乗せていた顎を、セレンは彼の肩の上に移動させた。
 勿論、彼女の甘い吐息がイダテをくすぐった。イダテは、ますます顔を朱色に染めて黙りこみ、さらに俯いてしまう。
 女の子に対する耐性を彼はまだ身につけていなかった。
 イダテは、ぼそぼそと言葉にならないような音を発した。そうしている合間にも、頭のてっぺんから湯気が出ていきそうだ。
「かーわいいっ」
 セレンは、そう言いながら、餅をこねるようにイダテの頬を撫でる。彼は、カミナリに撃たれたかのように震え、蛇に睨まれた蛙のように、固まってしまった。
「そういうセレンは、何か名案があるの?」
 ソルが問う。
「ううん。なんにも」
 セレンは、イダテの顔に寄せたまま、ゆるりと首を横に振った。
「どうしよっか?」
 双子は、見つめ合った。共に、眉を寄せて思案顔になる。まるで、鏡を合わせたかのように、双子の顔がますます似ていた。
「イアンさんの家で、パーティー開けばいいんじゃないの」
 悩む彼らに意外な方向から助け舟が舞い込んだ。双子は傾けていた首をローテに向けた。
「姉さん」
「ミアナさん、今日ご馳走作るんでしょ? それだったらそれに便乗してもいいと思うな」
 ミアナは、イアンの奥さんの名前。
「いいね、それ。流石、お姉ちゃん」セレンが合点がいったと言うように、両手を叩いた。「イアンさん、それでい……」
 イアンの立っている方向に振り向き、双子は絶句した。その反応が気になって、ポップもイダテも同じ方向に首を向けた。
 警備隊の二人が向き合っていた。ただ、その温度はひとまず一段落した彼女らとは違った。
 イアンは、仁王立ち。
 フィルは、上司よりも高い背を縮こませて。


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